オキタユウキが生み出す孤高のグルーヴ ── étéのフロントマンが放つ会心のソロ作『Blindness』
日本語ギター・ロックを軸にポスト・ロック、激情ハードコア等、様々なサウンド・アプローチを見せるオルタナティブ・ロック・バンドétéのフロントマン、オキタユウキがソロ作を完成させた。étéで聴くことができるバンド・サウンドとは打って変わったダンス・ミュージック的なアプローチのトラック、そして中性的であり、どこか陰りのあるオキタユウキのボーカル。今回は、そんな会心の1stEP『Blindness』を製作するに至った経緯から、いまの時代への思いまで、あますことなく語ってもらった。ぜひ、このインタヴューを読んで、オキタユウキのつくりだす深いサウンドスケープの虜になってほしい。
INTERVIEW : オキタユウキ
春先から思いもよらない生活を余儀なくされた2020年。他者と会うことがままならないなか、誰もが自分自身と向きあい、見つめ直す機会になったはず。そして、アーティストたちは作品にこの時代を色濃く残さざるを得ない。オルタナティブ・ロック・バンドétéを率いるオキタユウキがソロとして世に放つ1stEP『Blindness』もまた、そんな時代を反映した作品だと思う。しかしそれは、オキタにとって常々感じていた世の中への思いを吐露する場にもなったようだ。
インタヴュー&文 : 岡本貴之
写真 : Maho Korogi
外出自粛やライヴ規制が音楽を止める理由にはならない
──今年はバンドのétéとしても1月に3rdミニ・アルバム『episode』をリリースしていますが、ソロで作品を出すに至った流れを教えてもらえますか。
étéが作品をリリースして、リリース・ツアーを3月から6月ぐらいまでまわる予定だったんですけど、3本ぐらいまわって残りは全公演中止になってしまったんです。それこそ東京都は緊急事態宣言が出て外出自粛になっていたので、ツアーもなくなってずっと家にいて、メンバーとも会うこともなくなって。普段から、変わらずに家では曲を作るぐらいしかすることがないので、それをずっと続けているんですけど、そうするとバンドの曲以外もどんどんできてくるんです。なので、最初からソロでやろうというよりは、単純に作りためて行った曲が増えていった感じです。そんなタイミングで、今回1曲目 “One more night”と3曲目“Newspeak”のトラックを作ってくれたHyperVideo2というトラック・メーカーの友だちと夜中に電話で音楽の話をしているときに、「最近トラックをいっぱい作ってるみたいだから、一緒に音楽作ろうよ」っていう話になって。それで“One more night”のトラックが2日後に上がってきて。
──2日後ってめちゃくちゃ早いですね(笑)。
そうなんです(笑)。それがめちゃくちゃ良かったので、僕もその2日後ぐらいに歌を乗せて返して。そのときは「良い曲できたね」って完結して、本当に遊びで始まった感じなんですけど、身内のノリでMVを作って世に出そうよっていう話になったんです。そのMVの件でうちのレーベルの社長との打ち合わせに行ったら、「じゃあEPにしよう。何曲ある?」って話になって。僕らはMVの打ち合わせのつもりで行ったんですけど(笑)。そこから5日ぐらいで全部作ったんです。
──じゃあ、リリースを前提で始めたわけではなかったという。
本当に、ピュアなバイブスというか、遊びの延長みたいな感じで作りました。
──HyperVideo2さんはバンドもやっているアーティストですよね。どんな繋がりがあったんですか。
たまに下北沢とかでバンド同士対バンしていて、もともと面識はあったんです。それ以外にも、HyperVideo2とは以前から知り合いで、音楽の趣味も合ってずっと仲が良かったんです。ただ、こうやって一緒に仕事をしてみると、新しくて、全然違う感じがしました。HyperVideo2もまわりの人たちも自粛下でずっと音楽を止めずに家で制作し続けていたので、環境が整っていたというか、とても一緒にやりやすい感じでした。
──HyperVideo2さんとの制作はすべてオンライン上でのやり取りだったのでしょうか。
いや、デモのやり取りがあって、3、4曲目はHyperVideo2の家で歌を録りました。ミックスも立ち会ってアレンジを詰めていきましたね。
──自粛期間中には、お互いにどんな話をしましたか。
僕らも向こうもライヴができなくなったんですけど、でも外出自粛だとかライヴ規制とかっていうことが音楽を止める理由にはならないというか。もちろん、僕らはずっと音楽を作ってきたわけだし、それはずっと家でも続けられると思うので。ライヴ・ハウスとか、色んなアーティストが厳しい状況に陥っていることは肌で感じてましたし、「音楽を止めるな」みたいなムードがありましたけど、そもそもそういうものじゃないというか。止まるようなものでもないっていうことをお互いに思っていて、そんな話をしていました。それで一緒に音楽を作ろうってなったときに、“One more night”のトラックを送ってくれたんですけど、そのときはちょっとローファイな感じのダンス・チューンを作ろうかっていうことをフワッと話していました。
──étéの曲も今回初めて聴かせてもらったんですけど、3ピース・バンドらしからぬアプローチが面白いなと思いました。それは3ピース・バンドという縛りがあった上でそうなってると思うんですけど。
そうですね、ある程度の制約があるからこそ、面白いなと思っています。
──でも、ソロになると言ってしまえば何をやってもいいわけじゃないですか?その辺はご自分で枠組みみたいなものを設けたんですか。
今回でいえば、2曲目の“Dive”は、5月の誕生日にずっと作っていたんですけど、家でギターを弾いてそれにトラックを乗せて行った曲で。リリースが決まってから作ったのが3、4曲目なんですけど、そのときも何かを特別意識したということはなくて。もともと、アウトプットの方向性の1つだったもの、バンドでやらなくてもいいようなものを持ってきたというか。その中で表現したいものというか。何かこれといって、「1人でやるならこれ」ということはなかったです。
──もともと、作っている曲の中で、「これはバンドでは出さないな」というものがあったわけですか。
そうですね。
──そういう曲が今作に繋がった?
