フェス乱立時代のなか、リスペクトと独自性を体現する都市型フェスーー高橋幸宏に訊く〈WORLD HAPPINESS 2015〉のあり方とは?
高橋幸宏がキュレーターをつとめる都市型フェスティバル〈WORLD HAPPINESS〉。夢の島公園陸上競技場というアクセスのよさと、レジャーシート付きで親子連れでも楽しめることにこだわり、今年で8回目の開催を迎える。TRICERATOPSやLOVE PSYCHEDELICOのようなキャリアのあるアーティストから、坂本真綾やSCANDALまで、他のフェスにはない組み合わせも大きな魅力である。ジャンルにとらわれずアーティストへのリスペクトも込められた本フェスについて、今年はMETAFIVEとしての出演を果たす高橋幸宏本人に話を訊いた。音楽から足が遠のいてしまった人こそ、この機会に足を運んでみてはいかがだろう?
親子で楽しめる都心のフェス、8回目の開催
WORLD HAPPINESS 2015
2015年8月23日(日)@夢の島公園陸上競技場
時間 : 開場 11:30 / 開演 12:00
料金 : ブロック指定 8,800円 / 小学生 1,200円 / 親子チケット 9,500円(大人1名、小学生1名) ※レジャーシート付き
【出演アーティスト】
METAFIVE(高橋幸宏 × 小山田圭吾 × 砂原良徳 × TOWA TEI × ゴンドウトモヒコ × LEO今井) / TRICERATOPS / Controversial Spark / 野宮真貴 with カジヒデキ / 筋肉少女帯 / スチャダラパー / 坂本真綾 / SCANDAL / 土屋昌巳[KA.F.KA] / クラムボン / LOVE PSYCHEDELICO / POLYSICS / Charisma.com / and more
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INTERVIEW : 高橋幸宏
いまや日本各地で音楽フェスが行なわれており、選択肢が増えるなど便利になった反面、どのフェスの出演者も似通ってしまうような現象も起きている。そんななか、今年で8回目を迎える〈WORLD HAPPINESS〉の出演アーティストは他のフェスとは一線を画している。TRICERATOPS、筋肉少女帯、LOVE PSYCHEDELICOなど、多くの人が知っているが実は一緒のラインナップに並ぶことのない共演が当たり前のごとく(実はものすごいことなのだが)実現している。さらに、坂本真綾、SCANDAL、Charisma.comなど、ジャンル・キャリア関係なく出演者が名を連ねているのもおもしろい。都内からのアクセスのよさ、親子連れも来やすいという設計もされており、その姿勢から明確なコンセプトと独自性が感じられる。これは、日本の音楽シーンの最前線で活躍し続けてきた高橋幸宏がキュレーターを務めるからこそなせるキュレーションだろう。8回目の開催を前に、高橋幸宏自らに話を伺った。
インタヴュー & 文 : 西澤裕郎
写真 : 外林健太
アーティスト同士の密な交流が生まれればいいなと思っています
ーー〈WORLD HAPPINESS〉の出演ラインナップは、ほとんどが知っているアーティストなのに、同じイベントで名前を連ねているのをあまり観ない組み合わせですよね。幸宏さんはどういう基準でキュレーションをしているんでしょう。
高橋幸宏(以下、高橋) : (選び方には)2つあるんですけど、1つは僕自身が興味を持っているアーティストの中で、今年このステージに誰がいいかっていうものと、もう1つは運営スタッフに「今おもしろい人がいたら教えて」って訊いて、実際聴いてみて是非ステージに出てほしいとお願いするというもの。それと、極力海外のアーティストの招聘はしないっていうのがあります。
ーー海外のアーティストを招聘しない理由というのはどういうところにあるんでしょう?
高橋 : 経済的なこともあるんですけど、〈フジロック〉にしろ〈サマーソニック〉にしろ、細かいところまでだいぶ気を遣ってらっしゃるので、そこまで手を伸ばさなくてもいいかなと。それから、野外フェスなどにはあまり出演していないような日本人アーティストを引っ張り出したいというのもありますね。
ーー今回が8回目の開催になるわけですけど、〈WORLD HAPPINESS〉を始めるにあたって定めたルールみたいなものはありますか?
高橋 : 最初はまったくの手探りで。都心の会場で、親子連れでも楽しめるようなイベントができたらっていうことだけでしたね。海外アーティストも最初の頃は何組か候補もあったりして。ルールというのはそれほどなかったですね。
ーーくるりの岸田繁さんが、去年Twitterで「〈WORLD HAPPINESS〉、とてもいいフェスだった。何がいいって、ミュージシャンが音楽を演奏するそのアティチュードに敬意のあるフェスだった。だから、若手もベテランも、とてもいい演奏をしていた」とつぶやいていました。幸宏さんがアーティストに対して意識されてることはありますか?
