2015年のKERAはてんこ盛り!! ーーケラ&ザ・シンセサイザーズ新作と、なんと24年ぶりの有頂天新作、ハイレゾ先行配信&インタヴュー!!
ミュージシャン、劇作家と広いジャンルで活躍するKERAが、2015年の音楽シーンに2つのアルバムをぶちこんできた! まずは、ケラ&ザ・シンセサイザーズとして5年半ぶりのアルバム『BROKEN FLOWER』を、そして、有頂天として24年ぶりとなるスタジオ新録ミニ・アルバム『lost and found』を、OTOTOY独占2週間先行&ハイレゾ配信開始! KERAの中で何かが動き始めた… その答えを確認すべくKERAと、ケラ&ザ・シンセサイザーズのメンバー杉山圭一とReikoにインタヴュー。
5年半ぶりのニュー・アルバム!
ケラ&ザ・シンセサイザーズ / BROKEN FLOWER(24bit/48kHz)
【配信形態】
WAV / ALAC / FLAC / AAC : 単曲 300円(税込) / まとめ購入 3000円(税込)
【Track List】
01. フラワー・ノイズ / 02. ネズミは沈みかかった船を見捨てる / 03. 求人妖奇譚 / 04. Long Goodbye / 05. 真夜中のギター / 06. 大発見(休息と抵抗) / 07. シャープさんフラットさん / 08. ロケット・ソング / 09. 問題アリ / 10. リスト / 11. ポピーズ / 12. BROKEN FLOWERS / 13. Dear God Waltz
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24年ぶりとなるスタジオ・ミニ・アルバム!
有頂天 / lost and found(24bit/48kHz)
【配信形態】
WAV / ALAC / FLAC / AAC : 単曲 300円(税込) / まとめ購入 1500円(税込)
【Track List】
01. 猫が歌う希望の歌
02. 進化論
03. 東京麒麟駅
04. 嘘つきマーキュリー
05. ルール
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INTERVIEW : ケラ&シンセサイザーズ
KERAといえば、ナゴムレコード主宰者として日本の音楽界にインディーズ・レーベルという概念を定着させた、ミュージシャンであり有頂天をはじめ“なんだかちょっとヘンテコな”音楽をやっているバンドのヴォーカリスト、というのが一般的な基礎知識… と思っていたら、今やどうやらそうではないらしい。今回のインタヴューでご本人が語っているように、むしろ演劇人として認知されていることで音楽は趣味だと思われていることも多いんだとか。これはいかん、と思ったのかどうかはともかく、5年半ぶりとなるケラ&ザ・シンセサイザーズ『BROKEN FLOWER』、そして有頂天の24年ぶり(!)となるスタジオ新録ミニ・アルバム『lost and found』のリリースを皮切りに、なんと約半年間でさまざまな形態で5枚ものアルバムをリリースすることに! これは相当気合いが入っているに違いない! と早速ケラ&ザ・シンセサイザーズをインタヴューすることに。そこには肩の力の抜けた様子で、変わらぬ自由さと独自の視点を持った音楽家である彼がおり、主要メンバーの脱退を機に彼とフラットな関係を結んだ杉山圭一、Reiko、そしてRIUと共に作り上げた傑作アルバムについて、貴重なエピソードを含め雄弁に語ってくれた。
インタヴュー&文 : 岡本貴之
それまで当たり前だと思っていたことが、そうではない
ーーKERAさんはこのアルバムを手始めに同時発売の24年振りとなる有頂天のアルバム『lost and found』をリリース、No Lie-Sense、ライヴ・アルバム、ソロ・アルバムと5枚の作品を半年の間に連続リリースするということなんですが、ここまで活発な音楽活動に舵をきった理由を教えてもらえますか?
