不純と矛盾と向き合うということ──GLASGOWにいま問う、「“素晴らしい”日々とは?」
GLASGOWがメジャー・ファースト・アルバム『NOW I SAY』をリリース。直訳すると「いま、わたしは言います」。これはなにか明確なメッセージを伝えたいという意味ではない。今作ができるまでの過程で思ったことや感じたことをその時々で綴っていき、矛盾や変化に気づいていく。そういった作業の反復のなかで生まれた発見やメッセージをじっくりと描いた作品だからだこそのタイトルなのだ。収録曲13曲のうち6曲はEP『FOOLISH AS THEY MAY SEEM.』(2023)リリース後に発表されたシングル、残り7曲は新曲(3曲はインタールード)という構成であり、本編では2023年のシングル群にも触れつつ、対照的な新曲“それでも息を”と“休息充電”についてじっくりと触れていく。すると様々な変化が訪れたGLASGOWの新たな精神性が見えてくるのだった。
GLASGOW、初のフル・アルバムをリリース!
INTERVIEW:GLASGOW
まるで独白のようなイントロ的楽曲"In you"に引き続き、<素晴らしい日々よ/これから僕らさよならさ>──そんなふうに歌う"それでも息を"によって、GLASGOW初のフル・アルバム『NOW I SAY』は幕を開ける。メジャー・デビュー、メンバー脱退、初のアニメ・タイアップ、そして會田茂一やいしわたり淳治をはじめとする外部コラボレーターとの制作など、激動の季節を経て産み落とされた本作には、藤本栄太(Gt)が言うところのバンドの「哲学」が強く刻まれている。なぜ、彼らは初のフル・アルバムで<さよなら>と歌ったのか? それは感傷の泥沼に聴き手を引きずり込むためではない。本作について、藤本とアラタニ(Vo/Gt)にじっくりと話を聞いた。
取材・文:天野史彬
ライヴ写真:のとかずき
こだわりは持ち続けつつ、エゴは捨てなければいけない
──アルバム『NOW I SAY』は「フルアルバム」というフォーマットでしか表現されえない表現をされている、とても濃密なファースト・フル・アルバムだと思いました。おふたりの手応えはいかがですか?
藤本栄太(Gt):正直、最初めちゃくちゃ不安ではあったんです。アルバムの前に出したシングル曲のなかにはアニメの曲もあればそうでない曲もあり、そういう曲たちをまとめるのは大変そうだなと思って。でも、"それでも息を"と"ながいおわかれ"(吉田仁がサウンド・プロデュース)という2曲ができたことで、1枚の作品として聴いたときに起承転結があるものになるものにできたなと思います。それに、いま言った"それでも息を"は自分たちがすごく好きな音像で作ることができて、その曲をリード曲にできたことも自信になりました。
アラタニ(Vo/Gt):僕らにとってフル・アルバムを作るのは、はじめてのことなんです。でも、僕ら自身はアルバムを聴いて育ってきた人間でもあるし、シングルを集めたベスト・アルバムではなく、ちゃんと「アルバム」と呼べるものを作りたい、という気持ちはあって。そういう作品をいまのサポート・メンバーたちと一緒に作ることができたのは大きかったです。聴いてくれる人にはぜひ、最初から最後まで通しで聴いてほしいアルバムになったと思います。最初から最後まで聴かないとわからない充実感は確実にあると思うので。
──今作は1曲目に"In You"というイントロ的な楽曲があり、続く2曲目にリード曲である"それでも息を"というロック・バラードがはじまる。このエモーショナルな流れの時点でかなり心掴まれました。
アラタニ:イントロやインタールードの曲はアルバムが完成する直前に作ったんです。いまの時代には合わないことなのかもしれないけど、「やってみたい」と思って。
藤本:"それでも息を"に関しては、デモをしっかりパソコンで作り込んで、それからバンドで合わせたんですけど、スタジオで、いい意味でぶっこわれたんですよ(笑)。
アラタニ:ぶっ壊れたね(笑)。この曲、元々は「BBHFの"バックファイア"みたいな曲にしたい」とこいつ(藤本)は言っていたんですけど、いざスタジオでやったら、ゴリゴリのロック・サウンドになって(笑)。
藤本:いま海外でもミニマルなものって流行っているじゃないですか。日本の音楽でもミニマルな感じの曲って好きなんです。Vaundyの"踊り子"とか、マカロニえんぴつの"恋人ごっこ"みたいな。それこそ、Galileo GalileiやBBHFのような海外のミニマルさを洗練した形でアウトプットしているもの。そういうものに通じるミニマルさを自分たちでも出してみたいなと最初は思っていたんですけど。でもスタジオに入ったら、よく言う言葉ですけど、バンドマジックが起こった。
──"それでも息を"の音像は、雄大で、厚みがあり、尚且つ大袈裟すぎない生々しさがあって。「いま、こういうロック・ソングが聴きたかった」と思えるものだと思いました。今作には、アニメ『休日のわるものさん』のエンディング主題歌である"休息充電"をはじめ、去年以降にリリースされたシングル曲群も収録されています。曲によっては、會田茂一さんや吉田仁さんといったサウンドプロデューサーを迎え、さらに、いしわたり淳治さんと歌詞を共作されたりと、バンド外の人たちと制作された曲もあります。改めて思うのは、GLASGOWにとって2023年という1年間はかなり大きなターニングポイントになる1年だったのではないか、ということで。
アラタニ:そうですね、いままでと違う脳を使ってきた1年だったし、模索し続けた1年だったと思います。アイゴンさん(會田茂一)のようなプロデューサーに入ってもらったこともそうだし、メンバーが変わったこともそうだし。「こだわりは持ち続けなければいけないけど、エゴは捨てなければいけない」みたいな1年でした。でも、そもそも僕自身は曲作りをするときにも、自分以外の人の反応がすごく気になるタイプなんです。自分が100パーセント「これがいい!」と思うもの以上に、みんなが「これがいい!」と喜んでくれる曲を出したい。だからこそ、自分のなかにあるものに、いろんな人からもらった知識や経験をプラスすることを受け入れることができたし、そうすることで物事を考えていくことに向き合うことができた1年だったのかなと思います。正直、「本当にこれでいいの?」と思う瞬間も多々あったんですけど、でも、それも1回飲み込んで消化したうえで、自分たちから出てくるオーガニックなものがよりよいものになればいいと、ひたすら願いながら頑張った1年でした。
──藤本さんはどうですか?