高橋 : (アーティストへの)リスペクトはありますね。僕は出演者であり、制作側の人間でもあるので、アーティスト間の音楽的な交流という以外にも、そのケアの部分にどうしても気を遣ってしまいます。一部の例外を除いて、多くのフェスは出演するミュージシャンに対してあまり優しくなかったりしますよね。満足な待機スペースもなく、ステージ脇のテントで出番を待って、終わったらそのまま帰るしかない、なんてところもあります。〈WORLD HAPPINESS〉は、できるだけ出演者にとって居心地が良い環境を用意したいと考えています。大規模なフェスに比べてスペース的にかなり限りがあるんですけど、その地の利を生かして、アーティスト同士の密な交流が生まれればいいなと思っています。興味のあるバンドがあれば、楽屋を出てすぐのところにステージがありますし。
ーーアーティストが気持よく良い演奏が出来る場というのはどういう場所なんでしょう?
高橋 : お客さんいなかったらどうしようってことを、みんな考えると思うんですね。目当ての出演者以外は聴こうとしないとかね、そういうお客さんは〈WORLD HAPPINESS〉には少ない。「アウェーかと思って来たら、お客さんの反応が良くて驚いた」と言ったアーティストがいましたが、みんなウェルカムですよ。やる側にすれば、自分たちのことを好きなんだろうなって人たちの前で演奏する方が楽しいに決まってますよね。それは数じゃない。それを感じられれば、演奏する側もすごく気持ちいいと思うんです。
ーーそういう部分も含めて、岸田さんはいい演奏ができたってことをおっしゃっていたのかもしれないですね。
高橋 : かもしれないですね。
興味が尽きなくて、そのうちどんどん新しい自分になっちゃったりする
ーー8年経って〈WORLD HAPPINESS〉に来るお客さんも色が見えてきたんじゃないですか。
高橋 : そうですね。〈WORLD HAPPINESS〉に参加する人たち、というある種のイメージはできつつあるのかも知れません。ただ、そこに関しては、回を追うごとに変化していくんじゃないかな。始めた当初、三世代の親子が一緒に参加できるイベントなんていうのができたらいいな、と思ったりしましたが、そろそろ現実になりつつありますし、また一方で新陳代謝して行ってもいいと思うんですよね。そういえば、かつて日本でロックを聴いていた我々の世代って、会社に入社した途端にそれを聴くのを辞めてしまった、なんてことが言われていたんですよ。
ーー学生時代は長髪だったのに、急に髪切ってスーツ着て、みたいなことですか。
高橋 : そう、そういう時代だったの。それが今、そうやって1回離れていた人たちが音楽の現場に戻って来ていて。息子たちに「これを聴いてみろ」って言って、アメリカン・ミュージックにしろ、ヨーロッパにしろ音楽を聴かせたりしてるんですよ。いままで君たちは何をやってたんだ? って言いたくなるんだけどね(笑)。
ーーあははは。幸宏さんはもちろん、例えば鈴木慶一さんは、いまだったらControversial Sparkをやっていたり、常に意欲的にプロジェクトを立ち上げたりされるじゃないですか。その熱量って、変な意味じゃなくて子どもみたいで羨ましいなって思うんですよ。
高橋 : 慶一に感心するのは、大きなフェスに行くと、自分の出番以外の時間、できるだけ多くのバンドのライヴを見るんですよね。声をかけると「あっちまで観に行こうと思って」とかって言って行っちゃう。そういうのはすごいし、歳は関係ないんだなって思いますね。彼も、興味のあるものはインディーズとかメジャー関係なく観に行くタイプですから。
ーー幸宏さんもプロジェクト数でいくと、けっこうな数やってますよね。
高橋 : ちょっとやりっぱなしかなっていうのもありますけど、ほったらかしてるわけじゃないんですよね。興味が尽きなくて、そのうちどんどん新しい自分になっちゃったりするんで変わっていくというか。どれも大切なアーティストたちで一緒にやってて楽しいなっていうのもあるし、その辺は歳関係なくやれるなっていうのはありますね。
ーー去年は高橋幸宏 & METAFIVEで出演されていましたが、今回はMETAFIVEとして6人で出演されるんですよね。
高橋 : 他のメンバーとミーティングをやったとき「ある程度定着したんで、バンド名だけでいいんじゃないか」って意見が多くて。やっぱり新しいことを作って行きたいですね。まだ何も決まっているわけではないんですけど、ワンマンのライヴをやりたいですね。やれるとしても、まだ先でしょうけど。去年で終わると思ってたプロジェクトが続いてるっていうことは事実ですから。
ーー今回〈WORLD HAPPINESS〉でライヴをすることで、その先に新しく産まれてくるものがあるかもしれない、と。
高橋 : 間違いなくあると思いますよ。
やってみてつくづく思ったのは、全部違う曲じゃんって(笑)
ーー今回の出演アーティストの中で、幸宏さんの方から直接オファーした方っているんですか?
