
水中、それは苦しいの新作がリリース & フリー・ダウンロード開始
水中、それは苦しいの5年半ぶりの新作『手をかえ品をかえ』が、とにかく素晴らしい。"あばれチンパンジーゲーム"や"餃子のカンガルー"など、突き抜けた歌詞を全力で叫ぶスタイルは健在だが、前作『顔にやさしく』に比べて、音楽的な幅が明らかに広くなっている。彼らなりの解釈のボサノバ、そして演歌など、ギター、バイオリン、ドラムのアンサンブルが気持ちいい。見た目や歌詞、そして「あらびき団」などへの出演などで、音楽以外の部分に目がいきがちだが、インタビューの中でも明言しているように、彼らは生粋のミュージシャンである。なぜ、固有名詞を使った歌詞が生まれるのか、どのように歌詞を書いているのか、そして彼らが目指す普遍的なものについて、笑いとともに、じっくりと話を伺った。
インタビュー&文 : 西澤 裕郎
>>>フリー・ダウンロード楽曲「読者モデルに、俺はなる!」はこちらから
数々の試練を経て、ついに傑作アルバム完成!
水中、それは苦しい / 手をかえ品をかえ
【Track List】
01. 農業、校長、そして手品 / 02. 読者モデルに、俺はなる! / 03. 暮らしと安全 / 04. あばれチンパンジーゲーム / 05. 新谷さん、犬つれて / 06. おっと!オトタケ / 07. サイボーグ(初段) / 08. 妹よ! / 09. しましまのうま / 10. ロシアの女 / 11. ブブカ / 12. サイボーグ(師匠) / 13. 小鳥酒 / 14. 俳句 / 15. キングコングの嫁探し / 16. クフ王 / 17. 無軌道戦士ランダム / 18. どこかの折れたエンジェル / 19. 人物伝 / 20. まじんのおのようこ
正確に本当のことを言おうと思って
——今作のアルバム・タイトルは『手をかえ品をかえ』、1曲目は「農業、校長、そして手品」ですけど、手品には何か思い入れがあるんですか。
ジョニー大蔵大臣(以下、ジョニー) : 僕のお父さんが元教員で、校長も勤めて定年退職したんですけど、今は趣味で手品をやっているんですよ。だから、「農業、校長、そして手品」は、お父さんの人生を歌った曲なんです。
——これはどこまで本当なんですか… ?
ジョニー : 全部本当です! 父の実家も農家でしたし。
セクシーパスタ林三(以下、林三) : まだジョニーさんのお父さんが教員をやっているときに、出張で東京に来たことがあるんですけど、たまたま水中|のライヴがあって、観にきてくれたんです。ライヴまで時間があったので、一緒に中華料理屋でご飯を食べてお酒を飲んでいたら、お父さんが突然手品始めちゃってね。
ジョニー : 歌舞伎町でね。
林三 : 釣り糸とかも見えちゃうような手品なんだけど、すごい大爆笑で(笑)。
ジョニー : あれで店が一体になったよね(笑)。
林三 : で、お父さんもライヴに出しちゃおうみたいな話になって、ロマンス大蔵って名前をつけて出てもらったんです。

——そうなんですね(笑)。曲の中で、"手品じゃ世界は変わらない"って歌ってますけど、これはどういうことですか。
ジョニー : 手品って何だろうって考えたら、メッセージ性とか自己主張とは一線を画した純粋なエンターテイメントだなって思ったんです。"世界が変わる・変わらない"って歌はいっぱいあるじゃないですか。でも僕は正確に本当のこと言おうと思って。"手品じゃ子どもは産まれない"とか。間違ったことは言ってないでしょ?
