JRPGとは、コンピュータゲームのサブジャンルの一つである。
概要
RPG(ロールプレイングゲーム)はコンピュータゲームにおいては最も広く認知されているジャンルの一つだが、中でも日本のRPG全般に共通する特色を一定以上備えている作品に対してJRPGの名称が用いられるようになった。特に西洋圏で製作されているそれ(WRPG: Western RPG)と対蹠的な作品群を指す言葉として海外のゲーム関係者の間では広く使われて来ている※。中韓産のRPGにも似た傾向が所々見られるためそれらを含めて言い表す際に使われるものとしてERPG(Eastern RPG)という言葉もあるがこちらは一般ユーザーの間ではあまり利用されていない。
※大手ゲーム配信サイトSteamでは"JRPG"タグが付けられた作品は2022年現在で1000本を超える。
JRPGの特徴
JRPGの特徴として挙げられている項目は凡そ以下のようなものがある(無論これら全ての性質を兼ね備えていなければならない訳ではない)。
名称の由来、ニュアンスの変遷
JRPGという呼称が広く使われるようになったのは2000年代中葉の北米市場のゲーム関係者の間であるとされている。当初からそのスタイルに対してネガティブな印象を抱く関係者が好んで使っていた用語であるとも言われ、2009年末には海外の大手RPGデベロッパーBioWare※の創設者Greg Zeschuk氏がインタビューで"JRPGは進化・進歩の欠如により苦境に差し掛かっている"という見解を述べている。こうした発言を皮切りにJRPGというジャンルの是非を巡る論争が国内外のユーザー間でより活発に行われるようになり、その余波は国内の業界スタッフにも及んでいった。
正式に製品のジャンル名称として"JRPG"の名称が用いられている作品は未だ存在していないが、レーベルとして用いられるなどこの定着しつつあるジャンル名称を積極的に活用しようとする動きもある。
※カナダに本社を置くメーカーで『マスエフェクト』や『ドラゴンエイジ』などの大作RPGシリーズで知られる他、人気映画シリーズである『スターウォーズ』を題材にしたRPGも手掛けている。2007年EAにより買収された。
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定義
JRPGの定義を巡っては様々な議論が重ねられてきているが、ゲームシステムの純粋な違いによるジャンル区分とは異なるため厳密な定義を与えるのは困難であるとの意見が大勢を占めている。だが概要で列挙したような特徴はJRPGに共通する事項としては多くの人々の頷く所であると考えられ、また次のようにその特徴を表す記述もある。
JRPGの主な特徴としては、コマンド選択式の戦闘システム※、一本道のストーリー展開、自由度の低さ、冗長なカットシーン(ムービーシーン)、等が挙げられる。[1]
※西洋では慣習的にRPGとARPG(Action RPG)の区別を付けていないため、Y'sやゼルダの伝説も広義のJRPGとして語られる事があるという。
またキャラクターや世界観に見られる傾向などを含め、JRPGを文化人類学的な見地から総合的に分析した評者(ゲームサイト「Game*Spark」の記者「Kako」)からは以下のような定義が為されている。
JRPGとは「西洋によって後進性、不変性、奇矯性、官能性といった性質を付与され類型化された“異質な”日本のRPG」のことである[2]
西洋のゲーム関係者の間から寄せられている声も概ね上のような内容で占められている。
ま たシステム面での「保守性」もJRPGを特徴付ける大きな要素である。特に国民的RPGと名高い『ドラゴンクエスト』シリーズはナンバリングタイトルでは 近年までターンベース制を墨守しているなど、ハード制約の軛を遁れた世代においても頑陋とも言える古典的システムへの拘りを続けるその姿勢は国内外のゲー ム関係者を困惑させている。
この古典的システムへの拘泥故にクラシックRPGという呼称がJRPGとほぼ同義で用いられる事もある程で、 JRPGといえばシステム面で進歩のない、ウィザードリィやローグなどジャンル草創期に開発されたタイトルのシステムをほぼそのままの形で引継いでいる作品、という印象も持たれている。
◆JRPGと同じくERPGに分類されるKRPG(韓国製RPG)との差異については海外のフォーラムで次のように論じられている。
※MMORPG用語で、同様のタスク(特に敵モンスターの掃討)を繰返し行う事を指す。日本のゲーム界隈でいう「作業」に相当する。
†アイテムの収集や売買などがプレイの中心になる、戦闘の形勢がアイテムに大きく依存するといった類のシステムを云う。
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国産RPGの歴史
→コンピュータRPG#歴史の項目も参照
JRPGを形作っていった文化的背景については後述するが、本項ではまず国産RPGがどのような発展を辿ったのかを歴史的に概説する。
20世紀(コンシューマ第三世代〜第五世代ハード期)
日本初の商用コンピュータRPGソフトとして知られるのが1982年に光栄マイコンシステム(現コーエーテクモゲームス)から発売された『ドラゴン&プリンセス』である※。同作ではパーティー制やタクティカル戦闘など今日のJRPGで盛んに用いられているコンセプトが既に実装されており、ジャンルの草分け的存在となった事はほぼ確実である。同社はその後も『剣と魔法』といったハイファンタジーベースの作品を次々と世に送り出した。
コーエーと並び国産RPGの老舗である日本ファルコムも1983年に同社初のRPGである『ぱのらま島』をリリースしており、翌1984年には今日までその系統が脈々と続く『ドラゴンスレイヤー』シリーズの第一作を発売している。
※同社の『ダンジョン』が国産初のRPGであるとの説もある。また83年末-84年初頭にBPS社から発売開始された『ザ・ブラックオニキス』は国産黎明期の本格的RPGとして名が通っており、同作品を事実上国内初のファンタジーRPGと看做す意見も出ている。
時を同じくして任天堂から1983年にFC(ファミリーコンピュータ)が発売され、家庭用ゲームソフトの需要を大きく拡げていった。始めはアクションやシューティングゲームといったアーケード筐体で定番のジャンルが市場を牽引していたが、1986年に『ドラゴンクエスト』が発売され大ヒット※、一年置きに続編を発売しいずれも前作以上の人気を獲得した。87年には『ファイナルファンタジー』の第一作も発売されており同社のゲーム機市場はRPGで活況を呈する事になる。
この傾向は後継機のSFCにも引継がれ、両シリーズの続編を初めとする多くの国産RPG作品が世に出ることとなった。
※FC初のRPGタイトルはナムコ(現バンダイナムコゲームス)から1985年に発売された『ドルアーガの塔』だが、同作はアーケードを前身とするステージ制アクションRPG(海外では「メイズ」(Maze; 迷宮探索型ADV)と呼ばれるジャンルにも分類される)であり、ドラクエのようにワールドマップを縦横に渡り歩きながら冒険を進めていくタイプの作品ではない。
国産RPGに大きな転機が訪れるのが家庭用ゲームハード「PCエンジン」の周辺機器、1988年発売の「CD-ROM2」の登場である。これはCD-ROMを媒体として利用するものであり、旧来のカセットROMから大容量光学メディアの記憶領域をふんだんに活用した表現が可能となった。1989年発売のCD-ROM2向けRPG第1号『天外魔境ZIRIA』ではアニメーションシーンや生音源の音楽やキャラクターボイスなどが収録され、ゲームファンを驚かせた。さらにPS(PlayStation)やSS(SegaSaturn)などコンシューマ機における第五世代ハードの開発でゲーム媒体としてのCD-ROMがさらに普及した事によって※、メジャータイトルの多くでキャラクターボイスやムービークリップを収録する気運の高まりを見せた。
※第五世代の主要ハードであるPSとSSは共にCD-ROMを採用していた(N64はSFCに引続きカセットROMを採用)が、ビデオコーデックの関係上ムービーの画質はPSに分が有り、またポリゴン描画性能もPSが優れていたためスクウェア製品を始めとする3Dタイトルの多くがPS向けに開発された。なおPCゲーム市場では90年代初頭からCD-ROMを媒体とした作品が数多くリリースされており、『エメラルドドラゴン』などのRPGでは声優を起用したCVや原画をフルカラーで取込んだビジュアルシーンが追加されていた。