溜めていたものを引っ張ってきたというのとはまた違うんですけど、「バンドで無理に表現しなくてよいもの」が詰まってますね。
孤独というのは必ず必要なもの
──バンドにしても今作にしても、歌詞になっている言葉がすごく印象的です。そこも特に区別していないんですか。
リリックは面白いぐらい変わらなかったですね(笑)。ただ、もう少し聞きやすい言葉というか。ある程度フワッとした言葉はソロで出すにあたって入れてもいいかなとは思いました。シンセサイザーの柔らかい音色とか、こもった4つ打ちだとか。そういう音に乗せるってなったときに、バンドで使っている強い言葉とは違う言葉が乗ったとは思います。
──バンドのときはサウンドに伴ってエモーショナルな言葉を選んでいる感じでしょうか。
音楽は身体と地続きであるべきだと思っていて。暴力的な音楽だったら言葉もそれに応じて尖っていくなっていうのはあるんです。向き合えば向き合うほど言葉って鋭く、芯を食うものになってくると思うんですけど、そこの“地続きの身体性”みたいなものっていうのは、やっぱりバンドとは全然違う表現になってくるので。だから一聴したときに、「変わらないな」って思うところもあれば、「あ、ソロだな」って思うところも感じてもらえるんじゃないかと思います。
──敢えて、「これは特にソロだからこそやれた」という曲を挙げてもらうと?
僕は作詞作曲編曲をバンドでずっとやっているので、人のトラックで歌うのが今回初めてだったんです。それで考えると、1曲目と3曲目がHyperVideo2のトラックで、トラック先行でこの歌を乗せたので。特に“One more night”は、フロウ重視というか、4つ打ちのノリを崩さない程度に、細かい刻みのリズムが入っていたので、そこに引っかかるようなフックを書いて。これはバンドじゃ出てこないなって思いました。
──“One more night”は歌詞を見ないと歌い出しでなんて言っているかわからないですよね。
そうですよね(笑)。このリリックを書いたときのことはあんまり覚えてないんですけど、聴き心地とライミングは意識しました。初めて人のトラックで歌った分、やってこなかったリズムの取り方みたいなものは引き出された気がします。
──それにしてもこの曲、短い(笑)。
短いです(笑)。トラックが来てフック、バース、フックで乗せたときに、「もうこれでいいんじゃないか」っていう話になって。最近、海外でも2分尺の曲って全然あるので、その感じで映像にしたらMVも作りやすいし、これで行こうということになりました。
──この自粛期間には、どんな音楽に影響を受けました?
