セカイイチ、自身のレーベルから送る2作目は"踊れるファンク・ロック"!
セカイイチが通算8作目、自身主宰のレーベル〈Anaheim Records〉からは第2作目となるフル・アルバム『Round Table』をリリースした。前作『Anaheim Apart』がセカイイチの多様な音楽性の同居を示すものだとすれば、今作はそのなかの1つのドアを開け、ソウル/ファンクを志向した内容となっている。ミドル・テンポの16ビート特有のうねりと疾走感に後押しされた岩崎のキレのあるヴォーカルから"現代にアップデートされた80年代のディスコ・ミュージック"が感じられるだろう。
OTOTOYにて初登場と共に、メンバー全員へインタヴューを敢行。時代の空気を敏感に感じ取りながら、自身のレーベルでより羽を伸ばして活動する彼らに迫った。
セカイイチ / Round Table
【Track List】
01. HARD-CORE-GEEK
02. Grave of Music
03. MOTOR
04. ダイナシ
05. Lookong Around
06. Walk Alone
07. New days
08. Holiday
09. 2つの眼差し
10. Round Table
【配信形態】
16bit/44.1kHz(WAV / ALAC / FLAC) / AAC / MP3
【価格】
単曲 251円(税込) / アルバム 2,000円(税込)
INTERVIEW : セカイイチ
近年のネット環境の進歩は、何かを表現したい人間にとって大きな手助けとなり、音楽はその表現を伝えるツールのひとつとして時代の空気を纏って世の中に存在している。セカイイチが結成されたのは、まだネットも普及していない2003年のこと。それから13年の月日を経た今、彼らの音楽に注ぐ情熱がまったく衰えていないどころか、ますます高まっていることは、イキイキと躍動する楽曲が並んだニュー・アルバム『Round Table』を聴けばわかるはず。そこには、ただ自己表現するツールとして彼らが音楽を選んでいるのではなく、音楽を知り、音楽に憧れて、楽器を手に取り演奏と歌を身に着けてきたからこそ手に入れた心と体を揺さぶる本物のビートがある。これまでの作品とは一線を画す、“踊れるFunk Rock”の引き出しを全開にしたアルバムについて、メンバー全員に話を訊いた。
インタヴュー&文 : 岡本貴之
写真 : 関口佳代
オールディーズをリアレンジしていくような作業に近かったかもしれない
──『Round Table』は前作『Anaheim Apart』と比べてガラッと印象の違うアルバムになっていますね。オリジナルのフル・アルバムとしては約4年ぶりになるわけですが、どんなことを考えて制作に臨んだのでしょうか。
岩崎慧(以下、岩崎) : 『Anaheim Apart』のときは、ジャンルという意味では曲にばらつきがあったんですけど、今作に於いては「コンセプチュアルにやってみたい」ということを『Anaheim Apart』リリース後くらいから話していて。じゃあ自分たちの得意なものってなんだろうっていう話をしたときに、やっぱりソウル、ファンク、ヒップホップが好きだし、やっぱり得意なんですよね。なのでそういうソウルっぽいアルバムを作ってみたいなと。『Anaheim Apart』は、あんまりギターロック・バンド然としていない感じのミニ・アルバムになっていたと思うんですけど、そこで見せた可能性をもうちょっと一点に集中させて、ファンクやソウルに寄せた感じです。
──ある種のしばりを設けたなかで作った感じですか?
岩崎 : う〜ん、でもけっこう「ファンクをやろう、ソウルをやろう」っていう感じでもなくて、そこもやや曖昧に始まり(笑)。ただ、根底に「好きだ」っていうのがあるので、好きなものを鳴らしたいなっていう方が大きかったかもしれないですね。
──その”好きなもの”というのは、3人でセッションしながらお互いの色を出すことでできていくのでしょうか。
吉澤響(以下、吉澤) : 曲によっては、岩崎が1コーラスくらい作り込んできてくれてそれを広げるパターンと、もうちょっとセッションよりというか、スタジオに入って作る2パターンありました。その1コーラス作ってきてもらった曲を聴いて、「ああ、こういうジャンルの音楽に寄せていけばいいのか」というのを肌で感じて、そういうジャンルの曲を聴くことでマナーやルールを自分なりに考えて汲み取ってプレイする、という作業でしたね、僕は。
中内正之(以下、中内) : 「次はソウルっぽいのを作りたい」って慧が言っていて、おもしろそうやなって。やっぱりおのずと、昔の音楽が大好きでそれを今の音で鳴らしている人たちの音楽をより聴くようにして、慧が出してきた曲にギターとしてフレーズを出せる環境というか、“仕入れ”をちゃんとしましたね。
岩崎 : 仕入れ! 俺、インプットのことを仕入れって言う人初めて聞いたよ(笑)。
一同 : ははははは!