挿入ムービーの活用を積極的に行ったのがスクウェア(現スクウェア・エニックス)で、1997年に発売された『ファイナルファンタジーVII』および続編のVIII、IXはキャラクターボイスの収録こそ行っていない※がプリレンダCGによる映像表現は当時のソフトの中でも一際目立っていた。
またバンダイナムコ(シリーズ発足当時はナムコ)から発売されてきた、JRPGの代表格との声もある『テイルズオブ』シリーズは第一作からSFCというハードの強い制約にも拘らず有名声優を起用し若干のボイスを収録、また主題歌の挿入まで行っているが、PSにハードを移行した第二作以降ではイベント会話シーンなどに多くのボイスを収録し、翌年発売された第一作のリメイク移植も同様の追加収録をしている。
※FFがCVをゲーム内で収録するようになったのは第六世代ハードであるPS2でリリースされた『X』から。なお『ドラゴンクエスト』シリーズは『VIII』のリメイクのあたりからCVが採用されている。
このようにハードの性能やメディア容量の大幅な向上によりゲーム内にボイスやムービーを多数収録する事が可能となり、それらをメジャータイトルが積極的に活用していった事で、そうした環境をゲーム内に構築する事が(必ずしも売上には結びつかないが)スタンダードなものになっていき、産業構造の転換を齎したという点が後の国産ゲーム作品の傾向に大きな影響を与えている。中でもRPGはその性質上ゲーム内におけるテキスト量や用意されたイベント数が他のジャンルから抜きん出ており、必然的にそうした視聴覚データの占める比重が高くなるため予算面でも大きく左右されるのは避けられなくなっていった。
21世紀(コンシューマ第六世代ハード期以降)
2000年代に入るや次々と第六世代ハードが発売されていくが、少なくとも国内の据置市場に関してはPS2(PlayStation2)の独壇場と言って差し支えない状況で、第七世代ハードへの買替えがやや遅れた事も相俟って発売年である2000年から凡そ10年に亘ってその覇権が続いた。このPS2全盛時代に発売された数々のRPG作品こそが「JRPG」の名声を高め、かつゲーム批評空間では負の側面として語られがちな多くの特徴を際立たせていった。
PS2はそのハード特性上開発に手間を要したため、多くの中小デベロッパーがグラフィックを中心とした技術面で躓き、プロジェクトの予算圧迫を招いた。更に前世代から続く映像・音声周りのコンテンツ充実化にも拍車が掛かり、肝心のシステム面やバグフィックス、プレイアビリティの改善といったゲーム性に直結する部分が等閑になっているという批判を内外から蒙る事となった※。
また携帯機市場の拡大が国産ゲーム開発の行方に大きく影響した。SCEの開発したPSP(PlayStation Portable)は当時の携帯機としては破格の性能を有しており、据置機と較べても遜色ないグラフィックスを実現していた。容量面でも1ギガバイトを超える光学メディアを採用した事で旧来の携帯機では不可能だったボイスやプリレンダムービーの多載が容易化した。加えて本機種はPS2に較べて開発費を低く抑えられ†、それでいて据置市場と同等以上のユーザーを獲得できるプラットフォームとして働いたため、国内RPGメーカーの多くが携帯機市場に軸足を移す誘因となった。
※同様の批判はストーリーにも向けられており、作品によっては単調・マンネリ・不可解といった辛辣な評価がユーザーから相次いだ。この点に関してスクウェアのスタッフは当時を振返り、3Dグラフィックスの導入を境に開発チームが大規模化したことや、モーションキャプチャやキャラクターボイスが導入されるに連れ開発途中でのシナリオ修正が非常に困難となっていった事を述懐している。
†PS2はゲーム機としては当時かなりの高性能ハードで開発環境を整えるに当たって高価な機材を要し、またPS1の資産をそのまま活用することが出来なかったためライブラリなどを各社が一から製作し直す必要に迫られ、開発コスト増大に繋がった。一方PSPはPS2と環境が似ていたためにPS2で築いたノウハウの流用が比較的容易で、PS2の頃に比べると機材価格も大分落着いていた。PS2からの移植タイトルの発売が盛んに行われた事もその平均開発費を押下げた要因である。
第七世代ハードでは西洋のデベロッパーが開発したFPS作品などが海外市場で隆盛の時を迎えていったのに対し、国産RPGはそのグラフィック・システム面における代わり映えのなさや技術面でも目立った進歩が見られない事に対して国内外のユーザーから批判が相次ぎ、第六世代ではまだ肯定的ニュアンスが優勢だったJRPGという用語に対して否定的な響きが多く込められるようになった。
グラフィック出力のHD(ハイデフィニション; 一般に1280×720以上の解像度を指す)化に伴う更なる開発費の高騰も携帯機市場へのシフトを加速する要因となった。また据置市場規模の縮小により新規IPの立上げに乏しくなった事も度々指摘されており、「新作の殆どが続編」といった状況はジャンルを問わず普遍的に見受けられている。
第八世代ハードでは国産RPGのリリース本数自体がそれほど多くないが、やはり新規IPの立上げが覚束無いという状況は前世代以上に深刻化している。これは一定の売上が見込める既存フランチャイズに開発リソースを絞る事で、予てより批判の的となって来たソフトの品質低下に歯止めを掛けようとする動きが国内RPGデベロッパーの間で盛んになった事の表れでもあると言える。
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JRPGの文化的背景
上記の文化人類学的定義とも関連して、JRPGが持つ文化的背景について解説する。
まず日本製RPGは草創期以来電源系・非電源系を問わず西洋産RPGの極めて強い影響下にあり、『ドラゴンクエスト』など初期のRPGは特に『ウィザードリィ』や『ウルティマ』と言った西洋産のコンピュータRPGに世界観・シナリオ・システムなどあらゆる面で依拠している※。それら西洋産コンピュータRPGの世界観構築に大きく寄与してきたのがD&Dを始めとするTRPG(tabletop RPG; テーブルトークRPG)であり、そのTRPGはS&Sといった西洋ファンタジーの伝統をバックボーンに持っている。そしてこれら西洋ファンタジー全般が持つ特徴に(一神教から見て)「異教的」な要素が数多く盛り込まれているという点がある。同時に騎士道物語といったケルト文化を母体としながらもキリスト教的倫理観・宗教観の下で発展していった要素も多くあり、その内実はキリスト教と異教的要素の絶妙なバランスから成立っている。また西洋産RPGの多くには悪魔主義的要素が所々で盛り込まれており†、テーマもそこから少なからぬヒントを得たもので溢れている。
JRPG作品で折々見受けられる、主人公側と敵対する事になる人物や組織が当たる存在がキリスト教会関係者、とりわけカトリシズムをモチーフにしている可能性が濃厚な人物であったり‡、ユダヤ神秘思想(カバラー・生命の樹など)やグノーシス主義(「[デミウルゴス的な]神への叛逆」といったテーマ)、悪魔学・悪魔主義などから多くの題材を取って来ている事なども、こうした西洋におけるカウンターカルチャーが多分に含んでいるペイガニズム的要素への共感や模倣がその背景にあると見られる。
※ゲーム評論家の多摩豊氏は両作でシナリオライターを担当したロー・アダムス三世がTRPGにおける「第三世代型RPG」の傾向を作り、堀井雄二氏らによるDQ型RPGデザインに決定的な影響を与えた人物であると論じている。因みに三世の別名「ホークウインド」を持つ人物がウィザードリィシリーズにも登場する。
†『ウルティマ』の初期トリロジーは悪魔崇拝であるとの抗議が現地の市民団体等から寄せられ、製作者であるリチャード・ギャリオット・ド・ケイユ氏も悪魔崇拝者であるなどといった攻撃を受けていた。そうした非難を躱すため以後の作品ではヒロイックな要素を前面に押し出すようになったという経緯がある。
‡顕著な例としては『゜ブレス オブ ファイアII』、『FFXIII』や『ゼノギアス』、『ソールトリガー』に登場する敵側組織やボスキャラクターなどがある。
