“生きる希望”を乗せ、人生という名の夜汽車は駆ける──中川敬、6年ぶりとなるソロ・アルバムをリリース
ソウル・フラワー・ユニオンのフロントマン、中川敬が6年ぶりとなるソロ作品『夜汽車を貫通するメロディヤ』を完成させた。コロナ禍、ロシアのウクライナへの侵略といった動乱の時代に、これからを生きるティーンエイジャー、戦争難民、路上生活者、震災被災者、そしてこの世を去った者たちへと捧げられた全11編からなるソウル・ブルース。OTOTOYではCDの発売に1週間先駆け、アルバムのハイレゾ配信がスタート。「中川敬は一体どのように形成されたのか」というこれまでの歩みを振り返ることで生み出されたという今作について、たっぷりと話を訊いた。
1週間先行ハイレゾ配信!
INTERVIEW : 中川敬
コロナ、戦争、物価の高騰... こんなに厳しい局面において、ちゃんと向き合い、音楽を武器に歌い、そして弾き続けている中川敬は、やっぱり震えるほどにかっこいい。僕は、何年かに1度は必ず彼にインタヴューをして、自分自身を確認し、そして奮い立たせている。それくらい信頼できる人だし、読者にも、こうやって闘い続けている人の言葉でなにかを感じ、そしていまの生活に役立ててもらえれば幸いだ。
インタヴュー : 飯田仁一郎
写真 : 小原泰広
アコースティック・ギターを俺の体の一部にしてしまえ
──HPに掲載されている佐川敏章さんのライナーノーツにも“最高傑作”とありましたが、今作は、中川さんにとってどんな作品になりましたか?
コロナ禍の3年は、ひとつの作品に対して向き合う物理的な時間がかなりあったから、今まで以上に、期せずして落ち着いてじっくりと作れたんよね。いままでのソロ作品って、全作、カヴァーやセルフ・カヴァーも入ってたけど、それも、もう今回は要らないかなという感覚もあって、全曲書き下ろしの新曲になった。
──どうして?
ミュージシャンってどうしてもベテランになると年々寡作になっていくでしょ? でも俺は、逆に曲をどんどん書いていきたいという欲求が年々強くなってきてるんよね。
──カヴァーではなく、自分の曲を出したいと。
新しい曲をどんどん書いて、弾き語りライヴでどんどん歌って、いいものはどんどん録っていく。まあ、今までもずっとやってきてることではあるけど、以前よりもシンプルに、それをもっと突き詰めてやりたいという気持ちが強くなってきてるね。
──コロナ禍は、中川さんの生活、人生、考えかた含めどんな影響を与えましたか?
子供が2人いて、ちょうどいちばん金がかかる時期に収入激減したから、当然コロナは、音楽労働者として大事件になってる(笑)。まあ、収入のみならず、コロナ初期の頃は、ここまでライヴが中止になると、さあ、俺はこれからどう打って出るべきなのか、というようなことを、今まで以上に考えることになるよね。で、休むよりは、やっぱり中川敬はギターを弾いて歌うことを徹底的にやるべきやろうと、2020年の4月からソロで無観客配信ライヴをはじめたんやけど、これがありがたいことに評判が良くて。特に「家で観れるのが嬉しい」っていう障害者の人からのメッセージが励みになってね。7月には限定人数で有観客配信ライヴっていう形に変わっていったけど、やっぱりコロナ前と比べると、ライヴハウスもミュージシャンも、厳しい状況が続いてるよね。
──なるほど。ソロの弾き語りでは、曲はそれぞれライヴごとに変えるんですか?
最初はそれこそ過剰なぐらい、ほぼ全曲変えててね。これはかなりしんどい!(笑)。実は曲数をカウントしてて、今、235曲のレパートリーがある。まあ、何をやっても過剰になるんやな(笑)。アコギを日常的にしょっちゅう弾くようになったのは、地方を巡業するユニットのソウル・フラワー・アコースティック・パルチザンをはじめた15年ぐらい前で。やっぱり弾き慣れたエレキ・ギターとか三線あたりと比べると、俺のなかで「鳴りきってない」感じがあったんやけど、なんとなくコロナが長引くかもというのはハナから感じてたから、ここはひとつ「アコギ、上手くなろうやないの!」っていう具合に、10代のギター少年のようなアコギを弾きまくる日々が始まった。コロナ禍の間に、もっと、アコースティック・ギターを俺の体の一部にしてしまえ、という感じやったね。
──“夜汽車(インストゥルメンタル)”を聴いたとき、ギターは中川さんじゃないと思いましたもん(笑)。
俺、俺(笑)。2週間に1回の配信付きライヴが週末にあるんやけど、その前数日間は練習をするわけ、この中川敬が、真面目に(笑)。休んでいいのは、我が国営放送「サンテレビ」で阪神が試合をしてる時間だけ、という過酷な日々(笑)。例えば、20代の頃に書いたニューエスト・モデルの曲をアコギ1本でやろうとするとアレンジ、構成、コードも変えないといけないし、キーもアコギ一本の音像世界に合うように下げる。そうなると結果的に、ほとんど新曲みたいな状態になるわけ。曲をガンガンやれるようにするっていう題目を自分で作ったのはいいけど、なんか練習ばっかりしてて、しんどいやん! 腰痛いやん! みたいな(笑)。でも、それがこのアルバムに、いい効果として現れている。ギター弾きはじめてもう45年ぐらいになるけど、人生でここまでギターを触った時期はないね。まあ、元がズボラやったという話でしかないのかもしれないけど(笑)。