——確かに。"想像してごらん"ってジョン・レノンを想起する曲から始まって、最後「まじんのおのようこ」で終わるのは、何か意図があってのことなんですか。
ジョニー : 特に意図はありません。目が覚めたら曲順は勝手に決まっていました。
アナーキー吉田(以下、アナーキー) : 曲順、最後の最後まで揉めたじゃん。
——(笑)
ジョニー : 20曲もあると、順番を決めるにも何通りもあって大変ですよね(笑)。
アナーキー : 20の階乗だから大変なことになりますよ。
——インタビュー前に話していて思ったんですけど、アナーキーさんは頭脳明晰ですよね。
林三 : アナーキーは今、医大を目指しているからね。
ジョニー : 受からないと思っているんで、安心しています。
アナーキー : いや、この間センター模試でB判定まで行ったから受かりますよ。
ジョニー : アナーキー、何年センター模試ばかり受けてんだよ(笑)!
——僕は2005年の『復活ののろし』が出たあたりに初めてライヴを見たんですけど、地方でもすごい勢いがあって、物販に人がすごかったですよね。
林三 : 『復活ののろし』は、ジョニーさんと僕の2人体制になったときのライヴをCDにしたものなんです。お客さんが初ライヴの音源をMDに録っていたので、それを盤にしたんです。
ジョニー : その時、まだアナーキーはいなかったんですけど、アンコールも起こって、だんだん盛り上がっていく感じが生々しくていいなって思っていたんです。実際に『復活ののろし』は手売りで3000枚くらい売れました。
——そのあと、アルバム『顔にやさしく』を出してから、5年半ぶりのアルバムとなりますね。この期間は、どのような活動を中心に行っていたんですか。
アナーキー : テレビ東京でやっていた番組に、『じじょうのうた』っていう曲を毎月作って提供していました。それが忙しくて、アルバムのこととかはまったく考えていない状況でしたね。
ジョニー : ほぼ毎月レコーディングしていたので、なかなか時間がとれなかったんです。
——じゃあ曲は出来ていたんですね。
林三 : そうですね。アナーキーが医大を目指すことになったので、受験する前に録り始めようってことで、去年の9月から録り始めて、11月くらいまでにドラムは全部録っちゃったんです。それから、ヴォーカルやバイオリンをダビングして、ミックスに時間をかけて、ほぼ1年がかりで完成させた感じですね。
ジョニー : 受験の話をすると、医者になってバンドを辞めるんだなって思う人が何割もいるから、「一生続けます、頑張ります」って言っておいたほうがいいよ。
アナーキー : そうですね。
ジョニー : 何割かの人に絶対辞めると思われるから。俺、「活動休止してましたよね? 」とか言われるもん。してないっての! 毎日活動しているっての(笑)。
すかした感じにはなりたくない
——ジョニーさんの交友関係はとても広いですよね。映画『モテキ』に出演したり、お笑い芸人の方たちとも仲がいいですし、いろんなところに人脈がありますよね。
林三 : 最近は漫画家の人たちと、一番仲いいんじゃないですか。
ジョニー : 山本直樹さんがいろいろな方々を紹介してくれて、この前は浦沢直樹さんともご一緒させていただきました。「仲のいいミュージシャンの友だちは? 」って聞かれたら、銀杏BOYZと漁港とたまのランニング(石川浩司)ってこたえていますね(笑)。
アナーキー : あとは、真部(脩一)くんかな。
——真部さんは、今回ベース、エレキ・ギター、コーラスで参加されていますよね。どういうきっかけで知り合ったんですか。
ジョニー : 対バンしたのが、きっかけですね。相対性理論が売れかけているときで、ディスクユニオンで年間チャート1位になった頃に、池袋の手刀っていう小さいライヴ・ハウスでやったんですけど、水中のCDとDVDを全タイトル買ってくれたんですよ。
アナーキー : あのとき、水中のライヴの調子がすごくよかったんですよね。
ジョニー : ベスト・ライヴでしたね。それで覚えていてくれて、別のライヴで相対性理論を見に行ったときに仲良くなって、ベース弾いてってお願いしてみたんです。ベースと同じくらいギターもうまかったんで、ギターも弾いてもらって、コーラスもやりたいっていうから、お願いしますって感じでやってもらいました。