藤本:アラタニくんはいま、「自分がいいと思うだけじゃなく、みんながいいと思うものを出したい」みたいなことを言いましたけど、こういうことを言うのって、ヴォーカルっぽくないじゃないですか。
アラタニ:ははははは(笑)。
──まあ、確かに(笑)。
藤本:それでも、バンドとして握っておかなければいけない部分はあって。それを握ることが自分の役割だったし、それを意識した1年間だったと思います。関わってくれる人が増えた状況で、「僕がやりたいことをやるので、皆さん黙っていてください」なんてことはもう言っていられないな、とは思ったんです。インディーズのときと同じやり方は自分の性格的にもできない。でもそのうえで、さっき名前を挙げたような、いま第一線にいるメジャー・アーティストのなかには、哲学を感じてかっこいいと思える人たちや、バック・グラウンドがめちゃくちゃ透けて見える人たちもたくさんいるわけで。「どうしたら、自分たちもそんなアウトプットができるだろう?」ということを、2023年はいままででいちばん考えたと思います。自分たちの哲学やバックグラウンドを大事にすることはこれまでの僕らもやってきたけど、それをやったうえで多くの人に聴かれているアーティストは、いままでの自分となにが違うんだろう?と。
──その問いに答えは出たんですか?
藤本:正直、わからないです(笑)。でも、ぼんやり思うのは、例えばVaundyの"踊り子"のなかにUSインディ的な要素があったり、Galileo Galileiの音楽のなかにシンセポップやUKインディのような要素があったとして、でも、そういうバックグラウンドを知らない人が彼らの音楽を聴いても「なんか、めっちゃいいな」と思えるじゃないですか。音楽の気持ちよさみたいなものは、ちゃんと伝わると思うんです。そういう感じで、共通のバックグラウンドを持つ人が「好き」と言ってくれるだけではなくて、そのバックグラウンドを持たない人が聴いても「なんかわかんないけど、いいな」と思う。そんな「わかんないけど、いい」という感覚はすごく大きくて、大切なものだとは思うんですよね。「わからないけど、いい」、「わからないけど、お洒落」……全然言語化できていないんですけど、そういう感覚をもっと追求したいと思った1年だったと思います。
──「言語化できない」ということが、むしろ重要だったわけですよね。もうちょっと伺うと、好きなものを、言葉にして分かり合える者同士で分かり合っている状態も、ある意味ではとても幸せですよね。そのうえでなぜ、藤本さんはその範疇を越えて言語化できない場所に進んでいきたいと思えたのだと思いますか?
藤本:単純に、自分の原体験がそこにあった、ということだと思います。例えば、スピッツやthe pillows、ART-SCHOOLのようなバンドを中学生の頃に知って聴きはじめたときに、彼らのバックグラウンドにあるもののことなんて、まったく知らなかった。USオルタナがどうこう、みたいなことなんて知らないで、それでも「なんか、かっこいいな」と思えたんですよね。その後、音楽を掘っていくなかで「あの曲のルーツって、これだったのか」みたいなものに出会い、さらに感動する。「○○っぽいから聴こう」ではなく、バックグラウンドを知るのはあくまでも後からだったんです。自分の音楽の原体験がそういう場所にあったからこそ、向き合えた部分はあると思います。
──アラタニさんは、ご自分が「みんながいいと思えるもの」に向かっていこうと思えるのは、なぜだと思いますか?
アラタニ:いまの藤本の話に近いと思います。僕と藤本は高校からの同級生なんですけど、僕らが最初の音楽脳を形成していったきっかけって、お互いが好きな曲を勧め合い、共通項を見つけていった作業がまずあったと思うんです。俺がミスチル(Mr.Children)を持ってきて、こいつ(藤本)がスピッツを持ってきて、こいつが持ってきたthe pillowsに俺もハマって……みたいな。そこにあったものって「直感」みたいなもので、それが自分たちの原点にあったものだと思うんですよね。このアルバムの曲を作っているときは、その原点に帰ろうとしていた部分はあると思います。今回のレコーディング中、直感的に「この曲は羽ばたいてくれるかもしれない」と思える瞬間が何度かあったんです。去年から今年にかけて難しいことを考え続けてきたけど、その内省のなかで、直感が研ぎ澄まされた部分もあると思う。
──なるほど。
アラタニ:この2年間くらいで、「もっと大きなところにいきたい」という気持ちも大きくなったし、いまのサポートの子たちも含めて、「みんなでいい舞台に立ちたいよね」という気持ちも強くなってきていて。欲が出てきたんですよね。欲が研ぎ澄まされてきた。僕らが少年時代にそうだったように、目をキラキラさせながら友達や好きな子に紹介できるようなバンドになりたい。そういう思いがすごく強くなってきたんです。