国産の漫画・アニメ文化からの影響も外せない要素の一つである。ゲーム産業が成長し経済・文化的にもその占めるインパクトが巨大化した現在では相互に影響しあう状態になって久しいが、コンピュータゲーム文化がまだ根付いていなかった頃は漫画・アニメ文化から多くを借りる事でその普及を図ってきた。
『ドラゴンクエスト』はシリーズ発足当初から人気漫画家である鳥山明氏をイラストデザイナーに起用しており、同シリーズの爆発的ヒットを支える大きな原動力となった。『テイルズオブ』シリーズも同じくシリーズ第一作から人気漫画家をイラストデザイナーに起用しているなど、人気漫画家の起用は定番となっている。また専属のイラストレーターを社員として抱え、登場人物・モンスターを始めとするデザインの原画等を担当させているシリーズは枚挙に暇がない。
また人気漫画・アニメ作品とのタイアップによるゲーム化は以前からの定番であり、『ドラえもん』など多くのタイトルがRPGとして世に出ている※。奇矯性や官能性といった言葉に表現される特質は日本の漫画・アニメ文化に対して西洋社会から投げ掛けられる評価として長く語られてきている部分であり、JRPGは数あるゲームジャンルの中でも特に両者からの影響を強く受け続けてきた分野であるため、同様のコンテキストで語られる場合が多いというのがその背景にある。
※他業種のフランチャイズを利用して製作したソフトは版権物またはキャラゲー(キャラクタゲーム)と呼ばれ、海外でもディズニーやハリウッド映画、アメリカン・コミックスを題材にしたタイトルが人気を博している。傾向としてその多くがアクションや対戦格闘ゲームといったジャンルの作品であるが、RPGとして開発された商品も幾多に上りまたその性質上JRPG的特徴を色濃く持っているものが多数を占める。しかしこうした版権物RPGはその大半が海外ではローカライズされていないため、いわゆるJRPGとして語られる事は稀である。
先述のペイガニズム的要素に関しては「自粛」という観点から説明を試みる事も可能である。例えば、「反教会的ととられそうな要素は、キリスト教が重視される西欧諸国で開発される ゲームでは意識的・無意識的に抑制される。だが、キリスト教がさほど社会に強く根付いていない日本で開発される作品では、そのように受け取られそうな要素 を自粛しようという注意は働かない」という背景があると仮定する。そうすると「反教会的なものはないか」と積極的に探したとき、日本のJRPGでのみそれら「解釈によっては反教会的ととれるもの」が多く見いだせるという結果が生まれると思われる。
なお、神への叛逆が扱われることが少なくないという点は、JRPGに限らず和製ゲーム全般、さらには漫画・アニメなど和製サブカルチャー全般に言える事でもある。この事実も、上記のように「自粛が働かない」という背景が及ぼした結果だとすれば説明できる。
様々な時代や地域の、明らかに異質な文化や文明水準が混淆している特有の世界観については、こうした設定が用いられる事がJRPGに於いてのみならず、国産ゲーム全般において一際高くなっている事は否定できない。
近現代を舞台に魔法などファンタジー的要素を設定に盛り込んだ作品は海外にも数多く存在し、それらは通例ロー・ファンタジーと呼び慣わされている。またロー・ファンタジー作品の類型の一つにエブリデイ・マジックと呼ばれる物があり、これは日常に不思議が混じる形態を指している。JRPGにもこうした類型に属するものと見られる様式を採用した世界観の作品は珍しくないが、それにも増して特徴的なのが「中世又は古代社会をベースにしていると思われるハイ・ファンタジー的な世界観に、突如として現代や未来社会でなければ存在し得ないような事物が登場する」といった状況がまま見受けられる事である。これらについてはタイムスリップなどの舞台装置を導入することで説明付けられている事もあり、また単純に現代社会に生きる制作スタッフの「遊び心」によるものである事もあるが、こうした和製ゲームの世界観の一貫性や統一性、テイストの維持を必ずしも優先しない部分は「本格的な」ファンタジー作品に慣れ親しんでいる欧米人には時として奇異の目で眺めることにならざるを得ない原因となっている。
単なる混在ではなく、唐突にしてまた作品のテイストに好ましくない影響を与えかねない要素であってもそこに配置されているという事実が、この現象の背景にある文化的意識の差を考えずにいられなくしている。
システム面
JRPGを象徴するシステムとして語られるターンベース制戦闘が日本に定着した文化的背景には、囲碁・将棋と言った盤上が長らく親しまれてきた伝統の影響も考えられる。これらの遊戯は国内で多くの競技人口を抱え、全国各地に教室や指導所が開かれており大会も盛んに行われている。両競技とも試合では長い考慮時間が設けられており、棋士はそれらを巧みに配分しながら自らの勝利に結びつく一手を探ってゆく。
同様の思考過程はターンベース制のRPGにおいても屡々見受けられ、ボス戦などの重要な局面で次に下すべきコマンドを考え倦ねては長考に及ぶといった経験は多くのプレイヤーが共有している。
このように幼少期から盤上に親しんできた人々がゲーム製作にあたってもそこで培った思考様式をシステムに反映し、需要側もそれに応える形でターンベース制戦闘を広く受け容れていった事が定着に繋がった大きな要因であるとも考えられる※。
ただし、日本国外においてもチェスを始めとするアブストラクトゲームは親しまれており†、さらにターンベースのTRPGやボードゲームは日本よりもどちらかと言えば欧米の方で盛んであるため、一概に将棋・囲碁の影響と言い切るには難もある。これは文化論的には日本が「静の文化」と言えるのに対して欧米のそれは「動の文化」であるといった論説で語られるような側面も関わっていると考えられ、特に進取の精神を重んじるとされるアメリカでは電源系ゲームに技術面での進歩がありありと見て取れるリアルタイム性を強く求める傾向があるのだとも推測される。対する日本ではRPGという輸入したゲーム文化を成熟させる事を志向し、ターンベースという基本原則を守りつつ戦略面での深みなどを追求していく事をリアルタイム性よりも重視した事が、電源系ゲームにおいてもターンベース制が重んじられた背景にあるのではないかと思われる。これは囲碁や将棋がチェスよりも戦術・戦略面で多様・複雑かつ奥深い競技である(囲碁は盤面が将棋や囲碁より格段に大きい。将棋は取った駒を自分が使用できる)事からも説明出来る。
※『森田将棋』シリーズで知られるプログラマの森田和郎氏は将棋五段、囲碁三段、オセロ二段を有している。彼は『獣神ローガス』(1987)や『ミネルバトンサーガ』(同左)、『ジャストブリード』(1992)といったRPG作品の開発も手掛けた。またドラクエの初期三作でプログラムを担当した中村光一氏も子供時代将棋に熱中していた時期があった事を明かしている。
†チェスの競技人口は七億と言われるがその大半はインドに集中しており、国民の七割がチェスを年に一度はプレイするという統計がある。対して英国やアメリカでは十数パーセント程度に留まっている。
キャラクター間における行動回数の平準化という点もターンベース制の大きな特徴である。アクションや格闘ゲームでは各キャラが固有の移動速度や攻撃速度を有しており、鈍重なキャラクターは俊敏なキャラクターに比べると同じ時間の間に移動出来る距離や繰り出せる攻撃回数が少なく設定されている事が多く、こうした形でバランスを調整している。
一方純然たるターンベース制では原則1ターンにつき一人のキャラクターが行動出来るのは一回までとなっており、素早さなどのパラメータは回避率・行動順といった要素に関わるのみである。『ドラゴンクエスト』は純ターンベース制を採用する作品の典型を長らく世に出してきたシリーズで、行動回数に関しては一人につき一ターン一回が基本となっており、二回行動は一部のキャラクターや特殊装備を有している場合などに限られている。
リニアで一本道なマップ・シナリオ構造については国内でも賛否が分かれており、また他ジャンルでもこうした構造の作品が作られているためJRPGのみが追うべき譴責ではないが、JRPGに概して広く見受けられ、またRPGという本来自由度を重んじるゲーム形式においてこのような構造がしばしば採用されているという事実がその批判の主たる理由となっている。