KERA(Vo) : 理由はね、あんまりないんですよ。
Reiko(Dr) : (笑)。
KERA : スケジュール上の、物理的な事情です。ここなら時間を空けられる、ということで。それって「この時期は音楽活動したいから舞台やらないよ」と言えば済むことなんですけど、それがなかなか難しいんですよ。舞台は3、4年先を決めていくから。3年前にこの半年を空けておくというのはけっこう勇気がいることで。その時期にこの2人(杉山、Reiko)やベースのRIUくんが空いてるかどうかわからない「じゃあ(鈴木)慶一さん空いてるの? 空いてるならNo Lie-Senseをやりますか」って空いてる人で何かをやるみたいな(笑)。
ーーそう考えるとこれだけ集中的に各ユニットを動かすというのは奇跡的ですよね。
Reiko : 奇跡的ですよ。去年聞きましたね、たぶん。
KERA : 三浦(俊一)がいた頃は、彼がスケジュールを仕切っていたので、例えば「ここの2ヶ月は空いてる」とか伝えるんですけど、でも音楽の人はわりとラフなんですよね。演劇の人間はその辺りシビアなんですけど、スルーされちゃうんですよ。「ここの2ヶ月は空いてるからレコーディングしようって言ったじゃん!?」みたいな(笑)。スケジュールを渡したつもりでいるのに、なかなか有効利用されないジレンマは正直ありましたね。ソワソワして気持ち的に休めない。まあ演劇の世界も異常なんですけどね。昨日だって2019年までの話してきましたからね。音楽で2019年だったら何やるの?
Reiko : ないないない(笑)。
杉山圭一(Synth) : 何も考えられないですね(笑)。
ーーKERAさんとしては演劇人としてのご自分と音楽家としての自分が離れてしまっているような意識があったんでしょうか?
KERA : 22歳の時に劇団を旗揚げして以来、どっちが本業でどっちが副業という分け隔てはまったく無いです。自分の中には有頂天がメジャー・デビューして一番忙しかった時期でも演劇は年に2本はやってましたから、下手くそだったけどもう少し演劇人として評価してもらいたいという欲求は強くありました。上手くいかないもんで、どっちかなんですよね。それで演劇で安定すると今度は「音楽は趣味でしょ?」とか言われてしまう。「ああ、まだやってたんですか!?」とか。でもシンセサイザーズは前作くらいから、僕が演劇で表現してることの音楽バージョンとでもいうのか、かなりリンクしてきて、以前のようにただ騒ぐだけのライヴではなくなってきているんですよ。まして今回は有頂天やNo Lie-Senseのレコーディングも並行しておこなってきたから余計意識的に棲み分けできました。
Reiko : 前作の『Body and Song』の頃から、KERAさんの演劇の世界観とシンセサイザーズがリンクしてると個人的に感じてました。
杉山 : アルバムのテーマや方向性もレコーディングに入ってから「じゃあこうしようか」という感じでしたもんね、今回は。
KERA : みんながどんな曲を持ってくるかというのをある程度聴いてからの判断だったね。今回はフル・アルバムなんで、どうしてもコンセプチュアルなものにしたくなるんですよ、僕のような世代では。それってある意味制約を作るわけですよね。何かを選ぶということは何かを選ばないということだから、「これは今回無し」という事項も増えていく。それによってアレンジも決まっていくわけですけど、まさにそんな話をしていたときに三浦(俊一)がいなくなっちゃった。
Reiko : (笑)。
ーー三浦さんが脱退したのが2014年の2月で、その後の制作期間は14ヶ月にも及んだそうですが。
KERA : 14ヶ月といっても、途中、芝居やらドラマやらでレコーディング完全に中断した時期が長いですから。ただやっぱり間が空くと色々考えたり思い直したりもするし、なんせ三浦が抜けたことで色んなことが変わりましたね。それまで最終的なジャッジをするのは三浦でしたし、なんとなくそれに真っ向から異を唱えるのは僕だけというような、暗黙のルールというか、バンド内のしきたりが出来てたんですよ。まあもう20年目ですから、それも無理ないじゃないですか(笑)? 結成時からずっといたのは僕と三浦だけだし。
Reiko : サウンド面は三浦さんで、バンドの方向性はKERAさんに任せる感じで。
KERA : 三浦は本気だか冗談かわからないようなことをやってみたりするし、突然投げやりになってみたりもするし、それは僕らからすると冗談なのかなんなのかわからないんだけど、そんな人間が突然フっと「今日で私は抜けました」ってメールを送ってきて。レコーディングの真最中にですよ。「心が揺れるのでメールとか電話はしないでくれ」って。彼女かよお前は!? って(笑)。
Reiko・杉山 : ははははは!
