相思相愛に興味はない。──DJ後藤まりこ、5年ぶりのソロ・アルバム『ゲンズブールに愛されて』
2018年に突如「DJ後藤まりこ」と名乗り、ライブハウスを中心に暴れ回るようになった後藤まりこ。『こわれた箱にりなっくす』以来ソロでの作品は実に5年ぶり、そして「DJ後藤まりこ」名義としては初となる新作『ゲンズブールに愛されて』をリリース。「DJ後藤まりこ」名義は、後藤自身がトラックメイクをするプロジェクトで、今作は、”四畳半箪笥ダンス”や”Breeeeeak out!!!!!”など激しい曲から、”ねばーえんでぃんぐすとーり”、”おばけ”のようなメロディアスな曲まで様々なジャンルの曲を内包したバラエティに富んだ1枚になっている。後藤まりこはなぜあんなにも人をドキドキさせるのか、話を訊いた。
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INTERVIEW : 後藤まりこ
ライヴでのDJ後藤まりこのパフォーマンスはとにかく過激で、曲の全体像がわからないまでにごちゃごちゃになっていた。しかし、今回5年ぶりにリリースされた『ゲンズブールに愛されて』は、めちゃめちゃメロディアスだし、トラックもおもしろい。その事についての質問をぶつけてみると、彼女自身、意識が変化していることに気がついたという。インタヴューを通して、DJ後藤まりこは音楽作家として、もっと評価されるべきだと感じた。やはり彼女、只者じゃないです。
インタヴュー&文 : 飯田仁一郎
写真 : 宇佐美亮
ライヴハウスを1990年代の悪い感じに戻したかった
──いま後藤さんはプロモーションからリリースまで、なんでも自分でやってるじゃないですか? そういうのは今回がはじめてだったんですか?
後藤 : 自分だけでCDを出すこと自体が初めてでした。だから大変だったけど、楽しかった。メジャーの事務所に入ってるときは、お給料をもらっている責任感と事務所が何もしてくれない歯がゆさみたいなものがいろいろあって駄目になっちゃったから。今回はひとりでいろいろやってみたいと思った。
──CDとしてリリースするのは久しぶりですよね。
後藤 : 5年ぶりですね。ライヴに来てくれてるお客さんにこれ以上悲しい思いをさせるのも人間としてあかんなあと思って。
──いまは“DJ 後藤まりこ”として活動していますが、これは後藤さんの中でどのように位置づけられるものなんですか?
後藤 :最初はライヴハウスを1990年代の悪い感じに戻したいというところからはじまった活動でした。お客さんもむちゃくちゃになってほしいし、バイオレンスなものであればいいと思って。いまみたいに気軽に行きやすいライヴハウスの感じもひとつの文化でいいことだと思うんですけど、昔のライヴハウスってもっと怖いもんやったと思うんですよ。そういうところに入ってるドキドキ感があった方が僕はいいと思っていて。
──ライヴではとにかく激しさが目立って、曲が分からないぐらいまでにぐちゃぐちゃになってますよね。その印象があるから、今作を聴いたとき、曲がこんなにちゃんと練られてるんだって感じて。
後藤 : だんだん自分の中でも形が変わってきてるんですよね。9月の〈BAYCAMP〉が終わってから、ちょっとずつ意識が変わってきて。それは音源を作っていたからというのもあるかもしれないけど、やっぱりそれまで何も考えてなかったんですよ。CDを出すにあたって、歌詞とか曲をもっと聞かせたいという欲が出てきてるかもしれない。“DJ 後藤まりこ”をやるにあたって、最初に思ってた1990年代に戻したい感じはありつつ、でもやっぱり僕は破壊だけで終わらせたくないし、良い意味でちゃんと仲良くしたいと思ったんです。
──このアルバムのコンセプトはどういうものだったんですか?
後藤 : 最初は待っててくれてる人に喜んでもらうために作っていたんですけど。
──それがまとめあげてく上で変わっていったんですか?
