クッキーシーン編集長で、文筆家、翻訳家でもある、伊藤英嗣が講師をつとめる「」が、2013年4月よりプチ・リニューアル。『ロックのコトバ』というメイン・タイトルの元、1つのテーマを3回に渡って深く追求していきます。4月から始まるテーマは、「ヴェルヴェット・アンダーグラウンドが切りひらいた地平」。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの影響下にいるであろう3アーティストに焦点をあて、歌詞から時代背景やバンドとの関連性を考えていきます。
このたび、開講を前にして、講師である1963年生まれの伊藤英嗣と、OTOTOY編集長にしてオルタナティヴ・パンク・バンド、Limited Express (has gone?)のリーダーでもある1978年生まれの飯田仁一郎の対談を企画。年代は違えど、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの音楽に魅せられた2者が、今回の講座テーマを肴に、自分たちが影響をうけてきた音楽、歌詞のことについて話しました。また、進行をつとめた1982年生まれの筆者も影響を受けた人間として、3つの世代からヴェルヴェット・アンダーグラウンドを語った内容となっています。この続きが気になる、という方は、ぜひ講座に足をお運びください!! それでは、対談をお楽しみください。
話者 : 伊藤英嗣(クッキーシーン編集長、文筆家、翻訳家)×飯田仁一郎(Limited Express (has gone?)、OTOTOY編集長)
進行 : 西澤裕郎
ロックのコトバ ~歌詞対訳講座 vol.5 『ヴェルヴェット・アンダーグラウンドが切りひらいた地平』
講師 : 伊藤英嗣(クッキーシーン編集長、文筆家、翻訳家)
会場 :
定員 : 15名
受講料 : 10,800円(税込・全3回分)
<開催日時>
2013年4月27日(土) 15:00-17:30 第1回「LOU REED」
2013年5月25日(土) 15:00-17:30 第2回「TELEVISION & TOM VERLAINE」
2013年6月22日(土) 15:00-17:30 第3回「THE STROKES」
音楽のみならず「言葉」の面からもロックを深く追求していこうという、この講座、おかげさまで第5期を迎えることができました。この機会に、大きな変更をふたつばかり…!
まずは、決して「歌詞対訳の細かいテクニックを伝授する」なんてことを「主な目的」とはしていない当講座の内容をより明確に体現すべく、今回から「メイン・タイトル」をつけてみました。題して『ロックのコトバ』。
講座の詳細は
伊藤英嗣×飯田仁一郎『ヴェルヴェット・アンダーグラウンドが切りひらいた地平』
ヴェルヴェッツの「子供たち」とは?
飯田 : 今回の「歌詞対訳講座」は、ヴェルヴェッツがテーマなんですよね?
伊藤 : そうそう。正確には、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドではなく、あくまでその子供たちなんだけどね。
飯田 : 最近、僕は自分のことをヴェルヴェッツの「子供たち」の「子供たち」だと思うことが多くて。結局、サーストン・ムーアの新しいバンドを見たって、キム・ゴートンの新しいバンドを見たって、やってることは変わってないですもんね。そこに反応してしまうんですよ。
伊藤 : ソニック・ユースは78~9年に20代だった(つまり、ヴェルヴェッツの「現場」とぎりぎり被ってる)から、しょうがないよ。直結してるっていうか。
飯田 : そうですね。
伊藤 : ある意味、テレヴィジョンが、ヴェルヴェッツとソニック・ユースをつなぐ存在ですよね。それで、最後の講座のテーマがストロークスに繋がるんですけど。
飯田 : 最後はストロークスなんですね。
伊藤 : 要するに、そこでヴェルヴェッツから切れたっていう展開にしようと思っていて(笑)。ヴェルヴェッツの子供たちっていうと、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの影響が強かったかって思われるかもしれないけど、この講座の場合は逆なんだよね。
飯田 : どういう意味ですか?
伊藤 : 例えば、1回目の講座がルー・リードなんですけど、いかに彼がベルベット・アンダーグラウンドから離れようとしてるかっていうことをテーマにしようと思っていて。
飯田 : ルー・リードの何年くらいの作品を取り扱うんですか。
伊藤 : 僕がルー・リードがほんとに好きなのは80年代半ばまでで、ヴェルヴェットの幻想を振り払おうとしている時期なんですよ。そういうルー・リードの流れを追ってみようかなって。
飯田 : 伊藤さんのヴェルヴェッツ体験って、タイムリーじゃないですよね?