吉澤 : これは僕の個人的な考えですけど、それぞれが「じゃあ僕も好きなものを出します」ってやっていくと、狙いがぼやけていくような気がして。
岩崎 : うん、そうなんですよね。
吉澤 : みんなで狙いに向かってベクトルを寄せる作業をした方が、濃いものができて聴いている方にも広く伝わるんじゃないかと思うんですよね。
岩崎 : 「余白」ができて良いんだよね。聴く人たちの想像力にお任せできるというか、あんまり埋め過ぎないようにしていますね。説明しすぎないというか。
──それは文字通り、音数を少なくすることでもあると思うのですが、例えばリード曲の「Grave of Music」は音数を少なくすることで洒落た感じを出していますよね。
岩崎 : 今作の曲はだいたい音数は減らす方向で作りました。それが自分の中でもトレンドになっていて。バラードとかミドルテンポの曲とかも、こんなふうにアレンジしたらけっこう“今っぽく聴こえる”というか。オールディーズをリアレンジしていくような作業に近かったかもしれないですね、今回は。
──今っぽいというのは、近年流行っているシティポップやダンス・ロック、クラブ・ミュージックっぽいサウンドへのアプローチも意識したということですか。
岩崎 : まあそれのみならずですけど、今年のグラミー賞を獲った方々を見ても、トラックメーカーが作ったトラックにポップなメロが乗っているものが多かったですよね。そういうのはトラック・メイキングという意味で、今のスタンダードだと思うんですよね。それがすごく良いなと思っていて。尚且つ、そこに昔のオールディーズっぽい音楽が実は乗っている、曲の骨組みになっているけど、アレンジですごく現代版にアップデートされているのを聴いて「あ、これがいま普通なんだ!?」っていう驚きがあって。それなら僕らも好きだし、自由にもっともっと好きなものを追いかけても良いんだっていう思いで作りましたね。
ちっぽけなテーブルから僕らのすべてが発信されている
──『Round Table』というタイトルはどうやって決まったんでしょうか。
岩崎 : 下北沢でレコーディングが終わって僕と響ちゃんとで雨の中を歩いているときに「『Round Table』にしようと思う」と言って決まりました(笑)。
──なるほど(笑)。円卓に音楽を乗せてどこを回してもファンキーな曲が出てくるアルバム、というような意味かと。
岩崎 : ああ、それ良いですね(笑)。僕らが10年くらい前から使っているスタジオがあって、そこで練習したり企画を考えたり全部の会議がそこで行われているんですけど、そこのテーブルが丸テーブルなんですよ。それで『Round Table』にしようかなと思ったんです。そのちっぽけなテーブルから僕らのすべてが発信されているということで。
──それは自主レーベルを立ち上げて活動しているセカイイチのイメージとも重なりますね。〈Anaheim Records〉を立ち上げてもうすぐ2年近くになりますけど、自由度もあれば大変なこともあると思うのですが、実際いかがですか?
吉澤 : 名刺を渡す機会が多くなりました(笑)。音楽を作るという意味では自由度は高まっている気がします。何ごとも早いですからね。レコーディングの日程を決めてエンジニアはあの方にしましょうとか、スタジオはどこを使うかとか、僕が聞いておけば済むので。そういう意味では早いし、フットワークが軽くなって自由度は高まっていますね。ただ、こうやってインタヴューで訊いてもらうとか、人に知ってもらう機会を作るのも自分たちなので、そういう意味ではメジャーのときに比べると人手が格段に減っているので。もちろんそこにもメリットはあるし、どこの側面を切り取るかで見え方も変わってくるとは思うんですけど、本質的な音楽活動という意味では今の方が良いのかなって思いますね。
岩崎 : ストレスがないですね。音楽を作るにあたって、さっき、うっちーが言った仕入れ、インプットしてアウトしていくという流れは、メジャーの頃からずっと今まで変わらないので、それはすごくありがたいですね。
──そういう環境から生まれた『Round Table』は、単純にめちゃくちゃカッコイイアルバムだなって思うんですけど、みなさんの手応えはいかがですか?
