ハードコア・パンクは本質的に自由な音楽である──KLONNS、初のフル・アルバム『HEAVEN』
東京のハードコア・パンク・バンド、KLONNSが2回目となるOTOTOYに登場。2022年にリリースされたシングル「CROW」リリースから2年。メンバー・チェンジという大きな変化もありつつ、多くの来日バンドのサポート・アクトや20以上からなる国内外のパンク、ハードコア・バンドが集結した〈NEW REALM FEST〉の主催など精力的なライヴ活動を経て、待望となるファースト・アルバム『HEAVEN』がこの春にリリースされた。今回のインタヴューでも自分たちが目指すべきサウンドやスタイルへ真摯に向き合った言葉の数々を聞くことができた濃密な内容となったので、ぜひとも音源とともに楽しんでいただけたら幸いだ。(編集部)
インタヴュー公開とともに、アルバム『HEAVEN』がOTOTOYでも配信開始
INTERVIEW : KLONNS
いまや東京の、いや日本のハードコア・パンクの最前線にいるといっても過言ではないKLONNS。彼らのファースト・アルバム『HEAVEN』が、米シアトルの〈IRON LUNG〉と神奈川・横浜の〈BLACK HOLE〉の共同で、4月にリリースされた。このリリースに伴い、5月には10日間にわたる欧州ツアーを敢行し、来たる7月6日には東京・新大久保EARTHDOMにてBELMADIGULA、moreru、TIVEを迎えたリリースショウが予定されている。
OTOTOYでは、ヴォーカルのSHV(SOM4LI/珠鬼 TAMAKI)、ギターのMIURA(Mortal Incarnation)、ベースのZIE(XIAN/鏡/珠鬼 TAMAKI/ゲタゲタ)、ドラムのAK.OKAMOTO(Material Gold Park/家主/珠鬼 TAMAKI/Kalypsonian)のメンバー全員にインタビューを実施。彼らが標榜する「NEW WAVE OF JAPANESE HARDCORE」のひとつの到達点ともいえる『HEAVEN』、そしてKLONNSの現在地について、たっぷり話を聞いた。
インタヴュー&文 : 須藤輝
COMUSのTシャツを、わざわざ袖まで切って着ているような人はまともじゃない
──2年前にKLONNSにインタヴューしたとき、今回のアルバム『HEAVEN』を「夏にレコーディングする」と言っていたの、覚えています?
「CROW」リリース時のインタヴュー(2022年7月公開)
SHV : そうだった(笑)。
ZIE : SHVさんが〈BLACK HOLE〉のコサカさんに「来年、出ますかね?」って聞いてましたよね。そしたらコサカさんが「がんばりたいですね」って。
SHV : がんばれなかった。
OKAMOTO : いや、がんばったんじゃない? 途中でギターのメンバーチェンジがあって、録り直しとかもしてるから。
ZIE : 録り始めたのが2022年の7月で、最初の土日でドラムとベースを録って、8月中にギターもヴォーカルも、ゲストのコーラスとかも一通り録り終えてはいたんですよね。
SHV : 録ったものの、ギタリストをチェンジしようということになって……MIURAくんが加入したのは、11月?
MIURA : 初めてスタジオに入ったのは10月でしたね。
SHV : とりあえずLINEで打診して、最初は断られたんです。「あー、断られたか。とりあえず寝よう……」と思って寝て、朝起きたら「やっぱやりたいかもです」って返信が。
一同 : (笑)。
──MIURAさんは、なぜ躊躇したんですか?
