絶望?失望?希望? Suck a Stew Dry インタビュー
ここ数年で草食系男子という言葉が定着し、当たり前のように使われている。その言葉自体はどうかと思うけれど、ガツガツと前に出てくる男をあまり見かけなくなったのは確かだ。そういう意味で、Suck a Stew Dryも、少し退いた位置から世の中を眺めているバンドと言えるかもしれない。「人間遊び」というタイトルが示すように、恋愛という感情的なものを、まるで化学の実験のような視点で歌詞にしたり、言葉にするのをためらうようなことを歌詞にして言ってのける。大きな希望を持っているわけでもなければ、絶望の中にこもっているわけでもない。至って平熱を保っている。けれど、そんな中にも実は小さな希望を持っているのではないかと感じて仕方ない。それは彼らが鳴らすアンサンブルが、あまりにエモーショナルで強いエネルギーを放っているからだ。意味付けをしようとすることを「毒されている」と歌う歌詞もあるが、それでも小さな希望を彼らの奥底に見てとらないわけにはいかない。
インタビュー&文 : 西澤 裕郎
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(期間 : ~2011年11月24日)
全ての選ばれなかった者に捧ぐ、底辺からの手記全7篇。
Suck a Stew Dry / 人間遊び
5ピース・ギターバンド、サック・ア・シチュー・ドライの1stミニ・アルバム。現代の歪みの世代を代弁するかのように、一人称で語られる嘘偽りのないストレートな言葉。3ギターならではの緻密なアレンジと、それを自ら破壊する様なノイズと轟音。限りなく後ろ向き、だからこそ前を向ける、鬱の先にある7曲。
【Track List】
01. 二時二分 / 02. Proletarier / 03. Payment / 04. 人間遊び / 05. 遺失物取扱所 / 06. SaSD[eve] / 07. 距離感の部屋(三畳)
高校を卒業したら漠然と死のうって思っていました
――シノヤマさんは、中学生の頃から1日1曲のペースで曲を作っているそうですね。
シノヤマコウセイ(Vo&G/以下、シノヤマ) : 小学5年生の時にケータイを持ったんですけど、最初は着メロの機能でメロディを作って遊んでいたんです。中学生になってからは、パソコンのソフトを使って打ち込みを始めました。誰も楽器をやっていなかったんですけど、仲間内で作曲して聞かせ合っていました(笑)。
――そのときから歌詞も書いていたんですか?
シノヤマ : 見よう見まねで書いていました。今と全然違って、「明日への扉を開こう」みたいな感じでしたけど(笑)。
フセタツアキ(G&Cho/以下、フセ) : 合唱曲っぽいね。
シノヤマ : そうそう、合唱曲っぽかった。音楽の授業や合唱が好きだったので、メロディもそういう感じでしたね。
――メンバーの皆さんは、Suck a Stew Dryを始める前からシノヤマさんの曲を聞いていたんですか。
フセ : 「こんな曲作ったんだけど」って言って、音源を流したり、歌って聞かされたりしはしてました。
ハジオキクチ(G,Cho/以下、キクチ) : 部室でアコギを弾きながら歌い始めて、「こんな曲できたんですよ」っていう感じでね。
――ぶっちゃけ、その曲を聞いてどう思っていましたか?
フセ : おもしろい先輩だけど暗いなーって。
シノヤマ : 暗くなかったでしょ?
フセ : ポップだけど、根は暗いなみたいな感じかな。
――シノヤマさんと同学年のイタバシさんはどうですか?
