前々作『Turn Red EP』ではバンドにシンセサイザーを加え、前作『ILLMINATE』では音響系・ポスト・ロック界の巨匠、ジョン・マッケンタイアをレコーディング/ミックス・エンジニアに迎えるなど、常に新たな扉を叩き、バンドとして大きく進化し続けるLITE。頻繁なリリースの中で国内外のライヴを多くこなし着実に人気を獲得していく彼らだが、いつも現状より更に先に進むために新しい方法を模索している。そんな彼らが新作『For all the innocence』を作るにあたって共同制作者に選んだのは、BOOM BOOM SATELLITES、DJ BAKUなどのエンジニア・ワークを数多く手がける三浦カオル(ex.oak)。この作品を完成させ、彼らはどのように進化したのか? LITEが向かうその先とは? LITEの中心人物である武田信幸(g)と三浦カオルに話を伺った。
インタビュー : 飯田 仁一郎
LITE / For all the innocence
本作はBOOM BOOM SATELLITES、DJ BAKUのエンジニア/共同プロデューサーの三浦カオル氏を迎えて3年振りとなる国内レコーディングを敢行。『For all the innocense(=すべての無垢な者たちへ)』は、人生においての命題でもある「人間と動物の関係性」をコンセプトに掲げ制作された。70年代のプログレ、80年代のニュー・ウェイヴを彷彿させる独自のシンセ・サウンドと、ジャズ、テクノ、ミニマル、アフリカン・ビートなどのダンス・ビートを取り入れたリズムが、今までの有機的なバンド・サウンドと融合を果たし、ポスト・ロック以降の、真の意味でのポスト・ポスト・ロック・サウンドを鳴らし、今までのLITEサウンドの定義の超越に成功した。
【Track List】
1. Another World / 2. Red Horse in Blue / 3. Rabbit / 4. Pelican Watched As The Sun Sank / 5. Rebirth
6. Pirates and Parakeets / 7. Pirates and Parakeets / 8. Cat Cat Cat / 9. Duck Follows an Eccentric
10. 7day Cicada / 11. Mute Whale
アイディアや知識の面で、第三者の目が欲しかった(武田)
――三浦カオルさんとLITEはどこで出会ったんですか?
三浦カオル(以下、三浦) : 僕は元々oakというバンドをやっていて、そのギターがLITEと知り合いだったから、6、7年前からLITEの存在は知ってたんだよね。対バンもしたしお互い顔見知りではあったんだけど、まあそれぐらいの関係でした。でもLITEのライヴは何度も見ていたので、僕なりに感想や客観的な意見はたくさん積んでました。音楽を聴いて分析するというか、感動したらどこに感動したか、物足りなかったら具体的に何が足りなかったのか、そういう風に考えながら聴く癖が付いてますからね。
――三浦さんは、今はエンジニアのみですか?
三浦 : のみです。僕のキャリアとしてはWALRUSというバンドでベースを弾いて、DJ BAKUの1st Albumからエンジニアの仕事を始めて、その後BOOM BOOM SATELLITESのアルバムを4、5枚やらせてもらって、2人と話をして客観的な目から意見をしたり… 彼らは最初から完成度が高いので僕は頷くだけなんですけど(笑)。そこで得た知識はたくさんありますね。
――その中でLITEとやることとなったきっかけは?
武田信幸(以下、武田) : 昔からカオルさんの存在は知っていましたし、BOOM BOOM SATELLITESも好きでずっと聴いていたし、僕らとの距離が近いdeepsea drive machineというバンドが最近カオルさんに録ってもらったって話も聞いてきたので。前作はジョン・マッケンタイア(Tortoise/The Sea and Cake)にエンジニアをお願いしたんですけど、その時に埋めたかったけど埋められなかったものがあったんです。
――埋められなかったものって?
武田 : 言葉の壁もそうなんだけど、僕らは二作品前の『Turns Red EP』からシンセを入れ始めたんで、「シンセって何? 」というところから始めてるんですよね。やってみたけど何か違う、作りたい音が作れない。だからアイディアや知識の面で、第三者の目が欲しかったんです。ジョンの作品が好きだから、ああいう音を求めて彼に依頼したんですけど、彼の録り方は生音でバシっと録る感じで、空気感はすごく音源に出ててそれはそれで良いんですけど、俺らがシンセでやりたいことは、俺らのままを出すことじゃなかったんです。その前作では成し得なかったことを今作でやりたいという前提があって、カオルさんに頼もうって話になったんですよね。
――三浦さんは打ち込みベースのバンドを手掛けることが多いんですか?
