不動産投資が節税になると、どこかで耳にしたことがある人も多いはず。節税できるなら不動産投資に取り組んでみたいと思うものの、どんな仕組みで節税できるのかよくわからず、踏みとどまっている人もいるのではないでしょうか。
今回は、不動産投資が節税になる仕組みや、計上できる経費について解説します。節税目的の不動産投資を検討している人は、ぜひ参考にしてみてください。
大学卒業後に銀行員として勤務、法人顧客の経営支援・融資商品の提案や、個人向け資産運用相談を担当。 2020年にマイベストに入社、自身の銀行員時代の経験を活かし、カードローン・クレジットカード・生命保険・損害保険・株式投資などの金融サービスやキャッシュレス決済を専門に解説コンテンツの制作を統括する。 また、Yahoo!ファイナンスで借入や投資への疑問や基礎知識に関する連載も担当している。
不動産投資で節税ができる税金は、所得税や住民税、相続税などが代表的です。不動産投資が節税になる仕組みは税金の種類によって異なるので、以下で詳細を確認しておきましょう。
不動産投資では、所得税と住民税を節税できます。以下でそれぞれのポイントを確認しましょう。
減価償却とは、時間の経過や使用によって価値が減少していく資産を取得した際、全額をその年の経費とせず、資産の耐用年数に応じて配分し、経費計上する方法をいいます。
耐用年数の基準は資産の種類によって異なりますが、不動産の場合は、建物の構造です。構造別の耐用年数を確認しましょう。
減価償却費を計算する方法は2つあります。1つは、減価償却資産の取得価額に耐用年数に応じた「償却率」をかけて一定の減価償却費を求める「定額法」です。2つ目には、年度はじめ時点の未償却残高に耐用年数に応じた償却率をかけて、その年の減価償却費を求める、「定率法」があります。
定額法は減価償却費が毎年一定ですが、定率法は年度はじめ時点の未償却残高に一定の償却率をかけるため、減価償却費は初年度が最も高く、年を追うごとに減少していくのが特徴です。
建物の減価償却費は、平成10年4月1日以降に取得した建物の場合「定額法」を用いて計算します。
木造の新築住宅を2,000万円で購入した場合の例を確認しましょう。木造住宅の耐用年数は22年です。耐用年数が22年の減価償却資産の償却率(定額法)は0.046のため、「2,000万円×0.046=92万円」が毎年の減価償却費として計上できます。
定額法の償却率は、減価償却資産の耐用年数によって変わるため、国税庁のホームページに掲載されている「減価償却資産の償却率表」で確認しましょう。
減価償却費は給与所得と損益通算することで課税所得が下がるため、所得税や住民税の節税が可能です。
損益通算とは、各所得で生じた赤字を、損益通算の対象となる所得間で相殺することをいいます。損益通算の対象となる所得は、不動産所得、事業所得、譲渡所得、山林所得です。
所得税・住民税は法人化することでさらに節税できる場合もあります。
不動産投資の運用が黒字で課税所得が増えてきたときは、法人化を検討しましょう。法人化は、個人の課税所得が900万円を超えたタイミングを目安にするといわれています。
資本金1億円以下の法人では、法人税率が800万円までは15%、800万円以降は23.2%が上限です。個人の場合、課税所得が900万円を越すと所得税率が33%になります。税金額の分岐点となる課税所得900万円を超えるタイミングで法人化し節税につなげましょう。
年間の課税所得が900万円の場合でシミュレーションをしてみました。
所得税:900万円×33%-1,536,000=1,434,000円
法人税:800万×15%+100万×23.2%=1,432,000円
課税所得が900万円では2,000円しか変わりませんが、課税所得が増えると差が顕著になります。しかし、個人名義の物件を法人所有に変更する際は、不動産所得税や登記費用などが必要になるので、諸経費を含めてシミュレーションし検討するようにしましょう。
不動産投資は相続税と贈与税対策にも有効です。保有資産を不動産に換えることで、相続税計算の元となる評価額を下げられます。資産を不動産に換えれば、評価額が額面の50~60%程度となる場合が多いです。
贈与税は、贈与する人が亡くなってから贈与する「死因贈与」と、生きている間に贈与する「生前贈与」とで、課税評価額が異なるため注意しましょう。
生前贈与の場合、「住宅取得等資金贈与の特例制度」を利用して不動産の購入資金を贈与すれば、最大1,000万円まで非課税で資産を贈与できます。ただし、この制度は2023年12月末までなので気を付けてください。
相続税や贈与税は不動産投資をすることで節税できるため、相続や贈与の額が大きく税金が気になる人は不動産投資も検討しましょう。
