仮想世界配信〈AVYSS GAZE〉が探る、ライヴ体験のネクストステージ
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ライヴハウスの再開に向けた明確な目処が立たないなか、毎日どこかでライヴ配信が行われてきた。デザインされた映像や場所を越えた共演、コメントでのコミュニケーション。実際のライヴと比べることはできずとも、配信ならではの楽しみがあることもまた事実であり、そのことに気づきはじめたというかたも多いのではないだろうか。新しい体験として、ビジネスの形として、ライヴ配信は今後より発展を見せていきそうだ。
音楽メディア/プラットフォームAVYSSがローンチした、独自開発の仮想世界から配信を行う〈AVYSS GAZE〉は新しい配信のあり方を模索しているライヴ配信のひとつである。AVYSSのディレクター・Sakuma(CVN)と、DJ/プロデューサーのstei、DJ/アーティストのJACKSON kakiの3名が中心となり開催されるプログラムは、JACKSON kakiが開発するバーチャル世界上のスクリーンにライヴ映像が写し出されるという画期的な独自配信システムを採り、かつAVYSS特有のキュレーションが色濃く映し出された国内外のラインナップを愉しむことができる。イベントごとに異なるグッズの制作、cluster内で体験できるバーチャルワールド、海外からのライヴ出演など、配信の行先を見据えた活動を行う、主催の3名にメールインタビューをおこなった。
INTERVIEW : Sakuma、stei、JACKSON kaki
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Q. まずAVYSSについて軽く紹介をお願いします
Sakuma(CVN) : AVYSSは自分が勤めている会社の新規事業のひとつとして2018年6月にスタートしました。現状1人で更新しているため、全てをカバーするのは難しいですが、新しいアーティスト・局地的に起こっているシーンの動向などに出来るだけ目を向けるようにしています。今回の〈AVYSS GAZE〉もそうですが、“音楽メディア”にこだわらずに個人のキュレーション性を保ったプラットフォームになればと考えています。
Q. 〈AVYSS GAZE〉が立ち上がった経緯を教えてください
Sakuma : 世界中のライヴハウスやクラブ同様に、AVYSSの運営会社も新型コロナウィルスの影響を受けていまして、いまもAVYSSは存続の危機にあります。そこで今後も存続し、発信を続けるべく、steiとJACKSON kakiの協力のもと、ドネーションプロジェクトとして〈AVYSS GAZE〉をはじめました。
stei : もともとSakumaさんと自分は、音楽活動を通して友人になりました。AVYSSの1周年のときには出演者としてお声がけ頂いたり、今年3月にはミクスチャーをテーマにしたパーティを一緒に開催したりという中で、今年のAVYSSの2周年に向けてアジアツアーも含めた動きをしましょう、という話を去年の年末くらいからしていて。いざ実際に各所に声掛けをはじめようというときに、世の中がこの状況になり、予定していた形での開催は叶わなくなってしまったという背景がありました。そんな状況下、AVYSS自体にドネーションプロジェクトが必要になり、〈AVYSS GAZE〉をはじめる準備を進めてきました。準備をはじめてすぐ、kakiがクリエイション面で参加してくれたことで、この時期限定のドネーションプロジェクトとしてだけではなく、今後も継続して配信プログラムを皆さんに届ける意義についてチームで会話するようになりました。
Q. 〈AVYSS GAZE〉Projectのお三方それぞれの役割を教えてください
Sakuma : 自分は主に〈AVYSS GAZE〉の方向性やラインナップを考えています。steiはブッキングも手伝ってくれていますが、相談役的な立ち位置でもあって、自分がけっこうざっくりしてる部分があるので、その点を補填してくれてる感じですね。JACKSON kakiは〈AVYSS GAZE〉にとって重要な要素であるバーチャルワールドをデザイン、ディレクションしています。
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Q. バーチャルワールドのスクリーン上でライヴが行われるという構図はどのように思いつかれたものなのでしょうか
JACKSON kaki : Boiler Roomが現在開催しているプロジェクト「Boiler Room: Steraming From Isolation」に出演をしたDJのDixonの映像がきっかけです。クリエイティブチームが制作した3DCGの空間を舞台に、DixonがDJプレイする映像なのですが、ビジュアルが素晴らしく、強く影響されましたね。もともと自分がゲームエンジンを利用した映像を制作していたこともあり、3Dのシステムを使った配信を始めました。
Q. ライヴ配信というよりも新たな場所の提供を試みているように思えるのですが、バーチャルワールド上での配信にどのような可能性を見出していますか
JACKSON kaki : おっしゃる通り、配信のその先のものを見出しています。そもそも3Dのバーチャルワールドを使うこと自体が、日本のクラブカルチャーや音楽シーンにおいて目新しい。建築としての制約を解き放たれることによって自由に空間を構築できるため、空間自体にアート性をもたらすことができます。それだけではなく、バーチャルワールド上でアバターなどを使用してパーティーを行えるようになれば、身体性が存在することによって、チャットのような文字情報だけのコミュニケーションだけではなく、新しいコミュニケーションを生み出すことができるとも考えています。
Sakuma : リアルイベントの代替コンテンツではないからこそ、コロナ終息後の世界で、このような手法や技術やサービスがどう活きていくのかを意識しながら進めてる感じですね。
Q. アプリやVRで〈AVYSS GAZE〉の世界を楽しむことができるシステムが公開されました、その意図をお聞かせください
JACKSON kaki : 〈AVYSS GAZE〉自体は配信プラットフォームを通して映像を楽しむコンテンツですが、よりバーチャルワールドそのものを楽しんでもらいたい、という意図から公開しました。自分がVRの制作をはじめたのは「映画やゲームの世界を体験したい!」という動機だったこともあり、AVYSS GAZE本編を観た方が「あの世界に行きたい!」となり、体験できたらすごくうれしいですね。