なぜ一本道が好まれるのかという問題は制作側の都合からすればプロットの計画が容易という点に尽きると思われるが※、日本のプレイヤーがそうした構造を嗜好しているとは必ずしも言い切れず、特にADVでは選択肢によってストーリー展開が大きく変わり、エンディングも複数用意されているのが標準的な仕様となっている。
ただ「選択肢によってストーリー展開が変わる」というシステムと「自由度」は同列に語る事が出来ないものでもあり、選択肢を増やす=自由度が増すという図式は一面では成立つが、選択肢を増やすことそのものは行動範囲の拡大を伴わずとも実現可能であるため、単純に周回プレイに対するインセンティブを向上する措置として用意されたものに過ぎない場合もある。
※ポケモンの生みの親として知られる田尻智氏はゲームの多くがマルチエンディングを採用する事に対して雑誌のコラムなどで苦言を呈していた。
難易度に関しては、一般にJRPGというジャンルそのものが総じて難しいか易しいかといったテーマで論じられる事は多くないものの、シューターのように瞬時の判断力と幾度にも及ぶリトライを繰り返す必要性が比較的薄いという点では、そうしたアクション性の強いゲームを苦手とするプレイヤーに対しても間口が開かれている為に「易しい」部類に属すると言って良い。一方でRPG全般が得意ではないプレイヤーも一定数存在し、そうした人々は先述のシューターやSTG、対戦格闘ゲームといったジャンルを好む傾向にある。
また海外のリアルタイムベースの作品は日本のそれと比べて総じて難易度が高い事が知られており、それらのタイトルでは一般に3-4段階の難易度が用意されているが国内では「ハード」に相当する難易度が向こうでは「ノーマル」に位置付けられているなど明らかな差を有している事が見て取れる※。
JRPGのコアプレイヤーの間で盛んなのが「やりこみ」と呼ばれる特殊プレイングで、代表的なやりこみの例としては通常のシナリオ攻略を終えたプレイヤーがエンディング後(または直前)のセーブデータを利用する事で複数周回などよりゲーム内容を把握するための行為をとることである(その他についてはやり込み要素の記事参照)。この「やり込み」は種類によっては極めてシビアな条件を満たす事が要求されるものも多くあり、通常プレイとは段違いの知識、技量が必要となる事も屡々である。
このように通常クリアまでの道筋に加えて、クリアに必須ではない脇道やクリア後特典としての追加要素などを設け後者の難易度を相対的に高める事で同一タイトル内に多段階の難易度を擬似的に用意し、よりプレイングスキルを要求するゲーム内容を好むコアユーザの需要にも応えているタイトルは数多くある。第7世代ハード以降は特に「トロフィー」など特定条件の達成に合わせて獲得できるデジタル褒章システム‡を用意しており、JRPGの大半のタイトルでもこの機能が実装されている。
※この点に関しては人種的な差異を指摘する意見もあり、西洋人は本能的に狩猟を好み、また反射神経に優れているのに対し東洋人は農耕民族でありそうした反射が割合苦手であるといった違いがゲームにも現れているとするものである。ただ中韓など他の東アジア諸国はe-sports強豪国であり日本だけに見られる特徴とも言える。
‡トロフィーはPlaystation独自の呼称で、XboxやSteamでは「実績(Achievement)」がこれに相当する。なお任天堂では相当する機能を本体では実装していない。
もう一つのJRPGの象徴的システムであるエンカウント制については、それを文化的な側面から論じる事はかなりの困難が予想される。
エンカウント制は一般に敵キャラクターとの遭遇による交戦突入時画面遷移(マップ→バトル)を伴うシステムで、大別してランダムエンカウント方式とシンボルエンカウント方式の2つがある※。アクションRPGでは明示的な画面遷移は行われないのが通例だが敵との遭遇によりBGMが変化し、また戦闘終了まで一定範囲外に移動が出来なくなるなど、トラベリング時とは異なるモードへの移行を伴うケースが目立つ。海外でエンカウント制はターンベースと並ぶ古典的システムとして認識されており、ハードの制約上已むを得ず採用していたものであった(本来はリアルタイムで表現しようにも描画性能が足りず断念していた)にも拘らず、JRPGではハード性能が向上した後もこれら古典的システムを採用し続けたため、クラシックRPGの別名という性質も帯びるようになった事は先述した。
JRPGがこうしたモードの切替を好む理由を日米の文化的差異などから論じるのは難しいが、ゲームデザインの都合上から来る理由、特にSFCを代表とする第四世代ハードのグラフィック表現を巡る問題が深く関係していたものと考えられる。2Dゲームにおいてマップ画面をそのまま戦闘画面に利用する場合、敵味方のキャラクターシンボルを配置する都合上マップの特定位置でのみ戦闘が行われたり、マップそのものを固定化する必要がある。またRPGの戦闘画面は通常敵味方が入り乱れるのではなく敵側グラフィックのみを正面に表示するか、敵味方を左右ないしは上下に対面させる形で配置するのがスタンダードな方式である。この為画面遷移を行わずマップ上でそのまま戦闘に突入した場合都度マップ画面内での再配置が行われる事になるなど明らかに不自然な状況が発生する。この為ストラテジー、タクティカル系などグリッドによる座標分割を行う作品を除き†、画面遷移はオーソドックスな2DRPGを設計する上では欠かせない要素であった。
時代が3Dに移行した後も同様の事情があり、特に攻撃エフェクトなどを充実させるためには風景などが簡略化された戦闘用の画面空間を別に用意する必要があるため‡、戦闘中の演出に拘りやセールスポイントを見出すデベロッパはこれらの拡充をシームレス性よりも優先した結果長らくエンカウント制が採用され続けてきたものと見られる。
※ランダムエンカウント制は更に歩数・距離など移動量に応じて行われるものとタイムカウント方式のものに分けられるが、大抵の作品では移動量をカウントしている。
†これらのジャンルでも戦闘画面が別枠で設けられている作品は多いが、オプションで表示を省略出来るシステムを備えているものもある。
‡戦闘用には敵味方の間に遮蔽物や障害物など余計なオブジェクトが存在せず、地形などの区画も整然とした「闘技場型」の空間がエンカウント時の環境に合わせて各種用意されている事が多い。例えば城内でのエンカウントには謁見の間や中庭のような大広間が用いられる。
オフライン性の高さについてもJRPGの特徴とされる。先に述べたKRPGとの差異に関連すると、韓国は国策でPCゲーム産業に注力したためかなり早期からMMORPGを始めとするゲームのオンライン化が進んでいたのに対し、日本では21世紀以降もオフラインゲームが主流であり続け、ネットワークゲームの台頭はモバイルの普及を待たねばならなかった。
第六世代ハードではドリームキャストがモデムを標準搭載し、またPS2もモデムやBBユニットをオプションで販売するなどオンライン化を志向する動きはあったものの、ドリームキャストは市場でのプレゼンスを無くしPS2は薄型化でBBユニットが装着不可となるなど、オンライン機能の利用は一部のユーザー間に留まる結果となった。この辺りは当時日本でネット回線の移行期に差し掛かっていた事とも関係しており、モデム回線を利用したインターネット接続は徐々に廃れていく一方でADSLを始めとするブロードバンド回線はまだ開通し切っておらず、こうした国内のネットワークインフラ事情も国産ゲームのオンライン化が中々進まなかった背景にあるものと考えられる。
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JRPGに該当する作品
具体的にどういった作品がJRPGに該当するのか、本項ではこれを論ずる。各タイトルの詳細や関係各社の社歴・沿革等についてはそれぞれの記事を参照の事。
◆先に述べた通りJRPGという呼称は日本起源ではないためこの言葉が国内で浸透し始めた2010年代以前JRPGを標榜するタイトルは無く、またそれを自ら称している作品は今日でもそれほど多くはないという点を踏まえておきたい。
JRPGを制作側が謳っている作品
JRPGというジャンルに該当する作品であることを制作側が公言しているタイトルには以下のようなものがある。