伊藤 : そんなジジイじゃないよ(笑)。
飯田 : (笑)。僕らの世代って、ブランキーとかミッシェルとか、ハイスタに影響を受けて、その後セックス・ピストルズに辿り着くんですよ。もしくは、ハード・ロック&ヘヴィ・メタル、オアシス等のギター・ロックとか、そういう流れにいて。その中で、「下手でもいい」「メロディが良ければいい」って言われたとき、うわ、すごいって思って。それがヴェルヴェッツで一番覚えてる体験ですね。
伊藤 : 例えば、1stアルバム『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』にはメロディきれいな曲が多いですよね。
飯田 : ベタな話ですけど、先輩がアコギで「サンデーモーニング」を歌ったとき、これをかっこいいって言っていいんだってのが衝撃で。例えば、セックス・ピストルズとも、ミッシェル・ガン・エレファントとも、ハイスタンダードとも全然違ったんですよ。
伊藤 : でも、それはちょっと無理がない? ヴェルヴェッツのもう一つの面、ノイジーで、クラウトロック的な部分、ドラッギーではないノイズ・ロックの始祖、っていうのが僕にはでかいですけどね。それがベースにあって、一方ではメロディがきれいだという。
飯田 : まさにそこで、メロディがキレイなのに、その後ろにあるノイズとかサイケとかドラッグとかが絡んでくるのが格好よかったんです。
伊藤 : ある意味、多面的に捉えられるバンドだったっていうのはあるよね。
飯田 : そうですね。メロディも含めて、雰囲気がすごくあって、その先に見たことのない世界がある。僕は学生になったばかりだったので、ドラッギーな世界もサイケの世界もまだ知らなくて。それを知ることができたのは、ソニック・ユースの流れで聴いたヴェルヴェッツの体験がでかいんです。
伊藤 : ヴェルヴェッツが売れなかった理由は、それだと思うんだよね。特に日本盤が出ていなかった理由は「これはこういうバンドである」って言えないことっていうか。アンディ・ウォーホールが絡んでいるし、都会的っていうのはすごく言えてると思うんだけどね。さらに話がややこしのは、有名な「ヘロイン」て曲があるじゃないですか。あれって、ただ単にヘロインをやって、やばい状態になっていくときのうたなんだけど、なにも批評してないんだよね。
飯田 : そうなんですね。
伊藤 : <Heroin、it's my life it's my wife>って言ってるけど、ルー・リードの主張としては、ただ情景を歌ってるだけなんだって。小説とか映画とかでは破滅していく様子がいくらでも描かれてるんだけど、なんで音楽でそれをやったら受け入れられないんだ、理解してくれないんだっていう、そういう主張。でもルー・リードからしたら、いわゆるノンポリシーというか、ノンポリティックというか。今回ピックアップした「ロックンロールハート」という曲の歌詞に、<I don't like messege something that say>だっけかな、とにかくその、はっきりと口に出して言われるようなメッセージは好きじゃない。歌われるようなメッセージは好きじゃないっていう歌詞があって。
飯田 : その思想に、Limited Express (has gone?)は本当に影響を受けたんですよね。
伊藤 : たぶんそういうところが、都会的なミュージシャンの先駆けなのかもね。ボブ・ディランとか、ジョン・レノンのときから、メッセージ性がロックみたいなのがあったじゃないですか。わりとそういうのは避けてたバンドだよね、ヴェルヴェッツは。
ストロークスとヴェルヴェット・アンダーグラウンドの関係
ーーでも、面白いですね。僕がヴェルヴェッツに行き着いたのって、ストロークスなんですよ。
伊藤 : ストロークスはヴェルヴェッツから離れたって一面を持っていると思うんだけど、都会的なクールさって点ではヴェルヴェッツに繋がってるんだよね。いかにもニューヨークっていうか。あと、最新アルバムからの第一弾ミュージック・ヴィデオ見たら、ルー・リードがちらりと映ってたような…。勘違いかもだから、また見なおしてみるけど(笑)。
ーー2000年代前半期のメディアって、ストロークスのバック・グラウンドにヴェルヴェッツがあることをしきりに書いていて、それを読んだ僕の世代はヴェルヴェッツが神格化された経緯が一つあると思うんですよ。
伊藤 : いろんな段階で神格化が進んでいったわけだよね。いわゆるパンクの時代が一つあり、ソニック・ユースとかの時代が一つあり、ストロークスみたいな時代が一つあり、みたいな。
ーーだからヴェルヴェッツ自身が多面的なのもあると思うんですけど、そこからその後に出て来た子供たちもまた多面的な階層になっているというか。
伊藤 : そうだね。僕はアルバート・ハモンド・Jr.にもインタビューをしたことがあるんだけど、決めつけられることをやっぱり嫌がっていて。「エイフェックス・ツインとか、ニュー・ウェイヴっぽいね」って言うと喜んでたりとか。とにかく、音作りが1stの時から狂ってるじゃん。いわゆるローファイの音ではないんだけど、完全に録り方もエフェクトもいじっていて。ストロークスの初来日ではっきり覚えてるんだけど、ベースがカーズみたいだったんだよね。ルートをピックでドゥンドゥンドゥンって。これ、ニュー・ウェイヴじゃんって。ルート弾きと、ルートから一瞬だけど離れる感覚っていうのがすごく印象に残ってて。特にベースをピック弾きっていうのがすごく懐かしい気がした。それプラス、彼らが出てくる前にラモーンズがかかるのね。それ普通じゃん!! と思うと、次にシンディー・ローパーがかかって、そのあとにマイケル・ジャクソンの「デンジャラス」がかかったり。
飯田 : それは彼らが選曲してるんですかね?
