途切れることなき、未来への憧憬
GW初日。混雑した名古屋駅とは対照的に、東山公園駅の周りは平静としていた。汗がシャツにひっつくような晴天の下、マンションの7Fにあるライヴ・ハウスのステージ上には、打ち込みのオケに乗せて曲を歌う出演者。コスプレをした女性客と、曲に合わせて片手を天に上げ体を左右に激しく揺らす男性客。カーテンを通過して差し込む太陽光線で少し明るいライヴ・ハウスで行われているのは、アイドル・イベントだった。
状況に少し戸惑っていた僕に、会場後ろの椅子に座っていた女性が声をかけてきた。チカチカのヴォーカリスト山崎八千代だ。会うのは、約1年ぶりになる。微笑む彼女が指を指した方向には、チカチカのブレインであり、プログラミングを担当する中島竹清。そう、僕はこの2人組テクノ・ポップ・ユニット、チカチカを観るために、朝5時の鈍行電車に揺られて名古屋までやってきたのだ。
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「久しぶりやね」と笑みを浮かべる中島は宮崎県出身で、大学進学で出てきて以来、名古屋で音楽活動を続けている。中島は、8年近く名古屋に住んでいるにも関わらず、九州弁と訛りがとれない。宮崎発名古屋在住テクノ・ポップ・ユニットといわれているのはよくわかる。ライヴで流れてくる打ち込みのオケに反応しては、「ロネッツの<be my baby>のリズムと一緒だよ」とか「ギターがU2っぽいよね」と嬉しそうに耳打ちしてくる。少し間を開けて中島を振り返ってみたら、目をつぶりながら打ち込みの音に耳を澄ませていた。ステージ上のアイドルよりも、トラックの作り方が気になるようだ。2日間一睡もしていないというのに、音楽のこととなると体の疲れも忘れてしまうみたいで、その姿は少年のよう。
アイドルとそのファンばかりの客層の中、トリとしてステージに上がったチカチカは明らかに浮いていた。他の出演者とは異色の組み合わせだが、「アイドルの曲やアニメ・ソングの打ち込みも好き」と偏見はなく、好奇心はどんな音楽にも向けられている。チカチカはジャンルに関係なくイベントに出演することが多い。あふりらんぽのピカチュウと共演したかと思えば、名古屋のアンダーグラウンドなスカム・バンドと共演することもある。「NHKのみんなのうたで歌えるような曲を作りたい」というように、聴き手を選ばないポップさが、そうした間口の広さの理由なのだろう。今回のイベントで、彼らはビートルズの「Come Together」を打ち込みでカバーした。
「僕の人生でどうしても外せないのが、ビートルズとクラフトワークとジュディ・アンド・マリーなんです。それぞれの王道って感じなんですけど、ポップなのによくよく聴くとヘンテコっていう。直接的な影響かはわからないけど、そういうところは意識するようになりました。テクノ・ポップを聴く以前は、50s、60sの音楽にハマってたり、モンド、ブラジル、フレンチ、レゲエ、ヒップホップ、ダンス・ホール、ネオアコ、最近だとニュー・レイヴ系やヴァィリファンキとか色々好きですね」(中島)
「元々、音楽を自ら聴くという事が無かったんですが、家で姉の部屋からピチカート・ファイブやオザケンが流れていて自然と耳に入ってました。私もビートルズが好きで、ファン・クラブに入ってたこともあります。その他の文化だと、絵本とか童話、TVの古いアニメ・ソング、NHKみんなのうたとかの影響が歌詞にでている気がします」(山崎)
ちょうど1年前くらいに、チカチカはNHKの「パフォー」という番組に出演した。元メガデスのマーティ・フリードマンの推薦で、番組に呼ばれたのだ。アメリカ人のマーティは、日本のアイドル歌謡やJ-POPを愛好しており、Perfumeから美空ひばりまで偏見を持つことなく評価している人物だ。彼が、チカチカの曲を気に入るのは、ピコピコとした電子音に4つ打ち、そこに可愛らしい山崎のヴォーカルが乗っかる部分が大きいのだろう。
「番組に出演した時、マーティから<チカチカロックンロール>に対してアドヴァイスを受けたんです。曲が途中でリズムが変わる複雑な構成だったので、ノりやすいように、リズムをある程度統一できないかと言われたんです。それでリズムに対しての意識や、ライヴでお客さんがノれるかという点を意識するようになりました。曲とかコード進行とか、山崎さんの声に関しては誉められました」(中島)
「マーティからハモリを付けてみたらと言われ、けっこう苦手だと気づき今も勉強中です。そのおかげで、最近はハーモニーも意識しながら音楽を聴くようになりました」(山崎)
チカチカは、活動初期に作った曲を何度も手をかけ更新し続けている。その度に聴き手として新たな発見がある。今作では、リズムの転調や強調されすぎていたサンプリング箇所が曲にとけ込むことで、細野晴臣が手がけたアイドル歌謡のように、サウンドがよりポップに変化している。また、当初はアナログ・シンセやAKAIのサンプラーなど多くの機材を使っていたが、現在はパソコンでの曲作りに完全に移行している。
