音楽ウェブ・メディアの代表として、CINRA.NET(以下、CINRA)とOTOTOYは今も成長し続けている。取り上げるアーティストなど、お互い似ている部分も多いものの、明確に違うところも持っている。CINRAはカルチャー・ニュース・サイトと銘打っているように、音楽以外の映画やアートなどのニュースを扱っている一方、OTOTOYは音楽配信サイトとして、WEB上で音源を販売している。そんな似て非なるメディアの編集長が対峙して対談を行うことになった。切り口は、お互いが開催しているイベント…、だったはずが、話は思わぬ方向に転がり、ウェブ・メディアのあり方や、ウェブ上でメディアを持つことの困難さについてまで及んだ。時代の最先端を走る2人が語る現在の音楽事情とは? 動きの速いウェブ・メディアを駆け抜ける2人の対談を見逃すな!
進行&文 : 西澤裕郎
次回10/27開催! CINRAが主催する入場無料のマンスリー・イベント
viBirth × CINRA presents「exPoP!!!!! volume55」
10月27日(木)@渋谷O-nest
OPEN 18:30 / START 19:00
入場無料 (without 2Drinks)
ACT : 世武裕子 / cokiyu / 蓮沼執太 / aoki laska
>>exPoP!!!! website
>>CINRA.NET
11/13立ち上げ! OTOTOYが主催するごった煮イベント
OTOTOY presents「VANISHING POINT」
11月13日(日)@渋谷WWW
OPEN / START 15:00-
前売 3,200円 / 当日 4,000円(1ドリンク別)
ACT :
★world's end girlfriend & BLACK HOLE CARNIVAL
★奇妙礼太郎トラベルスイング楽団
★Open Reel Ensemble
★漁港
★Limited Express (has gone?)
★BiS★青葉市子
★MOROHA
★サカモト教授
★TRIPMEN
★DJ 池田社長
★DJ G.L.T.
>>VANISHING POINT特設ページ
whatよりもhow(柏井)
――アーティストを取り上げる際、CINRAはどのような基準を持って選んでいるのでしょう。
柏井万作(以下、柏井) : もともとCINRAは学生の頃からやっていて、既存のメディアがあまり取り上げていないものの中で、自分たちがおもしろいと思うものをフックアップするというコンセプトでやっていました。その後、株式会社として無料のウェブ・メディアをやっていくことになって、お金を紐付けていく必要が出てきたわけですね。そのとき、何を選びとるのかっていう“what”よりも、どういう風にそれを伝えるのかっていう“how”のほうが、伝える側としては重要だなと思ったんです。だから正直言うと、うちはそんなに選り好みしていません。もちろん、やりたいものは何としてでもやらせてくださいってプッシュはしますけど、「CINRAでやってほしいです」ってお話をいただいたときに、どういう風に伝えたいのかをお話させていただいて、合意できれば基本的に何でもやります。
飯田仁一郎(以下、飯田) : CINRAで取り上げてもらうハードルは高いですか?