林三 : コーラスは全然やってもらう予定じゃなかったんですけど、ベースかエレキ・ギターを録るってときにコーラスを聞いていたら大爆笑して、やらせてくれって話になって、急遽入ってくれたんだよね。
——水中、それは苦しいの歌詞は、くすっと笑えるものが多いですが、どのようにして作っているんですか。
ジョニー : いろんなタイプの曲があるんですけど、ライヴでちょっとずつ変えたり、即興で歌ったりして完成させていくタイプが多いですね。ライヴをやることで完成するタイプで、アレンジに関してもそうだし、歌詞はとくにそうです。「おっと!オトタケ」とかもちょっとずつ変えていって、その中で残したいものをまとめたんです。

——以前のライヴでは、お題を振られて、即興的にやっているときもありましたよね。
アナーキー : 4割くらいがアドリブだったんじゃないかな。
林三 : 思いつかない感じもおもしろいんですよ。むしろ、ぽんぽん出過ぎるとつまらないというか。止まったほうがおもしろいんですよ。
——ライヴの様子を見ていて、大喜利みたいだなって思うこともありました。
ジョニー : 実際、ミュージシャン限定の大喜利を、阿佐ヶ谷ロフトでやったことがあるんですけど優勝しました。芸人と一緒にやったこともあるんですけど、2回ともブレイク直前のオードリー若林くんがおもしろすぎて、誰も太刀打ちできなかったんです。僕が直接対決したのは、夙川アトムと脳みそ夫っていう芸人なんですけど、彼らにも勝てなかった。芸人はすごいなぁって思いました。猫ひろしとラジオをやっているんですけど、猫ひろしにも大喜利では100勝200敗です。
——猫ひろしさんとは、本当に仲がいいですよね。
ジョニー : 毎週会っているしね。彼も芸風がパンクと言えばパンクですよね。叫ぶし。
アナーキー : 国籍まで捨てる有様ですからね。
——水中の歌詞には固有名詞が沢山でてきますけど、問題とかはないんですか。
アナーキー : 固有名詞は出ているけど、誰かを悪く言っている歌はないですからね。
ジョニー : 悪く言ったことはないですね。あと、好きだ嫌いだとかもないですからね。以前、「安めぐみのテーマ」って曲を作ったんですけど、そういう感じの曲って昔はけっこうあったんですよ。おニャン子クラブの「会員番号の唄」とかは、ただプロフィールを言っているだけだし。誰も傷つかない歌ってこういうことだなと思って、事実だけを言うような歌も歌いたいんです。
——なるほど。
ジョニー : そういうものを思いっきり叫ぶことで、別の意味が出てくるかなって思っているんです。すかした感じにはなりたくないんですよ。だから事実を思いっきり言う。あと小さいこととか、つまらないことを、ものすごい堂々と言う。「安めぐみのテーマ」に関しては前半はプロフィールで、後半はダジャレだけっていう感じで。
説明できないからこそ音楽をやっている
——今回のアルバムは、何回もリピートできる名盤だと思います。歌詞だけじゃなくて、メロディも曲も本当にいいですよね。
ジョニー : 昨日、リリー・フランキーさんにアルバムを渡そうとしたら、いいに決まっているから聞かなくていいよって返されました(笑)。
——あははは。ちなみに、乙武さんとか安めぐみさんとか色んな人の名前が出てきますが、歌う対象の方はどうやって選ぶんですか。
林三 : 単に言葉的におもしろいとか、そういう理由からですね。"ブルーレットオトタケ"とか"ピザーラオトタケ"とか、"オトタケ"とまったく関係ない言葉の響きがおもしろかったとか。その人に思い入れがあったりってことじゃなくて、思いついておもしろいものを選んでいます。そういうのは、どうしても固有名詞が多くなっちゃうんですよ。
ジョニー : イメージしやすいんですよね。
林三 : そうそう。イメージを持っていて、それに対してかけ離れた言葉を組み合わせたりしていく。
