ILL-BOSSTINOが語る、dj hondaの凄み──「あの人は、呼吸のようにビートを生み出し続けてる」
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THA BLUE HERBのILL-BOSSTINOが、同郷の“生ける伝説”、dj hondaとのジョイント・アルバム『KINGS CROSS』をリリース。これまでさまざまなアーティストやプロデューサーとの共演、共作はあったものの、THA BLUE HERB以外では同じプロデューサーとのがっぷり四つで1枚のアルバムの制作は初となった今作。OTOTOYでは今作のハイレゾ配信とともに、連載『パンチライン・オブ・ザ・マンス』も好評掲載中のライター、斎井直史によるILL-BOSSTINOへのインタヴューをお届けします。
全16曲入り、がっぷり四つのジョイント・フル・アルバム
dj honda × ill-bosstino “COME TRUE / A.S.A.P.”【OFFICIAL MV】dj honda × ill-bosstino “COME TRUE / A.S.A.P.”【OFFICIAL MV】ロスレス版の配信はこちら
INTERVIEW : ILL-BOSSTINO
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優しくも力のある視線で、まっすぐこちらを見ている。キャリアだけでなく受け答えもベテランらしく、ILL-BOSSTINOは落ち着いて話している。今年で50歳、しかし、いまだ自己研鑽を緩めない。なぜ、そこまでハングリーなのか。その理由のひとつが、dj hondaに繋がる。
北海道に根差しながらも全国をその言葉で魅力してきたBOSSに対し、ニューヨークに移り言葉ではなくスクラッチとプロデュースで成り上がったdj honda。同じジャンル、奇しくも同じ北海道に生まれ育っても全く異なる世界を見てきた2人が、どのようにアルバムを制作するのか。“KINGS CROSS”とは銘打たれたアルバムなれど、なぜここまでdj hondaへの敬意をリリックにするのか。するとBOSSは信じられない光景でも目撃したかのように熱っぽくdj hondaを語り始めた。
インタヴュー、文 : 斎井直史
写真(アーティスト写真を除く) : 浦将志
30歳よりも、40歳よりも、いまの方が人生を折り返した感もある
──まず今作を聴いてBOSSさんのラップ、フロウや声にアグレッシブさを感じました。
THA BLUE HERBと分ける意識は俺にはなかったんだけど、相手が相手なんで、気合いを入れて食らいついていく気持ちが声にも出てるんだと思うよ。
──リリックの内容も普段よりセルフボーストが多く、新鮮に感じます。
そうだね。THA BLUE HERBの場合は長年やってるから、それなりにラインがある。例えば「のし上がる」という言葉にしてもファースト・アルバムのころは「のし上がってやるぜ」だったけど、いまの俺はそういう段階は超えたから、今後どうやっていくかをTHA BLUE HERBの25年間のストーリーを踏まえて書く。だけどhondaさんは俺をいちヘッズの状態にしてくれるからフレッシュな感じになってるんだと思う。俺がヤられた90年代のアメリカのヒップホップの最前線にいたのがhondaさんだから、そんな人とずっと同じスタジオに居ると、自然と俺もそんな気持ちになってくるよね。
──dj hondaさんとの制作ってどんな感じでしたか?
基本的には職人って感じで、ずっとビートを作る。作業の合間にアメリカ時代のいろんな話を和やかに教えてくれる楽しい時間もあるんだけど、基本的には作業。ふたりきりで1~2時間喋らない時間もあったね。
──dj hondaさんから、リリックやラップに修正は入るんですか?
それは特にはないね。全体の直しはあるけど、言葉もひとつひとつの細かいところに関してはhondaさんはあまりあれこれ言わない。俺に任せてる。
──ビートのチョイスはどのように?
俺が全て選ばせてもらった。
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──O.N.Oさんのビートは無機質で、より自分の内面と向き合って行くようなストイックさを掻き立てるビートだと思うんです。一方、今作は王道のヒップホップを感じさせるビートでしたが、ビートが変わればリリックも変わるのでしょうか。
詩の世界に関してはhondaさんであろうと、誰とやろうと変わらない。被せる音が全然違うから聞こえは違うのかもしれないけど、アカペラだけ抜いてみたら俺の詩世界は一貫していると思う。
──〈負けるが勝ちっていう言葉すらある〉というリリックにあるように、人間としての弱さ・ダサさを含めて力強さを表現するようになってますよね。
O.N.Oのビートよりも思いっきりオーセンティック・ヒップホップな感じだから、よりセルフボースト感も際立つんだなとは思うけど、そういった表現をするようになったのはなにも今作だからじゃないよ。
──この変化が顕著に現れたように思えるのが、フジロックの時のMCです。東日本大震災の年と、コロナの年、どちらも政治家に物申すシーンがありましたが、後者は帽子を脱いで頭を深々と下げて、とても腰の低い口調に変化していて印象的でした。このふたつの違いが、10年の間のラップの変化にも通じているように感じます。
そうかもしれないね。そこは40から50の10年間で、俺の変わったところなんじゃないかな。
──どういった出来事が、ご自身をそうさせたと思いますか?
わからないな。でも30歳よりも、40歳よりも、いまの方が人生を折り返した感もある。そうなると詩も含め、より表現も深まっていってるんじゃない?
──また今回のアルバムには若い世代への目配せもリリックにあり、中でも“Real Deal”では普段インタビュー等で言及される沖縄だけでなく、熊谷が上がったのは驚きました。
それは彼らの動きが面白いからだね。
──舐達麻ですよね。彼らのどういったところがいいなと思ったんですか。
何より世の中がぶっ壊れていくほど、ヒップホップが面白くなるっていうのはあると思うんだよね。良い子ちゃんではもうどうにもできないってことだよ。ブラウン管には映らないいまの世界のひとつの側面を体現してるよね。
──舐達麻とTHA BLUE HERB、どちらもリリックを誘うようなビートを作るかたがラッパーを下支えしているという構造も似ていると思います。
いいよね。リリックやラップもアウトローに共感されてるのは必然だと思う。動きの全てが楽しいしスリルがあるし、今後どうなるんだろうって思って見てるよ。
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