死ぬほど色んな音楽を聴いてましたね。このEPのアレンジやアイディア的なものの中心としては、アイルランドのアーティスト、EDENが今年の頭に出したアルバムがあって。それは結構影響を受けました。声だけでミックスのときのアレンジの面白みというか、もともとの核のシンプルさ、ミニマルな感じとか。それでも見える広がりというか。アレンジで言うと、ジェイムス・ブレイクとかに繋がる雰囲気もあるんですけど。
──もともとバンド・サウンドとは別にダブステップとかそういう方向性が好きなんですか。
そうですね。エレクトロニカとか、暗いダンス・ミュージックみたいなものが好きで、ヒップホップも好きですし。今回はこういう時代に音源を作る、歌詞を書くとなったときに、「1人きりである」ということがある種のテーマになっていて。1人きりというのは必ずしも窮屈だったり、小さいものというのは全然違うと思っていて。僕1人という単位の中の奥深さ、深さみたいなものを表現できればと思っていました。リファレンスは結構そういうところから引っ張られてきました。ああいう孤独というか。
──それは、こういうご時世からそう思ったのか、それとも、1人のアーティストとしての自分を出したときにそうなったのでしょうか。
先ほどの話にあったように、バンドとソロは地続きというか、言ってることはあんまり変わらないんですけど、こういう状況で人と会えなくなったときに、思ったよりもみんな、繋がりを凄く重要視している人が多いなと思って。もちろん、そうではあるし、僕も人と話したいし。でも孤独って寂しいものではあるとは思うんですけど、悪いものではないと思っていて。自分が何を考えていて何を感じているかを知るためにも、孤独というのは必ず必要なものだと思うんです。それが今作の1つのテーマになっています。
──確かに孤独って必要なものだと思います。そういう時間にインプットされるものもあるんじゃないかと思うんですけど、音楽以外にはそういうものはありますか。
映画とか本だったり色々ありますけど、今回は2曲目の“Dive”を作ったときに、アニメの「攻殻機動隊」をずっと見てました(笑)。この期間にハマって、「こんなに面白いものだったのか」って見てましたね。もともとアニメは好きなんですけど、「攻殻機動隊」は気になっていたけど敢えて触れてこなかったものなので、初めて見たんですけど。結構リリックも引っ張ってきたものもちょいちょいあります。
──“Dive”はドラム、ギターが目立ちますし、EPの中だと一番肉体的な印象を受けます。
家でギターを弾いていたときにのリフが出てきて、「これはいいかもしれない」って、4小節か8小節のループを作ったときに、そのときはトラックだけ作ってクリックに合わせてレイドバックした感じで弾いていたんです。そのギターを録ったところにドラムを乗せて。結構インプロみたいな感じで作りました。こう叩いたら面白いだろうなって。
──ドラムに合わせてギターを弾いたんじゃなくて、その逆?
そうです。ギターのレイド・バック感に合わせて、ドラムを打ち込んでいきました。なので、1人ですけどセッション感はあるんじゃないかと思います。今回は、意識的に歪むギターを入れないようにしようというのはありました。ギターもほとんどピックを使わずに指弾きしてますし。
自分を持つことが大事
──ヴォーカルについては、どう表現したいと思っていますか。
僕はもともと、歌を歌おうと思って音楽を始めたわけじゃないので、結構普通のヴォーカリストとギャップはあるかもしれないですけど、めちゃめちゃ意識しているわけじゃなくて、言葉がちゃんと聴こえればいいなというぐらいに思っていて。今回、ラップが結構入っていて。最近はMumbleとか何言ってるかわからないラップが流行ってますけど、逆にどれだけ早口でもゆっくりでも、何を言ってるのかがわかるように、ということは意識しました。
──“Newspeak”はどうやってできた曲でしょう。
これはリリースが決まったときに、1、2曲目はほぼ出来上がっていてHyperVideo2と「じゃあ、あと1曲ずつ持ち寄ってEPにしよう」と話をして、またその2、3日後にHyperVideo2が送ってきた曲です。どんな曲か彼に訊いたんですけど、この曲に関しては、「いつもヴォーカリストのことを考えてトラックを作るんだけど、今回は1対1で、とにかく自分の100%を作って送った」って言っていて。だから歌がどんな風に乗るかはわからなかったみたいなことを言われて。僕も聴いたときにこれはヤバいと思ったんです。2回ぐらい聴いたときに、歌、ラップ、ラップで、というなんとなくのイメージはできて、そこからリリックを乗せた感じです。
──アンビエントな雰囲気のトラックに言葉を乗せるのって難しくなかったですか。
ラップを乗せるのって結構楽なんですけど、Aメロに当たる場所をどう乗ろうかなということは悩みましたね。大きいノリというか、前半は特にハイハットの刻みとかわかりやすいものがないので、逆に言葉でグルーヴを出して行こうかなと思ってやりました。あとその頃、「アンチ・トラップ」みたいな話もしていたんですよ。トラップに食傷気味というか、何を聴いても結局一緒というか。だから、ハイハットの刻みがないところで、トラップのノリ、フロウを使ったりというのは遊びでやってましたね。
──遊びという言葉と裏腹に、歌詞はシビアですよね。
ああ、そうですね(笑)。
──特に、「望み通り生きてみても 誰かの真似みたいで何もないな それでも 手放せずにいるノスタルジー どれもこれも手垢だらけ」という歌詞には心情が表れていて興味深いです。
最初にトラックが来たときに、セミの声みたいなサンプリングが入っていて、「ノスタルジックを意識した」って言っていて。ノスタルジーって1つのテーマになっているんです。いまって、知らないことや身に覚えがないのに懐かしがることがあるなって。夏だったらあぜ道、サイダー、入道雲、給水塔とか。別にそんな記憶が全員にあるわけじゃないじゃないですか?でもそれを郷愁だと思ったりとか、そういうのって作られたものだと思うんです。誰かが思ったことがどんどん拡散されていくと、自分もそう思ったように感じてしまったりとか、映画を観た後にすぐにレビューを見たりだとか。そうなってくると、自分が何を考えているかわからなくなるなっていることを、常々感じていて。そういう悪い意味での共通言語へのアンチテーゼの曲になりました。何が大事かっていうと、「自分を持つこと」だと思うんです。自分を持つことって何かっていうと、最終的な意思決定の土台になる指針というか。自分の意識、思考を持つことだと思っていて。それを持たない人と自分の対比みたいなことは結構バンドのときから書いてますね。
──このタイトルはジョージ・オーウェルの小説『1984』から来てる?
