
危険箇所じゃないのに転倒&重傷も!?データで見る夏山登山に潜むリスク
いよいよ夏山シーズン!北・中央・南アルプスや八ヶ岳連峰が位置する長野県を目的地としている人も多いでしょう。
長野県山岳遭難防止対策協会(長野県観光部山岳高原観光課内)が原則毎週発行している島崎三歩の「山岳通信」には、さまざまな山岳遭難の実例が掲載。けれども、へえ~こんな場所で遭難しているんだ……と他人事のようにとらえていませんか?
実は死亡事故が増加中の長野県、あなたもいつ当事者になるかわかりません。
2022/12/22 更新
目次
2021年は死亡率が急上昇!?2022年は……まだ間に合います!
これは長野県内で2019年〜2021年に発生した夏山シーズン(7〜8月)の山岳遭難における、負傷程度の割合です。
注目してほしいのが、青の「死亡」の割合。2021年は遭難総数もコロナ禍前の2019年に近い数まで増加しましたが、なんと死亡者数が12名と2019年(5名)の2倍以上に増加しているのです。
仮に2022年もこの傾向が続いたら……?
そんな悲劇を防ぐための対策は、まだ十分に間に合います!
夏山シーズン、特に注意したいポイントは?
死亡事故が多い北アルプス/行方不明が多い中央・南アルプス
千畳敷カール周辺以外は登山者の少ない中央アルプス、山が奥深くこれまた登山者の少ない南アルプスならではの傾向と言えるでしょう。
もちろんソロ登山ならではの醍醐味もありますが、より入念な準備と対策が大切。
などは、留守を預かる人たちや捜索関係者が、バックアップ体制を取ることができる環境整備。万が一の際に、スピーディーな救助要請やスムーズな捜索活動に役立ちます。
もちろんこうした準備や対策は、ソロ登山でなくても重要であることは言うまでもありません。

登山行程が長くなる場合は、山小屋に到着したら連絡をする、携帯電話の電波の通じるところで無事を知らせるなど、家族等への連絡手段などを必ず決めておくとともに、連絡が取れなかった場合の通報先なども事前に決めておくようにしましょう。
~島崎三歩の「山岳通信」第158号より~
槍・穂高連峰では転落・滑落に注意
このデータにはバリエーションルートや岩登りでの死者も含みますが、一般登山道上での転落・滑落による死亡遭難も発生しています。急峻な岩稜登山は夏山の醍醐味ですが、慎重な行動が欠かせません。
こうした山域ではヘルメットを着用することで、転落・滑落の際の頭部の負傷程度を軽減可能。上部を行動している登山者が起こした落石から頭部を守るためにも、有効なアイテムです。
そして3年間で3件、病気による死者も発生しています。
2021年8月には、地形的には穏やかで危険度の低い北八ヶ岳・双子山でテント泊中に発病して亡くなったケースが。

このような登山中の小さな体の異変やヒヤリハットを敏感に察知して、気持ちを引き締め直したり、予定の行動を再検討することも遭難を回避する上でとても大切なことです。
〜島崎三歩の「山岳通信」第156号より〜
遭難発生人数の多い山から見る傾向と対策
もちろんこれらの山だけが飛び抜けて危険という訳ではなく、入山者数の多い人気の山であるということも起因しています。
とはいえこの事例の中から傾向を導き出し、対策を考えることは重要。もちろん、他の山でも当てはまる事例はたくさんありますよ。
危険箇所以外での転倒、疲労や道迷いも意外と多い山・槍ヶ岳
これは、2019年〜2021年の7・8月に発生した槍ヶ岳での山岳遭難における態様の割合です。
滑落事故は小槍でのクライミングや、バリエーションルートである北鎌尾根で発生しているものも含みますが、もっとも割合の多い転倒事故の大半は一般登山道上で発生しています。

