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2025-01-05

anond:20250105005433

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続き

兄として

 夜、今日の夕飯は外で済ませたものの、家に帰ると咲がリビングテーブル宿題を広げていた。どうやら英語の長文読解がうまくいかないらしい。

「ねえ、あんた。帰ってくるの遅い」

 妙な言いがかりだ。事前に遅くなるとメモをくれたのは咲自身なのに。

だって買い食いしろって言ったの咲じゃん」

「そうだけど。…いつもより遅い気がしただけ」

 まるで僕が何か悪いことをしていたかのような口調だが、心配してくれてるんだろうと勝手解釈しておく。

英語、わかんないんだろ? 手伝おうか?」

「いらない。どうせあんたでも正解わかんないし」

またまた、そんなツンケンして。じゃあちょっとだけ見せてみろよ。もし僕にもわかんなかったら、一緒に解説書を読もう」

「……別に、いいよ」

 一応は了承してくれたらしい。咲はツンとした顔で長文読解のプリント差し出す。僕は椅子彼女の隣にずらして、問題を一緒に眺め始めた。

「ここの単語意味さえ把握してれば、あとは前後文脈で答えがわかるかも」

「うーん…」

 咲も真剣になって考えている。こんな風に妹と同じ机を囲んで勉強するのは、かなり久しぶりだ。小学生のころまでは一緒に漢字ドリルをやったりしていたけれど、中学生になってからほとんどこういう時間はなかった気がする。

 なんだかんだで一時間近く、僕らは問題と格闘した。咲の目がしょぼしょぼしてきたので、「今日はここまでにしようか」と僕が提案すると、彼女は素直にプリントを閉じた。

ありがとう。…まあまあ参考にはなったかも」

「それはよかった。お役に立てて光栄です」

「…ふん」

 一瞬だけ、咲が目を合わせて笑う。ほんの少しだったけれど、確かに笑顔が見えたのだ。

ツンデレ妹”とのすれ違い?

 翌週の月曜日ちょっとした事件が起きた。僕が風邪をひいて学校を休んだのだ。朝、熱を測ったら三十八度近くあったので、母が無理せず休むようにと布団で寝かせてくれた。

 咲は「学校は休まないけど、あんたうるさいし家にいるの嫌なんだよね」と言い放ちつつ、「保険証はここにあるから病院行きたくなったら行きなよ」とテーブルに置いていった。ツンデレ感全開だが、まあ気遣ってはくれている。

 ところが昼前、微熱に下がってきたのでそろそろ大丈夫かとスマホを見ていると、咲からLINEが届いた。

調子どう? 熱は? 買い物して帰るから必要ものがあれば言って」

 短い文章ながら、妹がわざわざ学校からこんな連絡をするなんてなかなかない。僕は「だいぶ良くなったから何もいらないよ」と返した。するとすぐに既読がつき、「わかった。ゆっくり寝てて」という返信が。

 一言ずつに愛想のない文字ばかりなのに、その中にしっかり優しさがあるような気がする。いや、確実に優しい。

 ところが、その日の夕方、咲は中途半端な怒りを抱えて帰宅した。

「なんで電話出なかったの?」

「え? 気づかなかったけど…」

「昼休みにかけたんだけど。もしかしたら倒れてるかもって思ったのに!」

 考えてみれば、僕がスマホ確認したのはLINEの通知のみ。電話の着信は見逃していたらしい。

 咲は顔を赤くして、「あんたが心配で仕方なかったわけじゃないからね」とか言いながら、早足で自分の部屋に引っ込んでしまった。それでも「スープ用に野菜買ってきたから食べたいなら言えよ!」とドア越しに怒鳴っているのだから、やっぱり気遣いがにじみ出ている。

知られざる妹の心理

 夜、少し体調が回復した僕は、リビングでぼうっとテレビを観ていた。母は遅番の仕事らしく、家には咲と僕の二人。しばらくすると、咲がこちらへ顔を出す。手には何やら小鍋を持っていた。