どんな物件を選ぶかによって節税効果は変わります。節税効果を大きく得たい場合は、減価償却費を大きく取れる物件を選ぶことが大切です。
ここでは、節税効果が出やすい物件と出づらい物件について解説します。
木造住宅の法定耐用年数は22年とほかの構造の住宅と比べて短いため、ほかの構造の住宅と同じ価格、同じ築年数であっても、より大きな減価償却費を取ることができます。
さらに、築年数が法定耐用年数を超えた住宅の場合、法定耐用年数の20%に相当する年数で減価償却が可能です。木造住宅の法定耐用年数22年を超えた場合は、22年×20%=4.4年ですが、1年未満は切り捨てるルールのため、4年が減価償却期間となります。
初年度は、マンションの取得にかかるローンの手数料や不動産登記費用などが経費として計上できるため、節税効果を感じられます。しかし、新築区分マンションは耐用年数が47年と長く毎年計上できる減価償却費が少ないため、2年目以降の節税効果は薄くなるでしょう。
さらに、不動産運用が好調で黒字になると、不動産所得に対する納税義務が発生します。給与収入がある人の場合、課税所得が増えて不動産投資を始める前よりも手残りが減ってしまう可能性があるため注意が必要です。
また、新築区分マンションは購入後、70%程度の価格になるといわれているため、売却額がローンの残債を下回る可能性があります。
節税の効果があまり期待できないうえに、ローンが残ってしまうようでは元も子もありません。節税目的で新築区分マンションを購入する際は慎重に検討しましょう。
不動産投資で節税効果が得られる人はどのような人でしょうか。ここでは、不動産投資で節税効果を得られる人の条件を確認しましょう。
課税所得が900万円以上の人は不動産投資で節税効果が得られます。節税の効果が出るのは、不動産を売却するタイミングです。
不動産を売却した際には譲渡所得税が発生し、売却益に対して所得税と住民税が課税されます。所有期間が5年を超える不動産を譲渡した際に課税される「長期譲渡所得」の税率は20.315%です。
一方で、課税所得が900万円を超えていると、所得税と住民税を合計した税率は33%以上になります。売却時に、所得税と住民税で13%以上の差が生まれるため、節税に繋げることが可能です。
年収が900万円未満の場合の所得税、住民税率は5~23%で、長期譲渡所得の税率20.315%との差が小さいか下回ってしまうため、節税効果は感じづらいでしょう。
税率の計算方法がよくわからない場合、不動産投資会社を利用する方法があります。おすすめの不動産投資会社について知りたい人は下記の記事を参考にしてみてください。
不動産投資では相続税対策が必要な人も節税効果が得られます。現金資産を多く保有する人は、現金を不動産に換えることで、相続税の圧縮ができるためです。相続税の圧縮とは、現金や預貯金を不動産に換えて相続し、税務上の評価額を少なくすることをいいます。
現金で1億円を相続した場合、評価額は額面どおり1億円ですが、1億円を不動産に換えて相続すれば、相続税を大幅に抑えられるのがメリットです。
仮に、1億円の現金で5,000万円の土地を購入し、そこに5,000万円で賃貸用の住宅を建てたとしましょう。
土地の相続税は、国が定めた土地1㎡あたりの価格である「路線価」で評価します。路線価は時価の80%程度です。さらにその土地に賃貸用の住宅を建てる場合、「貸家建付地」となり、さらに20%程度評価額が下がります。
上記の条件をもとに計算すると、「5,000万円(土地の購入価格)×80%(路線価)×80%(貸家建付地)=3,200万円」で土地の評価額は約3,200万円です。
住宅の相続税は固定資産税評価額で評価されます。固定資産税評価額は住宅の時価の60%程度です。賃貸住宅の場合、「借家権割合」でさらに30%評価額が下がります。
上記の条件をもとに計算すると、5,000万円の賃貸住宅の場合、「5,000万円(住宅の購入価格)×60%(固定資産税評価額)×70%(借家権割合)=2,100万円」で約2,100万円です。
土地の評価額約3,200万円と住宅の評価額約2,100万円を合計すると約5,300万円となり、1億円を現金で相続する場合よりも約4,700万円評価額が下がることがわかります。
相続税の税率は5,000万円を超え1億円以下の場合30%です。1億円を現金で相続した場合の相続税は、「1億円×30%=3,000万円」ですが、1億円を不動産に換えた場合の相続税は「5,300万円×30%=1,590万円」となり、約1,410万円節税できます。
なお、評価額の計算方法は贈与税も同じであるため、前述の「住宅取得等資金贈与の特例制度」を利用して生前贈与も上手に活用することをおすすめします。