中内 : いやあ、それはもうすごくありますね。
吉澤 : そうですね、手応えありますね。
岩崎 : めちゃくちゃありますよ、手応え。
──「Grave of Music」のMVもカッコイイですし。あれは本当に床に寝ながら撮っているんですよね。中内さんの表情がたまに苦しそうに見えますけど。
中内 : あれはちょっとレスポールが重いだけです(笑)。
──重なる映像は中内さんが作ったそうですね。
中内 : はい、そうです。素材を集めて。「こんなのが良いんじゃないか」ってみんなで意見を出し合って、それで僕が色々見つけてきて作りました。
──『ソウル・トレイン』のような映像が出てきますよね。
岩崎 : はい、まさに(笑)。1番最初に挙がったのが『ソウル・トレイン』で、客が適当に踊っているやつとか、あんなんを取り入れたら良いよねって言いながら。
自分たちが〈Anaheim Records〉を立ち上げて、どういう気分で曲を作っているのかというのを詞にした
──『ソウル・トレイン』のイメージと重なる「Grave of Music」と「Walk alone」がこのアルバムを象徴している曲だと思うんですが、「Walk alone」は太い音のファンクで、かたや「Grave of Music」は音数が少ないライトな感じを出していて。そういうアレンジの仕方は曲が揃って行くなかでけっこう変えていったんですか?
岩崎 : 「Grave of Music」と「Walk alone」は去年にできた音源なので、軸になるだろうなと思っていて。プラス8曲をどういうふうに作っていこうか、という場面で、「Grave of Music」がポップな曲に仕上がったので、これともう1発同じくらいライトな曲を作って、勝負したいなということで「New days」を作ったんです。それが「Grave of Music」とタメを張るくらいのポップさを持っているかなと。それと、個人的に強烈に好きなのが「Round Table」ですね。
──「Round Table」は英詞ですが、どんなことをテーマに作られた曲ですか。
岩崎 : 自分たちが〈Anaheim Records〉を立ち上げて、どういう気分で曲を作っているのかというのを詞にした曲ですね。日本語詞にすると、泥臭くなり過ぎちゃうので、最初から英詞にしようとは思っていたんですけど。
──この曲に限らず、ダンサンブルな曲を作る上であえて言葉が明確に伝わり過ぎないようにしているのかなという印象です。
岩崎 : まさにそうですね。けっこう16ビートのノリが多いので、どうしても日本語だとカクカクし過ぎちゃうところがありまして。それを日本語の正しい発音じゃなく、桑田佳祐さんみたいに英語っぽいニュアンスで歌うのももちろんありなんですけど、だったら英語で良いんじゃないかなって。サビの部分だけ英語とか、英語がハマりやすいところはそれで良い気がして。日本語が母国語ですけど、英語も洋楽も大好きなので。というか洋楽しかほとんど聴いてこなかったので。愛着というか、フィット感もありますよね。
──サポート・べースの岡部晴彦さんがレコーディングにも参加しているとのことですが、こういう音楽ってリズム隊のやり方1つで変わるんじゃないですか?
吉澤 : おっしゃる通りで、リズム隊って「1+1=1」みたいなところがあって、どっちかが音数が多すぎたりシンプル過ぎたりすると、上手いことリズム隊にはならないなと思うんです。そういう意味でも彼とは相性が良いんでしょうね。彼は音数の多いタイプで、僕はビートだけ刻んでいるから後は好きにしてください、みたいなドラマーなので。だから要所要所はお互い合わせて、あとは音を聴きながら上手いバランスになるように無意識ながら考えたような気がしますね。
──聴いていて思ったのが、セカイイチにはキメのカッコ良さがあるなって。プレイヤーの演奏力と岩崎さんの声が折り重なったときにビシっと決まる瞬間がカッコイイんじゃないかなって思うんですよ。
岩崎 : それは嬉しいですね。最近はパソコンとかでなんでもできちゃうじゃないですか?それを人力でどれだけずらせるかっていうのを考えたりした曲もありますね。今回で言うと、「MOTOR」「ダイナシ」「Round Table」とかかな。
──「MOTOR」はヒップホップ調の曲ですけど、こういう曲がロックバンドから出てくるのって今や自然なことなんだなって。
岩崎 : うん、わかります。それが今の時代を表している気がしますよね。
── 一方で「New days」ではマイケル・ジャクソンを思わせる“ROCK WITH YOU”というフレーズが出てきたり、アースウィンド&ファイアっぽさとか、あえてオールドスクールなイメージを盛り込んでいますね。
