予測不可能な引き算の美学
渋谷にあるライヴ・ハウス7th floorでは、窓から入る弱い光が薄暗い会場を照らしていた。椅子に座りビールを片手にステージをみつめる観客の中、SOURの3人がステージに上がり、静かに演奏が始まった。新作からの2曲を含め全7曲を演奏したが、あっという間に時間は過ぎてしまった。テーブルと椅子が備え付けられた会場では、目を閉じながら音楽に耳を澄ます観客もおり、SOURの音への親密感が溢れていた。hoshijima(vocal&guitar)は、「お客さんの反応はひとつじゃなくていい。極端に言えば、もし気持ちよくて寝ちゃう人がいても、ある意味いいかなって。そういうのも音楽の楽しみ方のひとつだと思う」と笑顔で語った。
現在の彼らからは想像がつかないが、全員が通過儀礼としてハード・コアを通っている。世代的に、ニューヨーク・ハード・コアなどを聴いていたこともあったし、今も聴くことがあるというが、ギター、ベース、ドラムというシンプルな構成で奏でられる洗練されたサウンドを聴くと、現在のSOURの楽曲が出来たのは不思議である。
「物理学的な問題というか、もともと楽器の音の数が多かったんですよ。そこからだんだん数を減らしていった。例えば、エレキ・ギターだったのをガットにしていったら、必然的にそうなっていったり」(KENNNNN/drums)
「俺は後から入ったんですけど、全員好きなものがバラバラで、当時hoshijimaはモグワイとか好きで、KENNNNNは変わった音楽が好き(笑) 俺は俺でブラック・ミュージックとか聴いていて。お互いやりたいことをやっていって、やれないことを消していったら、音楽はこうなった」(Sohey/bass)
ハード・コアなバンドから一転して、対極の音楽をやるアーティストは決して少なくはない。例えば、ジミー・ラヴェルが、ポスト・ロック・スタイルのアルバム・リーフとして活動しているのは周知の事実だ。とはいえ、そうした事例が特異であることに変わりはない。お互いがやりたい音楽を追究すれば、3人の個性がぶつかり合い、引き算どころか足し算の音楽になりそうだが、SOURにとっては逆のようだ。
「お互いのやりたいことがぶつかった時は、絶対相容れないんですよ。だから、そこをばっさり切ってしまえば、取りあえずぶつかりはしないっていうのを、引き算でずっとやっていってたら引き過ぎちゃって。最近はまた足し始めてるんですけどね」(KENNNNN)
「始めは着地点が全然みつからなくって。2、3年みつかんなかった(笑) 着地できないまま楽器たちが変わっていって、ようやく若干着地ができるようになった。(できるようになったのは)各々の音に対するレスポンスの仕方を覚えたんからだと思う。例えばhoshijimaがメインのギター・リフとかコードを作ってくるんですけど、それに対して俺がどういう音を出していけば曲が変わるのかとか、それに対してKENNNNNがどこで叩けばこの曲を面白いものに出来るかとか、お互いがお互いのオブジェクトを持って作れるようになった」(Sohey)
今回リリースされる『WATER FLAVOR EP』は、SOURにとって初のミニ・アルバムとなる。明確にテーマがあって作り始めたわけではなく、いつも通りお互いが着地点を探りながら出来上がった作品だ。アルバム2枚を立て続けに1年ずつ出し、もう一枚同じようにアルバム出すのもつまらないと思ったという。5曲が5曲でしっかりまとまった今作のアルバム・タイトルにはどのような意味があるのだろう。
「直訳すれば、水の味や香りとか、においっていう意味なんですけど。イメージとしては、ぐにゃーって感じ。カチカチした感じじゃなくて、固体っていうよりは液体。ニュアンスを感じ取って欲しい。水の香りをかいでも、あんまりにおいはないですけど、そこはかとなくあって。そういう実体のないものでも、本当は味がありますよという」(hoshijima)
今作は、前作に引き続きクラムボンのミト氏をプロデューサーに迎え、小淵沢のスタジオで約10日ほどで収録された。山の中にあるロッジはそれ自体が楽器みたいなもので、東京のコンクリートばかりのスタジオでは感じられないことが多くあったという。壁にも音があり、木のきしむ音が入ることもある。メンバーが驚いていたのが、小淵沢に持って行った楽器を東京に持ち帰り使ってみたら、音がよくなっていたことだ。エレキでさえ音がよくなっており、1ヶ月くらいその状態だったという。曲のイメージに関しては事前に伝えたけれど、プリプロの段階で言葉にしなくてもやりたいことをミト氏は把握してくれたという。こうした信頼関係は今作にも影響を与えている。