「食べる?」

 妹が作ったと思しきスープ。湯気がほんのり漂い、鼻をくすぐるいい香りがする。

「いいの? わざわざ作ったのか?」

冷蔵庫野菜が余ってたからね。あんたが風邪引いてるのに放っておくと、治りが遅くてまたうるさいから」

「…ありがとう

「べ、別に礼なんかいらないし」

 と、そっけなく言いつつもテーブルに小鍋を置き、スープ皿にきれいによそってくれる。味も美味しく、僕は思わずうまい!」と声を上げた。すると咲は、そっぽを向きながら少し嬉しそうに口元を緩ませる。

「そ、そりゃまあ、いちおうネットレシピくらいは調べたから」

 それでも照れくさいのか、すぐにリビングを出ようとする。

「待って、俺に何か手伝えることある?」

「は? …いらない。あんたはさっさと食べてさっさと寝て。無理してぶり返したら迷惑から

 彼女なりのやさしさというのは、なかなかストレートに受け取りにくい。でも、それがツンデレ妹の魅力といえばそうなのかもしれない。

兄としての悩みと期待

 正直、彼女ツンデレ対応翻弄される日々は疲れなくもない。けれど、妹がどうやら僕のことをちゃんと気にかけてくれているのは、なんだかんだで嬉しい。

 ただ、ひとつ気になることがある。咲は僕とふたりでいるときは少しだけ甘えてくるような雰囲気になるときがあるが、家族友達がいるときは徹底して素っ気ない。まるで僕と二人きりになるまで“ツン”を貫き通し、“デレ”の面を一切見せないのだ。

 もしかしたら「兄と仲良し」というのを周囲に知られるのが恥ずかしいのかもしれない。年頃の女の子にはありがちな話だし、それは仕方ない。けれど一方で、妹としてちゃんと頼りにされている兄になりたいという思いも少しある。

さな事件ツンデレからまれる変化

 そんなある日、咲がヘアアクセサリーを探していて慌てていたことがあった。デパートで買ったお気に入りシュシュが見当たらないらしい。

 普段はツンツンしているくせに、「あんた、私のシュシュ知らない?」と部屋を覗いてくる。僕は「いや見てないよ。もしかして洗濯物と一緒に紛れてるんじゃない?」と提案してみた。

「え、それどこにあるかわからない」

洗面所ラックにたたんであると思うけど…」

 咲は少しもじもじしながら、「一緒に探してくれない?」と恥ずかしそうにお願いしてきた。

「もちろんいいよ。手伝うから洗面所見に行こうか」

「…うん」

 咲は滅多に「お願いする」「手伝ってもらう」といったことを言わない性格だ。僕は少し驚きつつも一緒に洗面所を探し、ラックバスケットの中を確認した。すると奥底に埋もれていたそのシュシュ発見することができた。

「あった、これ?」

「そう、それ。よかった…ありがとう。まあ別にあんたがいなくても見つかっただろうけど」

「それでも、手伝えたならよかったよ」

「…うん、ありがとね」

 咲は小さくお礼を言い、そのまま洗面所を出ようとする。照れてしまったのかもしれない。僕はすぐ後を追いかけて、「咲、よかったら次は一緒に買い物でも行こう。シュシュがなくなるほどお気に入りなら、予備を買っておくのもいいんじゃない?」と声をかけてみる。

「はあ? どうして私があんたと買い物に…いや、行かないわけじゃないけど、別にあんたと行きたいわけじゃないんだから

「どっちだよ」

「うるさい。まあ予定が合えば、考えとく」

 ツンデレの中に「嫌じゃない」という気持ちが混ざっているのが、もう手に取るようにわかる。何度も繰り返しになるが、妹のそういうところがなんだか愛おしくもあるのだ。

記事への反応 -
  •  妹の咲(さき)は、典型的なツンデレだ。  とにかく口が悪い。いつも冷たく突き放してくるくせに、たまにちらりと見せる笑顔がやけに優しかったりする。やれ「うるさい」「近寄...

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