イタバシヒロチカ(D/以下、イシバシ) : すごくおもしろい人だなーって。
(一同笑)
――僕もシノヤマさんに会うまで、もっと暗い人なのかと思っていたので、意外だなと思っているんですよ。
シノヤマ : 最近、そう言われることが増えてきたんですけど、あまり変わった気はしないんですよね。
――別のインタビューで読んだんですけど、「色んな人がラブ・ソングを歌っているから自分は歌う必要はない」ということをおっしゃっていましたよね。歌詞を書く上で、人と違うことをテーマにしたいという気持ちはありますか。
シノヤマ : それはありますけど、だからといって人と違うことやろうとすることも好きじゃないんですよ。同時に、人と同じことするのも好きじゃない… 。そこは難しいですよね。
――合唱曲っぽい歌詞から、倫理感を揺さぶるような歌詞に変化してきたわけですが、いつからこのような歌詞に変化していったのでしょう。
シノヤマ : 大学に入った直後は、もっと暗かったと思います。今よりも絶望的な曲をいっぱい作っていました。その時の絶望的な部分を抜いたのが今の歌詞なんですけど、まだ絶望的って言われることがあります。僕としてはそんなことはなくて、変わってきたと思っているんですけどね。
――当時、何に絶望していたのでしょう?
シノヤマ : 高校3年生になって、先生たちが「あなたたちの明るい未来を」みたいな啓発的なことを言い始めて、そういうのを聞いているうちに何か違うなと思い始めたんです。それで高校を卒業したら漠然と死のうって思っていました。高校を卒業をしてから特にやりたいこともなかったし、働きたくもなかった。でも夏休み頃、周りに流されるように大学を受けてみることにしたんです。その漠然とした気持ちを引きずったまま大学に入ったせいもあって、当時は家に帰っただけで泣いちゃうような状態が続いていました。
――そのような状態から、どのようにして抜け出したのでしょう。
シノヤマ : 理由を考え続けているうちに、そんなこと考える必要はなかったってことに行き着いたんです。
――メンバーのみなさんは、その時のシノヤマさんをどう見ていたのでしょう。
フセ : こいつ、こんなこと考えながら生きているのかって。
シノヤマ : そんな感じだったよね。「何言っているの? 」ってことはよく言われました。
――その絶望感は疎外感に近いものですか?
シノヤマ : 友達もいたから、疎外ってわけでもないんですよね。本当に疎外されている人からすれば何言っているんだって感じだと思いますし。
バンドをやっていること自体よりも、このメンバーで何か出来ることが楽しい
――周りからどう思われてもいいということもおっしゃっていましたが、その思いは変わらないですか。
シノヤマ : 基本的にどう思われてもいいんですけど、変なところでこう思われたらイヤだなって部分はあります。人が気にしないようなところが気になったりする。だけど、基本的に何と言われていようが構わないです。
――本当に何を思われてもいいのであれば、聞いた人がショックを受けるような歌詞を書かないような気もします。実は何かしらのリアクションを求めているんじゃないですか?
シノヤマ : 僕の歌詞を聴いて、無理って思う人もいるだろうし、いいって思う人もいるので、周りがどう言っていても僕にはどうしようもないと思うんです。もちろん僕がどうなりたいってのはありますけど。だから反応を求めているわけではないんです。
――メンバーはシノヤマさんの歌詞を聞いてどう思っていますか。
フセ : 素直だなと思いますよ。よく人柄が出ていて、自然と思っていることが歌詞に出てくるんだなって。周りがどうこうじゃなくて、本当に思っていることを言っているんだと思います。それを聞いて、共感することもあれば、こういう考えはないなって、両方ありますけど。
キクチ : 僕は歌詞を読んで、むかつくこともありますよ。でもこんなこと思っているんだって分かるし、人柄が出ているなって思う。
イタバシ : 僕はあまり気にしていないです。「人間遊び」の歌詞を知らなくて、最近、そんなひどい歌だったんだって気づいたんですよ。
(一同笑)
――「人間遊び」は、彼女に対して、愛していないのに「愛している」と言って、その反応を淡々と観察するという歌詞ですよね。こうした視点の元にはシノヤマさんの実体験も反映されているのでしょうか?