KERA : そこで一回、レコーディングは完全に暗礁に乗り上げたんですよ。でもある意味、それまでは三浦が作る音楽観の中に収まらなくちゃいけなかったものがそれがなくなったことによって、他の3人が非常に、自由かつ積極的になってくれた。そうじゃなかったら完成まで漕ぎつけられなかったんじゃないかと思いますね。Reikoだったらコーラスのラインを考えるとか、杉山も、かつては三浦や僕が「こういう音ない?」って言わなきゃ出してこなかったようなものをどんどん自分から積極的に出してくれましたから。
Reiko : あ、色々やって良いんだ! って思いました。
KERA : 歴代で何人ものメンバーが通過して行きましたけど、みんなニューウェイヴ世代じゃないわけですよ。だから「ニューウェイヴじゃないじゃん、それ?」って言われたら手も足も出なくなる(笑)。でもニューウェイヴっていうのも、いつもの、今や非常に曖昧でしょ。そもそも僕と三浦のニューウェイヴ感も違うんですよ。
Reiko : 音だけのこともあれば、概念としてのニューウェイヴもありますしね。
KERA : そうそう。パンクと同じで、姿勢とかさ。もう全然“NEW”じゃないしさ(笑)。今回は三浦がいなくなったことで「ニューウェイヴか否か」は気にしないで、持ち寄った曲の中からどの曲をやる? みたいな感じで。
Reiko : 今回のアルバムはサイケですね。
KERA : 広義的な意味ですね。60年代終りのストーンズとかビートルズとか、あとプログレとか入ってますけど、クリムゾンみたいなフレーズもあるし(笑)。でもそういうことをやろうと決めたときはすでに半分くらい曲が決まってしまったので、最初から決めていればもうちょっとそれに沿ったコード進行とか…。
Reiko : 作曲したときは、サイケを考えずに作った曲なんですけど、それをサイケにアレンジして、みたいな。
KERA : 明るいんですよ、コード進行が。決して英国的ではない。もうちょっとマイナーなコード進行の方が、らしくはなるんですけど。
ーー確かに、1曲目の「フラワー・ノイズ」は陰鬱な感じですが、2曲目の「ネズミは沈みかかった船を見捨てる」以降は明るくてポップな曲が多いですね。詞の内容も観念的でありながら悲観的には聴こえない、今の世の中をそのまま描いている気がします。
KERA : 『BROKEN FLOWER』はとてもへヴィーで、暗くて、かつ美しい作品になったと感じます。前作の『Body and Song』は応援歌的なアルバムだと思っているんです。あれが発売されてから震災が起こったんですよ。そうすると、妙な親和性を感じたりして。例えばあのアルバムの中に「ニセモノ」という曲がありますけど、震災の後の原発事故に関する隠蔽のニュースとか見ながらね、この風景のBGMにピッタリだと思ったりしました。そうした、エールとしてのアルバムを経て、今回はさらに危機感の強い切羽詰まった作品になったと思います。切実さはこれまでのシンセサイザーズのアルバムの中で一番強い。こうした逼迫感は僕の演劇活動にも様々な形で表れているし。この間やった『三人姉妹』も、チェーホフの古典戯曲ですけど、今演出するとやっぱり気持ちが乗っかるんですよね、作品に。
ーーそれは震災以降、表現する上で避けては通れないことというか。
KERA : うん、世の中の不条理を感じますよね。まさにカフカの世界のようだと思うし。だって安倍政権の今のさまざまなことに対して、支持している人が数で言うと多いということになってるじゃないですか?
ーー確かに、自分の方がマイノリティなのかなと思わせられますね。
KERA : それまで当たり前だと思っていたことが、そうではないということに、少なくとも当たり前だと思っている人の方が少ない、と気づかされてあ然とする。
これ以外無いというぐらい見事にハマってくれました
ーー今回は出そろった曲に対して詞を付けていったら自然とそうなっていた感じでしょうか?
