ポップなPARIS on the City!が、泥臭いロック・サウンドに振り切るまでの歩み
これまでポップなバンドだと認識していたPARIS on the City!に対して、はじめてそんな印象を持った。このセカンド・アルバム『擦り切れても骨になるまで』はタイトルからも察するように、擦り切れるギリギリ、いや、もしかすると擦り切れていると断言できるくらい、ハードでアツいロック・サウンドが収録されている。とはいいつつ、収録曲“ふぁっきゅーせんきゅー”を聴くと、「あー!これ!これ!」と安心する、ポップなパリスらしさも健在だ。これまでのリスナーを追いていくことなく、新境地へと向かっていくPARIS on the City!に迫る。
PARIS on the City!の新作音源はこちら
INTERVIEW : PARIS on the City!
PARIS on the City! 4年ぶりとなるセカンド・フル・アルバム『擦り切れても骨になるまで』が発売された。結成5年、ファースト・アルバム『この世で一番嫌いな君へ』でデビューして以来、キャッチーなメロディに加えて独特なワード・センスを武器に支持を集めてきた彼ら。これまでになくどこか悲壮感すら感じさせるタイトルにちょっと戸惑いつつオープニング曲 “骨になるまで” を聴いてみたら、いきなりスケールの大きなロック・サウンドにぶっ飛ばされた。最高に爽快な楽曲が並んでいて、なにより4人が汗をかきつつ懸命に楽しそうに歌い演奏している姿が浮かんでくる、臨場感たっぷりなアルバムだ。今回の取材では明神ナオ(Vo.Gt)と小林ファンキ風格(Gt.Cho)にアルバム制作過程の話から、他アーティストへの楽曲提供、参加についても話を訊いた。
インタヴュー&文 : 岡本貴之
写真 : 高梨はるの
自分たちのいまある気持ちを大事にしよう
──『擦り切れても骨になるまで』の1、2曲を聴いて、音が太くなってよりロック色が強くなったなと思ったのですが、メンバーにそういう意識はありましたか。
明神ナオ(Vo.Gt) : 音を太くしよう、というイメージで作ってはいなかったんですけど、最終的に太くなっちゃうというか、今回はより太くなったかなって。よくまわりからも「ロックですね」って言われますね。
──手元のリリース文に “泥臭いセカンド・アルバム” とあるんですけど、バンド自体にこれまでそういうイメージは感じたことはないんですよね。でもじゃあお洒落なポップ・バンドかというと音を聴くと全然そうじゃないし、なんか不思議なバンドだなって(笑)。
小林ファンキ風格(Gt.Cho) : たしかに、PARIS on the City!っていうお洒落な雑貨屋さんみたいなロゴに対して、“骨になるまで“のイントロって全然違うなって(笑)。まったく想像できないですよね。そういう意味で言うと、今回のアルバムはハードですね。
──それは、コロナ禍で溜まってた気持ちも反映されているのかなって感じました。どんな気持ちで制作に臨みましたか。
明神:去年、サードEP『れあもの』を持ってツアーをまわるつもりが全部キャンセルになってしまって、結構時間が空いて曲を作る時間がわりとあったので、弾き語りでデモ音源を作ってそれをメンバーに渡して。いつもはスタジオで詰めてレコーディング本番に臨んでいたんですけど、今回、はじめて合宿を2回やったんです。そこで音をどんどん固めて整理して行って本番のレコーディングに臨みました。
小林:今年の1月と2月に1回ずつ、合宿できる施設に楽器を持ち込んでひたすらいろんなアレンジを試しました。ラフなデモをゼロからイチにする感じで作ることもあれば、ちょっとだけ改造するみたいな曲もあって、結構有意義な時間でした。
──合宿をやった理由って?
