実在するスタジオから生まれた映画「三つの光」ーー吉田光希(監督) × 池田良(俳優) × Yawn of sleepy(音楽)
圧倒的なリアリティで希望と焦燥を描き、乾いた心の再生に迫る吉田光希監督による映画最新作『三つの光』が、2017年9月16日より順次全国の劇場で公開スタート。舞台は、深夜の倉庫街。楽曲制作をするマサキとKのもとに集った3人の女たちは、それぞれの抑圧された日常から逃れるように自分を解き放ちながら音楽を奏でていく。共に作り上げる音楽は結実するように思われたが…。OTOTOYでは同作のサウンドトラックをハイレゾ配信するとともに、舞台である倉庫を改造したスタジオ「Ice Cream Studio」に足を運び、吉田光希監督、Kを演じた池田良、音楽制作を担当しているYawn of sleepyへのインタヴューを敢行した。なにかを本気で表現することとは? 切実に問いかけられる本作は必見だ。
映画『三つの光』オリジナル・サウンドトラック、ハイレゾ配信中
V.A. / the lights for the others, delights for the lusters (24bit/48kHz)
【配信形態】
FLAC、ALAC、WAV(24bit/48kHz)
>>ファイル形式について
>>ハイレゾとは?
【配信価格】
アルバム : 2,268円
【収録曲】
1. teria -- Michiko
2. softer hover -- Aya
3. -2(oY+gY-cM) -- RHYME at Sea
4. of the year -- Aya
5. stir one -- Aoi
6. stir two -- Aoi
7. stir(double) -- Aoi
8. stir(previously) -- RHYME at Sea
9. the lights for the others,delights for the lusters -- Aya
10. TS -- Yawn of sleepy
11. vestige one/fathers -- K
12. vestige two -- K
13. Tomorrow's Happenings(film edit) -- hydrant house purport rife on sleepy
14. passage one -- Aya,Michiko,Aoi
15. passage two -- Aya,Michiko,Aoi
16. weathers -- hydrant house purport rife on sleepy
17. real world ensemble(film edit) -- M.A.P.S.
18. Kitchen(film edit) -- Placebo Sound
19. me&selves -- OCTOPUS CAMMY
20. Schopenhauer(film edit) -- sleepy it
21. stella hovers -- Aya
22. echoes -- Aoi
23. Pornographic Hugs(film edit) -- Placebo Sound
24. goes -- Yawn of sleepy
映画『三つの光』作品情報
ベルリン・ロカルノ・香港・全州、世界が注目する吉田光希監督最新作、ついに日本公開! 『症例X』(‘08)ぴあフィルムフェスティバル審査員特別賞、ロカルノ映画祭選出、『家族X』(‘11)ベルリン国際映画祭選出、『トーキョービッチ,アイラブユー』(’13)東京フィルメックススペシャル・メンションと国内外で評価の高い吉田光希監督、待望の最新作『三つの光』が、ベルリン国際映画祭、香港国際映画祭出品を経て、日本での劇場公開が決定しました。
圧倒的なリアリティで心の再生を描く
深夜の倉庫街で楽曲制作をするマサキとKの元に、抑圧された日常から逃れるようにして3人の女が集まってきた。自宅でピアノ演奏を撮影し、動画共有サイトにアップロードを続けるアオイ。夫とすれ違いの生活を続ける専業主婦のミチコ。歌うことの意義を失いつつあるシンガーのアヤ。マサキとKとの出会いによって自分を解き放っていく3人。それは、共に作り上げていく一つの音楽に結実するように思われたのだが・・・。
喜びと葛藤、希望と焦燥。
橋口亮輔監督『恋人たち』(‘15)の好演で、高崎映画祭優秀新進俳優賞を受賞した池田良をはじめ、新人俳優たちと監督が対話を重ね、それぞれの個性や境遇をキャラクターに反映させ、観る者に圧倒的なリアリティをもって語りかけます。もがき続ける人間の姿を通して、誰もが抱く希望や葛藤、焦燥を描き、心の再生に迫る意欲作です。
2017年9月16日(土)〜 @新宿K’s cinama
2017年9月30日(土)〜 @渋谷ユーロスペース
他全国順次公開!
