撮りだめしていたNHKの「サラメシ」の録画を観ていたら、なんと気象庁の観測船の仕事と食事について紹介していました。
気象庁のホームページを読むと、現在、「凌風丸」と「啓風丸」が観測を行っているようです。
驚いたのは、女性職員が乗船して観測業務にあたっていらっしゃることでした。
検索したら、2016年1月12日の日本経済新聞に「海水から探る『気候変動のいま』 機種観測船ルポ」という記事がありました。
今後の参考のために、全文紹介しようと思います。
戦前から航海を続ける気象庁の海洋気象観測船。かつては台風や海流の観測が中心だったが、地球温暖化の進行とともに最近は気候変動の監視に業務の中心がシフトしている。その観測の現場と船上の生活の一端を取材した。
「ボトム(海底)まで850メートル」。昨年12月のある日、気象庁の海洋気象観測船「啓風丸(けいふうまる)」が三浦半島の南西約10キロの海上に停泊すると、すぐに海水の採取作業が始まった。水深4センチごとに塩分濃度や水温などを計測できるCTD(電気伝導度水温水深計)と呼ばれる観測装置を、クレーンでつり下げて海中に投下する。
CTDには10リットルの海水が入るタンク36本を備え付けられており、超音波で海底との距離を測りながら沈めていく。目標のポイントに達すると、遠隔操作でタンクのふたを閉めて海水を採取する仕組みだ。
原則として緯度1度(約100キロ)ごとに海水を採取しており、波の高さが3メートルを越えるような荒天でなければ、数時間おきに停泊してはCTDを投入するという作業をくり返していく。
海中からCTDを引き上げると、タンク内の海水が変質しないようにすぐに試験管に取り分け、船内の観測室へ。ここでは、約10人の観測員が24時間勤務で海水の分析にあたっている。
■海水からCO2やpHの値を観測
温暖化ガスの蓄積状況を調べるために欠かせない二酸化炭素(CO2)濃度に加え、最近特に注目されているのが水素イオン濃度指数(pH)。北太平洋の本来のpHは弱アルカリ性だが、少しずつ賛成に近づいていることが啓風丸などの観測によって分かってきた。大気中から海に溶け込むCO2の量が増えたことが原因とされる。
酸性化が進むと、海がCO2を吸収しにくくなり、温暖化を加速させる恐れがある。プランクトンやサンゴの成長を妨げ、生態系に悪影響を与える可能性も指摘されている。
pHを調べるというと理科の実験で使ったリトマス試験紙が思い浮かぶが、啓風丸では光による解析装置を使用。担当する奈良税・主任技術専門官によると「指示薬を入れた海水に光をあて、吸収しやすい波長の色合いを解析することで、pHを1000分の1単位まで割り出せる」という。
この日、水深850mで採取した海水のpHは「7.400」で弱アルカリ性。奈良さんは「(下2桁が)ぞろ目ですね」と少し笑みを浮かべた後、「数値の変化が小さいので日々の観測では実感しにくいけれど、10年単位で見ると確実に酸性化が進んでいる」と強調した。
■観測船の先駆けは大正時代、神戸の気象台が導入
観測船の歴史は古い。1921(大正10)年、神戸市の気象台が始めた小型船の観測が先駆けとなり、37年(昭和12年)に気象台の前身、中央気象台が初めて大型線の「凌風丸」(1200トン)を導入した。67年(同42年)からは東経137度沿いを赤道付近まで南下する長距離の観測を毎年続けている。
戦前や戦後しばらくの間、観測船の主な役目は台風の状況や、東北の冷害に関わる海流を調べることだった。地上のような固定の観測点がほとんどない海の気象現象を知るうえで、観測船は不可欠の存在だった。
だが、77年(同52年)に気象衛星「ひまわり」の初号機が打ち上げられ、台風などの観測精度が徐々に向上。2000年代になると、海中を自動で浮き沈みする観測装置「アルゴフロート」が世界中で稼働するようになり、船に頼らずに海流や水温を観測する体制が整っていった。
2010年、気象庁は観測船の「リストラ」に踏み切り、大小5隻あった観測船を啓風丸と凌風丸の大型船2隻に削減、地球規模の気候変動に対応するため、日本の沿岸から北西太平洋に観測の中心を移した。35年前から航海に出ている啓風丸の高谷祐吉観測長(58)は「温暖化が進み、グローバルな海洋の監視がより大事になった」と語る。
長く観測の現場に身を置くと、海の変化にも敏感になる。最近、高谷さんが気にしているのが「マイクロプラスチック」と呼ばれる微細なプラスチック片。10年ほど前から、海面付近の重油の塊などを調べるために使うネットに小さなプラスチック片が目に付くようになっていったという。
マイクロプラスチックは、洗剤容器やレジ袋などが波や市街戦で砕かれて5ミリ以下の状態になったもの。高谷さんは実際にネットにかかった破片を示し、「表面に有害物質が付着しやすいことから、世界的な問題になっている」と話した。気象庁はマイクロプラスチックを正式な観測項目に加えることも検討している。
■年間の総航海日数は270日
啓風丸の航海は年間270日。最も長い航海は65日間に及ぶ。乗船しているのはいずれも気象庁職員で、船の運行を担当する船員が約30人、観測や分析を専門とする観測員が約10人という構成だ。
配属からまもない若手観測員は「入庁前は1年の半分を船で過ごすことになるとは想像もしていなかった」。勤務は4時間ごとの3交代で、食事は朝、昼、夕、夜の1日4回。時々刺し身も出るが、船酔いすると喉を通らない。気持ちが悪くなりすぎて太平洋に飛び込みたくなったこともある」と苦笑する。
黒潮を通過したり、台風に近づいたりしたときは、「上下や左右の激しい揺れの中で観測データーを処理しなければならない。「いまだに船酔いには慣れないけれど、気候変動の予測や研究に役立つ海水のデーターを取れるのは船だけ」。そう語った表情に仕事への誇りがのぞいた。
冒頭の番組で紹介されたのは24才の女性職員でしたが、そのCTDの投入のタイミングを指令するときが最も緊張すると話していました。
データーを見ながら、少しずつ海底に降ろしていくタイミングを指示するらしいのですが、海底に機器をぶつけると数億円の機械を破損させることになるそうです。
「サラメシ」のナレーションでは、海水の観測作業によって「20年後、30年後を予測する」とのこと。
本当に、世の中は地道に観察する仕事と、縁の下の力持ち的に適材適所で働く人たちで成り立っているのだと、「働く人の食事」の番組からもちょっとほろりとしています。
あ、ちなみに気象観測船の人たちは1日に4食食べているわけではなく、「4時間勤務して8時間休憩」を繰り返す交替制なので、勤務に合わせて食事を選択しているそうです。
「サラメシ」から思いついた記事のまとめも作っておきます。
記憶についてのあれこれ 18 <馬が泳ぐ>
食べるということ 11 <体によい食べ方>
パイナップルの生活史
食べるということ 21 <ご飯の食べ方>
「仕事とは何か」まとめはこちら。