三浦 : そうですね、綿密に作っていくのが好きなので。今まで、例えばDJ BAKUの作品とかは自分のアーティスト性をそこに投入せざるを得ない場合が多かったんですけど、今回のLITEはそれとは違って、バンドが考えていることを作品にどう昇華させるかというのをちゃんと考えられた初めての仕事になりましたね。僕自身が元々アーティストなので、人がどうでもいいと思うような一瞬の音をとてつもなく愛せちゃったりするんですよ。「この音さえあればこの曲は聴かせられるものになる」とか。そういうエゴも強いんだけど、今回では一切そこを取っ払って全部バンドに答えを求めることにしてました。そういうスタンスで作った作品なので、これからみんながどう反応していくかが楽しみですね。そういう、LITEと僕です。
武田 : 何か締めみたいになっちゃった(笑)
三浦 : 2010年のKAIKOO POPWAVE FESTIVALでoakを解散させて、そこからだいぶぼけーっとしてたんですよね。一カ月間ほとんど海に居ました。
――三浦さんはどちらかというと山っぽいですよね。
三浦 : それちょっと嬉しい(笑)。一昨日映画の「剣岳」観て「やっぱ山やなあ」と思ってたとこなので。今年は海いかんとこって(笑)。
――(笑)。そこから?
三浦 : 辞めてから、僕がしたいこととしてはアーティストの手助けをして、彼らの考えていることをなるべく良い形で責任を持ってやるということで、コミュニケーションの面とかで僕にしかできないこともあるんじゃないかな… どうかなあ? と考えているところにLITEの話が来たんです。
クリエイトな状態をなるべく維持したい(武田)
――実際のレコーディングではどうでしたか?
三浦 : 僕は最初に大体の地図を描くんです。でも呼ばれて行ったらまだ2曲しか無くて、「ワオ! 」って(笑)。
武田 : 日本地図でいうところの四国しかないみたいな感じですよね(笑)。
――かなりの見切り発車ですね(笑)。その2曲はどれですか?
武田 : 「Rabbit」と「Red Horse in Blue」ですね。
三浦 : 年末に会って年明けてすぐにプリプロをやって、相当タイトだったんだけどその2曲をプリプロでやって、それによってバンドと僕のコミュニケーションを積み上げることが出来たと思うんです。
――その後に震災もあって、海外ツアーもあって、他の9曲はいつ作ったんですか?
武田 : 海外ツアーでも車の中でLogicを打ち込んだり、マイク・ワットと家に居る時もみんなで楽器を弾きながら作ったり、日本に帰ってきてもツアー先の大阪のホテルで作って、次の日にスタジオに入って、とか。クリエイト・モードになってたんですね。
三浦 : そういうテンションが沸騰してる雰囲気があったから、最初は2曲しかなくてもちゃんと作ってくるだろうなと思ってた。最初、僕はメンバーに「LITEは楽曲がストイックで演奏も上手いけど何のためにやっているのかがわからない、心を動かす部分が僕にはピンと来ない」というのを正直に話していたんです。でも曲のタイトルにはぐっときてたんです。タイトルに動物の名前が入っていて、物体ではなくて生きているものじゃないですか。このタイトルを付ける限りは何かあるはずだから、感動させる何かが見当たらない場合はまた話し合って考えてというのを繰り返しました。それに対してみんなが素直に反応してくてたので、短い間だけど信頼関係はちゃんと出来ていて、仕事しやすかったですね。
――LITEにとってはどうでした?
武田 : カオルさんには説得力があったので、僕らとしてもやりやすかったです。言葉だけじゃなく、プリプロでまとめてくれたり、アイディアを付け足してくれたり、僕らがやりたいことをそれ以上に膨らませて返してくれていたので、理解してくれてるんだなって思ってました。この人とならすごいものを作れるなという確信がありましたね。
――先ほどクリエイト・モードと話していましたが、そうなれたのは今回が初めてでしたか?
