一ノ瀬響とeufoniusがコラボレーション・アルバム『Sense of』で開いた、新たな表現の扉
現代音楽&エレクトロニック・ミュージックを中心に活動する作曲家、一ノ瀬響とアニソン&ゲームソング界で数々の主題歌&劇伴を担当してきたeufoniusが、コラボアルバム『Sense of』を発表!ジャンルの異なる両者はどのようにして、この作品を作り上げたのか、インタヴューで迫りました。また、OTOTOY限定で今作をDSD 5.6MHz,24bit/192kHzで配信しています。ぜひ、ぜひ高音質でお楽しみください。
Kyo Ichinoseとeufoniusのコラボレーション作品
INTERVIEW : 一ノ瀬響 x eufonius
一ノ瀬響とeufoniusのコラボ・アルバム『Sense of』は2組の魅力が見事に合わさった素敵な作品である。異なるジャンルをメインに活動している2組だが、互いに歩み寄りながらも個性を出している楽曲が今作には揃っている。また、音というものへのこだわりも、楽曲からはひしひしと感じられ、聴くたびに新たな発見が生まれる。今作の制作を経て、両者は何を感じたのか、話を訊いた。
インタヴュー&文 : 西田健
写真 : 西村満
「こう返してみたらおもしろいかな」っていうキャッチボール的な感覚
──今回はどういった経緯でコラボすることになったんですか
riya:私が一ノ瀬さんのファースト・アルバム『よろこびの機械』からのファンでずっと聴いていたんです。Twitterをフォローしたのがきっかけでお話しさせていただくようになって、そこから徐々に何かやりたいねという話になりました。
一ノ瀬:でも、最初に会ったのも10年くらい前だよね。eufoniusとして、活動されていることは知ってたんですけど、そのときからriyaさんの声は興味深かったですね。楽曲そのものも音づかいも独特で、ボーカルの音色と楽曲の構成の仕方がeufoniusの魅力だと思っていました。ただ、それは完成された世界ですし、広く認知もされているものなので、自分がやっている現代音楽と一緒にやるというリアリティは長らくなかったんです。でもある時、「やってみたらおもしろいかな?」と思ってriyaさんに相談してみて、今回のコラボが実現しました。
──今作はどのようにして作り上げていったんですか?
一ノ瀬:riyaさんが作詞して歌うという前提だったら、こういう曲かなという感じで、まず2曲目に収録されている“solfège lesson”を作ってみたんですね。僕はヴォーカルの入った曲を作ることが比較的少ないので、なるべく自分の中では心地良い長さのポップスをたまには作ってみたいなという想いがあってやってみたんですね。
菊地:まず、 “solfège lesson”のデモを聴いてから、じゃあeufoniusはこうやっていこうという感じで曲を作っていって。1曲目の“regression”は、そこにつながるように作っていきました。
──実際に共作をしてみていかがでしたか?
riya:一ノ瀬さんが普段作られているインストの楽曲は、エレクトロニカだったり、ゆったりした曲が多いイメージがありましたし、やっぱり聴いたら一発で一ノ瀬さんだとわかるものなんですよね。だから、“solfège lesson”のデモをいただいた時はちょっとびっくりしました。「こんな感じのポップスを作られるんだ!」という。そこもギャップがおもしろくて。
菊地:一ノ瀬さんの楽曲には僕もeufoniusのスタジオを提供してエンジニアとして参加させて頂き、歌のディレクションを一緒に立ち合ったり、ミックスもやらせて頂いたんですが、その作業は新鮮でおもしろかったですし、サウンド的な意味でのコラボレーションもできたなと思います。自分が作らないような展開だったり、音使いのアプローチがすごく勉強になりました。riyaちゃんの声の使い方が僕とは違うところがありましたし。
一ノ瀬:当初自分の曲は全部自分でミックスしようかなと思っていたんですが、例えば2曲めの“solfège lesson”に関しては、菊地さんに任せた方がいい結果になる気がしたので、うちに集まっていた素材を一旦お渡しして、自由にやっていただきました。ミックス上も、作曲家の菊地さんならではのアイデアが入っていて、出来上がりを聞いて感動しました。ミックスで変化をつけているところが実はあるので、注意深く聴いていただけるとおもしろいと思います。
──楽曲それぞれについても伺っていきますが、1曲目の“regression”はどういう流れでできた曲ですか?