「ちょっと前のソフトってアナログ・モデリングが主流で、どれだけ過去のアナログ・シンセやドラム・マシンの音に近づけるか、っていうスタンスだった気がするんです。でも、最近はパソコンにしか出せないシンセの音とかエフェクターが沢山あって、それに興味を持ちました。ソフトのほうが楽かなって思ってたんですけど、ちゃんと作りこむならどっちも同じ気がしてきたんです。ネットしながらシンセとかイジれるのはいいとこですけど、曲作っててネットみちゃうのは悪いとこですね(笑) 」(中島)
最近ではナカタヤスタカが、自身のユニットcapuselをやりながら、perfumeの大ブレイクで成功を収めた。それ以降、MEGや鈴木亜美を始めとするテクノ・ポップを歌うアーティストにも注目が集まり、オート・チューンは広く使用されるようになった。サザンオールスターズやスマップの曲にまで影響がみられ、テクノ・ポップ関連の書籍も数多く発刊された。時流に関係なくテクノ・ポップを作ってきたチカチカは、今回の盛り上がりにどのような意識を持っているのだろう。
「テクノ・ポップてなに? って言ってた子たちが、そういう音楽を認知したのは面白い時代になったな、と思います。出てきたユニット全てを聴いたわけじゃないんですが、中にはカッコいいのもありますよね。80_panは、チカチカと衣装がカブっていたので気にしてたんですけど、解散しちゃって残念です」(中島)
「どの分野でも何かヒットすると、ソレに追随するものが出てきてブームになり、飽和状態になるのが世の常だと思います。でもテクノ・ポップ系のカテゴリーを一般の人が認識したという事はとても重要なことで、歌だけでなく、バックの音にまで注意を向けてもらえるいいチャンスだなって」(山崎)
チカチカの音楽は、サウンドに耳が行きがちであるが、山崎の歌も大きな魅力だ。中でも<デジタルの声>は、ロボットとの恋を描いた叙情的な世界が描かれている。「いつかあなたとランデヴー/夢みているの私 センチメンタルなんてほっぽって/あなた作るしかないのよ」。ロボットとの共存がもはや夢物語でなくなった現在でも、こうした物語は我々を惹きつける。それは、テクノ・ポップが本来持っている未来に対する憧憬と希望が、今の時代にも求められているからなのだろう。
「歌詞は、先に出来たメロディの上に付けてます。インスピレーションで絵が浮かぶときもあれば、とりあえず書いているうちに二転三転していく場合もあります。ちなみに、「トランジスタベイビー」は、前者と後者両方で、最初に曲を聴いたときに「ケンカの後は ほっぺにチュ」で有名な曲のイメージがわいて、そこから赤ちゃんの曲に変わっていきました(笑) 曲名の「トランジスタベイビー」は、昔流行った昭和の言葉、トランジスタ・グラマーからきました。歌詞はなるべく絵や物語がわかるように心がけています」(山崎)
試行錯誤を経て出来上がった7曲は、ポップで間口の広い作品となった。先に述べたように、中島が音楽活動を始めた当初に出来た曲も入っている。それは彼らが年齢を重ねるのと一緒に年を取り、アップデートされてきた。各々の曲は、今の時点でチカチカ2人の納得いく最高の状態である。パックしたて、できあがりほやほやの最新音源。この7曲を配信することで、どのような反響があるかは予測できない。しかし、彼らの音楽的野心は常に面白い音楽を追究していくことに違いない。聴く度に新しい発見のあるチカチカの曲を、これからも追いかけていくのが楽しみだ。
(text by 西澤裕郎)
Profile
山崎八千代(ボーカル、ギター、ふりつけ)、中島 竹清(プログラミング、ギター、コーラス)によるテクノ・ポップ・ユニット。
ポップで、ちょっぴりヘンテコをモットーに創作を行う。
宮崎出身、名古屋にて結成。以降、名古屋を中心に東京、大阪、京都、岐阜、新潟、宮崎でライブを展開。イルリメ、i am robot and proud、ピカ(あふりらんぽ)、tokyo pinsalocks、松前公高、Hazel Nuts Chocolateなど国内外のアーティ ストと共演。NHKのTV出演や、中京テレビでのPV.O.A、ラジオ出演等、メディアへの露出も精力的に行う。
2009年、7月に初のオーガナイズ・イベント「エレクトリック・パレード」開催
- website : http://blog.livedoor.jp/chika2chika2/
- mixi チカチカ community : http://mixi.jp/view_community.pl?id=699305
LIVE SCHEDULE
- 7/19(日) エレクトリック パレード vol.1@K・D ハポン(鶴舞)
Moe(Miila)とYuppa(Hazel Nuts Chocolate)による二人組ユニット
open/start 18:30/19:00
adv./door 2000/2500 (ともに+1dオーダー)
http://www.tn8.jp/elepa/
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