明神:プリプロを作りたかったんです。いままでデモ音源を参考にしてプリプロを作らずにレコーディングしていたので。1回プリプロを作ってどういう聴こえ方をするのか試してみたいという意味合いの合宿です。
──プリプロって実際にどのあたりまで作り込んだ状態なんですか。
小林:もう、レコーディング・スタジオの機材で録るか自分たちの自力で録るかの違いっていうぐらいまで固めてました。ミックスのバランスも、例えばギターでいうとワウは右側にいてソロは真ん中に来るけど、効果音的な音はセンター気味の右寄りにしたいなとかっていうやり取りを明神としてました。
明神:ヴォーカルでいうと、コーラスをどれぐらい出すか、リヴァーヴをどれぐらいかけるか、バッキングのギターはどう弾くかっていうのを細かく。
小林:極力本番に近寄ったところまで作り込みました。というのも、めちゃくちゃ過密スケジュール過ぎて、1週間借りられるスタジオで6日間で10曲録らなくちゃいけなくて(笑)。そんなことやったことがないから、心配で心配で仕方なくて。レコーディングで迷いたくなかったんですよね。だから、「こう弾けばOK」っていう答案用紙を持って行って答えを見ながらテストを受けるみたいな(笑)。
明神:そこで、アルバムの9曲とアイドルに提供した1曲(グデイ「あいどるにんげん」※後述)の10曲を一気に録ったんです。2日ぐらいで10曲歌わないといけないので、ヴォーカル録りはすごく大変でした。
──なるほど、これまでにない大変な経験をした結果タイトルが『擦り切れても骨になるまで』。
小林:だいぶ擦り切れてたよね(笑)。
明神:喉は擦り切れてました(笑)。
──“骨になるまで“、”林檎79号線“と、すごくスケールの大きいロックだなって思ったんですけど、曲についてはどんなことを考えて作ってたのでしょうか。
明神:ツアーがなくなった悔しさを曲に入れると鬱陶しいかなと思いつつ、でもなにを作っても自然とそういう風になるだろうなと思っていたので、振り切りました。技術、音色も大事なんですけど、それよりも自分たちのいまある気持ちを大事にしようっていう気持ちでレコーディングに臨みました。それは、各々が持っていたものだと思います。それが曲に反映されていればいいんじゃないかなと思ってましたね。
小林:去年、明神からすごくコンスタントに、嫌がらせかっていうぐらいの頻度でデモが送られてきていて(笑)。それに1曲1曲、PARIS on the City!のもともとのイメージと違って結構攻めているロックな印象を受けたんです。でもメロディは明神らしいキャッチーなメロディですごくいいなと思いました。とくに、“骨になるまで“、”林檎79号線“はイントロからガッと掴まれるものがあって。この辺の曲たちは、明神がデモで入れてるギターフレーズをそのまま採用して、イントロの表情をさらにどう膨らませるかを考えて、“林檎79号線“はアシッドジャズ、“骨になるまで“はロックの方向に持って行こうと思いました。そういう編曲するのがすごく楽しかったですね。
明神:“骨になるまで“は、僕のなかでは“全然ナナメFRICTION LOVE!!!“(ファースト・アルバム『この世で一番嫌いな君へ』収録曲)の要素も若干入ってるなと思っていて。メンバーがカッコイイ感じにしてくれるんですけど、軽い要素も持たせたいみたいなところがあって。だからイントロはすごくカッコイイんですけど、いきなりAメロで歌モノに変わるっていうバランスを自然に意識してできた曲です。
──明神さんが曲をたくさん書いていたというのは、いま書かなきゃいけないと思って書いたんですか? それとも湧き出てきた感じ?
明神:いや、なにも考えてなかったです(笑)。日常生活で思ったことや引っかかったことはメモするんですけど、それをきっかけにメロディをつけてみようかなっていう感覚ではじめて、手を付けだすと最後までフルに作りたくなるんです。
──じゃあ、デモが送られてくるときには曲も詞もできた状態なんですね。
小林:歌詞もちゃんとあります。だからもう、デモで結構完成されちゃってるんですよ。「これ、どうしようかな」っていう(笑)。でも逆にそこまでやってもらった方が迷わなくて良いですね。初期の頃はあんまり作り込んでなかったから、スタジオでいろいろ自由にやりながら「もうちょっとこういう風にして」っていう会話が多かったんですけど、最近はそういうのが一切なくなった感じで。僕らにとってはそれがいちばん効率が良いんですけど。
明神:スタイリッシュになったよね?(笑)。9曲目の“静かな夜だね“は、僕の弾き語りをみんなに聴かせてそこから作りました。まったくデモがない状態でみんなで曲を作ったのは、はじめてなんです。
小林:普段は、デモに歌からリズムから全部入ってるんですよ。だから、作家さんみたいなやり方なんですよね。
明神:絵みたいな感じで、ひとつ書いちゃうと全部自分なりに好きなようにやってみたくなるんです。だいたい深夜2時、3時頃に歌詞を書くんですけど、出来上がるのが5時とか6時で。それを朝聴きながらボーっとするのが好きなんです。「ああ、これ売れたな」とかって思いながら(笑)。
小林:今回は、「明神がMVP」っていうぐらい、素晴らしくテンポよく曲を作ってくれたので、これは1つ1つちゃんと形にしないとなって、メンバーそれぞれが思っていたと思います。