岩崎 : こういうネタは、まだまだ枯れることがないくらいありますね(笑)。歌もののバンドではあるので、曲によっては展開はもちろん必要なんですけど、今はバンバン展開して行くよりも、ループ感を楽しんでいる演奏の方が僕は気持ち良いかな。同じコード進行だけど、メロが変わっていくのは昔から好きなので。わりとそういう曲は過去曲にもあるんですけど、それを今はトラックっぽく作れるようになってきたなと思います。
──2003年にセカイイチが結成されてから今年で13年目ということで、バンドの変遷ももちろんですが、音楽を取り巻く環境の変化がありますけど、そんななかでみなさんのモチベーションというか、情熱がまったく衰えていないであろうことがこのアルバムからは色濃く伝わってきます。
吉澤 : ありがとうございます(笑)。
中内 : うん、それは本当そうですね。
岩崎 : それを感じてもらえたら嬉しいです。モチベーションという意味ではむしろ増えたなと思っていますから。メジャーにいて売れたらそれはそれでハッピーですよ。でも、自主レーベルで自分たちの好きなことばっかりやってて、お客さんも増えてきたりとかすると、もう普通にめっちゃ嬉しいですし、喜びはちょっと違うかもしれないですね。だから今回は特により色濃く自分たちの好きなものを取り入れてやれたから、結果が出たら嬉しいですね。
──ライヴでより楽しめるアルバムだと思いますが、ツアーに向けてはいかがですか。
岩崎 : ライヴは本当にすごく楽しみですね。絶対踊れると思うし。
──今後はどんな活動を考えていますか?
岩崎 : ちょっと今浮かんでいるフラッシュアイデアですけど、また年内に作品を作りたいなと。ただそれはCDや配信にしていくかはわからないですけど、動画で新曲を発表して行くのも楽しいかなって。せっかく自主レーベルなので、わくわくさせるものをやっていきたいなと思っています。
LIVE INFORMATION
インストアライヴ
2016年4月20日(水)@タワーレコード名古屋パルコ店
START 18:30
2016年4月23日(土)@タワーレコード新宿店
START 21:00
2016年4月29日(金・祝)@タワーレコード梅田NU茶屋町店
START 17:00
『Round Table』Release Tour
2016年5月27日(金)@宮城FLYING SON
2016年5月28日(土)@福島Out Line
2016年5月29日(日)@岩手the five morioka(※対バンあり)
2016年6月2日(木)@長崎Ohana Cafe
2016年6月3日(金)@福岡THE Voodoo Lounge
2016年6月5日(日)@池下CLUB UPSET
2016年6月12日(日)@新代田FEVER
2016年6月17日(金)@大阪Shangri-La
PROFILE
セカイイチ
吉澤響(Dr) / 岩崎慧(Vo, Gt) / 中内正之(Gt, Cho)
2001年、Vo.岩崎慧がDr.吉澤響を誘い、「アコギ・ヴォーカルとドラム」という縦一列編成でライヴをスタート。2002年にGt.中内正之、2003年にBa.泉健太郎が加入し「セカイイチ」を結成。同年12月にミニ・アルバム『今日あの橋の向こうまで』をリリース。2005年4月にシングル『石コロブ』で、トイズ・ファクトリーよりメジャー・デビューを果たす。デビュー以降、現在に至るまでフル・アルバム7枚、ミニ・アルバム2枚、シングル7枚をリリースしている。
結成10周年というメモリアルイヤーとも言える2013年に、Ba.泉が突然の脱退。それでも活動を止めることなく、サポート・ベースを迎え全国でライブを展開し、同年11月には、キャリア初となる赤坂BLITZでのワンマンライヴを成功させた。2014年7月、自主レーベル〈Anaheim Records〉の立ち上げを発表。10月15日に満を持して2年7ヶ月振りのオリジナル作品『Anaheim Apart』をリリースする。
2015年4月でメジャー・デビュー10周年を迎え、5月にはメジャー・デビュー10周年を記念したリクエストワンマンライヴを東名阪で開催させる。2016年3月、Anaheim Recordsより8枚目のフル・アルバム『Round Table』リリース。
岩崎の根底に流れるソウルフルな歌と、その歌と呼吸を共にするバンドのうねるようなグルーヴ。デビュー以来、ジャンルの枠にとらわれず、グッド・ミュージックを鳴らし続ける歌ものロック・バンドである。