『ゼノブレイド』シリーズはモノリスソフトから発売されているRPGで、1998年にスクウェア(現スクウェア・エニックス)からリリースされたRPG『ゼノギアス』、およびナムコより発売された『ゼノサーガ』シリーズと世界観・ストーリーで直接の関連はないものの多くのコンセプトを共有している。しかし『ゼノギアス』および『ゼノサーガ』シリーズがシステム面は典型的なJRPGのそれであったのに対し『ゼノブレイド』シリーズはオープンワールド型の広大なマップやシームレスで切り替わるリアルタイム戦闘など旧来のJRPGとは一線を画している。
なお同シリーズがJRPGという位置付けに属する事は同社取締役の高橋哲哉氏が海外ゲームメディアGameReactorのインタビューで「(ゼノブレイドクロスの)次回作はゼノブレイドのような典型的なJRPGのスタイルに戻したい」といった発言を行っている事からも明らかで、同氏はまたJRPGという呼称についてGameSpotのインタビューのインタビューで次のような所見を述べている。
個人的には、「JRPG」という単語に否定的なニュアンスが込められているとは感じておらず、もはやジャンルのカテゴリーになっていると感じている。アクション映画やホラー映画と同じようにね。JRPGという単語を使う人は、題材への特定のアプローチやテーマの扱い方を指しているだけで、そこに否定的なニュアンスは何もないんだ。そういう使われ方をされていて、とても嬉しいよ。
同氏は一方で国内市場に置いてJRPGという用語が否定的ニュアンスを多分に含んで用いられていることを認めており、上記発言は海外市場を踏まえてのものである事を念頭に置く必要がある。またプロデューサーである任天堂の山上仁志氏はGameSpotのインタビューで次のように話している
優れたゲームというのは普遍的なものだし、我々がゲームをデザインする時は、自分たちで「J」を足したりはしないよ。そういう言い回しをすることもあるが、頭の中ではただRPGを作っているだけなんだ。
(RPGとJRPGという分類の仕方に違和感を感じたことはあるかという質問に対して)我々はただRPGを作っているだけと感じているので、「J」を付け足してもらう必要はないと個人的には考えている。
またディレクターの横田弦紀氏は製作国で分類されているジャンルはRPGのみである(=J-ACTやJ-ADVといった他ジャンルで名にJを冠したサブジャンルは存在しない)のは何故かという質問に対して「演出スタイルがアニメや漫画で目にするそれと似ているものを指していることが多い」という理由を挙げている。
『テイルズオブ』シリーズはJRPGのルーツを保持するフランチャイズを自認しており、『テイルズ オブ グレイセス エフ』のプロデューサは欧州版発売時に行われたEUROGAMERからのインタビューにて「JRPGはチームにとって最高のゲームジャンルで、私達はスカイリムのようなオープンワールドのゲームを作成するつもりはない」と語っている。
同シリーズも世界観・シナリオにおいては第一作以来の伝統でJRPG的色合いが強く残っているが、戦闘システムに関してははシリーズの大部分※が非ターンベース制(LMBSの項参照)であるなどこれまたJRPGのステロタイプからはやや逸脱している。
ボイスや挿入ムービーシーンへのアニメーションの多用も同シリーズの際立った特色である。同シリーズが当初から声優の起用を積極的に行っていた事は前項で述べた。アニメーション映像の収録はJRPGのみならず日本製ゲームに於いて珍しいことではないが、OP、EDなど一部のシーンに限られており収録時間もそう長くはない。同シリーズでも個々のカットシーンの再生時間は長くはないものの、累計では平均的なJRPG作品と比較しても抜きん出ている。また同シリーズではスキットと呼ばれる長時間に及ぶキャラクター間の会話シーンをフルボイスで収録している。
※同シリーズの名を関する作品はその製作規模においてフランチャイズの中核を担う「マザーシップタイトル」と外伝など関連作品としての位置付に当たる「エスコートタイトル」という区分が設けられているが、マザーシップタイトルでは純然たるターンベース制戦闘は未だ採用された事がない。
イメージエポックは2010年に行われた新作発表会の場で「JRPG宣言」なる表明を行っており、これはJRPGという用語が日本のRPGに顕著なレトロスタイルを貶す言葉として使用される傾向にあるのを逆手に取り、「面白いJRPG」を制作していくという趣旨が多分に込められている。事実同社がその後リリースしたRPG作品はいずれもJRPGに典型的な特徴を多く兼ね備えたものとなっている。
他にもスクウェア・エニックスが2015年に設立したスタジオTokyo RPG FactoryはJRPGの製作に特化したデベロッパーとして立ち上げられ、「古き良きRPG」としてのJRPGを作り上げていく事を目標に掲げている。
日本ファルコムや日本一ソフトウェア、アイディアファクトリーやガスト等の中堅デベロッパーは多くのJRPGをリリースしてきた実績※がある。これらの会社から発売されてきたタイトルは全般的にJRPGとして通用しており、今後もJRPG的色彩の強い作品を多く世に送り出していく方針であるものとみられる。
※ファルコムは公式twitterアカウントにて「JRPGを創り続けて不動の35年」といった宣伝文句で社員募集をかけている。またアイディアファクトリーの子会社であるコンパイルハートは「ガラパゴスRPG」というゲームブランドを立ち上げ、特定の客層をターゲットとした市場戦略を展開している。
上記以外の国産RPG作品について
自らJRPGをブランドにしてはいないが、(特に海外の)ユーザーから広くJRPGという認識を持たれていたり、ジャンルに該当するかで議論の対象となっている国産各社のRPGタイトルについては以下の通りである。
スクウェア・エニックス
『ドラゴンクエスト』シリーズについて制作側がJRPGという認識を持っているかは判然としない※が、シリーズの中心スタッフである堀井雄二氏は2010年のインタビューで「なぜ米国の評者がターンベース戦闘システムに対し否定的なのか不思議に思うことがある」といった旨の回答を行っており、またターンベース制にはリアルタイム性よりも戦略面での多様性に分があるという考えを抱いている事を述べている。
※『ドラゴンクエストIX』についてはプロデューサーである市村龍太郎氏が北米版の発売前インタビューで“我々は、ドラゴンクエストIXをいわゆるJRPGジャンルの一つだとは認識していません。あなたが日本産のRPGを全て“JRPG”と呼んでいるのでなければですが。"と回答し、また製作にあたってThe Elder Scrolls IV: OblivionやDiabloといった海外のメジャータイトルを参考にした事を強調している。
『ファイナルファンタジー』シリーズも同様にシリーズそのものがJRPGという位置付けであるという言明は為されていないが、近作のFNC(ファブラ ノヴァ クリスタリス)系列についてはディレクターを担当した鳥山求氏がGDC 2010にて行った講演で次のような趣旨の発言をしている。
鳥山氏は,最後に「JRPGと欧米RPGとの違い」や「ファイナルファンタジーの定義」についても言及。前者については,「ゲーム中でのキャラクターへの感情移入の捉え方」に差異があるのでは,と指摘。欧米が一人称視点的な手法をもってキャラクター=自分という捉え方をするが,JRPGでは,アニメや映画を見ているような,三人称的な捉え方が好まれるとの指摘だ。
(中略)「ファイナルファンタジーの定義」については,「私の意見がスクウェア・エニックス全体の意見というわけではないのですが……」と前置きしながらも※,変わっていく部分として,「最新のハードウェアで,技術面/バトルシステムを含めたゲームデザイン面の両方で究極を目指す」こと,逆に変わらない部分として「普遍的かつグローバルで,壮大なストーリー」を挙げ,さらなる進化を目指していきたいとして講演を締めくくった。[3]
※一方、FFXIIIのシニアディレクターを務めた北瀬氏はFFをジャンル横断的な作品と認識しており、シリーズがJRPGかそうでないかという二分でカテゴライズされるべきものではないという所見を述べている。
また同氏はFFXIIIのゲームデザインについて「ストーリー・ドリブン」(story driven; ストーリー駆動型)という言葉を用いて表現しており、内外のユーザーから批判の的になったゲーム序盤での「一本道なゲーム構造」や「自由度のなさ」の原因となった事を明らかにしている。