武田 : 初めてではないですけど、今までそのモードに切り替わるのってスタジオの中でだけだったんですよね。それが今は家に持ち帰っても継続できているので、それは初めてです。
――それはLITEとしてのモードではなくて、武田さん自身のモードですよね。前作まで時ジャム・セッションで曲を作っていたのが、今作から武田さんの世界をみんながアレンジする方法に切り替わったってこと?
武田 : 前作までもそういう兆候はあったけど、今作はがっつりそうですね。
――それってバンドも望んだことなんですか?
武田 : それはわかりませんね。
三浦 : でもLITEはみんな大学生の頃からずっと続けているバンドだから、みんな何もしなくても、鳴らせば勝手にLITEの音になるんですよね。僕はそこにはメスを入れず、話すのは主に武田くんだけでした。あとLITEはアンサンブルの音楽だから、個々の音や業は案外薄いんですよ。例えば坂本龍一さんは導入でポロンと弾いただけですごく強い印象を残しますよね。あの演奏をする人はLITEには誰もいなくて、代わりに合体した時に化学反応なり破壊力が起こる。そこを自分達でも理解しているから、楽でした。何をやっても崩れないので。
――武田さん以外の3人にはあまり何も言わなかった?
武田 : フレーズに関してはほとんど言ってませんでしたね。
――フレーズは武田さんがLogicで打ち込んだもの?
武田 : それも完璧なものではなくて、完全なデモ状態です。ベース無しのものを打ち込んで、ラインは全部井澤が考えるとか、そういう作り方なんです。俺が一人で作ってる段階では「これをLITEでやるとどうなるんだろう」とも思ってるんですけど、合わせてみるとちゃんとLITEになる。今回そこがすごくわかったというか、確信を得ましたね。
三浦 : セッションっぽく作った曲は「Duck Follows an Eccentric」だけだよね?
武田 : あれは山奥で作った曲です。
三浦 : バンドの雰囲気をひっくるめてぎゅっとしたいと思ったので、おおまかにステレオ・マイク2本で、あとは個々の音を録るけど基本一発撮り。録音の前にみんなで確認し合う時間はたっぷりと与えて、録音して出来たのを渡すと皆が向こうでごちゃごちゃ喋ってるんですよ。苦手なところを繰り返したりしながら、みんなの気分がどんどん上がっていって、バンドって良いなって思いました(笑)。
武田 : その雰囲気収められてますね。最後、懸けでブースを全部開けっぱなしにして録音して、そうするとミスの修正ができなくなるんだけど、その緊張感の中で最後に演奏したのがすごくよかった。
三浦 : 今までのLITEはそういう作り方だから、あの曲が生まれた時はアルバム全体がエキサイティングに見えましたけど、その後にもう一個大きい山があったんだよね(笑)。
――最大の山は何でしたか?
武田 : 最初に録った「Red Horse in Blue」が盲点でしたね。
三浦 : 曲の構成を入れ替えたりミックスに時間をかけたりして最後までなかなか決まらなかった曲なんだけど、最終的なOKラインはバンドに任せました。バンドが選択したものが決まって、ミックスに落とすまでには僕も納得がいくように考えと音を繋ぎ合わせるんですが、何が来ても落とし所がある感じだった。
クリエイトな状態をなるべく維持したい(武田)
――録音に関してこだわった部分はありますか?
三浦 : Pro-ToolsとNuendoで録りました。音質的にこだわった事と言えば、前作を録ったジョン・マッケンタイアがとにかく上手い人ですから。その先にあるものを作れるように、僕は無謀にも何回も前作を聴き返しました。彼はアナログっぽい雰囲気の音の詰め方、音の密度を出す人で、僕は主にコンピューターを使っている方だから、絶対に出来ないことがあるんですよ。でもデジタルであろうが何であろうが、ジョンが作ったウォームな雰囲気がバンドには絶対必要だと思って、色々と気を付けながら録音しました。ベースを9割は58マイクで録ったり、クランチ・ギターのエッジをその奥にあるものが出てくるまで潰したり、謎なこともたくさんしました(笑)。テープ・エコーやアナログのエフェクトを使って癖をつけたりね。
――LITEはアナログの音にはこだわりましたか?