伊藤 : エンジニアが好きにかけてるのかも知れないけど、バンドのモチベーションが上がるものをかけるわけじゃないですか。そこでラモーンズからマイナーなものに行くんじゃなくて、シンディー・ローパー、マイケル・ジャクソンに行くっていう。すごく好感を持ったけどね。世代的に言うと、ストロークスは飯田さんよりも若いよね、たぶん。
飯田 : ストロークスは俺、あまり聴きこんでなかったですから。
伊藤 : そうだよね。そうすると、さっき飯田さんが言ってた、いろんな音楽があるっていう状況がさらに進んだんじゃない?
飯田 : そうですね。
伊藤 : 彼ら(ストロークスの世代)にとっては、ヴェルヴェッツもビートルズもでかすぎる存在だから、俺らにとっては関係ないみたいな感じなのかな。
飯田 : 僕らの世代は結構、ソニック・ユースのすぐ後ろにヴェルヴェッツに辿り着く要素みたいなものがあったけど、ストロークスのすぐあとにヴェルヴェッツってあまり想像できなくて。
ーーでも当時はインターネットが今ほどではなかったので、雑誌を読むとほとんど必ずヴェルヴェッツ以降のって書いてあるわけですよ。
飯田 : やっぱ以降なんやね。
伊藤 : ポストにはなるんだよね。
ーー1stのジャケットとか、インパクトあるじゃないですか。僕らにとってストロークスがモダンだったので、その大元にバナナがあるんだと思うと、ヴェルヴェッツも超かっこいいなあって認識があって。
伊藤 : お尻とバナナの感じに似てるよね。
飯田 : 確かに(笑)。
伊藤 : ビジュアル・センスっていうか。
飯田 : でも、プレイヤーとしてはとりあえずソニック・ユースのがでかいかな。もうちょっと彼らの方が難しそうなことをしてた。難しいか難しくないかは置いといて、ヴェルヴェッツはあまりにも簡単すぎて。
伊藤 : ソニック・ユースは、チューニングとかギターもかなり変えてるよね。ヴェルヴェッツの初期は、ギターのチューニングとかを変えずに、普通のコードでただうるさくしている。当時はミュージック・コンクレートなんて言っていたけど、今でいう「現実音のサンプリング」的なものを使っていたっていうね。
飯田 : なんか、ヴェルヴェッツ大好きです系の人たちは、半分偏見だけど、ライヴ・ハウスに出れなかったんですよ。
伊藤 : アートだからね(笑)。美術館でやってりゃいいじゃんて。
飯田 : 学祭とかでも、ヴェルヴェッツ好きですって言うサークルを見に行くと、演奏しているところで誰かが本読んでるみたいな。
伊藤 : あははははは。それ、すごいね。
飯田 : そういうところだったので、プレイヤーってところではそこまで影響を受けていないかな。
好き勝手に解釈して人に伝えるってことで、音楽が面白くなる
ーーさっき伊藤さんが「はっきり言われるようなメッセージは好きじゃない」ってことを解説していましたが、伊藤さんが行っているのは歌詞対訳講座じゃないですか。それを前提に歌詞を分析していくっていうのは、興味深いですね。
伊藤 : 僕が対訳講座を通して究極的に言いたいのは、相手が何を「しゃべろうとしてるか」なんだよね。会話をするとき、相手が何をしゃべっているのかが分からないと困るし、会話が成り立たないじゃないですか。だったらそれくらい出来るようになったら面白いじゃないっていう、それだけのことなのね。だから、ミュージシャンの中のメッセージを解読するとか、ミュージシャンの人となりを浮き彫りにするとか、僕自身もあまり興味がないし、そういうことはやろうとしていない。
飯田 : 今、伊藤さんの話を通して歌詞対訳講座ですごくいいなって思ったのは、好き勝手に解釈して人に伝えるってことで、音楽が面白くなることなんですよね。
