割礼@高円寺Mission's text by 水嶋美和
1983年から活動を続ける割礼。ジャックスや裸のラリーズ、ゆらゆら帝国などのサイケデリック・ミュージックが好きな人であれば、一度は耳にしたことのある名前だろう。
結成から27年経った2010年1月6日、高円寺Mission'sにて初めて彼らのライブを見た。今年一発目に見るライヴは、初見のバンドのみのイベントになった。どのバンドもアヴァンギャルドでサイケデリック。特に割礼の前に出てきたバンド「鳥を見た」の演奏は、悪夢の様にドロリとしていて(ダウナー系の)麻薬がそのまま音楽になったようだった。他ジャンルとは違って、サイケデリック・ミュージックはメディアに掘り起こされることはあまり無い。自らの手で掘り返さないと新しいものにはなかなか出会えない事を忘れていた。皮膚の下の細胞がうずくように、彼らの多くは音楽シーンの見えない所でうごめき続けている。
割礼はどんな衝撃を与えてくれるのだろう? ひとつのバンドが終わる度に期待が膨らみ続けた。トリを飾る割礼の演奏が始まると、VJがステージに夜の映像を映し出した。すると、不安気にギターを抱え、ゆらりと佇む男のシルエットが浮かび上がった。ボーカルの宍戸幸司だ。衝撃を待ち構えていた私は少し間が抜けた。意外なほどに音色がロマンチックだったのだ。けれどそれはどれも鈍く重く、どんどん会場の下の方に沈殿していく。脳裏にべたりと貼りついて一音一音が残ったまま次の音が重なっていき、脳内に沈殿されていく。体と頭が重くなってすぐにその場にへたり込んだ。他の客も何人かそうしていた。ただ、目だけは逸らすことができなかった。
最後に演奏された「リボンの騎士」の壮大で憂鬱な空気、月の映像をバックに演奏する割礼のシルエット、目に写り、耳に残った全てがトラウマに近い形で残っている。それは「何でこんな事になってしまったんだろう?」と頭を抱え、取り返しのつかない事をしてしまった男の人生を垣間見てしまったような絶望的な恐怖に似ている。ギター、ベース、ドラム、声、どの音をとってもあまりにも感情的で、一音一音鳴る度に悲しみに打ちひしがれた。
名前の持つアンダーグラウンド感に気圧されて、割礼の名前を知ってから実際に聴くまでに、そしてそこからライヴ・ハウスへ足を運ぶまでに、相当な時間がかかった。痛々しいその単語をバンド名に掲げ、「一体どんな音楽を奏でるというのだろう? きっと傷つけられるに違いない。落ち込むに違いない。」と本能的に警戒心が働いた。そして勇気を持って彼らの音楽に触れた時、その警戒心が間違っていなかったことを確信した。彼らの音楽は気軽に人に勧められるものではないし、気楽に聴けるものでもない。一度警戒して距離を置いて聴かないと、どんどん飲み込まれて抜け出せなくなりそうだ。実際、私はライヴで彼らの生演奏を聴いている間、連れて行かれていたと思う。どこへ? サイケデリックで、宗教的で詩的で、悲しくも美しい割礼の世界へ。私がフロアに座り込んでステージを見ていたのは、いつの間にか精神を空っぽにされて全身に力が入らなかったからだ。 (text by 水嶋美和)
Live Schedule
- 1月23日(土)@吉祥寺 STAR PINE'S CAFE
w/ 知久寿焼 / echo-U-nite
開場/18:00 開演/18:30
前売:2800円(D別)当日:3300円(D別)