武田 : 生の質感は欲しかったです。完全デジタルのバキバキした感じにはしたくなかった。
三浦 : 僕が今度やってみたいこととしては、エディットとミックスで出来上がったものをアメリカのジョン・マッケンタイアの所に持っていって、彼にアシスタントについてもらって最後混ぜるのだけをやってもらう。最後にあのシカゴの匂いをちょっと足したいんですよね。で、僕が「これで大丈夫かな? 」と聞くんです。するとジョンが「エクセレント! 」って言う。そのためだけにアメリカに行きたいですね(笑)。狭い部屋のスタジオで作ったからとかコンピューターで完結させたからとかで、スケール感もこの程度なんだなってバンドにがっかりされるのが嫌だからそこは凄く気を付けた。ずっとエンジニアを続けてきた人や一流のスタジオには音質などでは敵わないこともあるので、僕はその分バンドとのコミュニケーションをとることでもっとすごい、信じられないものを作りたいと思ってて、そこにLITEの話が滑り込んで来たんだよね。
――では最後に、LITEのこれからの動きについて教えてもらえますか?
武田 : 今、ミニ・アルバムを… 。
――もう!?
武田 : 気持ちは入ってまして(笑)。さっき話したクリエイトな状態をなるべく維持したいなと思っていて、でもこの時間って限られているものだとも思うんですよね。だからやれるうちに色々とやっておきたい。もっとやれるんじゃないかという期待もあるんです。
LITEの過去作はこちら!
LIVE SCHEDULE
2011年7月10日(日) @仙台PARK SQUARE
2011年7月13日(水) @広島4.14
2011年7月14日(木) @福岡GRAF
2011年7月15日(金) @岡山PEPPERLAND
2011年7月16日(土) @愛媛 松山SALONKITTY
2011年7月17日(日) @京都METRO
2011年7月22日(金) @金沢VANVAN V4
2011年7月23日(土) @長野 上諏訪DOORS
2011年7月24日(日) @名古屋CLUB ROCK'N'ROLL
2011年8月20日(日) @大阪 鰻谷SUNSUI
2011年8月21日(日) @名古屋CLUB DIAMOND HALL / APOLLO THEATER
2011年8月26日(金) @渋谷WWW
2011年8月28日(日) @みちのく公園北地区 エコキャンプみちのく
2011年9月22日(木) @大阪BIG CAT
2011年10月14日(金) @Glasgow,UK - STEREO
2011年10月15日(土) @Leeds,UK - BRUDENELL SOCIAL CLUB
2011年10月16日(日) @Birmingham,UK - FLAPPER
2011年10月17日(月) @Plymouth,UK - WHITE RABBIT
2011年10月18日(火) @Bristol,UK - FLEECE
2011年10月19日(水) @Manchester,UK - MOHO LIVE
2011年10月20日(木) @Belfast,UK - LIMELIGHT
2011年10月21日(金) @Galway,IRELAND - ROISHIN DUBH
2011年10月22日(土) @Dublin,IRELAND - WHELAN'S
2011年10月23日(日) @Cork,IRELAND - CRANE LANE THEATRE
2011年10月24日(月) @London,UK - BORDERLINE
2011年10月25日(火) @Paris,FRANCE - GLAZ'ART
2011年10月26日(水) @Luxembourg,LUXEMBOURG - TBA
2011年10月27日(木) @Brussels,BELGIUM - MAGASIN 4
2011年10月28日(金) @Hasset,BELGIUM - CARPE DIEM
2011年10月29日(土) @Maastricht,NETHERLANDS - MUZIEKGIETERIJ
2011年10月30日(日) @Utrecht,NETHERLANDS - EKKO
PROFILE
LITE
2003年結成、4人組インスト・ロック・バンド。今までに2枚のフル・アルバムと2枚のEP、1 枚のスプリットCDをリリース。独自のプログレッシブで鋭角的なリフやリズムからなる、 エモーショナルでスリリングな楽曲は瞬く間に話題となり、また同時にヨーロッパのレーベルからもリリースし、ヨーロッパ、US、アジア・ツアーなどを成功させるなど国内外で注目を集めている。 そして昨年10月に立ち上げた自主レーベル「I Want The Moon」より、音響系/ポストロックの巨匠で、TORTOISE、The Sea and CakeのJohn McEntireを迎えて、 シカゴのSoma Studioにてレコーディングされた5曲を収録したミニ・アルバム『Illuminate』を2010年7月7日にリリースし、2度目となるFUJI ROCK FESTIVAL'10へ出演など、近年盛り上がりを見せているインスト・ロック・シーンの中でも、最も注目すべき存在のひとつである。