Q. リアルタイムでclusterなどアプリケーション内のバーチャル世界からライヴを見ることができる可能性も考えられていますか?
JACKSON kaki : 絶賛開発中です。またリリースします!
Q. 場所に関係なく参加できる・場に行くハードルが低いため気軽に見やすいなど、ライヴ配信ならではのメリットがあると思います。前回の配信を経て何か気づいた点はありますか?
stei : おっしゃるようにあらゆるハードルが低いですよね。たとえば外出の用意の必要がないですし、体力的な負担も少ないですよね。ただ、そのことはメリットでもあり、同時に僕らが気をつけるべき点でもあると思います。参加してくれるアーティストひとりひとりは常にその一回を大切にパフォーマンスしています。だからこそ、僕ら〈AVYSSGAZE〉チームはそれを受け取る皆さんにとってよりよい視聴環境や面白いと思って頂ける場作り、アーティストにとっての舞台づくりを意識しなければと考えています。気軽に入れることはポジティブに捉えて活かしつつ、その場でできる限り密度、濃度高く楽しんでもらえるように。
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Q. Vol.1への反響や参加人数はどうでしたか、海外から参加する方もいたのでしょうか
Sakuma : 韓国や中国など、アジア圏の方も含めて120人ぐらいの方が観てくれていました。
Q. Vol.1はPaypalでの投げ銭が参加条件にありましたがVol.2は誰もがアクセスできるようにしたのはなぜでしょう
stei : 毎回チームの中で実験をしています、そのひとつが入場方法ですね。Vol.1は参加条件として投げ銭という仕組みを使ったことで、〈AVYSS GAZE〉がドネーションプログラムとして立ち上がったことが伝わりやすかったように感じます。Vol.2はオープンエントランスにしたことで「少し気になっていたけど他の配信や用事もあるから参加するか迷う」という人にも気軽に覗きに来て頂けた実感がありました。また、Vol.2についてはアーカイブをYouTubeに残すという試みも含めて、より広くご視聴頂けるという視点でデザインしています。今後Vol.3やVol.4と続いていくなかで、たとえばチケット販売のような仕組みを取り入れた場合には、視聴時間に対してより集中してくれる環境を用意できるのでは、とも考えています。クリエイション面でkakiが毎回実験を繰り返していくように、皆さんに対してどのような形で届けるのかについても実験にお付き合い頂けると嬉しいです。
Q. 今後AVYSS GAZEがさらに進化していく予定はありますか、これからの構想を教えてください
Sakuma : “イベント”という意識はあまり持たずに内容もシステムも柔軟にアップデートを繰り返していきたいです。内容もいまみたいにライヴやDJだけに絞る必要もないので、トークセッションがあってもいいし、料理コーナーがあってもいいかもしれないと考えています。このプロジェクトはコロナウィルスの影響によりはじまったものですが、終息したら終わるというものではなく、培った知識や技術を環境に合わせて今後も発展させていけたらなと考えています。
JACKSON kaki : 自分にとってパーティーやクラブの現場を配信することを、“代替物”として行うのではなく、オンラインやバーチャルがオルタナティブな存在として確立できるようなものとして制作してます。AVYSSというウェブメディアが開催する意味、バーチャルワールドの可能性、さまざまな要素をより洗練させることで、新しい時代の音楽体験を生み出せればと思っています。
stei : 自分自身このプロジェクトに参加したことで毎回、学びを得ています。その学びを形にして、皆さんと継続的な関係を築いていくことで還元できればと思います。私達にとって大切なものである音楽を中心としたクリエイションが、より皆さんにとって大切に思える形で届けていければと。世の中だけでなくAVYSSにとって大きな転換点になるこの〈AVYSS GAZE〉というプロジェクトに参加し、自分の役割をもって動けることを嬉しく思います。〈AVYSS GAZE〉が進化していくことを応援してくださる皆さんにはぜひAVYSSへのドネーションをお願い致します。
AVYSS magazineホームページ:
https://avyss-magazine.com/