柏井 : 全然高くないですよ。ただニュースに関しては、情報をいかにセレクトするのかを重視しています。この前(大山)卓也さん(ナタリー編集長)とも話していたんですけど、ナタリーが1日30、40本とニュースを出しているのに対して、CINRAは10本くらいしか出していない。しかも音楽だけで数えると5本前後で、情報量が圧倒的に違うわけですよ。そこで勝負しても、結局ナタリーと競合することになるし、戦うべきところじゃないなって。これだけ情報が溢れている中で、僕達がおもしろいと思えるものをちゃんとピックアップして紹介する。いろんなジャンルをまとめることに、重きを置いています。だから、インタビューも基本的に週にアップする数は制限しているんですよ。
飯田 : なるほど。OTOTOYがCINRAと一緒なのは、選り好みしないってところ。それはTSUTAYA西院店(小山内信介(Second Royal Records)、田中亮太(JET SET KYOTO/club SNOOZER)、ゆーきゃん(Sunrain Records)などが在籍した京都のレコード・ショップ)で働いていた2001年に、浜崎あゆみと宇多田ヒカルのセールスを経験したことが大きいです。あの時代って、対メジャーって構図はあったんですけど、メジャーだろうがアンダーグラウンドだろうがハッピーだったんですよね。彼女たちのおかげでCDがものすごく売れて、すごいお金が動いていた。だから、レコ屋の人間はよく売れる人のことをアンチだなんてとても言えないんです。
柏井 : そうですよね。
飯田 : それは音楽業界では当たり前のことですし、出稿を出したいって言ってくれた時点でお客様になるわけです。そこで、さっき柏井さんが言っていたように、彼らをどうやって伝えてあげるかって話になる。
柏井 : ただ、CINRAは無料で見られる分、基本的に広告出稿でしか成り立たないわけですよね。その点OTOTOYは、音楽を販売してお客さんからお金をいただいて、価値を提供するっていうやり方をしている。そういうビジネスモデルって、とても羨ましくもあるんです。
飯田 : うまくいけばね。
柏井 : 難しいんですか?(笑)
飯田 : いや、難しいですよ。売上は伸びていて、間違いなく1年前より配信の状況はよくなっていますけど、やっぱりそれほどじゃないんですよ。世界的に見ても規模が全然違う。ガラパゴス化ってよく言われますけど、最近、日本オリジナルの構造がより多くなってきましたね。
柏井 : 多いですね。日本独自の構造のなかで、既得権益をお持ちの方もたくさんいらっしゃるのでね。
飯田 : もともと西洋コンプレックスってあったじゃないですか。あれはなくなったんですかね?
柏井 : それはわからないですけど、コンテンツ・ビジネスみたいなところでいうと、各国だいぶ違うんじゃないですかね。この前、上海に行ってきたんですよ。
飯田 : 社員旅行ですか?
柏井 : そうそう。
飯田 : OTOTOYの社員旅行は善光寺ですよ!
柏井 : いいじゃないですか(笑)。
飯田 : これがCINRAとOTOTOYの差ですよ(笑)。
――(笑)。
柏井 : そのとき、向こう企業の代表の方と一緒にご飯を食べる機会があって、色々教えていただいたんですよ。日本のニュースを見ていると、中国ではiPhoneのニセものが出回ってるみたいな印象があるけど、みんな普通にiPhoneやスマートフォンを使っていて、それで音楽も聴いている。だから、数だけで言ったら日本より携帯で音楽聴いている人は多いんです。ただ、違法ダウンロードや海賊盤が当たり前に流通しているから、コンテンツ・ビジネスとしてはまったくもって成り立たない。それを考えると、日本のコンテンツ・ビジネスはまだ恵まれていますよね。
飯田 : 広告費が出ていたり、フィジカル売りが成り立っているからね。
柏井 : そう。K-POPはフィジカル売りに日本にやってきて、CDを売って帰っていくし、それはビジネスモデルとしてありなんですよね。自分の立場としては、メディアをやっているけれど、そのビジネスモデルに具体的に参加してる気があまりしていない。メディアっていいものを紹介するのが仕事だから、メディアきっかけで商品も買ってもらえればいいと思うんですけど、音楽とかカルチャー系のメディアって、そういうことがあまり出来ていない。それに比べて、ファッション誌のECサイトってめちゃんこ売り上げるんですよ。だから、OTOTOYみたいな売り方とか、メディアとECストアが連動しているようなビジネスは貴重なことだと思うんです。
飯田 : 攻める気持ちだけは忘れないように心がけていますからね。OTOTOYの問題の中で、DRM(Digital Rights Management/デジタル著作権管理)の問題があります。DRMをフリーにしたことによって、メジャーの商品が扱えないとか、そういう問題が付随してきたんです。だから、ふっとタワーレコードとかに行くと怖くなりますよ。タワー1階でめちゃめちゃ押しているものが、OTOTOYにはない。毎日すごく情報を仕入れて、自分たちがこれだと思って押しているものと全く違う世界がタワーとかHMVにはある。そのギャップにはいつもびっくりしますね。
柏井 : メディアとして、扱えない情報もあるということですよね。OTOTOYは、メジャー・メーカーに掛けあったりしているんですか?