システム面では、同シリーズは90年発売の『III』までは純ターンベース制が採用されていた。しかし91年発売の『IV』が発祥となるATB(Active Time Battle)システムと呼ばれる独特の戦闘システムが登場、これは各キャラクターの素早さに応じて時間辺りの行動回数が変化するというもので、同社(取得時はスクウェア)が特許を取得済である(詳細はアクティブタイムバトルシステムの項参照)。ATBシステムはその後も改良を重ねられながらFFシリーズのみならず同社製の他シリーズにも派生していく。こうした独自の戦闘ルールをシリーズの早い段階で採用した点は、国民的RPGと並び称されるDQシリーズとは対照的である。
ATBシステムはコンセプトとしては単純かつ革新的で、同業他社にとっても恰好の模倣対象となり得るシステムである事は疑う余地のないものであるため、同社の特許取得が他社のRPG開発動向に大きな影響を与えた可能性は否めない。従来のターンベース制の継続に甘んじるか、もしくは先述のテイルズオブシリーズの様に、よりアクション性の高い先鋭的なシステムを追求するかといった岐路を齎したであろう事は想像に難くない。
任天堂
任天堂の『ポケットモンスター』シリーズがJRPGに該当するか否かについては国内外双方で意見が割れている。海外のネット上で行われたアンケート等では同シリーズをJRPGの一つと見做す意見が優勢だが、あくまで"Pokémon"という独立したジャンルを確立しているとの考えも根強い。国内では「育成ゲーム」※というジャンルが広く人気を誇っているため同シリーズが(システム的には大部分が共通であるにもかかわらず)RPGであるという意識を持たずにプレイしているユーザーも少なくない。これはポケモンシリーズが対戦機能が大きな比重を占めている作品である事が関与しており、前述のオフライン性の高さとも関連するが、一般にJRPG作品は対戦要素はあっても主とすることはまず無いため†その点が同シリーズを他のフランチャイズと別枠で捉える大きな要因になっている。
因みに同社はRPGジャンルでのリリースが他社と比べてもその比率が低いが、『MOTHER』シリーズのような海外でも強い支持を受けているタイトルを過去に出しており、同シリーズについては海外ユーザの間でJRPGであるという意見が大勢を占めている。また『ファイアーエムブレム』シリーズはSRPG(シミュレーションRPG)という位置付けだがストーリーテイストやユニットのキャラクター性が強くJRPG的特色を多く持ち合わせている。
※ポケモンシリーズは一般的な育成シミュレーションゲームに当たる要素をあまり多くは持合わせてはいないが、手持ちのユニットを厳選しレベリングを施すという点は所謂「育てゲー」に通ずる。またゲーム内でプレイヤーを含むポケモンを使役する人々は「ポケモントレーナー」と総称されている事からも同シリーズが育成要素を重視している事が窺える。
†ポケットモンスターはPvPを主眼においたバランス調整が施されており、対戦ツールとしての側面が強く、世界規模で大会が開催されている。
また同社の看板IPである『マリオ』も派生作品としてRPGタイトルが定期的に発売されている。シリーズ初のRPG作品である『スーパーマリオRPG』はスクウェアとの共同制作によるもので、RPG開発実績を多数蓄積していたスクウェア社のノウハウと、マリオシリーズのアクション要素が織り交ぜられる事で独特のシステムに仕上がっている。
なお先述の『ゼノブレイド』シリーズは任天堂から発売されているが開発はモノリスソフトで、同シリーズはかつてスクウェアから発売されたRPGソフト『ゼノギアス』に始まり、その後同社の開発スタッフがナムコグループでモノリスを旗揚げ、『ゼノサーガ』シリーズとしてトリロジーが世に出た。更にその後モノリス社が任天堂の傘下に入ったことで開発に至るという紆余曲折を経ている。このため任天堂が世に送り出してきたRPGタイトルの数々とはやや趣を異にしているという点に注意を払う必要がある。
その他
アトラスはFC時代中期から数多くのRPG開発を手掛けて来きた古株デベロッパーで、近年では『ペルソナ』シリーズなどのヒットもあって良質なJRPGメーカーとしての名声が海外で定着しており、また日本一ソフトウェア製品の一部ローカライズも行っている。同社の看板タイトルである『女神転生シリーズ』はシステム面では教条的と言えるほどJRPGの典型を成している。また同社の送り出すシリーズはティーンエージャーの主人公らが学園や街角で出会う様々な怪異との間で繰り広げられるストーリーが中心であり、学園モノやジュヴナイルと呼ばれる創作ジャンルの手法に則った筋書きが主体となっている※。
※国内では「學園伝奇ジュヴナイル」という一つの作品ジャンルが形成されており、今井秋芳氏原案の一連タイトルに加え、同社のペルソナシリーズや東京鬼祓師もこれに数えられる。
レベルファイブはPS2初期からゲーム事業に参入したメーカーで、SCEから発売された多くのRPG作品の開発元として活動する中、2004年にはビッグタイトルである『ドラゴンクエストVIII』の開発を受注し知名度を上げていった。
2000年台後半からは自社ブランドでリリースした『レイトン教授』シリーズを始めとする携帯機向けソフトが爆発的ヒットを飛ばし、事業規模を拡大していった。
同社のRPG作品はトゥーンレンダリングを用いたアニメライクなCGや独特の暖かみがあるシナリオが売りで、2011年に発売したPS3向けRPGソフト『二ノ国 白き聖灰の女王』※はIGNのPS3ベスト25選の内9位にランク入りを果たすなど海外で高い評価を受けた。特集では同作を"近年の数多くのJRPGと異なり、『二ノ国 白き聖灰の女王』はかつてJRPGを最強のジャンルたらしめたゲームプレー、物語、魅力の全てで期待に応えている"等と激賞しており、同シリーズにJRPGの名称を用いつつも並居る近作とは明らかに趣を異にしている点を殊更強調していた。
※同シリーズはスタジオジブリが製作協力し、サウンドも久石嬢が手掛けるなどジブリ映画ファンへの訴求を図った市場戦略をとっているが、国内のPS3市場では客層の違いもあってかDSで発売された前作に比べると大きく売上を落している。
アクション系タイトルでヒット作を多く生み出して来たカプコンだが、同社の本格的なフランチャイズでJRPGに入るのは『ブレス オブ ファイア』シリーズが唯一と言える状況である。同シリーズは2002年の『V』を最後にコンシューマでのリリースが途絶えており、2016年にモバイル/PC向けに続編となる『6』を配信開始している。
なお参考までに、第7世代ハード盛期に海外の大手ゲーム批評サイトIGNにて既往のJRPGに批判的な風潮で組まれた特集Top 10 Ways to Fix JRPGSでは次の作品がJRPGとして列挙されている。
『ブルードラゴン』『トラスティベル 〜ショパンの夢〜』『ラストレムナント』『マグナカルタ2※』『【eM】-eNCHANT arM-』『テイルズオブヴェスペリア』『スターオーシャン4』『クライシス コア ファイナルファンタジーVII』『スペクトラルフォース3』
西洋RPG型の国産RPG作品
概要で触れたWRPGについて、それに近いシステムや世界観の元開発された作品も、本数は多くないが国内のメーカーからリリースされている。ここではそれら国産でありながらJRPGと見做される事が少ない作品について紹介・解説する。
フロムソフトウェアは『キングスフィールド』シリーズや『ダークソウル』シリーズといったWRPGテイストの世界観を持ち、システム面でもそれに近づけた作品をリリースして来た。
『キングスフィールド』は第一作が94年にPS用ソフトとして発売され、当時のコンシューマ作品としては画期的な一人称視点による3D空間でのリアルタイムな冒険を行えるRPGであった※。一年おきに続編のII, IIIがリリースされトリロジーが完結、間をおいてPS2でIVが発売されている。
その後同シリーズはPSPで外伝が発売されるも振るわず、以後シリーズは凍結に入っているが、その精神的続編と呼ばれるのがSCEジャパンスタジオと共同で開発したPS3用RPGソフト『デモンズソウル』とその二年後にから発売された『ダークソウル』三部作である†。こちらはいずれもTPSで、『モンスターハンター』シリーズによって様式化されたハンティングアクションに多くのヒントを得つつ、同系統のゲームとは一線を画す重厚な中世ファンタジー的世界観を構築しその中に中毒性のあるゲーム性を導入したことで国内外のコアゲーマーから高い評価を得た。