高橋 : TRICERATOPSはフライング気味で僕が直接本人たちに話ました。「本当なんですか!?」って感じだったから、「え! 聞いてないの!?」ってなって(笑)。っていうのはありましたけど、直接僕から先に言っちゃうっていうのはまずないですね。
ーーちなみに、幸宏さんの中の琴線にひっかかるアーティストは、どういう人たちなんでしょう。
高橋 : その時によるんですよね。気分にもよるというか。今こういうバンドが出てきたらいいなっていうのは実はあるんですけど、なかなか日本では見当たらないので。若手で「この部分いいじゃない」っていうのがあったら、それだけで「この人たちはくるね」みたいに感じることはありますね。
ーーそれはサウンド面の部分と、アティチュード的な部分で、どちらが強いんでしょう。
高橋 : アティチュードですね。感覚というか、雰囲気です。その時その時の自分の気分で変わってるような気がして、それは気をつけなきゃとも思うんですけど。それも、まあしょうがないかなっていうのもあるんですよね。
ーー以前のインタヴューだったりレポートを見ていると、今回出演はされませんがサカナクションのことはかなり買ってらっしゃるのかなって。
高橋 : うん。僕は釣りが好きだから、山口くんと話が合うっていうのもあって(笑)。とりあえず、音楽に対する取り組み方が真面目ですよね。キャラクターはすごいバラバラですけど(笑)。ファンクもあるし、プログレの良さもあるし、四つ打ちが基本なのに不思議ですよね。
ーー今回出演する筋肉少女帯とは、どういう繋がりがあるんでしょう。
高橋 : 大槻くんのことは昔から知ってるんですよね。でも、自分たちのライヴで後悔してるようなことを言ってたらしいです。「今回〈WORLD HAPPINESS〉に出ることになったけど、すごいアウェイ感を感じるんだけど大丈夫かな。っていうかなんで引き受けたんだろう」って言っていたというのをファンの方から聞いて(笑)。
ーーこのラインナップに坂本真綾さんが出演するのもおもしろいですね。
高橋 : 坂本さんのことは、もちろん知ってましたけど、直接の面識はなくて。最近の活躍ぶりを見て気になっていたら、偶然スタッフの方からも名前が上がってきたので、是非頼んでみようっていうことでお話しました。でも、まさか小山田くんとコラボレートするとは、思ってもみませんでしたね。
ーーLOVE PSYCHEDELICOとは親交が深いんじゃないですか。
高橋 : 〈WORLD HAPPINESS〉に2回出てもらって、今回、彼らのツアーに一緒に周っているのですが、そういう意味では親しくなったのは最近といえば最近です。去年の11月くらいだったかな。15周年記念で是非一緒に廻りたいんです、っていうお手紙を頂いて、断りにくいなーと思って(笑)。28年振りに他アーティストの、しかもライヴハウスも含まれているライヴでドラムをやることのほうが心配で。曲が似てるんで覚えられないんですよ(笑)。
ーーそんな(笑)。
高橋 : 実を言うと、曲が似てるなっていう印象だったんですけど、やってみてつくづく思ったのは、全部違う曲じゃんって(笑)。似てるなって思われちゃう感じは分かるなって思ったんで、そうじゃなく聴こえるようにドラムを叩こうと思っていますね。
ーースチャダラパーとは、この取材前に対談をされていましたよね。
高橋 : スチャダラは昔から知っているんで。彼らが出てくれると盛り上がるんですよ。独特な盛り上げ方してくれるし、全体の流れの中での立ち位置を考えながら出てくれるので、イベントを考えやすいですよね。
ーークラムボンとの親交もあるんですね。
高橋 : もちろん。クラムボン世代っていうのは高野寛君を聴いて育った世代なので、高野君を育てた人っていうイメージらしいんですけど、結構気軽にしゃべってくれるんで。だから出てもらうの今年初めてだっけ? って感じでしたね。
ーー言い方が難しいんですけど、〈WORLD HAPPINESS〉に出演しているアーティストの方は音楽への愛情が深い人たちが多いなと思って。クラムボンのミトさんはOTOTOYで主催したノイズ講座にお客さんとして申し込んで受講していてびっくりしたことがあって。本当にそれくらい好奇心と行動力があるんだなってリスペクトする出来事でした。土屋昌巳[KA.F.KA]さんはどのようなステージになるんでしょう。