飯田 : 最近は比較的若いメジャー・メーカーの人が「OTOTOYさんのやっていることは素晴らしいです。うちのアーティストをここでやってください」って来るので、「じゃあやりましょう」って言って企画を持って帰ってもらうんだけど、絶対に本社の上層部に負けてしまう。
柏井 : 結局法務と戦わなきゃいけないわけですもんね。
飯田 : だから相当厳しいですよね、レコード業界は。それも音楽ビジネスが変わらない大きな理由ですよね。
柏井 : そのあたりは、なんとも言いづらいですよね。制度を撤廃することが損になるのか得になるのかは、やってみないとわからないですからね。
飯田 : DRM問題に関してああだこうだ言い出すと、本当に主張の問題でしかないから、僕らは無くす方に決めたってことだけなんですよね。アーティストがやりたくないんだったら、そういう考えも全然おかしいわけじゃないし。
――そこまでしてDRMを守るということは、得する人がいるわけですよね。それは、どういう人たちなのでしょう。
柏井 : そこらへん僕はあまり詳しくないんですけど、DRMってある意味囲い込みができるんですよね。要するにiTunesってiTunes独自のDRMの方式を持っていたり、そもそもmp3じゃなくてm4pという独自の形式だったりするから、iTunesでデータを買い始めた人は他のサイトで買いにくくなったりする。iPodを使っているうちはいいけど、apple以外の携帯プレイヤーに乗り換えようと思ったら、苦労するわけですよね。そうやってインフラを作ってコンテンツを販売している大手企業には「囲い込みたい」という思惑があるし、パッケージ販売で業績をあげてきたメーカーサイドとしても、簡単にコピーができてしまう形式での配信販売には積極的になれない、という経緯はあるんだと思います。
アーティストのために何ができるか(飯田)
――柏井さんは以前、広告モデルだけに頼ったビジネスをしていると、読者からの信頼を失っていくかもしれないとおっしゃっていましたよね。広告収入以外の新しいビジネスモデルの構想は見えてきましたか。
柏井 : そうですね。CINRAもストアをやりたいなと思っています。CINRAは音楽専門のメディアではないので、電子書籍とか映像とかも販売しつつ、しっかりとアイテムをセレクトした上で、今何がオススメなのか、ちゃんとプッシュするストアを作りたいなと。一時期、nauが出てきたり、DIY STARSが出てきたり、配信サイトがどんどんオープンしていった時期がありましたよね。その時、この調子でどんどんお店が増えていけばいいなと思っていたんですよ。別に売上げを食い合うことにはならないだろうし、むしろ配信で音楽を買う人が増えて、全体的に盛り上がるんじゃないかと思いましたし。そういう意味で、CINRAがちゃんと配信とかをスタートさせたら、OTOTOYと一緒にやれることってもっと出てくるなと思っています。実際、配信ってどうですか?
飯田 : 正直きついですよ。何がきついかっていうとなかなか儲からない。以前OTOTOYでやっていた「リアル脱出ゲーム」は、一気にブレイクしたんですけど、そう簡単にそんな曲線にはならない。OTOTOYはサービスなので、売れるまでは体力勝負だって最近すごく感じています。だから柏井さんが言っていたように、nauとかDIY STARSが出てきたとき、ライバルが出てきたと思って非常に嬉しかったんです。でも、だんだん厳しくなってきて盛り上がりがなくなりつつある。配信ってそれくらい厳しくて、残っているのはiTunesとOTOTOYだけになろうとしている感覚はあります。趣味レベルではできないっていうのは間違いない。配信は開発の比重が大きいので、超専門的で、そこに対する人的コストがすごくかかるんです。実はモノを売っているよりもお金がかかる。
――では、それぞれがメディアとして、どのように全体像を見せようとしているかをお聞きしたいと思います。例えば、雑誌の場合は1つのテーマに関連する記事をまとめて見せることができますよね。それに対して、ウェブの場合は1つの記事を読んで終了ってことになりやすい。それは、twitterやfacebookなどのSNSが普及してからより顕著な傾向だと思います。そんな中、一つのメディアとしてCINRAの全体像をどうやって見せていっているのでしょう。
柏井 : うちはインタビューのページが3カラムになっていて、真中にインタビュー・コンテンツがあって、左右には他ページへの導線が用意してあるんですよね。だからユーザーが気になって関連ページに行ってくれるようなインターフェイスの作り方はしているんですけど、実際問題そんなに使われていないのが計測値として出ちゃう。だったら滞在時間を長くなるようなページの作りこみ方を考えたほうが正しいのかもしれないし、それは媒体によるかもしれないですね。