後藤 : やっぱり人の気持ちなんて考えてられへん(笑)。時間の制限もあるし、その中で自分が1番やりたいことを優先していったら、こうなっちゃいました(笑)。
──なるほど(笑)。曲はいつぐらいから作りはじめたんですか
後藤 : 今回のアルバムは9月から11月までのんびり作りました。マスタリングで中村宗一郎さん(peace music)が入った以外は完全にひとりで。バンドだったらメンバーを集めないとだし、エンジニアさんとのやりとりとかも大変なんですけど、ひとりだと録音とかも自分でパッとできるし。ひとりでやれてよかったですね。
──しっかり音源を聴いてみると、いろいろな音が鳴っていて驚いたのですが、録音環境はどうなっているんですか?
後藤 : トラックはDAWで作って、歌録りだけスタジオで。ノイズでシャカシャカ鳴ってるリズムとかはモジュレーション・マシンを使ってます。全体像から作るんじゃなくて、音源を切り貼りして、それを派生させて曲にしていく感じ。
羨ましいと思うのはtofubetsとか禁断の多数決
──曲はどういうタイミングでできあがるんですか?
後藤 : 結構バラバラ。最初にできたのは7曲目の”Breeeeeak out!!!!!”で、この曲はDJ後藤まりこというプロジェクトをやろうと思ったときにはすでにありました。当時は、耳がキーンってなる歪みとかノイズで人を殺したいって思っていて。それでこの曲ができました。最後にできたのは”HEAVEN”です。クリトリック・リスのスギムさんのライヴを見てるときに思いついて。いろんな思いがあってできましたね。歌詞は全然違う感じだけど、トラックは完全にスギムさんに影響を受けてます。スギムさんは優しいし、いじられやすい。お客さんともいい距離感で付き合ってるからちょっと羨ましいです。
──スギムさんに影響受けてるんですね(笑)。DJ後藤まりこというプロジェクトをやるにあたって、他に参考にしてる人はいますか?
後藤 :参考にはしてないんですけど、羨ましいと思うのは、禁断の多数決とかtofubeats。ああいうアーバンな感じの人がすごく羨ましくて。やろうと思ってもたぶん僕にはできないんですよね。頭にそれが浮かんでも、自分フィルターみたいなのが通っちゃって。
──今作の曲についていろいろ訊いてみたいと思います。”真冬の甲子園”はどんな曲ですか?
後藤 :この曲はもともとふたりで歌おうと思って作ったんですね。ハッピーやねんけどちょっとバイオレンスな部分もある、そんな19歳の女の子をイメージして作った曲です。だから歌のかぶりとかが多いんです。
──”ONIGOROSHI”はどんな曲ですか。
後藤 : 1999年7月に人類が滅亡するというノストラダムスの大予言があったじゃないですか。「予言が当たったらみんな死んじゃうしどうにでもなれ」と思って、お酒を飲んで遊んでいたのに結局予言は当たらなかった、だからどうしよう、っていう馬鹿みたいな大人の歌です。歌詞に出てくる〈美味いそばつゆ探してる〉とかは、そのときそばにハマってて毎日食べてたから。歌詞はそのとき思ったことが反映されやすいですね。書いてるうちにできてくる歌詞もあるし。
──”Breeeeeak out!!!!!”や”ONIGOROSHI”と比べると、アルバム後半の”ねばーえんでぃんぐすとーり”や”おばけ”でガラッと曲調が変わりますよね。
後藤 : ”ねばーえんでぃんぐすとーり”は歌モノを作りたいとか、そういう気持ちも特になくキーボードを叩いてたら出来た曲です。”おばけ”は最後から3番目くらいにできたのかな。江ノ島に行ったときに作りました。その頃はいろいろ気持ちが面倒くさくなっていて。人間誰しも、わからないものや言葉に当てはめられないものはちょっと嫌だなって感じると思うんです。”おばけ”は、そういう型に当てはめられるぐらいやったら、僕はおばけになってもひとりで死んでいきますって曲ですね。
──後藤さんってもともとジャンルの概念があんまりないように感じます。
後藤 : 「うるさい音楽です!」って言い切りたいけど、でもそれだけやったら自分もたぶん満足しないし、メロディーがなけりゃダメだと思ってしまう。歌モノとビートの激しい曲、どっちもないとバランス取れなくなりそうで。
相思相愛には全く興味ない
──『ゲンズブールに愛されて』というタイトルは?