KERA : でもそんな雰囲気の、暗くて重くて美しい作品になるだろうなというのは、レコーディングが始まってまだ三浦がいた頃にアルバムのタイトル、『散り行く花』っていうのを考えたときすでにありました。結局、英タイトルにはしましたけど。『BROKEN FLOWER』はジム・ジャームッシュの映画のタイトル(映画タイトルの方は『BROKEN FLOWERS』)。ちなみに『散り行く花』はD・W・グリフィスっていうサイレント時代の大監督の映画のタイトル。本当にイメージしかないんですけど、これから咲くぞというような生気が溢れるものではなくて、役割を終えた、或いは目的を見つけてとりあえず自分たちの限界を知ったりするような… 有り体に言うと、普通に会社に就職して結婚して普通に子供がいてとか言う人たちが、今の日本や世界において、置き去りにされている、そんな気がしてね。水も与えられずに。理屈ではなくイメージで。その花たちが放り投げて行く様々を集めたパッケージにしたい、という漠然としたイメージがありました。
ーーアー写は、枯れた花の向こうにメンバーが映っている写真ですし、聴く前から考えてしまうようなところがありますね。「ネズミは沈みかかった船を見捨てる」等の曲タイトルにもすごく危機意識を感じさせますし。
KERA : 聴く人に考えさせるアルバムだと思いますね。楽観的な歌はひとつもない。表面上楽観的に歌っているように聴こえる曲もありますが、その裏には大きな悲観があり、悲観的な歌には実は希望を含んでるという、必ず背反した両方を意識しました。いつも芝居書く時に心がけていることと同じです。
Reiko : 「問題アリ」とか、すごいですよね。あんな曲なのにこんな歌詞か! って(笑)。
KERA : 「問題アリ」は(レコーディングの)最後の方で、誰も来れないから「いいよ俺一人で歌っとくから」って言って。だからどんなメロディーでどんな歌詞が乗っかるか、出来上がるまで誰も知らなかった。
ーーReikoさんと杉山さんが作った曲も、歌詞が乗ってから驚く感じだったんですか?
杉山 : そうですね(笑)。
Reiko : はい(笑)。私が書いた曲のうち「求人妖奇譚」は2年前に書いたものなんですけど、アレンジをバンド内で2年間かけて色々やってきて、最後の最後に歌詞が乗ったら「ああ、こんな歌だったんだ、これは!?」っていうのがわかるという(笑)。それが曲を作る上で一番の楽しみなんですけどね。
KERA : いつも詞で最終的なバランスを取る。例えばオケだけですでに十分なイメージが広がるのであれば、あまり多くのこと歌わなくても良いんじゃないかと思うし、逆にこれは歌にかなりの情報量がないと、自分の中で物足りないというものとか、色々あるんですよね。
ーー杉山さんは「ロケット・ソング」というパンキッシュな曲を作曲していますね。
KERA : ライターの人はみんな何故か「この曲を聴くと安心する」って言うよ(笑)。
Reiko : そうなんだ(笑)。
杉山 : アルバムの中では一番アッパーな曲になりましたね。もうちょっとみんなアッパーな曲を持ってくると思いましたけど。それこそなんの打ち合わせもしてない頃に、XTCみたいなスピード感があるやつをやってみたいなと思って。それで安心するのかもしれないですね(笑)。
KERA : これは一番シンセサイザーズっぽいって言われる。
ーーこの曲ではPOLYSICSのハヤシさんがギターを弾いていますが、今回は8人のゲスト・ギタリストが参加しているんですね。
KERA : 具体的に決まったのは今年になってからですね。最初は多くの曲に三浦のギターが仮で入っていました。
杉山 : ミックスが終わる1ヶ月前くらいからですね。急にワーッと。
Reiko : 三浦さんが辞めてから、レコーディングの再開まで期間が空いているんですけど、その間に各曲を色んな人に頼みたいねってみんなでリスト・アップして交渉したりして。
KERA : 人選も振り分けも、これ以外無いというぐらい見事にハマってくれました。ギタリストに限らず、参加してくださったゲスト・ミュージシャンの方々には心から感謝してます。
ーーReikoさん作曲の「求人妖奇譚」ではくるりの岸田さんがトルコの伝統楽器サズ(saz)を弾いていますが、岸田さんとはどんなやりとりがあったんでしょうか?