高橋 : このバンドは楽しみなんですよ。エンジニアが僕たちとは昔から一緒に仕事をしている飯尾芳史君なんで、彼らの音を聴かせてもらってるんですけど、相当おもしろいです。この中のマッチョなひとりがMOTOKATSUっていうんですけど、ずっと僕のファンで、「もし幸宏さんがキーボードをやっていたら、僕はキーボードをやってました」っていうやつなんですよ。でも、あのマッチョな体にキーボードは似合わない(笑)。酒癖が悪くて、暴れる方じゃなくて甘えるんですよ。僕に抱きついてきて、膝から離れなかったことがある、顔を埋めて(笑)。
気持ちはゆるやかに、盛り上がるところは盛り上がっていただいて
ーー(笑)。本当に、音楽のジャンルとかサウンドとかって言うよりも、先ほどおっしゃてた雰囲気とかアティチュードとか、そういう部分がちゃんと込められているんだなと思いました。
高橋 : 僕たちが音楽をやり始めてプロになって、という時代というのは、実体験としてのモータウンやアトランティックがあったり、ジェイムス・ブラウンがいたわけですね。多くの優れたバンドがいて、サイケデリック・ムーブメントなんていうのもリアル・タイムに体験している。そういう時代に育ってきてるから、ひと通りの音楽が身体に入っちゃっている。実際にプレイして、いろいろなトライをしてきたんです。やり尽くしたとまではいいませんけどね。若いバンドの音を聴いて、ああ、あの辺をルーツにしているんだな、なんてことを思ったりもしますけど、僕自身は、もはやそういったことにあまり意味を感じなくなっているというところはあるかも知れません。〈WORLD HAPPINESS〉の出演者にジャンルとしての一貫性がないという意見も耳にしますが、だからそういったもの以外のところに楽しさを見出して欲しいというところですかね。
ーーどうしても音楽を語る上で、ジャンルに分類したがるというか、そういう傾向は避けられないですからね。
高橋 : 思うに、その分類もだいぶ減ったかなって気がするんですよね。多様化しすぎてて、ジャンル分けに一生懸命な方々というのも今だに健在ではありますが(笑)。
ーーあはははは。今回は8回目ということで、これまでの7回を踏まえた上でパワーアップする部分とか、ここが注目ポイントだよっていうのはあったりしますか?
高橋 : いつも言うんですけど、ここに力を入れてくださいっていうのはないんですよ。ゆったり、まったりとした時間を楽しんでください。全部に力を入れるとあの気候だと倒れかねませんしね(笑)。僕も初めてライヴを観る人いますからね(笑)。気持ちはゆるやかに。とはいえ、盛り上がるところは盛り上がっていただいて。適度なアドレナリンの放出と、適度な休息でいって欲しいなと思っています。大事なのは、とにかく水分。アルコール、僕を含めて飲み過ぎに注意です(笑)。
ーーあと、今年は台風が被らないといいですね。
高橋 : 例年から会期を2週間ずらしたんで、それが吉と出るかどっちなんでしょうね。
ーー去年のレポート見ると、幸宏さんが出た時に雨は止んだみたいで。
高橋 : 一応、大雨は大丈夫でしたね。ただ、METAFIVEはめちゃくちゃ機材多いんで、申し訳ないくらいコンピュータが濡れちゃったんですよ。シャワー浴びながら演奏してるみたいな感覚だったので、今年は晴れるといいですね。
WORLD HAPPINESS 2015 出演者の配信楽曲もチェック!
WORLD HAPPINESS 2015
2015年8月23日(日)@夢の島公園陸上競技場
時間 : 開場 11:30 / 開演 12:00
料金 : ブロック指定 8,800円 / 小学生 1,200円 / 親子チケット 9,500円(大人1名、小学生1名) ※レジャーシート付き
【出演アーティスト】
METAFIVE(高橋幸宏 × 小山田圭吾 × 砂原良徳 × TOWA TEI × ゴンドウトモヒコ × LEO今井) / TRICERATOPS / Controversial Spark / 野宮真貴 with カジヒデキ / 筋肉少女帯 / スチャダラパー / 坂本真綾 / SCANDAL / 土屋昌巳[KA.F.KA] / クラムボン / LOVE PSYCHEDELICO / POLYSICS / Charisma.com / and more
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