菊地:この曲は、eufonius側で作ったものですね。一ノ瀬さんが作った2曲目の“solfège lesson”のデモが、意外な方向から来たので、僕らも少しeufoniusらしくないものをやってみたいと思って作りました。「こう返してみたらおもしろいかな」っていうキャッチボール的な感覚ですね。この曲は、おもちゃのオルゴールを使ったり、ブースにある色んな楽器を思い付きで鳴らして一発録音しました。レコーディングもバイノーラルで右から左に向かって歩きながら歌ったり、そういうことをしています。途中で入ってる「ガツン」って音は、僕が足を引っ掛けてマイクスタンドを倒した時の音なんですけど(笑)、それがいい感じに入り込んでいたので、偶然の産物として採用しました。これこそハイレゾで聴いて頂くと臨場感もあっておもしろいかもです。
──レコーディング方法はどのようにして録っていったんですか。
菊地:三研のCO-100Kっていう100kHzまで録音出来るマイクとノイマンKM184で4本使ってバイノーラル方式で。あとはポータブルのZOOM / H3-VRのバイノーラルレコーダーで、他にもSE的なオケを作って、そこにシンセサイザーを重ねて、最後にバイノーラルでriyaちゃんのボイスを重ねるっていうちょっと変わった作り方をしてるかな。実験的な作り方をして、それを1曲に落とし込みたいという感じでした。
一ノ瀬:すごくソリッドで僕は好きなんですよ。ドキュメンタリーに近いような音でね。良い環境で聴くとおもしろいなと思いますね。
riya:私はコーラス以外は、ただセリフを言ってるだけなんですよね。「単語を20個くらい考えてきて」って言われて、そこから10個くらいしゃべった中からさらに抜粋して入れています。なんと言っているのかは、想像してほしいです(笑)。
──次の曲が“solfège lesson”ですね
一ノ瀬:いちばん最初に取り掛かった曲ですね。もともと歌詞に関する仕掛けのアイデアがあって、そこから何か妄想を膨らませて一曲の世界にできないかなと思ったのが始まりなんですよね。作詞作曲をまずはriyaさんと遠隔でやりとりして、最終的にずいぶん経ってから録音したんだよね。
riya:そうですね。たくさんお話ししましたね。
一ノ瀬:この曲は、いろんな人がサポートしてくれてました。弦は押鐘貴之君というバイオリンの名手にお願いしましたし、編曲にもっとアイデアが欲しいなと思って、安田寿之さんにシンセやリズムの小物トラックをサポートしていただきました。そして、いろんなところからいろんな音が集まってきてミックスをする段階になったときに、「はて、これを僕がミックスできるかな」という感じになりまして。「そういえば、もう10何年とriyaさんの声をミックスし続けてきた方がいるじゃないか」と思いつきまして、菊地さんにお願いしたんです。
菊地:この曲は本当に楽しかったですね。自分の作り方とは少し違うものを散りばめていきました。でもやっぱりeufoniusらしいというか、riyaちゃんの声がちゃんと綺麗に通るようにという意味ではセオリー通りではあります。
──バイオリンの押鐘さんとアディショナル・アレンジメントの安田さんはどういう経緯で今回依頼されたんですか?
一ノ瀬:押鐘君は心強いバイオリン奏者として信頼していて、かつ自宅で録れる方なんですよね。安田さんはもう10年くらいの仲間ですね。音に関する細かい精密なアプローチができますし、かつ他人の曲をちゃんと理解する能力がある人なんですよね。よく考えられたとてもいい音をいくつも入れていただきました。色んな人に助けてもらいながらやるのは楽しいですね。
──普段はお一人で作られるんですか?
一ノ瀬:1作目の『よろこびの機械』のときは、もちろんいろんな音をスタジオで録音したりして使うんですけど、そこから先どうするのも全部自分(の責任)みたいな感覚で、ひらすら孤独に作っていた記憶があって。今回は、人に手伝ってもらえたのは楽しかったし、誰かと一緒に作るっていいなと素直に思いました。
──タイトルの“solfège lesson”はどういう意味で?
一ノ瀬:これは言ったらバレちゃうからね、注意深く聴いたらアッてなるんじゃないかな(笑)。でも、気づいたからと言っておもしろさが終わるってことにはしたくなくて、仕掛けに気づいても、その先があるっていうつもりで、頑張って作りました。