活動10周年を向えた曽我部恵一の新作『PINK』が登場
曽我部恵一 / PINK
曽我部恵一BANDでの活動、サニーデイ・サービス再結成...。そして今、もういちど“自分自身”へと向き合い、生きること、愛すること、夢見ることを歌い上げる。
【Track List】
1. 春の嵐 / 2. レモン / 3. 普通の女の子 / 4. 愛と苦しみでいっぱい / 5. がるそん / 6. なにもかもがうまくいかない日の歌 / 7. PINK / 8. 一週間分の愛 / 9. ねぇ、外は春だよ。
【参加ミュージシャン】
木暮晋也、伊賀 航、オータコージ(曽我部恵一BAND)、北山ゆう子、高田陽平、横山裕章、ヤマグチユキノリ、グレートマエカワ(フラワーカンパニーズ)
生活の中から生まれて来るもの
社会の変化やデバイスの進化によって、これまでにないくらいミュージシャン(もしくはアーティスト)が活動を始めるための敷居は低くなっている。パソコン一台あれば、WEB上で簡単に曲をアップ・ロードすることができるし、場所を選ばなければ都内のライヴ・ハウスにも出演できる。補正をかけることによって、それらしい音源を作ることも可能だ。よほどの才能と技術があるミュージシャンを除けば、音源に大きな差異を生み出すことは容易ではない。しかし、そんな環境下においても、聴き手を惹き付けるミュージシャンがいる。彼らに共通するのは、演奏や”うた”が上手いかどうかだけではなく、もっと別の要素が彼らを魅力的にしているという点である。例えば、このコード進行だったら完璧な曲ができるみたいな黄金比はなくて、もっと別なところで曲の魅力というのは生まれるのである。
ソロ活動10周年を迎えた曽我部恵一は、以前に前野健太とともに全国ツアーに旅立った。毎日新曲を1曲作って披露するという制約をつけて、福岡・広島・香川・京都・静岡・石川・東京でアコースティック・ライヴを行った。また、今年の1月からは、「shimokitazawa concert」という自主企画を毎月行っている。第一夜にはトクマルシューゴとmmmが出演し、4月に行われる第四夜には川本真琴と三輪二郎が出演する。そうした何人もの個性的なミュージシャンたちとの対バンや旅を経てようやく完成したのが今作『PINK』である。50曲以上のお蔵入り曲を経て完成したということからも、難産の作品だったことが伝わってくる。それだけ沢山の曲がお蔵入りしているということからもわかるように、決して曲が書けなかったわけではない。曽我部自身にとって納得のいく曲ができるまでに時間がかかったということである。誰もが自分の曲をプレゼンできる時代に、曽我部が歌うべき”うた”とは一体何なのか。録音技術でもなければ、演奏技術でもない。その答えを探して全国を行脚してみつけた答えは、シンプルだけれど原点に立ち返るものだった。
『MUSICA』のインタビューで、「自分にとって『いい歌』っていうのは、『自分に近しい歌』」と語っている。彼の”うた”は生活の中から生まれてくる。だからこそ、前野健太と回った全国各地の旅は、曽我部恵一の生活に反映され、自分に近しい歌を生み出す上での一つの大きな契機となった。また、彼にとっての『いい歌』とは、単に自分の感情や気持ちを一方的に吐き出すものではない。聴き手自身が感情を投げ込むことができる余白を持ったものである。誰もが共有できるような、そんな歌。童謡や唱歌を聞いた瞬間に、なぜか子ども時代を思い出してしまうような、聴き手にとっての思い出にもなりうる、時代を越えて歌い継がれる曲である。今作で歌われているのは、どんなに環境が整っていようが、音質がよかろうが、曲のよさだけで勝負できるシンプルだけど芯のある歌ばかりだ。
この作品がリリースされる前に、東日本大震災がおこった。それによって、『PINK』を予定通り発売するかどうか悩んだという。曽我部は、地震の翌々日もういちど作品を聴き直した結果、「これらの歌がみんなに届いてほしいと、やっぱり、思った」とブログに綴っている。つまり、この作品が『自分に近しい歌』であると同時に、聴いた人にとっても感情を投げ込める歌であると判断したからこそ、リリースを決めたのである。僕の知り合いに、震災後、うたものを聴けなくなってしまったという人がいる。そうした人たちにとっても、このアルバムは有効に働くだろう。最初に曽我部恵一という人間の生活がみえてきて、徐々にそれは自分の生活に置き換わっていく。シンプルだけど、いろいろな色に塗り替えられる春らしいアルバムが完成した。(text by 西澤裕郎)
information
曽我部恵一 TOUR 2011 "Spring Fever"
- 2011/05/06(金)@愛知 名古屋CLUB QUATTRO
- 2011/05/07(土)@北海道 札幌cube garden
- 2011/05/10(火)@大阪 心斎橋CLUB QUATTRO
- 2011/05/11(水)@東京 渋谷CLUB QUATTRO
- 2011/05/13(金)@宮城 仙台CLUB JUNK BOX
- 2011/05/27(金)@岡山 岡山CRAZYMAMA KINGDOM
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PROFILE
曽我部恵一
曽我部恵一(そかべけいいち)1971年生まれ。香川県出身。ミュージシャン。<ROSE RECORDS>主宰。ソロだけでなく、ロック・バンド<曽我部恵一BAND>、アコースティック・ユニット<曽我部恵一ランデヴーバンド>、再結成を果たした<サニーデイ・サービス>で活動を展開し、歌うことへの飽くなき追求はとどまることを知らない。プロデュース・ワークにも定評があり、執筆、CM・映画音楽制作、DJなど、その表現範囲は実に多彩。下北沢で生活する三児の父でもあり、カフェ兼レコード店<CITY COUNTRY CITY>のオーナーでもある。