Reiko : それは岸田君の閃きですね。特に私から指示をしたわけではなくて、岸田君がレコーディング当日に「あ、サズ入れたいな」って言って、普通のエレキ・ギターを弾いて録っている途中でスタッフさんに楽器を取りに行ってもらって(笑)。
KERA : 去年から彼には、秘密ルートを通じて、こちらがシタール・ギターを使ったりしているというのは伝わっていたんですよ。彼が民族楽器大好きなのも、くるりのアルバム聴けばわかるしね。秘密ルートってのは、まぁReikoなんですけど(笑)。
Reiko : サイケな音楽を追及してますよってことがね。くるりも『THE PIER』でそういう楽器を使っているというのも聞いていたんです。同時期に作っていたんで。
KERA : 合わせてもらうんじゃなくて、お願いした曲に対してどういうアプローチをしてきてくれるかなっていう。
Reiko : みなさん、曲だけ渡して「お好きにどうぞ」っていう感じでしたね。
ーーチェリストの坂本弘道さんが美しい曲「Long Goodbye」に参加しているのも印象的です。
KERA : 坂本さんに関しては三浦が辞める以前から、受けてもらえるかはわからなかったけど、弦主体の曲を入れたいなと思っていたんですよね。坂本さんはストリングス・アレンジもしてくれています。圧倒的に素晴らしい。現代音楽から出発している人は面白いですね。クラシックから出発した人よりも、何をしでかすかわからない面白さがある(笑)。
Reiko : 確かに、何が当たり前なのかわからないというか(笑)。
KERA : 実は、この曲、オケが出来て歌を入れる直前に母親が亡くなったんです。
ーーえ、KERAさんのお母さまがですか?
KERA : うん。もう27年くらい会ってなかったんですけどね。電話では年に2回ぐらい話してましたが。母の日とか僕の誕生日とかに。遠方に住んでいることもあったんだけど、彼女は家を出て行った人なので。そういう複雑な想いもあって、ずっと会わずにいた。それが突然、母のつれ合いから電話があって、「入院中でもう長いことないから会いに来てやって欲しい」と言われて会いに行ったんですよ。2月11日のことです。ウチの奥さんの誕生日だったこともあってよく覚えてる。それでオケを録った4日後くらいに亡くなった。葬式の帰りに展望レストランみたいなところに車で行って、そこで詞を書いたんですけどね。当然ながらそうした出来事がなかったらまったく違う歌になっていたと思います。
Reiko : それを直後に歌入れするKERAさんがすごいなと思いましたね。私は歌入れの最中に号泣していましたけど。
KERA : いや、俺は親父があと1週間で死ぬっていうときに、その親父が脳梗塞でボケちゃって言ってる言葉を全部台本にしてギャグにした人間ですから、20代のときに。
Reiko : (笑)。
杉山 : ははははは。
KERA : その時点である覚悟というかな、「こういう残酷な仕事を俺は一生やっていくんだ」っていう思いが固まったんだよ(笑)。
ここ2年くらいで急激にギターが好きになった
ーー「真夜中のギター」のカヴァーが入っていますが、KERAさんはこういう和やかにみんなで歌えるような歌をチョイスしますね。
KERA : 「心の旅」(1985年に有頂天でカヴァー)的な(笑)? 「心の旅」は画期的だったと思いますよ自分でも。ああいう曲をロック・バンドやタテノリのバンドがわざわざカヴァーするのって。今は当たり前ですけどね。でも例えばパンクの曲を我々がカヴァーしても面白くないし。原曲とはまったく異なる世界観で仕上げるという意味ではゲストの田渕さんのギターのおかげも大きいですが、成功したのではないでしょうか。どうでしょうか。
ーーKERAさんが好むギタリストの中で田渕ひさ子さんってどういう位置にいるんですか?
KERA : 僕は正直言って、ある時期までギタリストで好きな人なんて1人もいなかったですよ。ギターが嫌いだったから。うるさくて。でもね、ここ2年くらいで急激にギターが好きになったの。
杉山 : ここ2年なんですね(笑)。
Reiko : あははははは!
KERA : だから今回有頂天の新作でも、僕の興味はギターのことばっかりですよ。COU(有頂天のGt)のギターに対しても昔は「もうちょっと小さく」とか言っていたのが、今回は「もう1本入れよう」とか言ってましたから。
ーー80年代後半にギター・バンドばかりだったから嫌になっていたんですか?