不動産投資は相続税や贈与税対策にも有効であるため、相続や贈与をする際の税金を少しでも抑えたい人は不動産投資を検討しましょう。
ここでは、不動産投資をした場合としなかった場合の具体例を紹介します。
年収500万円の会社員が不動産投資をしなかった場合は、所得税が約14万円、住民税が24.45万円となり、合計38.45万円の納税が必要です。
不動産投資をした場合の所得税は約98.95万円、住民税19.45万円で合計28.4万円となり、不動産投資をしなかった場合と比べて約10万円の節税が可能です。
不動産投資をしている場合、総所得金額から経費や赤字を引いた金額で所得税、住民税が計算されるため、節税効果が期待できるでしょう。
例えば、不動産を持つことだけを考えて賃貸需要のない土地に物件を建ててしまった場合、入居者がほとんどいないという事態も起こり得るでしょう。そうなれば単に物件を所有するコストが増えるだけとなってしまいます。
また、資金計画をしっかりと立てずにローンで物件を購入した場合、金利の上昇で返済額が増加したときには資金繰りが悪化してローンの返済ができなくなるリスクもあるでしょう。金利や物価の変動に対応できるよう余裕を持って計画を立てることが大切です。
また、物件の売却タイミングを逃さないようにしましょう。物件の売却タイミングは、物件の所有期間が5年を超えてからをおすすめします。
所有期間が5年を超えてから譲渡すると「長期譲渡所得」となり、適用される税率は所得税15%、住民税5%の合計20%です。所有期間が5年以内だと「短期譲渡所得」となり、税率は所得税30%、住民税9%の合計39%なります。
短期譲渡所得の場合、長期譲渡所得の約2倍の税金を払わなければならないため注意しましょう。
不動産投資の経費は年末調整で申告できないため、別途確定申告が必要です。
確定申告とは、前年1月1日~12月31日までの所得にかかる税金を計算し、国に報告する手続きのことで、原則毎年2月16日~3月15日の間に行います。
不動産投資の場合、不動産の家賃収入から経費や減価償却費を引いた不動産所得をもとにした税額を申告しなければなりません。不動産投資の節税効果を享受するために、必ず毎年行いましょう。
確定申告を行うなら青色申告がおすすめです。
確定申告には「白色申告」と「青色申告」があります。白色申告は、申告書の記入方法がシンプルで、提出書類が青色申告と比べて少ない点がメリットですが、控除額は10万円です。
青色申告は、開業届を提出していることが条件で、申告書に厳密な帳簿の記入が求められますが、条件を満たせば65万円の控除を受けられる点がメリットといえます。
また、青色申告の場合、3年間に渡って赤字の繰越が可能な点や、家族に対する給与が経費として扱える点もうれしいポイントでしょう。
青色申告で65万円の特別控除を受けるためには、10部屋以上もしくは5棟の物件を所有し、e-Taxを利用して確定申告することが必要です。条件を満たしている場合、節税効果の高い青色申告をおすすめします。
不動産投資で確定申告を行う際、経費にできる項目は大きく分けて7つあります。1つずつ確認しましょう。
【各種税金】
経費として計上できるのは、不動産投資で発生する税金のみです。投資する本人に対して発生する住民税などは経費として計上できないため注意してください。
経費として計上できる税金とできない税金は以下のとおりです。
経費計上できる税金
経費計上できない税金
【保険料】
不動産にかけている火災保険、地震保険、孤独死保険などの保険料が経費として計上可能です。
【修繕費】
住宅を原状回復する際のリフォーム費や設備が故障した際の修理、交換費が経費となります。
【ローン金利】
ローンを組んで不動産を取得した場合、毎月のローン返済にかかる金利は経費として計上可能です。ローンの元本は経費として扱えないため注意しましょう。
また、不動産所得が赤字だった場合、土地の取得分のローン金利は損益通算の対象に加えることができないため注意が必要です。
【建物部分の減価償却費】
建物部分の減価償却費も経費として計上できます。土地は「非減価償却資産」といって、経年や使用によって資産価値が下がらないものであるため、減価償却ができません。
【管理会社に支払う管理委託料】
不動産の管理を管理会社に任せている場合も、委託料を経費にすることができます。
【司法書士や税理士への報酬金】
司法書士に登記を委託した場合や、税理士に確定申告を委託した場合に支払った報酬も経費として計上可能です。
以上のように、経費にできるもの・できないものを把握して、確定申告の際に申告漏れがないようにしましょう。
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