伊藤 : そうかもね。ミュージシャンが曲を通して伝えたいことが100個くらいあるとしたら、自分が伝えてるのはその中の10個かもしれない。なるべく広くは伝えたいんだけど、全部は無理なので、そういうところだよね。だからミュージシャンが伝えようとしてるところと、自分が人に伝えようとしてる部分がシンクロした部分を伝えてるっていう。対訳講座っていうのもその延長だと思いますよ。2時間半の講座で、その人を紹介するっていうのとか、どういう曲を選ぶかとか、そういうのが出ちゃうじゃないですか。
ーー解釈は一つじゃなくて、そこに対してもっと自由に語っていいんだよと。
伊藤 : そうだよね。レビューって、書く人が解釈して書く「レ」ビュー(re-view)だからさ。インタビューは、ミュージシャンとの間の「インター」ビュー(inter-view)だからね。デッド・トゥリーズ(ストロークスと同じ人がマネジメントしていたギター・バンド)にインタビューした時に、「やった!! どこの店?」って聞かれて、「ごめん、インタビューって言ってもバンドの方なんだわ」って。
ーーどういうことですか?
伊藤 : 要するに、バーとか茶店のバイトの面接を受けさせてくれるってことだと思ったみたい。そしたらバンドのインタビューでちょっとがっかりしたみたいな(笑)。あっ、英語で面接はインタビューだから…。インタビューっていうのは、就職したい人と雇う人の、もしくは質問される人とする人のビュー…つまり見方を、インター(間にあるもの)を、ぐにゃぐにゃと混ぜ合わせて突き合わせるっていう、そういうものなんだよね。レビューっていうのは、一方的でかまわないってところがあるわけですからね。みんな、ディスられるのを怖がってるかもしれないけど、そういう語源があるんですよ。
飯田 : もちろん炎上されたくないって気持ちはあるでしょうね。
伊藤 : でも、つい炎上しちゃうってのはしょうがないじゃんね(笑)。
ーーそういう誤解も含めて、今回の歌詞対訳講座は好き勝手に解釈を楽しんでほしいですね!!
伊藤 : まったく!
PROFILE
伊藤英嗣
1963年愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部在学中より音楽ライターとして活動。90年代には『SPA!』『TVブロス』から数多くの音楽誌までにレギュラー寄稿しつつ、メジャー傘下レーベルを主宰。フリーランスA&Rとして、洋楽の邦盤化(エドウィン・コリンズ、ザ・パステルズ、ドミノ・レコーズなど)に奔走する一方で邦楽もリリース。暴力温泉芸者(中原昌也)らのブレイクにスタッフとして立ちあう。同時にVibe(MTV JAPANの前身局)やTOKYO FM(全国ネット)の番組の構成/出演もこなしていた。1997年に隔月刊雑誌として自費創刊した『COOKIE SCENE』を、現在もウェブ・マガジンという形で主宰している。翻訳/監修訳書に『ハシエンダ マンチェスタームーヴメントの裏側』『クリエイション・レコーズ物語』『ピンク・フロイドの狂気』『マイ・ブラッディ・ヴァレインタイン~Loveless』、監修書に『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド~彼ら自身による証言』『US Indie Pop Map』、共著に『ザ・ストーン・ローゼズ〜ロックを変えた1枚のアルバム』、単独著作書に『Next Generation~Rock & Pop Disc Guide 1980-1998』などがある。
飯田仁一郎
海外を飛び回るオルタナ・バンドLimited Express (has gone?)、配信サイトOTOTOYの編集長、オトトイの学校長、DIYフェスBOROFESTA主催、レーベルJUNK Lab Records主催、さらには大人気のリアル脱出ゲームをブレイクに導く。現在ニュー・アルバム制作中!!
>>Limited Express (has gone?) HP