ジョニー : ただ、"オトタケ"って歌っているけど、乙武洋匡のことだけを歌っているわけじゃない。その向こう側を目指しているんです。具体的なものから普遍的なものを目指しているっていうのが全体的なやり方で、水中の曲の作り方はそういう感じですね。アルバムのコンセプトがあって作ったわけじゃなくて、ライヴで5、6年やっていたものをまとめて編集して、足りない曲を作ったりとか、歌詞をもっとブラッシュ・アップさせました。その作業の中で、自分なりに見えたコンセプトは、やれることを一生懸命やろうっていう… そういうアルバムです。
アナーキー : ひどい… 。
ジョニー : だってそうでしょ? 手品を一生懸命やろうとか、読者モデルに俺はなるとか。無力でやれることがあるかないかわからないけど、一生懸命やればいいって。乙武くんはそういう考え方なんですよ。小学生のときにクラスで配られるプリントの入力を先生に任されて、それが誰よりも早くなったってエピソードがあるんです。そのとき、人の役に立てるって嬉しいなって思ったみたいで。
林三 : とにかく言葉はおもしろさを追求していて、あまり意味とかがあるわけじゃない。響きとかのおもしろさを目指しています。それに対して、音楽はかっこいい。水中って、変な音楽みたいにとられることが意外と多いんですけど、自分たちではかっこいいのをやっているし、メロディとかもかっこいいと思うんです。
アナーキー : どんな音楽をやっているのって聞かれると説明には困るけど、聞いたら変なものではないと思う。
——ただ、「あらびき団」に出たりすることで、芸人と捉えられてしまう可能性もありますよね。その点はどう考えていますか。
アナーキー : 解釈は人それぞれで、自分がどうこうするものじゃないですからね。
林三 : 自分たち的には絶対ミュージシャンです。お笑いと見られても勝手ですけど、音楽をやっているのと同時におもしろいこともやっていると思っています。なので、お笑いを目指しているわけではないですね。
アナーキー : 自分でも説明に困るものを作れるっていうのはいいことですよ。
ジョニー : 説明できないからこそ音楽をやっているんだからね。
アナーキー : もしも言葉で回収できたら、別にちゃんとやる必要もないから。
ジョニー : これもリリーさんに言われたことなんですけど、歌も歌えるお笑い芸人より、ミュージシャンだけどおもしろい人の方が、まわりからの見られ方が断然よいって。

——実際、お笑い芸人になろうと思ったこととかないんですか。
ジョニー : 芸人になろうと思ったことは一回もないですね。誘われたこともありますけど断りました。
林三 : たぶん、ネタを作っちゃうとおもしろくないタイプなんですよ。事故みたいな感じでおもしろいことが起こって、それを楽しむほうだと思います。アドリブもその場で出てきたり、出てこなかったりっていうのが一番おもしろいんで。
ジョニー : だから、僕は芸人じゃないですね。芸人さんがやらないような、やりすぎている感じをやっちゃうんです。昔、色んなところでゲリラ・ライヴをやったんです。呼ばれてもないのに、早稲田の大隈重信の銅像の前でやるとか、警備員とめちゃくちゃ闘うとか。そういう感じのほうがおもしろいかなって。ただ、絶対誰もケガをしちゃいけないと思っているので、完全に行き過ぎるまでもいかないんです。
——ちなみに、水中、それは苦しいにはパンクの要素を感じますか。
ジョニー : そういうのとは違うかもね。
アナーキー : でも社会的にみて、パンクかと言われれば、否定する素材はそんなにないかなって感じはする。
ジョニー : 「衝動なきパンクバンド」っていうキャッチフレーズを、活弁映画監督で、以前PVを作ってくれた山田広野さんがつけてくれたんです。誰かを憎んだりとか、そういうのは全然ないんです。それよりも、まったく冗談が通じない堅物とか、不謹慎といわれるような空気を壊したりしてきたい。あと、出る杭は打たれるみたいなのをよしとしている考えの人とか空気とか。不謹慎、不謹慎って言っているほうが不謹慎じゃないですか。そういうのはよくないと思うんです。震災後にネット上で、バンド名が不謹慎だランキングの第7位くらいに選ばれていたんですよ。微妙な7位という… 。
——ちなみに1位は何だったんですか?