そうです。どんどん語彙が少なくなっているというか、それってみんなの感情の表し方1つ1つが、誰かが発信したものに集約してしまうというか。それは自分で選んでるんじゃなくて、選択肢がどんどん狭くなって行って選ばされているというのは、まさに『1984』に出てくる「新言語」(Newspeak)と一緒だなって。
──ラストの表題曲“blindness”はより世相を反映した内容ですね。これだけ曲が長いですけど、意識的にそうしたんですか。
これは9割がた僕が作ったトラックなんですけど、意識したというよりは最初から長かったというか(笑)。他の曲があまりにも短いのでいいかなって。もともともう少し壮大だったものをスケール感を小さくして、尚且つ奥行きを出しました。アレンジは一番シンプルに考えたところはあります。先にできた3曲を受けて、アレンジがそうなったところはあるかもしれないです。
──このEPは、情報を遮断して没頭できる世界観を持っていると思うんです。これを作ったオキタさんご自身はどう聴いてほしいと思っているんでしょう。
今年に入って、色んなことが根底から変わってしまって、みんなの価値観が揺らいでしまって。新しいルールとか情報とかにみんな右往左往していて。そのなかで、先ほどの話にも出たんですけど、自分を持つことが大事だと思っていて。ダンス・チューンが入っていたり、激しいビートの曲があったりしますけど、1番は1人という最小単位の奥深さを意識して聴いてもらいたいです。
──ご自分にとって、どんな作品になりましたか。
思ったよりも、時代に染められてるなっていうのはありましたね。リリック1つとってもそうですし。“One more night”を作ったのが4月ぐらいで、EPを作る話になって、“Dive”が5月にできて、残り2曲も7月末にはもうできていて。なのでいまになるともうちょっとフィールが違うかもしれないですけど、年内にリリースできてよかったです。今回、こうやって人と共作して開かれた目線みたいなものもありますし、自分ができる可能性がより広がったなという自覚があります。バンドも並行してやってますけど、ソロとしてもう少し踏み込んだというか、深くもあればもっと外側に向けた音楽も作れるのかなってちょっと思いました。まず、この作品がどう届くかを知りたいですね。
編集 : 百瀬涼
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新→古
LIVE SCHEDULE(été)
MoonRomanticLIVE été × anewhite
2020年12月28日(月)@青山〈月見ル君想フ〉
OPEN 19:00
START 19:30
ADV¥3,000 DOOR¥3500
配信チケット¥1500
チケット
■会場チケット:https://eplus.jp/sf/detail/3350550001-P0030001
■配信チケット:https://www.moonromantic-channel.com/1228
PROFILE
オキタユウキ
“トーキョー・ニュー・スクール”を掲げるオルタナティブ・ロック・バンド、étéのギター・ボーカル。
ソロではエレクトロニカ、ネオ・ソウル、ポスト・ロック、ヒップホップ等を自在に行き交うジャンル・レスな楽曲に、自身もメロディからラップ、スポークン・ワードまでをこなすシンガー。
■レーベル・アーティスト・ページ:https://codomomental.com/artists/okitayuki/
■公式Twitter:https://twitter.com/mrn_soda
été
ヤマダナオト / オキタユウキ / 小室響
東京都在住の3ピース・オルタナティブ・ロック・バンド。日本語ギター・ロックを軸にポストロック、激情ハードコア等のアプローチを見せるサウンドに、Vo.オキタの甘くも鋭い歌声。自身を取り囲む様々をどこか冷静に見据えた叙情的な詩が聴く人の心を掴む。
「伝えたいのは、日々のこと」
■レーベル・アーティスト・ページ:https://codomomental.com/artists/ete/
■公式Twitter:https://twitter.com/ete_band