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ビットコインETF、国内実現は? 組成へ動きだす金融業界、政府は慎重姿勢【けいざい百景】

2024年08月28日12時00分

 暗号資産(仮想通貨)ビットコインの上場投資信託(ETF)が1月に米国で承認され、人気を集めている。国内でも金融業界などで組成に向けた動きが出ている。一方、価格変動の大きさや悪用への懸念もあり、政府は慎重姿勢を見せる。国内実現に向けた課題を探った。(時事通信経済部 岩嶋紀明)

米国で「大成功」

 米証券取引委員会は1月、資産運用大手の米ブラックロックの関連会社など11事業者のビットコイン現物ETFを承認した。米国のほかカナダやドイツ、香港などでも上場されている。ビットコインの価格は高騰。1月の承認前は1BTC=600万円台前半で推移していたが、3月上旬に初めて1000万円台を突破し、5月には1100万円台を付けた。

 楽天ウォレット(東京)の松田康生さんは、米国でのビットコインETFは大成功だったと評価する。「これまで暗号資産に投資できなかった年金基金などの機関投資家や企業もETFを介して保有するようになった」と指摘。日本で承認されれば、機関投資家などが参入でき、暗号資産から距離を置いていた中高年層も加わり、投資家の裾野が広がる効果を見込む。

 ETFにする利点は、暗号資産への投資が容易になることだ。証券会社の口座から株式や他のETFと同じように購入できるようになる。現状では暗号資産交換業者の口座を新設するなどの手続きが必要。資産を自己管理する場合はセキュリティー対策なども求められる。

 ETF化すれば税制上のメリットもあり得る。現物の暗号資産を売買して利益が生じた場合、現状では雑所得として総合課税の対象となり、最大55%の税率が課せられる。ETFなら株式などと同様、申告分離課税の対象となり20%の税率で済む見込み。

国内実現目指す動き

 国内でも暗号資産ETFの組成を目指す動きが具体化してきている。交換業大手のビットフライヤーホールディングス(東京)は6月、2022年に経営破綻した同業の米FTXトレーディングの日本法人の買収で合意したと発表した。同法人の既存口座はビットフライヤーへ移管した上で、社名を変更し、法人向けの暗号資産預託事業や、暗号資産ETF関連のサービスを展開していくと表明した。

 SBIホールディングスも7月、米国でビットコインETFを提供しているフランクリン・テンプルトンと共同で運用会社を設立すると発表。朝倉智也副社長は、新会社はデジタル時代の新たな金融商品の開発・提供を目的としており、暗号資産ETFはあくまでも「候補の一つ」にすぎないとしつつ、将来性や成長性を高く評価。「アセットアロケーション(資産の運用先)の一つとして有効。当局も無視できなくなってくるはずだ」と強調した。

 自民党のデジタル社会推進本部は4月に公開した提言書で、暗号資産を投資対象とするETFを許容しないことが果たして適切な政策であるのかが問題となると明記。関連業界に対して、論点を整理するとともに国民的理解を醸成する取り組みを検討した上で、法改正を働き掛けるよう促した。

政府は慎重

 日本ではETFを含めた投資信託の対象となる「特定資産」について、投資信託法の施行令で定めている。有価証券や債権、不動産など伝統的に価値が認められている資産が含まれ、暗号資産は対象外。金融庁は金融機関などへの監督指針で、暗号資産について「テロ資金供与やマネーロンダリングに利用されるリスク」「裏付けとなる資産がない」「価格の変動が大きい」などと指摘している。大規模な不正流出や犯罪組織による悪用などから慎重な姿勢を崩していない。

 鈴木俊一金融相は27日の記者会見で、投資信託は国民の長期的・安定的な資産形成の手段として特別の制度的位置付けを与えられたものと説明。その上で、「暗号資産がこうした趣旨に沿った資産であるか否かについて慎重に検討する必要がある」と述べた。

 各業界で思惑の違いもあるようだ。暗号資産ETFが認められれば、税率は申告分離課税で20%となる見込み。現物取引が中心の暗号資産交換業者は最大55%の税率が適用され、大幅に不利になる。金融庁幹部は「証券業界は『やりたい』と言っているが、交換業者からは『業界が壊滅する』との悲鳴が聞こえてくる」と明かす。

 暗号資産業界は、暗号資産で得た利益も申告分離課税の対象とすることを要望してきた。業界団体の日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)などは7月、政府に税制改正要望書を提出。最大税率55%のままETFが承認されれば「税制上の不均衡」が生じ、業界が「淘汰(とうた)される事態に陥りかねない」と危惧し申告分離課税の対象とするよう求めた。

 JCBAの保木健次アドバイザーは、暗号資産ETFが認められた場合、対象はビットコインなど主要銘柄に限られるだろうと推測。交換業者側は新興の暗号資産など幅広く扱えるほか、ETFを組成する証券会社などの調達先となることもでき、「税率の不均衡が是正されればすみ分けできる」と話す。

 楽天ウォレットの松田さんは「国内での組成が遅れれば、暗号資産などへの投資がやりやすい海外へ投資資金が流出する恐れがある」と指摘する。暗号資産ETFは高い変動率などリスクもある半面、新しい技術に投資できる機会でもある。暗号資産を国内経済の中でどう位置付けるか、国民的な議論を期待したい。

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