ジョニー : アースシェイカーです。
(一同笑)
アナーキー : 別に震災があってからつけたわけじゃないんだからね。
林三 : もともと、そういう名前なんだからしょうがないよね。
伝えたい部分を伝えることを目指しました
——今回のアルバムの帯を乙武さん本人が書いていらっしゃいますが、どういう接点があったのでしょう。
林三 : ジョニーさんがtwitterを始めたら、乙武さんからダイレクト・メッセージが来たんです。ついに怒られたかと思ったら、気に入ってくれてたみたいで。何て心の広い人なんだと思いました。
ジョニー : 最後に「ピザーラオトタケ」って書いてあって、知っているんだって。それで会いにいったら絶賛してくれて、帯書きますよって言ってくれたんです。
——いい話ですね。メロディに関していうと、「小鳥酒」がすごい好きなんですよ。演歌調の曲でビックリしました。
林三 : これは演歌を作りたかっただけなんですよ。
アナーキー : スナックのカラオケを意識してリバーブをかけてっていう。
林三 : ジョニーさんが家族旅行に行ったときに作ったんだっけ。
ジョニー : 最後の家族旅行だったんですよ… 。
——最後の… 。
アナーキー : その旅行に行って以来、家族旅行で行ってないっていう意味で(笑)。
——勘弁してくださいよ(笑)
ジョニー : 僕は長男で、家ではみんなの盛り上げ役だったんです。弟がインターハイに出たときに家族で島根まで行って、その帰りに倉敷で1泊したんです。車で高速を移動中に大渋滞があって、8月半ばだったので車内の温度がどんどんあがって、すごい暗い雰囲気になって。小さいころから暗い雰囲気を壊すのが好きだったので、この中で何をしたら喜んでくれるかなと考えたんです。親もいるから、小鳥がいる見たままの風景を演歌で歌ったんです。「倉敷帰りはネコだらけ、おふくろさんだよおっかさん」って。そしたらみんな笑ってくれたんです。
——音楽的な面でいくと全体的に幅の広いアルバムで、演奏力もあるなって思いました。
アナーキー : 確かにジャンルというか、幅は広いかもしれない。
ジョニー : 僕たちなりのボサノバとかもあるからね。
——「暮らしと安全」ですよね。"人間の顔したピーポくん"って歌詞はヤバイですよね(笑)。
アナーキー : ボサノバなのかもわからないですけど(笑)。ブラジル人がそれ聞いたら顔をしかめると思います。
ジョニー : アメリカ人が握る寿司みたいにね。想像上の寿司みたいな。
林三 : 「小鳥酒」も想像上の演歌だからね(笑)。
——こういう歌詞をジャンクな感じで歌うと、アングラっぽくなってしまうと思うんですけど、水中はあくまでメロディアスにポップにしようとしているのがいいなと思います。
ジョニー : 音的にもめちゃくちゃなことはしてなくて、とにかく聞きやすくて、伝わりやすいもの。それでいてかっこよく、バランスのいい音でっていうことを心がけました。伝わらなきゃ意味がないというか、伝えたい部分を伝えることを目指しました。
林三 : ヴォーカルが叫んでいる分、演奏はわかりやすくしっかり作っている。そういうことは目指していますね。
アナーキー : 楽器も、アコースティック・ギターとバイオリンなので、エフェクターもほとんど使わない。その分、アレンジでちゃんとしなきゃいけないってのが前提としてあるんです。エフェクターでごまかすっていうのが出来ないので。
ジョニー : 電気を使わなくても演奏できるので、ぜひいろいろな場所に呼んでほしいですね。
林三 : ライヴ・ハウスとかだとエレキ・バイオリンを使っちゃうんですけど、レコーディングとかも全部生楽器でやっているので。基本的にどこでも出来るんです。
アナーキー : ものすごい小さいところでライヴやるときは生音でやるんですよ。あと、ドラムらしきものをダンボールで自分で作ったんですよ。
ジョニー : 夏休みの宿題みたいなボロボロのやつで、ライヴが終わると段ボール捨てていくんですよ(笑)。
林三 : しかも、段ボールをライヴ・ハウスの近くのスーパーとかでもらってくるから。
アナーキー : 段ボールがあるところだったら、世界中どこでもライヴできるんですよ。