※一方同年5月に海外でMS-DOS向けに発売されたTESシリーズの第一作The Elder Scrolls: ArenaはDooM、DooM2などと同様Binary Partitioningと呼ばれる2Dグラフィックエンジンで擬似3D空間を構築する技法を採用しており、真正の3Dエンジンを用いた開発は次作The Elder Scrolls: Daggerfallを待たねばならなかった。
†『デモンズソウル』は発売元がSCEであるのに対して、『ダークソウル』三部作はいずれも国内ではフロムソフトウェアから発売されており、海外版はバンダイナムコゲームズがローカライズを担当している。
カプコンは2012年から『ドラゴンズドグマ』というWRPGライクのアクションRPGシリーズを世界で展開している※。同社から発売されている狩猟型アクションゲーム『モンスターハンター』シリーズは、当時は†国内では空前の大ヒットとなっていたが海外では今一つ市場に食い込めておらず、『バイオハザード』シリーズのように世界規模で人気を獲得できる作品の開発が望まれていた。そうした中でHD機の台頭と共に興隆したオープンワールドスタイルを取り入れた作品を世に出す事が一つの答えであるという結論から始まったのが同シリーズであった。
※同シリーズはパッケージ版の他にF2Pソフトの『ドラゴンズドグマオンライン』を2015年夏からクロスプラットフォームで配信しており、配信開始から10日で200万DLを突破したと公表している。
†2012年当時『モンスターハンター』シリーズで最高の売上本数であった『モンスターハンターポータブル 3rd』は海外展開されていない。一方、2018年に発売された『モンスターハンター:ワールド』は全世界展開に成功しており、初週で販売本数500万本を達成、2021年10月には2000万本まで伸ばしている。
海外製のJRPGまたはJRPGライク作品
日本製である事をJRPGの必須条件とした場合、海外で制作されたいかなるRPGタイトルもJRPGというジャンルに含めることはできなくなるが、近年のRPG作品で、製作者が開発にあたってJRPGライクを志向した事を明かしている作品には以下のようなタイトルがある(ERPGに属する作品は除外)。
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他ジャンルとの関係
JRPGはその特性上他のゲームジャンルと関わりが深い事はこれまでに述べてきた作品からも明らかである。特にアクションとシミュレーションとの親和性が強く、ARPGやSRPGの名称を持つサブジャンルが確立している。
方やこれらのサブジャンルとJRPGは相互に排他的ではなく、ARPGまたはSRPGに属しながらもJRPGとして名が通るタイトルも数多く存在する(それぞれの項目参照)。
アクションRPG
国産ARPGに関しては『ゼルダの伝説』シリーズが海外で一際有名だが、同シリーズはシステム的にはかなりのアクション寄りである。というのも同シリーズではプレイアブルキャラクターにレベルの概念が無く※、冒険で入手した装備やアイテム(これらは段階的に強化される)によってステータスが向上していく仕組を採用しているからである。この為敵を地道に倒して経験値を稼ぐというRPGで広く行われるプロセスを持たず、宝箱の探索が主な強化手段となっている。
※『リンクの冒険』では獲得した経験値に応じて八段階までレベルが上昇するが恒久的なものではない。また『ゼルダ無双』ではキャラクターにレベル値とそれに応じたパラメータ変動が実装されているが、こちらはアクションゲームという位置付け。
1987年に第一作が発売された日本ファルコムの『イース』シリーズは国内では名の知れたアクションRPGのフランチャイズだが、同社の作品は長らくPCゲーム市場を中心に展開してきたため主にコンシューマ作品をプレイしてきたJRPGユーザの間ではあまり話題に上ることは無かった。近年は同社がコンシューマ市場に軸足を移し、シリーズ新作もコンシューマ機でリリースされているためJRPGとしての認知度が国内外で高まっている。
こちらもゼルダ同様システム面ではアクション性が強いが、それに加えてシナリオ・世界観などもかなりJRPG的であると言える。またコンシューマ第五〜第六世代ハードの隆盛で停滞期にあった日本のPCゲーム市場においては同社の『英雄伝説』シリーズと並び数少ない安定したヒットを飛ばしていたシリーズでもある。
『聖剣伝説』シリーズはARPGのシステムをベースにコマンド制RPG戦闘の要素を追加する事に成功した代表作である。同シリーズの『2』では、戦闘は基本的にリアルタイムベースで進行するが、ゲーム中にリングコマンドと呼ばれるコマンドメニューを開くことにより進行を一時停止し、アイテムや魔法の使用といった特殊行動で割込みを掛ける事が可能である。ただしこれらの特殊行動もリアルタイムベースの戦闘進行の中でのみ発動可能なため※、使用エフェクトや詠唱エフェクトにより時間を消費するという仕組みになっている。
続編の『3』ではアクション性を薄めよりコマンド戦闘RPGに接近した。前作同様、リングコマンドを活用することが戦闘を有利に導くカギとなっている。
※装備変更やAIのターゲット指定など戦闘画面停止中にコマンドメニュー内で完結させられる行動もあり、それらは即時戦闘に反映される。
シミュレーションRPG
SRPGは国産ゲームの最も得意とする分野の一つだが、海外では近年まで注目を浴びることは少なかった。それ故JRPG批判の槍玉に揚がる機会も殆どないが、ジャンルそのものは非電源系ゲームに遡り、またシステムの根幹部分は黎明期から全く変化していないため、所謂クラシカルRPGの一つとして認識されている。
純エンカウント制RPGとの違いはマップがグリッドベース(またはヘックス)か否かという点がまず挙げられる。移動は基本マス目に従って行われ、各ユニットはその移動力の許す範囲で四方に動くことが可能である。
戦闘は相手側を自らの射程距離に収めた時に任意または自動で開始される。この射程の概念が攻撃の可否に係る所もエンカウント制RPGとの大きな違いの一つで、オーソドックスなエンカウント制RPGのシステムでは戦闘中敵と味方の間に距離や射程という概念がなく、基本的に全ての攻撃を全ての対象に対して向ける事が可能である※。またユニット間の位置関係や高低差、マス目毎に設定された地形効果などが戦闘時のステータスに影響するなどエンカウント制RPGよりもやや複雑なパラメータ変動要素を備えている場合が多い。
SRPGは章(ステージ・話)立て構成の作品が多く、1章=1マップまたは2,3のマップからなる場合が大多数を占めている。ストーリーテリングもほぼ様式化されており、各ステージの開始前および終了後にナレーションや登場人物間の会話によって状況が説明され、またステージ中は目標地点への到達や特定の敵との交戦をトリガとして各イベントが発生、物語が進行する。章立てという特性上一度クリアしたステージに再び臨むといった行為が不可能な作品も多く†、シナリオ分岐も精々2,3が用意されるのみである。この一方通行かつリニアな展開は平均的なJRPGのそれをも上回ると言って良い。
またシステムの一部にSRPGと同様のマップ形式を採用している作品もある。特に戦闘マップのみグリッドベースを採用した作品は中堅JRPG作品では数多く存在し、これらはジャンル区分でもSRPGに入れられている事が多く(『ディスガイア』シリーズ、『アークザラッド』シリーズなど)、その一方でフィールドマップは大多数が自由に移動出来るシステムになっている。そういった点を踏まえると、システム面で純然たるSRPGと呼べるのはフィールドマップと戦闘マップの区分を設けておらず‡、グリッドベースマップ中で統一的にゲームを進行させる方式を採用している作品に限られていると考えられる(『ファイナルファンタジータクティクス』シリーズ、『スーパーロボット大戦』シリーズなど)。
