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〔ルポ〕エジプト革命、打ち破られた恐怖の壁

タハリール広場の熱気

 中東で巨大なドミノが音を立てて倒れ始めた。チュニジアに端を発する「民衆革命」は、同国とエジプトの独裁体制を打倒、その後も、政府側と反体制勢力の内戦状態に陥ったリビア、反体制デモが続くイエメン、バーレーンといった諸国を始め、中東全域で不穏な情勢が続いている。とりわけ、30年に及んだムバラク大統領の政権が、わずか18日間の反政府デモにより退陣に追い込まれたことは、中東のみならず世界中に衝撃を与えた。鉄壁と思われたムバラク政権がいかにして倒れたのかを振り返るとともに、新生エジプトの行方を占った。

(時事通信社外信部記者 南武志)

 2月11日、カイロ中心部のタハリール広場は熱気に包まれていた。老若男女、職業、宗教、学歴を問わない、エジプトのあらゆる社会階層の人々が集まっている。ムバラク大統領の退陣を要求する大規模デモ。あちらで、大学教授やエンジニアといった裕福で高学歴の人々がエジプトの将来について議論を戦わせているかと思えば、広場のそこここにできたテント村では、郊外の農村からやってきた伝統的な衣装の貧しい農夫たちが座り込んでいる。こちらでは、お祭り気分で出掛けて気たとみえる中流階級らしき家族連れがそぞろ歩いている。完全に埋まれば25万人が入るといわれる広場が昼過ぎにはほぼ一杯となった。

 「反体制デモ」といっても、誰かが統制を取ってスローガンを叫んだり、行進したりといった統制された抗議行動を行っているわけではない。広場の要所要所にあるステージで演説が行われたり、「ムバラク出て行け」というシュプレヒコールがそこここでばらばらに盛り上がったりと、およそアナーキーな様相だ。ただ、「革命」という言葉から連想される殺伐とした雰囲気はなく、人々はおおむねリラックスした笑顔だ。水、菓子やエジプト国旗などを売る出店も並んだ。

 医師のマグディ・タハさん(54)は、広場の喧噪を隅の方に立って見詰めながら「これは歴史的なチャンスであり、逃せば二度とやってこない。腐敗した人間(ムバラク大統領たち)に新しい社会はつくれない」と決然とした態度で語った。広場の若者たちは「(なかなか退陣しない)ムバラクは強情だが、われわれはもっと強情だ」(24歳の薬剤師のアハマドさん)と、大統領退陣までてこでも動かない決意に見えた。

 前日の10日、ムバラク大統領はその強情ぶりを発揮し、辞任を表明するだろうという大方の予想を裏切って、なお職にとどまる意思をテレビ演説で表明した。しかし、あくまで大統領の即時退陣を要求する民衆はこれに怒り、11日のタハリール広場でのデモは大統領に引導を渡すべく、ダメ押しとなるものとして挙行された。

 大統領はこの日午後、逃げるようにシナイ半島のリゾート地シャルムエルシェイクの別荘に移り、同日午後6時4分(日本時間12日午前1時4分)、スレイマン副大統領がムバラク氏の辞任を発表、「エジプト1月25日革命」が達成された。

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