ジョニー : 犬ぞりライヴとかいいんじゃない! ツアー好評につき、追加公演、アイスランド決定! って書いておいて下さいよ。
林三 : 犬ぞり(笑)。
——(笑)。ジョニーさんの笑いのセンスに対して、お2人はどう感じでいるんですか。
ジョニー : わりと笑ってくれますよ。
アナーキー : 基本的に2人が笑ったら、OK。
ジョニー : ダメなのもありますよ。替え歌は通りづらいけどね。
林三 : 山のようにあるんですけどね… 。
(こんなのもありますよと、深夜のototoyオフィスで下ネタの替え歌を歌い始めたので割愛)
共感しないまま、泣けたり笑えたり、グッときたりするもののほうがかっこいい
——「しましまのうま」とか歌詞カードだけみるととんでもないですよね。ひらがなばっかりだし、しましまばっかり言っている(笑)。
林三 : 活字にするとすごいですよね。ちなみに「しましまのうま」は、NHKの「みんなのうた」に取り上げられることを目標としています。
ジョニー : 終わり方も「みんなのうた」風にしました。
——曲毎にそういうテーマがあるんですね。
ジョニー : ありますね。「小鳥酒」もカラオケに入ればいいなと思って。
アナーキー : 「妹よ!」もブラストビートをやろうみたいなテーマがある。
——僕が、水中の歌詞がいいないいなと思うのは、自分語りとかそういうのが一切ないんからなんですよね。
アナーキー : そこはありますね。何気ない日常を歌にしたりとかは嫌いですね。
——例えば、エモーショナルでそれっぽい歌詞を歪ませたギターに乗せて歌えば、それっぽい音楽になっちゃうんですよね。そういうバンドに、水中の歌詞を歌わせたら絶対に成り立ちませんよ。
ジョニー : 例えば主語を、私や僕、俺とかにすると、世界が広がりづらいですよね。その人にものすごい才能とか表現力があれば、尾崎豊みたいなことにはなるけど、みんな尾崎豊ではないので。桂 三枝の算数の公式の歌とかは、主語が僕とかじゃないじゃないですか。
アナーキー : あれは世界中どこでも通じますからね。すごい普遍的な力がある。
ジョニー : そういった、心情の吐露みたいな曲にしたくないって考えはわりとあります。心情の吐露がおもしろい人って本当に少ないし、僕にはそれが出来ない。衝動とかはないけど、叫びたいって気持ちはあります。淡々とやっていてもなかなか届きづらいんで、叫ぶ以外にもいろんな歌い方をします。もちろん歌詞の切り口もいろいろ考えています。女言葉で歌ったり、宇宙人として歌ったり。

——つまり、共感を求めることが目的ではないんですよね。
ジョニー : そうそう、それキーワードです。共感しないまま、泣けたり笑えたり、グッときたりするもののほうがかっこいいと思っていて。共感にも限界があるんですよ。マンガやドラマでは、主人公に共感しないと分かりづらいものもあります。でも、自分とは全然違う立場や世界の話でもグットくるものもありますよね。そういう作品には普遍的な要素が多いし、歌は特にそうでなくちゃと思います。
アナーキー : そのへん、井上陽水さんとかはすごいですよね。歌詞だけ見たらまったく意味がわからないものが多いけど。
ジョニー : 川沿いリバーサイドですからね。
アナーキー : でもずっと聞いていたいと思う。だから、そんなに切実な共感とかはいらないんじゃないかって思うんです」
——今作はアートワークにもこだわっているし、アルバムの曲順も相当考えられていて、とても丁寧に作られた作品ですね。
林三 : 曲の並びだとかもすごく考えていますしね。アルバムで買ってほしいですね。通して聴いてほしいです。
ジョニー : 曲の流れも大切なので。アルバムの概念がなくなっていく傾向はあるかもしれないけど、アルバムとして聴いてほしいですね。
——ツアーが終わってアナーキーさんが大学に入ったら、活動が少し大変になりそうですね。
ジョニー : 大丈夫、絶対受かんないと思うから。
アナーキー : いや、行きますよ。発破かけているんだと解釈してがんばります。
——それじゃあ最後に、バンドとしての目標をジョニーさんから。
ジョニー : メンバーに医者がいるバンドを目指したいですね。
——結局、医者になってほしいんじゃないですか!