飯田 : 「Limited Express (has gone? )のインタビューが載ったぜ」って誰かがtwitterでつぶやいて、それを見た人が読みに来るっていうのは雑誌ではなかったことですよね。ソーシャル・サービスと連携して広がっていく感じはおもしろいなと思っています。現在、OTOTOYはトータルで週に4、5本のインタビューがあがり始めているので、どんどん見せ方は変わっていくと思います。さっきも言ったように、ウェブの開発って大変なんですよね。だからCINRAが3カラムにしたときは、僕らにしてみたら事件だったんですよ。すげーって。それがどんだけ簡単にできないかってことを知っているから。
――ただ、そういう制限がある中で、編集長として媒体の色をつけていかなければならないわけですよね。最近OTOTOYの特集には対談がとても多いですが、これはどういう理由があってのことなのでしょう。
飯田 : レーベルから連絡があったときに、他でやっていることを聞くんですよ。例えば、いろんな媒体に記事を出しているアーティストに関しては同じ事をしても仕方ないから、対談しましょうっていう感じで。OTOTOYでしか取り上げないアーティストに関しては直インタビューでいいと思っているんですけど、そうじゃないものに関しては企画で押していこうっていうのが今の僕の考え方です。レーベルさんのことを考えても、ちょっとでもお金を出してくれて、いい記事にしたいのだったら、CINRAではピンの記事が読めて、OTOTOYでは対談が読めて、ナタリーではまた別のものが読めるってほうが健康的。ウェブに関してはそうすべきだなと思います。
――それに対して柏井さんはいかがですか。
柏井 : 基本的には、そのアーティストなり企画に対して、何が一番おもしろくなるかっていうことを考えていますね。アーティストによって、企画記事を作る場合もあるし、インタビューがおもしろいと思ったらインタビューをする。うちがOTOTOYと違うのは、音楽専門じゃないんですよね。アートも映画も芝居も書籍も全部扱っている。いつもライターに言っているのはその違いを理解してもらいつつ、どういう風に取材するかっていうことです。そこは気を使っていますね。あとは企画の切り口もおもしろくありたい。ウェブってすぐアクセス数に出るから、わかりやすいんですよね。うちの場合は、美術館の展覧会をどう紹介するかとか、この映画をどう紹介するかとか本当に多岐に渡るので、企画はいろいろ考えますね。
飯田 : うちの若い編集部にも、このアーティストのために何ができるかって考えないとお金は生まれませんってことはよく言っている。最初普通の対談にしようと思っていても、CINRAの企画がおもしろそうだったから、もっとおもしろそうなものにしましょうかっていうものもある。それくらいリスペクトしているし影響されている。
――CINRAに関して言うと、PaperBagLunchboxの連載記事がとてもインパクトがありました。パーソナルなところまで深く切り込んでいって、デザインも雑誌みたいで、読ませるための工夫がすごくありましたよね。
柏井 : あれは、いいものを作ればちゃんと評価されるんだなって、久しぶりに信じられた企画でした。まったく世の中的には無名なバンドを、ああいう切り口と熱量でライティングして記事を作ることで認められることが分かった。あの記事はその年一番PVが多かったんですよ。どんな有名なアーティストより多かった。やっぱりちゃんと響いて、届くんだなってことがわかりましたね。
――あれくらい深い記事だと、やってほしいって依頼が多く来そうですよね。
柏井 : あれだけ一人のアーティストを掘り下げると、1時間とか2時間のインタビューじゃ出てこない本質的な部分が見えてくるんですよね。今やっているのも、もともとRYTHEMっていうメジャーのユニットで活動していた新津由衣さんなんですけど、本当に頭がよくて、弁も立つ女の子なんですよ。それで最初に1時間普通にインタビューしたら、めちゃめちゃおもしろいインタビューだったんですけど、彼女の本質に触れている感触がなくて。そこからどう掘り下げるべきかってことをマネージャーと共有していって、掘り下げていったら本人も号泣しちゃうくらいの、自分でも隠していた自分が出てきたんです。そこまで深くアーティストの本質を見れる取材をさせてもらえるってのは、すごくありがたいことですよね。
続けていく中で信頼が生まれる(飯田)
――では、イベントのことについてお聞きします。なぜOTOTOYはVANISHING POINTというイベント名にしたのでしょう? ROCK IN JAPAN FESTIVALやclub SNOOZERなど、媒体名を入れることも出来たはずですよね?