>>『三つの光』公式サイト
INTERVIEW : 吉田光希(監督) × 池田良(俳優) × Yawn of sleepy(音楽)
深夜の倉庫街。静まり返った空間に、満たされない想いや日常を生きる3人の女性たちが引き寄せられるように集う。自宅でピアノ演奏を撮影し動画共有サイトにアップロードを続けるアオイ。夫とすれ違いの生活を続ける専業主婦のミチコ。歌うことの意義を失いつつあるシンガーのアヤ。古びたピアノ、マイク、ミキサーなどが置かれたそのスタジオの中心には、マサキとKという音楽制作に携わる2人の男がいた。彼女たちは、自分の音を奏でるために自分自身の内面に潜り込み音楽を奏でていくが…。
この「三つの光」という映画は、音楽ひいては芸術を追い求めることについての欲求、それに伴う暴力性や、その結晶が必ずしも報われるわけではないという儚さが描かれている。SNSが普及しインスタントなものが増えるなか、なぜここまで苦悩して音楽を奏でるのか。創作というものを通し、心の奥底にある人間性を抉り出し、痛みを伴いながらも必死に音を紡いでいく。
実はこの映画の舞台である「Ice Cream Studio」は実在し、ここで描かれているようなセッションが毎週末行われている。数えきれないくらいの人間がこの場所を訪れ、たくさんの音を生み出し記録していき、また同じくらいの人たちが去って行った。音楽を奏でるということとは、芸術を昇華するとは、なにかを本気で生み出すこととは一体なんなのか。そんな本質に迫る映画「三つの光」について、監督の吉田光希、Kを演じた池田良、このスタジオのオーナーであり音楽制作を担当したYawn of sleepyに話を訊いた。
インタヴュー&文 : 西澤裕郎
写真 : 大橋祐希
この作品はある意味、精神的なファイトクラブみたいなもの
──「三つの光」は、倉庫を改造したスタジオ「Ice Cream Studio」が舞台となっています。実際にここでは週末にミュージシャンたちが集い、深夜から朝方まで即興でレコーディングをしており、吉田監督も3年前くらいから毎週のように通ってらっしゃっていました。なので、ここでの出来事が映画ともリンクしているのかなと思ったんですけど、実際のところはいかがなんでしょう。
吉田光希(以下、吉田) : ここで映画を撮りたいってことは以前インタヴューでもお話したんですけど、場所だけではどうしても物語が動いていかなくて。3年くらい通う中で、いろいろな人と出会ったり出来事に遭遇して、それがリンクしているところもあると思うんですけど、それ以上に僕の経験が大元にあります。例えば、映画を作っていく上で意見が対立して揉めた経験もあったし、そういうときって、このやろー!! って人を悪く思う気持ちも出てくるんですよ。そういう部分が映画の元になっているところが大きいですね。人に対する暴力的な思いとか気持ちって、自分の中でも嫌だなって思うじゃないですか? そういう気持ちや二面性に、だんだん肉付けがされて映画になっていきました。
──二面性という部分で言うと、「K」というキャラクターが暴力性の象徴となって描かれています。それを演じているのが池田良さんですが、池田さんは橋口亮輔監督による映画『恋人たち』におけるゲイの弁護士役のイメージも強く、今日お会いするまで正直怖かったんですけど(笑)、ものすごくハマり役で物語を牽引していく役となっています。吉田監督はなぜ池田さんをキャスティングしたんでしょう?
吉田 : もともと、この映画のはじまりは(プロデューサーを務めた山本政志監督が主宰する役者志望者を対象とした)ワークショップ“シネマ☆インパクト”をベースに映画制作をする企画をいただいたことなんです。最初のワークショップ自体に池田さんは参加していなかったんですけど、別で行われたオーディションに池田さんが来ていました。脚本の執筆に行き詰まっていたとき、池田さんをイメージしてセリフを書いていったら勝手に役が喋り出していって。そのあとで、正式にメールでお願いしました。
──Kというキャラクターには、芸術に対する執着と、そこに付随する暴力性が込められています。Kを演じるにあたり池田さんはどういう準備をされたんでしょう?
