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2022/04/08 18:00

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.163

OTOTOY編集者の週替わりプレイリスト&コラム(毎週金曜日更新)


「存在する」という抵抗

Sleater-Kinneyのアルバム『Dig Me Out』発売から今日で25年、というのを昨夜見かけたところで、折しもThe Linda Lindasのファーストアルバム『Growing Up』がリリースされたので朝から聞いている。

一躍バンドが知られるきっかけとなった「Racist, Sexist Boy」が明らかにした、ライオット・ガールの影響下にあるシンプルに迫真するパワー・ポップの系統はアルバムの根底にあれど、一直線に走り抜けているというわけではない。フラストレーションの根源を発見し、暴き出そうとする批判的な態度が多くある中でも暴れん坊な飼い猫のニノについて歌う「Nino」、アコースティックなサウンドを持ってスペイン語で内省する「Cuantas Veces」といった曲もある。生活の中に反逆の精神は生まれるが、そうした精神の中に生活が生まれることはない。常に一定の苛立ちの中で生きることは不可能だということ。アルバムの遊び心からはそんなことを考えてしまう。

The Linda Lindas - “Racist, Sexist Boy” (Live at LA Public Library)
The Linda Lindas - “Racist, Sexist Boy” (Live at LA Public Library)

「あんたの話を聞かずにどこまでやって来れたか見てみな、女のオープニング・バンドでノルマを達成しよう」と高らかに美しく叫んだCamp Copeも『Running with the Hurricane』ではその闘争を一時停止した。というより他に向き合うものができた、といった方が良さそうだ。「世界が硬直させようとするからその逆へと向かったのだ」とGeorgia McDonaldは言うが、確かにメロディはソフトに、サウンドは大地に向かって広がっていくようなもので、これまでのエモのメロディとパワーコードによって形成された楽曲とは異なる。怒りもそこにはない。常に駆り立てられるように苛立ち、激しくコードをかき鳴らすことだけが抵抗なのではないし、そこに在ることだけでもいい。いつかそこに居たのだということを語ることができたなら、なおいい。フェミニスト・バンドと呼ばれるバンドの音楽を聴くときには、むしろよりシンプルに在ることについて強く考える。いつか多くを考えずに彼女たちの音を聴けたら!とも願う。

この記事の筆者
TUDA

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