これは視覚的に危険性が明らかな危険地帯では自然と緊張感が増して慎重な行動を心がける一方、危険性のわかりにくい登山道では、つい注意が散漫になり、油断が生まれることなどに起因しているのかもしれません。
〜島崎三歩の「山岳通信」第157号より〜
登山者が多く道標が整備されているルートであっても、地図の携行やGPSアプリの使用を怠らないことが道迷い遭難防止には必須。
また、上高地から片道22kmとアプローチの長い槍ヶ岳をはじめとする高山にいきなりチャレンジするのは、いささか無謀です。
夏山シーズン前には、定期的な近郊での登山で体力・脚力をつけることも大切。行動時間も長く標高差も大きな高山での疲労による行動不能を防ぐためにも、事前のトレーニングは有効ですよ。

また、持病をお持ちの方は、医師に必ず相談し、決して無理をしないようにお願いします。
〜島崎三歩の「山岳通信」第231号より〜
常念岳の一ノ沢・前穂高岳の重太郎新道・奥穂高岳のザイテングラートも下山での転倒・滑落事故が頻発する場所、死亡・重傷に至るケースも多く注意が必要です。
転倒事故の多い山・唐松岳
ゴンドラで比較的容易に入山でき、八方池までは手軽なハイキングコースとしても人気のルートであるだけに、これは見逃せない傾向です。
危険箇所が少ないルートであっても、最後まで緊張感を持って行動することが事故防止につながります。

山頂はあくまでも通過点で、ゴールではありません。下山中も気持ちを引き締め、漫然と行動することがないよう、自身の体力にゆとりを持った計画をお願いします。
〜島崎三歩の「山岳通信」第197号より〜
森林限界を超える高山での行動……熱中症・低体温症にも注意を
日本アルプスや八ヶ岳では概ね標高2,500m以上は森林限界となり、直射日光をまともに受けます。そして紫外線量は標高が1,000m高くなると約10%増加、標高3,000m級の稜線では平地の3割増の紫外線を浴びることに。
暑さだけでなく紫外線によっても、自分で感じている以上に疲労は蓄積しているのです。
熱中症を防ぐために、こまめな水分・塩分・栄養の補給はもちろん、帽子やサングラスでの紫外線対策も有効。
登山前の体調管理を慎重に行うことや、前夜発などタイトなスケジュールを避けることが望ましいのはいうまでもありません。

行動中は、のどの渇きを感じる前に、スポーツドリンクなどの塩分を含む飲料水をこまめに補給しましょう。また、ハンガーノック、いわゆる「シャリバテ」にならないためには、空腹を感じる前にエネルギーを補給をすることが大切です。
〜島崎三歩の「山岳通信」第228号より〜
恐ろしい低体温症
逆に悪天候時に注意したいのが低体温症。気温は標高が1,000m上がると約6℃低下、風速が1m/s増すごとに体感気温が1℃低下します。
例えば山麓の松本市(標高約590m)の気温が30℃でも、奥穂高岳(標高3,190m)では気温は約15℃。さらにそこで風速10m/sの風を浴びると、体感気温はわずか5℃になるのです。

このような気象状況の中で行動すると、視界不良による道迷いのほか、転倒や低体温症など、遭難のリスクが大きくなります。雨は今後もしばらく続く見込みですので、天気や登山道の最新情報を必ず確認しましょう。
〜島崎三歩の「山岳通信」第194号より〜
2020年7月には後立山連峰の白岳で雨の中を下山していた登山者が発病、行動不能になり死亡する遭難が発生。上記の発信の翌日でもあり、悔やまれる事故です。
誰でも山岳遭難の当事者になる可能性が……過去の事例を活かしてより安全に!
この他、3年間のデータを集計すると上記のようにさまざまな傾向を見出すことができます。
もちろん、この記事の目的は単なるデータ分析ではありません。
救助要請に至らない軽微な事故はこの中にはカウントされていませんし、中部山岳地域全体の状況を把握するには隣接する山梨県・静岡県・愛知県・岐阜県・富山県・新潟県・群馬県・埼玉県などのデータも加味する必要があります。
制作協力:長野県山岳遭難防止対策協会