KERA : いや、そんなことじゃなくて、自分をカッコイイと思っている奴が多いでしょ、ギタリストって。ナルシストなのが音で分かるのがとても恥かしい。それがカッコ悪いと思ってたんですけど。でも今は聴く音楽もキーボードが入ってないものの方が多いですね。僕は掘り出すと全部掘っちゃうんで、それでソニックユースとか全部聴いたんですけど。20枚くらいあるんだよね。
Reiko : KERAさんがソニックユース(笑)!
KERA : でも『GOO』とか、グランジと言われて売れた頃のは面白くないと思う。最初期の、85年くらいのインディーズの頃は面白いですねえ。あとジム・オルークが参加した3枚は好き。
ーーこれは偶然の産物なんじゃないか、みたいな曲も多いですよね。
KERA : 多いね。サーストン・ムーアのギターって、チューニングが正式なのは1stだけなんですよ。あとはその楽曲に合せた変則チューニングでしょ? だからあんな分からないコード感になるんですよね。なんてことをこの年齢になって知るのも楽しいものですよ。ギクシャクしたギターかカオティックなギターが好きですね。
ーーそういう意味で田渕さんのギターは好きなギターなんですね。
KERA : うん。ソニック・ユースからも当然影響受けているだろうし。僕はソニック・ユースの連中が行ってた学校の先生をやっていたグレン・ブランカのアルバムまで買っちゃったんだけど(笑)。ブランカも根っこはサイケがあったりするんですよ。現代音楽とサイケデリック・ミュージックの関係も非常に興味深くて、日本ではdipのヤマジ(カズヒデ)のソロとか。よく聴いてますけど、プロデュースはジム・オルークや石橋英子さんと演ってる須藤俊明氏だったりする。表現は色々なんだけど、根っこはつながってるというのが面白いと思いますね。
ーーKERAさんがギターについて語るのは面白いですね。
Reiko : 面白いですね! 初めてこんなに聞いたかも(笑)。
杉山 : 三浦さんの脱退以降、KERAさんとは直接色んな音楽の話をいっぱいするようになったんですよ。気を遣ってたわけじゃないんですけど、今まではフィルターを通していたというか。それが直接引き出しを開けてやりとりできたんで、今まで以上に深く色んなことを感じることができましたね。僕も今までシンセだったらやってこなかったものも引き出しとして出して、アコーディオンも弾いたし。シンセだったら絶対使わないジャズ系のコードを持ちこんだりしたのも大きかったです。今回は全体のコンセプトとしてはサイケというのはあるにせよ、今までのやり方だったら縮こまってやっていたかもなというところは取っ払って、幅広く色んなものを取り入れられたと思いますね。KERAさんがここ最近聴いてるというものを、レコーディングにCDで持って来たりするんですよ。
Reiko : KERAさんが「今これが面白い」って言って毎日参考音源のCDを大量に積み上げていて、KERAさんが数日前にハマっていた音楽を数日後に追体験して聴くみたいなことをずっとやっていたんです。
杉山 : だからすごく新鮮でしたね。
KERA : ほとんどのCDが、ニューウェーヴじゃないんですよ。
Reiko : 全部サイケ(笑)。私たちはそれまで一生懸命ニューウェーヴの勉強をしてたのに、今度はサイケの勉強をしました(笑)。
ーー「大発見(休息と抵抗)」という曲がすごく好きなんですが、この曲では白井良明さんが参加していますね。
Reiko : ああ~、私も大好き。
杉山 : コーラスを録ったときがすごく面白くて。KERAさんから電話がかかってきて、「歌詞ができたからコーラスだけ先に録っておいて。こういう歌詞だから」って口頭で説明を受けたんですよ。
KERA : 「わかった わかった」とだけ入れておいてって。
Reiko : 私たち2人だけがスタジオにいて、とりあえずその先にどんな歌詞がくるのかわからないまま「わかった わかった♪」ってコーラスを先に入れて(笑)。
杉山 : 「わかった」と「横になれ」という歌詞だけ歌って。歌詞の全貌はどうなっているんだろう? って(笑)。
ーーこれは死後の世界を歌っているんですか?