飯田 : 実は、最初はAll OTOTOY's Partyと迷っていたんですよ(笑)。個人的なことですけど、僕がやってきたボロフェスタの目標はFUJI ROCKじゃなくてAll Tomorrow's Partiesだったりするんですね。もちろんボロフェスタは京都のイベントだから、それを外に出そうとは一切思っていなくて。でも同じような事を東京でやりたくて、OTOTOYのチーム感がだいぶ出てきたので、イベントをやろうと思ったときにしっくりきたんですよ。もしイベント名をAll OTOTOY's Partyにしたら、大きくなったときに借り物みたいな名前になると思ったので、VANISHING POINTに決めました。VANISHING POINTに関しては大きくしたい。それが実はexPoP!!!!! とは違う点だと思うんです。
柏井 : そうですね。
飯田 : さすがにもう大きくするってことは考えていない?
柏井 : O-eastで2デイズやったりしたことはあるんですけど、無料イベントを大規模でやることは難しいなと思って。もちろん、広告として作ろうと思ったらできるんです。要するに、スポンサーをつけて予算をもらうことで、ギャランティを払って大きいアーティストを呼んでくるっていうことはできる。だけど、exPoP!!!!! がいいのは、アーティストに無償で出てもらっているけれど、それでもちゃんとプロモーションになって喜んでもらえて、お客さんも無料でいいライブが見れて喜んでくれて、ハコも喜んでくれて、みんなが喜べる状況があることなんです。だから、もともとお客さんを集められるアーティストと一緒に、無料イベントを作るのは難しいなって思っているんです。
――VANISHING POINTは大きくしていく目標を持っていますが、その中でどういうことに期待していますか。
飯田 : このイベントがきっかけで、OTOTOYのイベント・カラーが出て、OTOTOYを慕ってくれる人が出てきて欲しい。そう考えると、SNOOZERもrockin' onもメディアの最高レベルだなと思います。イベントをすることで、自分たちの押しているアーティストを見てもらって、フィードバックできるのはすごいことですよね。OTOTOYはrockin' onほど人を呼べるラインナップではないけど、アーティストとOTOTOYがぐにゃっと混ざって大きくなっていったらおもしろいと思っています。
柏井 : おもしろいラインナップですよね。
飯田 : まあ最初は苦労するだろうけど、大きくしていきたいと思います。
――ただ正直このラインナップだと、OTOTOYを熱心に読んでいる人以外は来にくくないですか…?
飯田 : だからこそ、これで勝負したい。それくらいつっぱってみようかなって。
柏井 : そうですね。でもいいラインナップですよね。
飯田 : eeteeにしてもボロフェスタにしても、最初は本当に苦労しているんですよ。
柏井 : ちなみに、ボロフェスタは何年からやっているんでしたっけ?
飯田 : 2002年ですね。今年10周年。
柏井 : すげえ!