後藤 : “ゲンズブール”はフランスの音楽家、セルジュ・ゲンズブールのことですね。僕は誰に愛されたとしても、相思相愛になったらバイバイっていう感じなんです。だから相手が僕のことを好きにならなくてもいいんですよ。それがたとえゲンズブールであっても。もし、ゲンズブールが僕のことを好きになってしまったら、自分の中でゲンズブールがゲンズブールじゃなくなっちゃうと思うんですよ。ゲンズブールはゲンズブールでいてほしい。だから『ゲンズブールに愛されて』ってタイトルなんです。愛されたいでもないし、愛したいでもないし、愛されても…… みたいな意味ですね。わかりにくいかもしれないけど。僕は1番好きなものとか特別なものとかを自分の中で完結させたくて。
──相思相愛に興味がないってことですか?
後藤 : 全くないですね。好きなバンドとも絶対に対バンはしたくないし。
──ライヴを観たとき、後藤さんはお客さんと距離が近いのにどこか遠いように感じたのはその考え方だからかも。
後藤 : そうですね。お客さんが僕のことを愛してようが愛してまいが飛び出ていくし、「お前ら! 死ね!」って言う(笑)。でも好きでいてくれたら嬉しいですよ。この前新宿HMVでインストア・イベントをやったんやけど、本編が終わってステージに戻っていったらお客さんが「リリースおめでとう」って、ケーキを用意してくれたんです。僕が活動してなかった5年間も、仕事も学校も住む場所も違うお客さんの関係が継続されてて、それがすごい積み重なって絆が深まっているのを感じてめっちゃ感動しました。
──ここからはツアーも決まってるし、これからの後藤さんの活動が楽しみですね。
後藤 : おもしろいと思えることは何でもやりたい。この間、コンビニのバイトの募集を見て、もう面接を受けられない年齢になったのかと思いました。もう大人になっちゃったなって。でも、いつでも若手でいたいし、年齢で分けんなよみたいな気持ちはあります。
編集 : 西田健
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LIVE SCHEDULE
DJ後藤まりこ1stアルバム『ゲンズブールに愛されて』レコ発ツアー
『Je t’aime, mon amour Tour 2020』(ジュテーム・モナムールツアー2020)
2020年1月24日(金)@熊本県・熊本NAVARO
時間 : OPEN&START 21:00
チケット : adv. ¥2,000 / door ¥2,500(+1D別))
2020年1月25日(土)@大分県・大分AT HALL
時間 : 未定
チケット : 未定
2020年1月26日(日)@福岡県・福岡UTERO
出演 : PANICSMILE / Bellbottom From 80's / the camps
時間 : OPEN 18:30 / START 19:00
チケット : adv. ¥2,500 / door ¥3,000(+1D)
2020/2/9(日) 大阪府・梅田シャングリラ ※ワンマン
時間 : OPEN 17:45 / START 18:30
チケット : adv. ¥3,300 / door 未定(+1D別)
2020/2/11(火祝) 愛知県・名古屋ハックフィン ※ワンマン
時間 : OPEN 18:00 / START 18:30
チケット : adv. ¥3,300 / door 未定(+1D別)
2020/2/16(日) 北海道・札幌スピリチュアルラウンジ
時間 : OPEN 18:00 / START 18:30
チケット : adv. ¥3,300 / door 未定(+1D別)
2020/2/29(土) 東京都・渋谷WWW(ツアーファイナル)※ワンマン
時間 : OPEN 17:00 / START 18:00
チケット : adv. ¥3,300 / door 未定(+1D別)
2020/3/8(日) 沖縄 Output
出演 : ワンチャイコネクション / HARAHELLS
時間 : OPEN 17:00 / START 17:30
チケット : ¥2,800 / door ¥3,000(+1D別)
【詳しいライヴ情報はこちら】
http://510mariko.com/special.html
PROFILE
後藤まりこ
大阪で結成され瞬く間に人気を博したバンド「ミドリ」のギター・ボーカル、そして「後藤でステージに立つDJ後藤まりこ。 「DJはだいじょーまりこ」(ソロ名義)での活動を経て、突如『DJ後藤まりこ』として2018年に活動開始。 作詞・作曲・トラック制作まで全てひとりで行い、CDJ1台とマイクを武器に、ステージにはアンプを置き、ハンドマイクでボーカルを取るスタイルを確立しており、 より研ぎ澄まされた天才的なライブパフォーマンスは、各地のライブハウス・イベント・フェスを沸かせている。
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