KERA : ああ、秘密ですけど確かにそういう節はありますね (笑)。
Reiko : 生死がわからない感じはありますよね。
杉山 : シャバダバダも「娑婆」に聴こえたり。
ーーこうした曲の一方でアルバム表題曲の「BROKEN FLOWERS」では「どうせすべては夢だ幻だ」と歌うことで、今の世界を生きる逞しさやメッセージを感じます。
KERA : う~ん、この曲に限らず、歌詞の内容をそのままストレートに僕自身の主張だととられてしまうと、ちょっと危険だなとも思うんですけどね。多くの歌い手が歌詞の世界と自分を同化させようとし過ぎだと感じるのは僕だけなのかな。結果、歌詞の主張イコールその歌手の主張だとされてしまう。本来は、“人なんか殺して良いんだぜ” って歌っても良いわけですよ、別に。
ーーまあそうですね。
KERA : でもじゃあそう歌ってる人が人を殺したいと思っているのかというとそうじゃないんですよ(笑)。そこの距離感の面白さがどんどん無くなっているのはつまらない。
杉山 : ああ、そうですね。
KERA : 人ってまるで正反対の感情を同時に抱いたりもするし、例えばRCサクセションのアルバムで「この世は金さ」という曲の後に「金もうけのために生れたんじゃないぜ」って曲が並んでいたり、それは両方真実だと思う。だからこういうメッセージ性が強い歌もストレートに(歌う人間と)イコールではないんだよね。やりきれなさゆえに出た言葉かもしれないし、そう思えば楽だよということかもしれないし、どうせそう思っているんだろ?っていうことかもしれないしね。
~最後に有頂天の24年ぶりとなるアルバム『lost and found』のラフMIX音源を全員で聴く~
ーー24年ぶりのレコーディングはいかがでしたか?
KERA : いや、もう、100年経とうが同じ音が出るんだなって(笑)。
Reiko : やっぱり人なんですね、音って。
KERA : もう笑っちゃいましたよ。何をやっても有頂天になる。シンセサイザーズをこってりこってり作ったんで、反動で全然違う作り方で一気に短期間でワ~っと作るのも良いもんだと思いました。
ーー24年前と違うこととして、今回のアルバムは2作品とも配信されますが、音楽配信についてはどのように感じていらっしゃいますか?
KERA : 世の中いろんなことが変わってきていて、良いことも悪いこともあると思うんですけど、良いことの1つは、昔はある一定のゾーンの人間に同時代の音楽しか供給されないという非常に窮屈な状態で、10年前のアルバムを買おうとすると1万円くらいするとかあったけど、今は廃盤になっていても(YouTube等で)なんとか聴けるじゃないですか? こうした環境でなかったら若い人は僕らの昔の音楽なんて聴けなかったと思うんですよね。僕個人としては、配信に対して、実体のないものに対する抵抗があります。「ジャケットがない」とか(笑)。
Reiko・杉山 : (笑)。
KERA : だから個人的に違和感も感じるんだけど、それによって聴いてくれる人がいれば嬉しいです。
Reiko : 『BROKEN FLOWER』はオープニングからエンディングまで1つのストーリーというか。私、自分でも毎晩聴いちゃうんですよ。
KERA : ちょっと頭だけ聴こうかなって再生すると結局全部聴いちゃうよね(笑)。だから単曲じゃなくて、是非フル・アルバムで聴いてほしいですね。
KERA's WORKS
No Lie-Sense (鈴木慶一&KERA) / First Suicide Note(24bit/96kHz)
ナゴムレコード再始動第1弾。鈴木慶一とKERAのスーパー・ユニット始動! 多彩なゲストを迎え多種多様な楽器を用いて、破天荒かつ深淵な音世界を展開する! セルフ・カヴァー3曲に書き下ろしの新曲7曲を収録。奇天烈のべろべろべー、大人さん子どもさん聴いてよね。ツイッターでも話題を呼んだ二人の新プロジェクト“No Lie-Sense(ノー ライ・センス)”。収録は「だるい人」(ムーンライダーズ)、「僕らはみんな意味がない」(有頂天)、「DEAD OR ALIVE (FINE,FINE)」(秩父山バンド、慶一&ケラの企画ユニット)のセルフ・カヴァーのほか、書き下ろしの新曲7曲の合計10曲。ホーンやキーボード、打楽器類から愛猫ゴミちゃん鳴き声まで多種多様な楽器をフィーチャーして広がる破天荒で深淵な世界。さらに大槻ケンヂ、野宮真貴、坂本美雨、武川雅寛、上野洋子、犬山イヌコ、緒川たまき、ゴンドウトモヒコら縁の面々に、戸川純との共演等でも話題の大森靖子がゲスト陣が拍車をかける大問題作&大意欲作&大傑作!