飯田 : そのときも、ギターウルフと、新人のLimited Express (has gone?)と、CONVEX LEVELと、さかなっていうような組み合わせだったしね。
柏井 : そう考えると大先輩ですね。
飯田 : 最初は友達に電話かけまくって呼んでいた感じだったけど、10年の積み重ねがあるから、今年も安心して行こうって思ってもらえるようになってきた。exPoP!!!!! も5年続けているからこそ、4アーティストとも知らなくても来てくれるお客さんがついていると思うんですよね。
柏井 : そうですね。
飯田 : 続けていく中で、そういうものが生まれる。VANISHING POINTも最初はコケる可能性もあるけど、自分たちの信じるラインナップっていうのを守って行かないと、結局長く続かないですからね。
柏井 : あっ、そういえばexPoP!!!!! レーベルをやるんですよ。
飯田 : いろいろやりますね! 大丈夫? 柏井さん、僕みたいになるよ(笑)。
柏井 : いやいや(笑)。すごいありがたい話で、exPoP!!!!! はviBirthという固定のスポンサーと共同で開催しているんですね。そのviBirthから「exPoP!!!!! に出たおもしろいアーティストのレコーディングして、世の中に出していこう」というお話をいただいて、8月に荒川ケンタウロスっていうバンドのワンコイン・シングルをタワーレコードで出したんですよ。まだ誰も知らないバンドにもかかわらず、タワー新宿店3位、渋谷店でも10位に入って、おもしろいことが出来そうだなって感じたんです。そういう実績と集客力から派生して、タワー新宿店とコラボして新宿MARZでexPoP!!!!! をしたり、いろんなハコから一緒にやりたいってお誘いはいただいています。300人キャパくらいのライヴ・ハウスでどんどん発展しそうだなっていうのが、いまexPoP!!!!! を続けていてワクワクするところですね。大きくドーンっていうより、コロコロいろんなところに顔を出している感じがCINRAっぽくていいなと思っています。
――飯田さんもVANISHING POINTで弾みをつけたいですね。イベントは本当に大変だけど、身になることが多いでしょうからね。
飯田 : VANISHING POINTを経験に、OTOTOYとしても成長したいんです。イベントをするって、実はものすごい鍛えられるんですよ。
柏井 : 確かにそうですよね。礼儀とかすごく必要ですからね。
飯田 : 全体の見え方とかもそうですよね。
柏井 : あのお客さんが入っていないフロアを見た時の心の崩れ様はないですよ。死にたいって本当に思いますもんね(笑)。
飯田 : それこそプライドのなくし方とかも覚える。フライヤーを配るのもそうだし、そんなことより大切なことが全然あるからね。
柏井 : それは確かにわかる。テレアポ営業してなじられるより、チケットが売れていないイベント前夜のほうがよっぽど辛い(笑)。
飯田 : 自分が上の立場になって、下で働いてくれる人が出来て初めて気づいたんことなんですけど、世の中には意外と全体を見れる人が少ないんですよね。その力をイベント制作が伸ばしてくれると思っている。アーティストがこう動いているときには、こういう動線があってとか、お金のことや照明の人の動きなども自然と学べるから。
柏井 : そう考えるとイベンターには優秀な人が多いのかもしれないですね。
飯田 : そうですね。あとexPoP!!!!! の素晴らしい所は、アルバムを作った時にexPoP!!!!! に出してもらおうと思えること。それって凄いことで、出れる出れないは置いておいて、話を持っていけるってのはすごくいいことですよ。しかも無料で。ライヴを自分のプロモーションに使える場所があるっていうのは発明だと思う。だって、雑誌に掲載するにしてもお金はかかりますし。それよりも自分たちが一番得意なはずのライヴで、プロモーションができてお客さんがいるって状況は最高だなと。だから、2000回を目指してがんばってください!
柏井 : ありがとうございます。でも、2000回を数えるときには僕はとっくに死んでますから(笑)。
PROFILE
柏井万作
1981年生まれ。元バンドマン。CINRA.NETの編集長、CINRA主催イベント『exPoP!!!!! 』やCINRA RECORDSの運営などを担当中。
http://twitter.com/mansaku
飯田仁一郎
オルタナティブ・バンドLimited Express (has gone?)を主軸に、10年続く音楽フェスティバルBOROFESTAやレーベルJUNK Lab Recordsを主催。また、音楽配信サイトOTOTOYやリアル脱出ゲーム等のコンテンツを仕掛けるSCRAPのプロデュース、そして破壊専用ギターSMASH、東京ボアダム、廃校フェス等にも関わる。東日本巨大地震後、5日間で発売した112アーティスト、112曲の6枚組アルバム『Play for Japan』の発起人&プロデュース。