MIURA : 連絡をもらって喜びましたが、同時に、私はMortal Incarnationというデスメタル・バンドをやっていたので、それまで自分がやってきたものとまったく性格が違うハードコア・パンクという音楽ジャンルに手を出してしまってよいものかという点で、正直、ためらいがありました。でも、〈Discipline〉(SHVが小岩BUSHBASHで主催していたパーティー/コレクティヴ)でやっていることやメンバーの顔触れからも、一筋縄ではいかない人たちだということはわかっていたので、いきなりハードコア・パンクの郷に入るというよりはもっと開けた気持ちで取り組めるんじゃないかという予想もあって。1回断ったものの、そのあと眠れず悶々としていたので、やったほうがいいんだなと踏ん切りがついたんです。
SHV : 一応、MIURAくんに打診するにあたって、元SOILED HATEのヤマモトくんがMortal Incarnationでベースを弾いているので、電話して「MIURAくん、どういう感じの人ですか?」って聞いてみたんです。そしたら「WIPERSとかも聴いてますよ」って言うから。
一同 : (笑)。
SHV :「じゃあ、大丈夫か」って。
ZIE : SHVさんから「どうやらMIURAくんはWIPERSとLUNA SEAが好きらしい」ってLINEが来て、「会って話がしたいな」と思ったのを覚えています。そのあと新宿の高層ビルに入ってる、OKAMOTOさん行きつけの居酒屋にMIURAさんを呼び出して。
MIURA : ビアホール的な店でしたよね。
ZIE : そこで正式に勧誘したんですけど、もともと僕らは、2022年の5月にSOILED HATEと一緒にやった企画でモータルを呼んでいるんですよ。
──吉祥寺DAYDREAMでやった〈DIFFERENT SENSES vol.3〉ですね。BISINGも出ていました。
ZIE : そうそう。そのときMIURAさんが、COMUSっていう誰も知らないようなプログレ・バンドのTシャツを、袖カットして着てデスメタルをやっていて。「ちょっとありえない人がいる」みたいな感じでどよめいたんですよ。
SHV : たぶん、あの場で僕ら3人しかどよめいてなかったけど。
──MIURAさんとKLONNSのメンバーは、あのときが初対面だったんですか?
MIURA : 初めてちゃんと話したという意味では、そうです。私は、けっこう前からKLONNSのライヴは観ていたので、3人のことは一方的に知っていました。最初に観たのは2016年とか2017年ぐらいかな。ブラックメタルっぽい時期があったじゃないですか。
ZIE : マジっすか!? めちゃめちゃ初期ですね。
OKAMOTO : ZIEさんと私が加入するより前だ。
MIURA : だから客として、メンバーチェンジがあったことと、音楽性がちょっとずつ変わっていったことを認識していて。ブラックメタル的な要素のあるハードコア・パンクに始まり、ノイジーでクラスト的なスタイルを経由して、いまに至るっていう。あのDAYDREAMのとき、パンデミック以降で初めて演奏を聴いたんですが、めちゃめちゃヘルシーになっていたので驚きましたね。
ZIE : さかのぼると、実は僕、2019年にSOILED HATEが秋葉原のスタジオ音楽館でイベントをやったときにモータルを観ていて。デスメタルなのにヘルシーな感じがしたのが印象的だったんですけど、いまつながりましたね。
──2022年5月のDAYDREAMのあと、7月に小岩BUSHBASHでleechの企画があって、SANOAとKRUELTYとMortal Incarnationが出ていたんですよ。でも、ちょうどライヴが終わったぐらいのタイミングで、小岩駅で爆発物騒ぎがあったじゃないですか。
MIURA : ありましたね。総武線が完全に止まっちゃって。
──あのときMIURAさんと、モータルのもうひとりのギターのワダさんと、SANOAのカメザワさんと、たまたまBUSHBASHに来ていたSHVさんと僕の5人でタクシーを割り勘して……。
MIURA : 中野まで行って、解散しましたね。
SHV : あのあと、カメザワさんとめっちゃ飲みながら歩いて帰って大変なことになった気がする。
──僕はMIURAさんがKLONNSに加入するのを知ったとき、あのタクシーがMIURAさんとSHVさんの距離を縮めたんだと思ったというか、いまでも勝手に思っています。
MIURA : あのとき、そんなに喋ってなかったですよね?(笑)
SHV : でも確か次の、8月の〈Discipline〉は「ウィッチハウスとブラックメタルとゴシックの親和性を提示する」というテーマでやるって話をしたら、MIURAくんが異様に食いついてきて。そのときからブックマークしていました。「こいつ、危ないな」と。
ZIE : 新しいギタリストを探すことになったときに、SHVさんは即「モータルの人に声かけようかと思います」と言ってきて。だから第1候補の人で決まったんですよね。
MIURA : 私は客観的に、昔のカクカクした、四角い感じは意図的なものだと思っていて。ZIEさんとOKAMOTOさんみたいにノイズをやっていたメンバーもいるぐらいだから……と勝手に連想していたインダストリアルなイメージと、サウンドが合致していました。なので、最初に声をかけてもらったときは「自分でいいのかな?」とも。
ZIE : えっ、どういうことですか?