※作品によっては前衛・後衛といった大まかな区分を設け、被ダメージ率や当てられる攻撃の種類に差を付けたり、パーティの列順に従って攻撃を受ける確率を変動させているシステムもある。またDQシリーズのように敵キャラクターが出現時「グループ」と呼ばれる同種モンスターからなる一群で区切られており、このグループ全体を対象とした攻撃が各種用意されている(味方パーティ全員も1つのグループとして処理されている)。なおRPGでは攻撃対象は基本相手側キャラクターに対してのみ行えるのが通例だが、FFシリーズのように攻撃対象に味方キャラクターを選択できる作品も少数ながら存在する。
†JRPGではプレイヤーが一度クリアしたダンジョンに再び潜るという行動は頻繁に行われる。取り残したトレジャーアイテムの回収や未消化イベントの達成、特定の敵との遭遇などがその主たる目的。
‡SRPGにおいてもユニット間の交戦突入時に戦闘デモ用の空間へと画面遷移を行う作品が数多くあるが、この画面遷移中は基本的にプレイヤーが操作を加える余地が無いため(Dept. Heaven Episodesシリーズなど一部例外あり)、オプションにより画面遷移自体を省略可能となっている作品が多数である。
ローグライク
RPGのサブジャンルにはローグライクRogue-likeと呼ばれるものがあり、これはCRPG黎明期に開発されたタイトル『ローグ』のシステムを踏襲する一連の作品を指し、国内外で多くのローグライク作品が開発されて来ている。日本では特にチュンソフト(現スパイク・チュンソフト)から発売されている『不思議のダンジョン』シリーズが一躍有名である。
ローグライクはSRPGとARPGをハイブリダイズしたようなシステムがその特徴で、グリッドベースのマップをターンベース方式で移動し、原則敵味方共に1ターン1行動する、というものである。戦闘中の画面遷移はなく、ダンジョンフロア全体が簡易表示されたマップと切替表示が可能なのみである※。
ローグライクゲームはその性質上ダンジョン探索がその主たるゲーム内容であり、シナリオ面はあまり労力が割かれていないケースが目立つ。『不思議ダンジョン』シリーズなどもキャラクター性においてJRPG的な要素を強く持ってはいるものの†、登場人物間の会話イベントやストーリーテリング要素は他のRPG作品よりも一段薄い。ユーザーも作品に対してグラフィックスの精彩さやシナリオの充実よりもUIの利便性向上・各ダンジョンの難易度調整などに重きを置く傾向にあり、JRPGとファン層が重複しているものの明確に異なるジャンルとして認識されている事が多い。
※元来のローグおよびローグライクではテキストユーザインタフェース(TUI)と呼ばれるASCII文字主体の情報表示形式が採用されており、国産のコンシューマ向けローグライクはこれらをドット絵などでグラフィカルに表現した形になっている。
†『不思議ダンジョン』シリーズの第一作である『トルネコの大冒険』は主要キャラクターを『ドラゴンクエストIV』から借用しており、またモンスターも同シリーズからの流用である。次いで発売されたチュンソフトオリジナルのキャラクター・世界観を採用した『風来のシレン』シリーズと平行して続編が発売されるが、『トルネコの大冒険』シリーズは第三作を最後に開発をストップしている。また『ポケットモンスター』シリーズをモチーフにした『ポケモン不思議のダンジョン』シリーズや、ファイナルファンタジーシリーズのマスコットキャラクターであるチョコボを主人公に登用し、世界観やモンスターなども同シリーズのそれを踏襲した『チョコボの不思議なダンジョン』シリーズなど人気シリーズのIPをベースに制作した作品が多く、それぞれ一定の好評を博している。
RPGツクール
日本国内ではゲームソフトの自主製作はRPGに限らず幅広く行われているが、アスキー(現カドカワ)から発売されてきた『ツクール』シリーズはプログラミング知識を伴わずとも本格的なゲーム自作が可能となる有力ツールとして長年ユーザに利用されてきている。中でもRPG作品の制作に特化した『RPGツクール』シリーズは本ソフト群の目玉商品であり※、ゲーム自主制作においてもRPG作品の人気は一際高い事が伺える。
同シリーズが想定しているのは典型的なJRPG作品で、『ドラゴンクエスト』シリーズ初期のシステムをほぼそのまま踏襲しテンプレート化したようなものがデフォルトになっている。
※ツクールシリーズは他にもアクションやADV、STGなどの制作に特化したソフトが発売されているが、コンスタントに新作が発売されているのはRPGツクールのみである。なお同シリーズはPC向けが主流だが家庭用タイトルも多く発売されている。
ソーシャルゲームとJRPG
近年台頭著しいソーシャルゲームにおいても、当初からJRPG的特色を強く備えたタイトルが多く作られて来ている。ソーシャルゲームとして配信されているタイトルのジャンルは多岐に亘り、ほぼコンシューマのメインジャンルを踏襲する形になっている。中でもRPGと同様のシステムを採用した作品が特に人気が高く、他にはコンシューマでも一定の支持を誇るTCGをベースにした対戦カードゲームが定番となっている。
ソーシャルゲームにおけるJRPGのプレゼンスについては次のような分析がある。
RPGやJRPGという物はこれまでの据え置き機での戦いから脱却し、いま現在はその戦いの場をiTunes StoreやGooglePlayへとうつしているのです。これはいわゆるスマホゲームやソーシャルゲームと呼ばれる物ですが、冷静に見てみると実際のRPGの定義を外れた作品までがRPGを名乗り、そして実際に活躍しています。特にロールプレイなども無く「基本無料・スタミナ制・ガチャ・フレンド」といった要素と日本のRPG作品にありがちなファンタジー世界要素を用意しただけで、RPGと名乗っている作品もあるくらいです。(もちろんまっとうな RPGを作っているところもありますが)
〘中略〙RPGではないがJRPGである物が、今やスマートデバイスの分野で新たなる戦いを始めているという事になるわけです。[4]
「RPGではないがJRPGである」という言葉で表されているようにそのシステムや世界観といったガワの部分だけに着目すれば紛れもなくJRPGのそれだが、実際のプレイング感覚はRPGとは凡そ掛け離れた代物が出回っているのがソーシャルゲーム市場の現況である。しかし同サイトでも指摘しているようにRPGを売り文句にしているタイトルは数知れずあり、その多くが「本格」や「王道」といったキャッチコピーを掲げている事からもRPGという言葉が持つユーザーへの訴求力は依然として衰えていない事が見て取れる。
モバイル向けRPG作品の多くにみられる傾向として片手間でプレイ可能、というものがある。これはモバイルデバイスの代表格であるスマートフォンでは旅先や通勤・通学時などの合間を縫って遊ぶプレイスタイルが定着している事と大きく結びついている。従来のオフラインゲーム、特にRPG作品ではセーブポイントが限られた地点にしか存在しておらず一度のプレイで長時間に及ぶ続行を余儀なくされており、こうした旧弊はHD世代機のタイトルにも引き継がれており批判の対象となっていた。
またソーシャルゲームでは「クエストクリア型」といった、一度に要求されるプレイタイムが短時間で済ませられるものを指向する事で断続的なプレイを可能にしている。他に「放置型」と称されるタイプも存在し、こちらは専らパーティ編成や大まかな戦術構築のみをプレイヤーに要求し、戦闘はAIによるオート進行に委任する事で実質的プレイ時間や操作量の縮減を図っているものである。
こうしたJRPGライクを強く志向した一連のソーシャルゲームタイトルについては既存のどのジャンルにも分類し難い一面があり(強いて名付けるならば育成型RPGまたはRPG型育成ゲーム)、対人戦やレーティング・ランキングの向上を競う戦略面ではRTSに近い要素も備えているなどまだまだ発展段階にあるため、これからの動向が注目される。
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リンク
- JRPGと新しい世界のゲームのあり方…代表的なJRPG作品について紹介している。ちなみに「jrpg.jp」というメジャー風なドメイン名を取得・使用している割に、サイト内には自己紹介やコピーライト表示は皆無で、誰が制作者なのか一切不明(2016年9月18日現在)という少々謎めいたサイト。
- ガラパゴスRPG…株式会社コンパイルハートが所有するゲームブランド。「日本の特定のお客様向けに作られたRPGゲーム。」がモットー
- JRPGの作り方:ゲーム開発者向けの手引き … 海外の著作者によるRPG製作マニュアルの梗概