大人のおセンチを許容しあうということーー泉まくら、ロング・インタヴューで語る3rdアルバムで描いた想い
福岡県在住の女性ラッパー泉まくらが、前作『愛ならば知っている』から1年半、限定EP『P.S.』を挟み待望の3rdアルバム『アイデンティティー』を完成させた。現在の彼女の想いや日常を等身大で写しだす、まさに『アイデンティティー』と名付けるにふさわしい作品。盟友nagacoがすべての曲をプロデュースし、最高のパフォーマンスを収録することに成功した記念碑的作品。そんな本作をハイレゾ配信するとともに、どのようにこの作品が生まれたのか、泉まくら本人にインタヴューで迫った。
1年半ぶりとなる3rdアルバムをハイレゾ配信スタート
泉まくら / アイデンティティー(24bit/44.1kHz)
【配信形態】
WAV、ALAC、FLAC(24bit/44.1kHz),AAC
【配信価格】
単曲 257円 まとめ購入 1,851円
【Track List】
1. 時は交差して
2. 通学路
3. かげろう
4. ヒロイン
5. 宣誓
6. 枕
7. ひとりごと
8. P.S.
9. 日々にゆられて
10. 才能
11. さよなら、青春
INTERVIEW : 泉まくら
泉まくらの3rdアルバム『アイデンティティー』は、これまでの彼女の作品から明らかな変化を見せたアルバムだ。音域を低めにした発声方法だったり、アカペラでメロディを歌った楽曲だったり、自身の名を冠した「枕」という楽曲などが収録されている。もともとは何人かのトラックメイカーを迎えた作品になる予定だったが、4月に発生した熊本地震がきっかけとなり、活動初期からトラックメイカーとして参加しているnagacoが全面プロデュースを行うこととなった。また、大阪のスタジオでnagacoと対面しながらレコーディングを行ったことも大きな変化だ。全11曲、約30分。実に潔く、強い作品だ。東京にやってきた泉まくらとレーベル・オーナーのkussyに本作の誕生について話を訊いた。
インタヴュー&文 : 西澤裕郎
毎日がざわざわしているような感じになって歌詞が書けなくなってしまった
ーーまくらさんとnagacoさんは活動初期からタッグを組まれていますけど、『アイデンティティー』収録曲は、どのようにして制作していったんでしょう。
泉まくら(以下、まくら) : 今回は最初に30曲くらいトラックをもらって、その中から私が選んだんですけど、「古いからイヤだ」って言われた曲もあって(笑)。選んだトラックに歌を乗せたデータを送って調節して作っている最中に、熊本の震災があったんですよ。私の親戚とか友だちが熊本にいるのもあって、そこでちょっと作業が止まっちゃったんですね。
ーーまくらさんのお住まいも揺れたんですか?
まくら : 福岡も震度5くらいだったので揺れました。その時はすごいことになったなくらいの気持ちだったんですけど、じわじわと毎日がざわざわしているような感じになっていって、歌詞が書けなくなってしまったんです。そんな状況をみてnagacoさんが「新しいものを書くべき」と言って「さよなら、青春」のトラックを作って送ってくれたんです。
kussy : ちょっと付け加えると、今回のアルバムは最初、nagaco以外のトラックメイカーも参加する予定だったんです。ただ、震災が起きたあとにまくらが完全に止まってしまって。nagacoの曲が7曲くらいできていたのと、震災が起きた後1曲書けたことがきっかけで結果的にnagacoの曲で固めようということになったんです。
まくら : 自分では書けると思っていたんですけど書けなくなっちゃって。本当にダメだと思ったときにそのことをkussyさんには伝えたんですけど、nagacoさんから「書きなさい」って言ってもらえたことはよかったなと思っていて。それをきっかけに他にもらってたトラックも書き始められるようになっていったんです。
ーーそういえば、nagacoさんは東京在住なんですか?
まくら : 大阪です。
kussy : それもあって今作は大阪でレコーディングしたんだよね。今までは、まくらが福岡で宅録した楽曲を、nagacoさんが大阪でミックス・マスタリングしていたのでレコーディングに立ち会ってるわけではなかったんです。今回は音をもっとブラッシュ・アップしようってことで2泊3日で大阪に集まって合宿レコーディングして。
ーーまくらさんは福岡在住だし、ほとんどライヴもしていないので、音楽関係の人たちとそこまで深く過ごすことは少ないのかなと想像していたんですけど、どんな体験になりました?