元・有頂天のKERA、三浦俊一、元・P-MODELの福間創などの、ニューウェイヴの達人が集結した、ケラ&ザ・シンセサイザーズの2010年作。今回は"音楽"をテーマに、ユニークかつメロディアス、そしてもちろんエレクトリックな楽曲が並ぶ。
ケラ / アニマル・カフェ
『愛のまるやけ』と400枚プレスで同時発売された12インチEP。タイトルどおり、動物の曲ばかり集めたソロとしてのケラの初期衝動が詰まった1枚。
ケラ / 愛のまるやけ
ナゴム初期に12インチEPとしてリリースされたケラの初期作品。当時の初回特典として付いていたソノシート作品『とうふづくりせんねん』を加えたボーナス・エディション。有頂天時代にカヴァーしたチューリップの名曲、「心の旅」の別アレンジ・バージョンや10分に渡るタイトル・ソング「愛のまるやけ」などソロとしてのケラの初期衝動が詰まった1枚。
LIVE INFORMATION
KERA Solo ワンマンライヴ
2015年6月5日(金)@新宿LOFT
ケラ&ザ・シンセサイザーズ結成20周年 &『BROKEN FLOWER』発売記念ワンマンライヴ
2015年7月5日(金)@新宿LOFT
有頂天 再結成 & 『lost and found』発売記念ワンマンライヴ
2015年7月11日(金)@新宿LOFT
PROFILE
ケラ&ザ・シンセサイザーズ
1995年、元有頂天のKERAを中心に「80年代ニュー・ウェイヴの復権」を掲げ、結成。半年のリハーサルと3度のシークレット・ライヴの後、1996年春、渋谷EGGMANにて初ライヴを行う。350名のキャパシティを持つ同会場に450名を動員した。その後、活動の中心をON AIR WEST(現TSUTAYA O-WEST)に移し、98年、待望の1st Mini Album『ザ・シンセサイザーズ』を発表。以降、年2〜3本のステージを行ってきたが、メンバー多忙のため00年末から3年以上の間バンドの存在を忘れてしまい(!)、意図せず活動休止状態になる。
04年秋、忘れていたバンドの存在を思い出し、CLUB QUE2DAYSで復帰。そのままレコーディングに突入し、翌年2ndミニ・アルバム『ナイト・サーフ』を発表した。またライヴ拠点をSHIBUYA CLUB QUATTROに移す。06年3rd Album『隣の女』をリリース。男性ヴォーカルによる全曲女性ヴォーカル曲のカヴァーという企画は、期せずして徳永英明氏とほぼ同時期だった。しかし、両者は正反対の性格を持つ。徳永氏が「リスペクト」で歌ったのに対し、彼らのプレイからは「悪意」を感じずにはいられない。『隣の女』の完成直後、勢いづいた彼らはその発売を待たず、初のフル・アルバムとなる『15 ELEPHANTS』のレコーディングに突入。約1年にも渡る制作期間を経て、07年3月にリリース。有頂天の時代より行ってきた音楽活動の集大成を完成させた。07年夏、発売に伴うライヴを行った後、再び活動休止期間に入る。09年4月、ユーミン(松任谷由実)のカヴァー・コンピレーションに参加、同年7月には2年ぶりのライヴを行い、本格的に活動を再開した。この頃からライヴ拠点を有頂天時代の古巣でもある新宿ロフトへ移す。10年12月、3年半ぶりのオリジナル・アルバム『Body and Song』を発表。「歌と歌詞」に重点を置き、シンセサイザーズという名前を度外視したアンプラグド・ナンバーも収録。
有頂天
1982年結成、KERAを中心に結成。80年代前半にTHE WILLARD、LAUGHIN' NOSEとともに“インディーズ御三家”と呼ばれ人気を博す。ライヴで演劇やコントの要素を用いたり、DEVOの影響を受けたテクノポップやニュー・ウェイヴを聴かせ、異色の存在として注目を浴びる。91年に解散。94年と97年に1日限定の再結成ライヴを開催し、2014年に再結成を発表した。