池田良(以下、池田) : 吉田さんと最初に打ち合わせをしたとき、「この作品はある意味、精神的なファイトクラブみたいなものだ」って話をされて。なのでブラット・ピットの影響は結構受けていますね(笑)。そもそも僕は喫煙者じゃないので、タバコの吸い方とか捨て方とかも研究して真似ているところもあります。
吉田 : 最初に吸っていたタバコが最後のシーンでなくなるっていうのは、池田さんのアイデアなんですよ。最後に一箱吸いきるっていう細かい部分まで考えています。
──僕は4年近く「Ice Cream Studio」に取材に来ているんですけど、ある意味でKのモデルはYawn of sleepyさんなんじゃないかと感じることも多くて。Yawnさん自身は、この作品をどういうふうにご覧になりましたか。
Yawn of sleepy(以下、Yawn) : 僕の中では、フィクションとして受け止めきれないところがあって。楽曲部分の演出をしたんですけど、映画の中で行われているセッションって、フィクションとノンフィクションのマッシュ・アップなんですよ。マイクを突きつけて音を出してもらう過程で役名を呼んでいるんですけど、求めてるものはその人自身の話なんです。例えば、役名のアオイちゃんに対して語りかけているけど、出してもらいたいのは俳優である小宮さんの音。この仕掛けは俳優さんが混同するかなと思ったし、実際困ったと思います。言っちゃうけど、マサキさんの音は途中から鈴木さんだったと思いますし、特に俺と話してる時はそうだった。そこがすごく難しいし、高度なものが求められていたのかなと思いますね。
池田 : 吉田さんが目指しているものとして、与えられた役を超えて、その人が本来持っているものを撮りたいんだなって認識が僕にはあって。そういうところが好きだし、信頼もしていて、そこが出ている作品になっていると思います。
吉田 : でもさ、ベルリン国際映画祭で「撮影がつらかったです」ってみんな言っていたじゃん? そのとき、俺、このやり方でいいのかなって思ったんだよね(笑)。このやり方以外にもあるんじゃないかって。俳優の力を引き出すのは追い込むってことばかりじゃないだろうし、そこは考えていきたいなって思いましたね。
Yawn : 最近、俺は「勇気の花を咲かそう」っていうテーマでやっているんだけど、芸事をやっている以上、一枚ベールを脱ぐっていう過程に真実味があると思うんだよね。これは俳優さんだったり光が当たる人たちだけじゃなく、照明さんも、バンドも、録音もそうだと思うし、みんながそれぞれの勇気の花を咲かせないといいものにならないと思っていて。一個飛び越えないといけない。それはやっぱり必然だし、それ以外のやり方ってあるのかな? と俺は思うけどね。
池田 : たしかに役者って殻を脱ぎ捨てることが必要で、本来は自分でそこまで出来たほうがいいんだろうなとは思うけど、今回は僕も含め、役者としての経験豊富な人たちではなかったから、追い込むという作業が必要だったんだと思います。特に吉田さんが作る作品の場合、そこに役者が行き着くことが重要だとは感じますよね。演じるキャストたちもみんな必死で、僕もマサキ役をやった鈴木(士)くんと、撮影の待機中に激しく言い合いになる場面もありました。(笑)。
Yawn : 感情がこぼれすぎていたよね(笑)。
その人にしか演じられない役で映したい
──殻を破るという話とつながるかはわからないんですけど、池田さんのプロフィールをみると「慶應大学法学部法律学科卒業後、外資系企業にてコンサルタントとして働く。1年半アメリカに勤務。帰国後、退職し役者に」と、エリートコースを歩んできたにもかかわらず、俳優に転向されていますよね。
池田 : もともと、僕自身が殻を破るところに行きつけなかったんです。小さい頃はいじめられていたり、自己表現ができない子で、周りの顔ばかり伺って自分が傷つかないように笑って過ごしていた。本当は傷ついているんだけど、きつい・つらいって気持ちを親にも言わないで蓋をして生きていたんです。サラリーマン時代、転職しようかなと思っていた時に役者さんを見たら、つらい顔をしているじゃないですか。いま考えると、つらいってことを表現したくて役者になったのかもしれない。そういう深いところに潜ったり、表現がしたくてこの世界に来ているんです。