ジョニー : 一秒で覆してみました(笑)。
RECOMMEND
昆虫キッズ / text
エンジニアに近藤祥昭(GOK SOUND)、マスタリングに中村宗一郎を迎えて制作された本作。THE NOVEMBERSの小林祐介、麓健一、スッパマイクロパンチョップなどがゲストで参加し、バンドに新たな彩りを加えています。シュールな歌詞や、中毒性のあるヴォーカル&アンサンブルを、持ち前のポップ・センスで昇華した全13曲!
井乃頭蓄音団 / 素直な自分
郷愁、愛、性、友情… 普遍的なテーマでありながらも、オブラートに包むことなく、直接訴えかけてくる心の叫び。かつ緩急自在な歌は、とても潔く、美しい。そんなヴォーカル松尾よういちろうの「歌」をサポートするのは2011年の音楽シーンを担う重要バンド、ひらくドアやTHEラブ人間のメンバー。
INFORMATION
- 2011年09月11日(日)@所沢 航空公園野外ステージ(ジョニーソロ)
- 2011年09月12日(月)@西荻窪 サンジャック(ジョニーソロ)
- 2011年09月17日(土)@福岡 薬院UTERO(水中)
- 2011年09月18日(日)@大分 アトホール(水中)
- 2011年09月23日(金・祝)@大阪 難波ベアーズ(水中)
- 2011年10月01日(土)@水戸 90EAST(水中)
- 2011年10月10日(月・祝)@渋谷 0-nest(水中ワンマン・ライヴ)
- 2011年10月15日(土)@鹿児島 SRホール(水中)
- 2011年10月18日(火)@横浜 黄金町 試聴室2(水中)
- 2011年10月22日(土)@札幌 スピリチャルラウンジ(水中)
- 2011年10月29日(土)@仙台 フライングスタジオ(水中)
PROFILE
水中、それは苦しい
1992年より活動開始。メンバー・チェンジを経て2004年より現在のメンバーで本格的に始動。同年、自主制作によるライヴ・アルバム「復活ののろし」を発表し3000枚を突破。2006年、銀杏BOYZが主宰するレーベル・初恋妄想℃学園より、アルバム「顔にやさしく」を発表(タワーレコード全店総合チャート・インディーズ部門第3位、HMV全店総合チャート・インディーズ部門第8位、高円寺円盤チャート第1位。下北沢ハイラインレコード総合チャート第1位)、ロングセラーとなりトータル10000枚を記録。同年、徳間ジャパンより「ひと目見て憎め」「ひとりで生きる」を復刻。2007年〜2008年、テレビ東京「竹山先生」および「シンボルず」にて「じじょうの歌」シリーズがオンエアされ話題を呼ぶ。2008年、TBS「あらびき団」に出演し、代表曲「安めぐみのテーマ」を披露。2010年、「サマーソニック2010」に一般公募1840組の中から勝ち上がり出演。