──「VVLGAR」(2019年)あたりまでのサウンドが四角い?
MIURA : そうですね。
SHV : ああ、「四角い」ってそういうことか。以前はエフェクター主体で音を作る感じで、アンプとピッキングで作る感じではなかったからかな。でも、作る曲のテイストが変わって、より身体的な、プレーヤーの体からダイレクトにズンズンくる感じのギターが必要になってきて。そういうことできそうな人で、かつ、ちょっとおかしい人?
一同 : (笑)。
SHV : COMUSのTシャツを持っているだけでヤバいのに、わざわざ袖まで切って着ているような人はまともじゃないだろうということで、第1候補にあがった感じです。
ZIE : 最初にMIURAさんとスタジオで合わせたときから、もうすごかったですよね。MIURAさんのピッキングって、たぶんプリンスとかSUGIZOに近い、食いつく感じのピッキングなんすよ。ベースのスラップみたいに振り抜く力がすごく強いから、必然的に音が超でかくなる。1回、SHVさんの家でプリプロみたいことをやったとき、アンプにつながなくてもギターの音がめちゃくちゃでかくて。
MIURA : 確かに生音はでかいと思います。弦もよく切れるし。
ZIE : あと、MIURAさんのギターはメタルなんだけど、全体としてよりパンクになりましたよね。
SHV : そう、逆説的にパンクにより接近したと思いますね。
ZIE : 鏡でドラムを叩いてるニシダ(STRIP JOINT/SOM4LI)くんが……ニシダくんはよく「俺から見たKLONNS」みたいな論評っぽいことを言ってくれるんですけど、MIURAさんが入ったKLONNSのライヴを観て「ギターとベースとドラムが完全に合ってますね。タイム感が一緒っすね」って。
SHV : 縦のリズムのラインが揃ったというのはありますね。
OKAMOTO : 全体がスッキリして、自分の演奏が聞こえるようになった。曲も、作曲の段階からけっこうシンプルな構造になっているし、ギターの歪みも、散らない歪みになってきたというか。拡散する歪みだったのが、収束する歪みになって。
SHV : 前はけっこうファズとかで歪ませていたから音の壁って感じだったんですけど、いまは点になって余白が増えた感じ。全員の音が過不足なく聞こえやすくなったから、それがダンス・ミュージックとしてのハードコア・パンクというか、ハードコア・パンクの機能美を追求するうえで、より合致した形になって。ライヴもよくなったんじゃないかな。
OKAMOTO : 自分の演奏が聞こえるようになったぶん、やりやすくなったと同時に粗も見えやすくなって。
ZIE : そう、「ちゃんと演奏しなきゃな」って。でも、OKAMOTOさんの音も聞こえるから「あ、みんないる」みたいな。それまではけっこう「孤独だ……」と思っていたんですけど。
SHV : 以前はギターが空間を埋め尽くす感じだったから。中音的に。
OKAMOTO : ライヴも音源も、あえてそうしていたというのもあって。当時は、ライヴでは照明も落としてめっちゃスモーク焚いて、視界10cmぐらいでやっていたから「自分しかいない」みたいな。それが、いつしか明るい場所でやるようになって、その流れにちょうどMIURAさんというピースがハマった。
──KLONNSを最初期から追っていたMIURAさんとしては、いまのKLONNSをどう見ています?
MIURA : 間口がより広がっていると思います。やっている人たちが大人になったんだなって。
一同 : (笑)。