まくら : 確かにそういうことはなかなかないし苦手なんですよね。絶対に緊張すると心配して行ったんですけど、緊張しなかったです(笑)。
ーー(笑)。レコーディングでnagacoさんから言われて印象的だったことってありますか?
まくら : あるんですけど、言っていいものかどうか…。 「日々にゆられて」の最後の方で〈私はまだまだ弱いだけだけど誰かに〉っていうリリックがあるんですけど、最後だけ音が静かになって「ここはしゃべるような感じで歌ってほしい」って言われて… これはやっぱり言っちゃいけなかったかもしれないです(笑)。
ーーまだ、言っちゃいけない部分出てきてないですけど(笑)。
まくら : もっとこんな感じでって言われた後に「射精させてください」って言われて…(笑)。意味がわからなかったんですけど、しゃべるような感じで歌ったら「おっけー! 夢精です!!」って言われて(笑)。
kussy : まあ、OKってことなんですよね(笑)。基本いいものを録ろうというときに「勃起させてください」とかそういう感じで言うから。
ーー性的な表現が多いんですね(笑)。そういうのと真逆なイメージがあったから、まさかそんなレコーディングしているとは思いもしませんでした(笑)。
kussy : デビューして3年くらい経ったんですけど、一緒に曲を作ってきた盟友でもあるし、まくらがどうしたら上手くいくかとか1番わかってるのはnagacoさんなので、リラックスしてできるようにしてくれたんだと思います。あと、いい信頼感が生まれて、まくらチームに強い絆ができたってことなんだと思うんですよね。それも、いい曲を作れた自信がnagacoさんをやる気にさせたというか。最初はまくらに対してはわりと冷めていたんですよ。言われたから曲を提供しますみたいな。それが前のめりになって、まくらが次どうしていったらいいか? とか考えてくれて。メンバーになってきたというか。
まくら : 私もこれまでは自分のできる限りの中での実現しか考えていなかったんですよ。そのときの自分ができる範囲で最終的な着地点をみつければいいと思ってたんですけど、nagacoさんと対面してからは「これってもっとできるんですか?」とか言えるようになったし、nagacoさんの好みとかもわかってきて。1人でやっていた時のよさや色もあったと思うんですけど、それがだんだん広がっていってる実感はあります。
>>>【2/2】泉まくらの行き着く先は俳句? に続く
泉まくら配信中の過去作品
RECOMMEND
『UMA』とは謎の未確認動物を意味する「Unidentified Mysterious Animal」の頭文字。アルバム・タイトルの通り未確認動物を冠した7曲が収録されており、メンバーでサウンド・プロデューサーであるケンモチヒデフミの楽曲のほかに、アメリカ・ロサンゼルスで活躍するMUST DIE!、フランスのコンポ―ザー / プロデューサーMyd、フライング・ロータス主宰〈BRAINFEEDER〉の所属アーティストでもあるMatthewdavid、ドイツのミニマル・バンドBrandt Brauer Frickが作曲を担当。
2015年3月、1stアルバム『DAOKO』にて、女子高生にしてメジャー・デビューを果たしたDAOKO。そのハイクオリティな楽曲と、彼女のセンセーショナルな歌詞はたちまち音楽シーンで注目を集め、デビュー・アルバムにしてロング・ヒットを記録。その勢いを決定づける、1stシングル『ShibuyaK / さみしいかみさま』の両A面シングル。
かわいげ余ってエグさ100倍! 愉快に猛毒ガーリー・ポップ! 色々話題のクリエイターTHIS IS NATS 1STリリース決定!
PROFILE
泉まくら
福岡県在住。2012年、術ノ穴へ所属し同年発表されたデビュー音源『卒業と、それまでのうとうと』が各メディアで話題となり、くるり主催〈WHOLE LOVE KYOTO〉出演やパスピエとのコラボ音源『最終電車』リリースなど大きな注目を集める。2013年10月には待望の1stアルバム『マイルーム・マイステージ』が各媒体でBEST DISCに選ばれる。2014年公開TVアニメ『スペース☆ダンディ』では菅野よう子とのコラボ楽曲を提供。