シノヤマ : 実体験を元にしているのもあるんですけど、人間観察をして自分が思ったことを書くことも多いです。裏話的な話になってしまうのですが、一つの歌詞に3つくらいテーマを持たせるのが好きなんです。そうした複数のテーマを組み合わせていくので、全部が全部実体験ってことはないですね。
――そうした客観的な歌詞に対して、シノヤマさんの歌声は力強いしエネルギーがありますよね。
シノヤマ : 確かに軽めな感じではないですよね。細い声とかもいいと思うんですけど、意識していないですね。もともとこういう歌い方なんです。
――歌詞にするにあたって、シノヤマさんを動かす一番大きな感情はどういうものでしょう。苛立ちとか腹が立ったようなことでしょうか。
シノヤマ : そうですね。ゆるふわみたいな感じに腹が立つことがあります(笑)。あと、女性がテーマになることも多いです。僕は、男女って分かり合えないと思うんです。でもそれはしょうがないと割り切っている部分もある。
キクチ : それって、本当はわかりあいたいってことじゃない?
シノヤマ : 平和じゃないより平和のほうがいいというか、ゴタゴタしたくないだけかな。僕は人にすごく興味があるんです。人に興味がない人は、人の気持ちをわからないと思う。人に興味がないって言っている人に限って、迷惑をかけている人が多いと思う。そうじゃなくて、人に迷惑をかけるってのが前提にあって、その上でどうするかみたいなところで考えていくべきだと思うんです。
――シノヤマさんは分かりあいたいって思っている部分があると思うけどなあ。フセさんはどう思いますか?
フセ : シノヤマ君は平和なほうがいいって言っていたけど、僕はそこは違います。分かり合えないなら分かり合えなくてもいいかなって。
キクチ : 真に分かり合うことはないと思うけど、僕はわかってもらいたいことは相手がわかるまで噛み砕いて伝えるようにしています。すごく面倒くさがられますけどね。逆に、相手のことを分かりたいときは、いろいろ質問したり追求して分かろうとしますけど。嫌がられるけど、分かろうとすることはいいことだと思います。
イタバシ : そういう考えかたもあるんだなー。
(一同笑)
――Suck a Stew Dryを始めてから、絶望感だとか苛立ちといった感情は、薄れてきましたか。
シノヤマ : バンドをやり始めてからは、絶望的な感じでやっているわけでもなくて、このメンバーでやっていることが楽しいんです。語弊があるかもしれないけど、バンドをやっていること自体よりも、このメンバーで何か出来ることが楽しい。そういうのがダメって思われる雰囲気もあるけど、知らねえよって。
キクチ : そんな僕たちの音楽をいいなって思う人がいてくれて、喜んでくれることが僕は嬉しいです。僕らはメンバーが5人もいるから、それぞれいろんな考え方があって、それをシノヤマ君が曲でまとめている。5人いたら同じ方向を向いたり考えることって無理だと思うんです。だから、その中で出来ることを選んでやっていると思うんですよね。
シノヤマ : そうですね。もし僕らの曲をいいなって思ってもらえたら、その気持ちを表現してくれたら嬉しいです。twitterに書くとかでもいいので。そしたら僕らは気づくので。メールくれたり、普通にコンタクトをしてもらえたら嬉しいです。
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Suck a Stew Dry LIVE INFORMATION
2011年11月24(木) @愛知 新栄CLUB ROCK’N'ROLL
w / phenomenon / sukida dramas / tie-on / いとまとあやこ
2011年12月3日(土) @新宿 MARZ
w / indigo la End / SAMURAI JACK UNIVERSE / 水の中で雨中 / and 1 Band
2011年12月5日(月) @大阪 福島2nd Line
w / ircle / BLUE ENCOUNT / SUPER BEAVER / TAKE COVER / アイボリック
Suck a Stew Dry PROFILE
シノヤマコウセイ (VO,G)
ハジオキクチ (G,Cho)
フセタツアキ (G,Cho)
モウリスグル (Ba)
イタバシヒロチカ (Dr)
2009年、特に何もせずに生きていたシノヤマを、キクチが誘い結成。RO69JACK2010入賞を切っ掛けに初めてバンド活動を開始。優しくしてください、できればでいいんで。
Suck a Stew Dry official web site