「クラムボンのミトさんのレコーディングの仕方って、1音1音の聞こえない速さなんですけど、そこの間をすごく大事にするんです。デジタルの0と1の間の妙な間をすごく大切にする人で。レコーディングの時のあのままが録れていると思う。本当によーいどんで一斉に録っていって、形に押し込むんじゃなくてその空気感を大切にした」(KENNNNN)
「前回以上にいいアナログ感。機材も前回と今回で使ってる機材が全然違う。50年代のマイクとか、(高橋)健太郎さんの鬼ヴィンテージたちが色をつけてる感じで。ジョン・ボーナムがトップにつかったマイクをスネアにあてたりとか。ギターもそう。ところどころ現代レコーディングじゃありえないくらいのレベルを迎えている音がある。音が歪んでるんですよ。ベースなんかは普通のスタジオでやったら怒られると思うんですけど、弾いてて気持ちよくてマイクに近づけちゃって。その瞬間に音がブーストして割れてるんです。それも敢えて消さずにそのまま入れてる。それを不快じゃないようにミトさんがミキシングしてくれてる」(Sohey)
サウンドにこだわりがあるSOURであるが、決してインストゥルメンタル・バンドではない。あくまで、歌ものであることにこだわっている。メロディと歌詞、バンド・サウンドが独立してしまわないように意識して楽曲を作っている。人間は自然と声に耳が行ってしまい、簡単に楽器を潰してしまうことがある。そうなってしまうとSOURの持ち味が薄められてしまう。とはいえ、歌詞や言葉も不可欠な要素である。
「1枚目のアルバムの時は10曲中8曲が英詩だったんです。英語の語感のほうが、破裂音とかがリズムにはめこみやすくて使っていた。けど最近は、全部日本語にしました。以前は音という意味でしか歌詞を書いていなかったんですけど、やっているうちに仮にもメッセージというものがあって、伝えたいっていう気持ちも出てきた。日本語でしか出せないニュアンスもあるから、日本語も面白いなって。矛盾するんだけど、バランスをとりたいなっていうのはずっとある。歌ものとして成立したいっていう意識もすごくあるし、安直にインストよりにするんじゃなくて、ちゃんと歌としても成立して言葉も入ってほしい。だけどアンサンブルとしても面白くありたいし、出来るだけ両方押し上げられるように全てを録りたい」(hoshijima)
「だからといって、ライブでリリックを全部聞き取れるようにしたいってことではない。ポップスとしての必要性って、歌詞が聞き取れることにあるじゃないですか。でもそれはライヴとCD別々であっていいと思う。ただ、歌がいいのは音楽を人に聴かせる上で、大前提でもあるから。人気があって出てくるバンドってそれなりにそうした部分を持ってるので、そこは崩さないほうがいいかなって思うんです」(Sohey)
それぞれが追求する音の着地点を探し続けるSOUR。どこに着地するのかまったくわからない。だからこそ、多様性や偶然性があって面白い。7月8日には、1年ぶりのワンマン・ライヴが控えている。引き算ではなく足し算のライヴを考えているという。これまでの集大成になりそうなワンマン。ダンサーを入れたり、チェロ、バイオリン、ギターも3本いれたり色々アイデアがあるようだ。着地点なんて定めなくていい。自分の道に妥協しなければ、自然と素敵な場所に着地する。流れる水のように、SOURの音楽は今日もさらさらと流れている。最後に、今回のアルバムをこう締めくくり、彼らは音楽を求めて渋谷の街へ消えていった。
「『WATER FLAVOR EP』は、前回以上にスルメっぽいアルバム。聴けば聴くほど色々な発見が出来るアルバムだと思う。1回聴いていいと思ってくれたら、絶対もっと気に入ってもらえるアルバムなので是非聴いてほしい。ちょっといいぐらいなら、絶対買って損はないぞっていう自負もある。フレーバーを感じてくれたらいいですね」
(text by 西澤裕郎)
プロフィール
フランス生まれイギリス育ちのhoshijima(gut guitar/vocal)
銀座生まれ銀座育ちのSohey(upright bass/bass)
ドイツ生まれスペイン育ちのKENNNNN(drums/toys)により結成。
都会的且つオーガニック、タイト且つメロウ、研ぎ澄まされた心地よさを奏でる3ピース・バンド。
- ホームページ : http://sour-web.com/
- プログ : http://sour-web.jugem.jp/
LIVE SCHEDULE
- 6月28日(土) @渋谷LUSH / HOME
OPEN 15:00 / START 15:30
ADV ¥2,500 D / DOOR ¥3,000 D
- 7月8日(土) @渋谷0-west
OPEN 18:30 / START 19:30
ADV ¥2,000 D / DOOR ¥2,500 D
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