──自分の表面上を感情を剥いで、その奥にある感情を表に出したかったと。
池田 : 潜在的にですけどね。役者になった頃、僕は本当に落ちこぼれだったんですよ。養成所の卒業公演で、みんないい役をもらっているのに、自分だけセリフ一言で。なんでこんなに認められないんだって思いもしましたし。
──吉田監督が役者を追い込んで感情を剥ぐことを続けているのは、そこに可能性を信じているからなんでしょうか。
吉田 : ちょっと抽象的ですけど、その人にしか演じられない役で映したいんです。その人らしさって内面にあるんじゃないかなと思うし、代わりが利く役にしたくない。もしKという役を違う人にやらせていたら、この映画にはならなかったと思うし、追い込むからには僕もそのように見せる責任があると思ってやっています。
Yawn : 今回の映画は痛すぎて、何回も観れないよ(笑)。見に覚えのあることばっかりというか。自分たちがしてきたことが映画になるってことはすごく嬉しいし、感謝もしている、とてつもない思い出になると思う。でもこれを見て、俺自身、もうちょいスマートにやりたいとは思ったな。
吉田 : 我々はこの場所で起きていることを知っているからそういう思いにもなるんだけど、試写会で会社勤めの人が同じ感想を言ってくれたんですよ。いわゆる会社員で仕事をしている人たちの人間関係でも同じようなことが起きていると。それを聞いて、自分の経験を元にその人の映画になってくれるかもしれないと思えたんです。脚本を読んだ時、Yawnが「刺さるポイントが無数にある映画だ」って言ってくれたんですけど、たしかにそうかもしれないってすごく思いましたね。
音楽映画という見え方にはしたくない
──この映画では音楽を奏でることが大きなポイントとなっています。現実でも、その人自身の音を鳴らすことは難しいですし、映画を通して伝えるのはなおさらですよね。
吉田 : 伝えるのは難しかったですね。脚本には「音が鳴り出す」としか書いていなくて(笑)。普通の映画だったら事前にこういう楽曲を用意するって決めるんですけど、ここでのやり方を知っていたので、そのような書き方をしたんです。
池田 : 実際、役者たちがここで作ったわけですからね。
吉田 : 僕は俳優が楽器で出した音を元に、Yawnが作る曲を聴きたかった。音楽映画という見え方だけにはしたくなくて、役者本人も含めて空間ごと一つの楽曲にしてほしかったんです。限られた時間の中でどこまでできるかは僕も不安だったし、俳優さんにとっても初めての経験で、ある意味賭けですけど、やってみるしかないなと。
──僕も最初ここに来た時、いきなりレコーディングする状況になって、勇気を振り絞るしかなかった経験があるんです。実際に映画を観て、それぞれ役者さんの出してる音は、自分に向かい合った音だったんじゃないかと思いましたけどね。
吉田 : 僕もミュージシャンじゃない西澤さんがマイクの前に立ったのを見ていたんですけど、勇気の花を咲かせようじゃないですけど、何かしら声を出すしかなかったじゃないですか? それでも曲になるっていう場に立ち会ってきたから、俳優でやってみたいなって思うようになりました。演じることで生きている人たちだったら、もっとできるんじゃないかっていう。そのような期待は脚本を書いてる段階でありました。
Yawn : 楽曲部分に関しては、勇気を出したものはいいものが録れてると思うよ。特に石橋(菜津美)さんはそうで、来てすぐに知らない人と歌っていきましょうみたいになって、2テイクくらいしか録っていないから。それはすごく勇気がいるはずなんですよ。逆に勇気がないものに関しては後々大事にできないし、勇気を出した上でそれが自分の形として受け入れられる場合もあるはずだと思います。
吉田 : その過程は丸ごとサントラで聴けるようになっていて。ここで録った素材を全部仕上げてもらったんです。映画の中では使いきれなかったんですけど、勇気を出して鳴らしたもの、勇気を出せなかったものも含めて、ドラマチックなサウンドトラックですね。僕は最後の曲だけ、未だにちょっと平常心では聴けなくて…。
──聴けないっていうのは?
吉田 : Yawnがプレゼント的に作ってきたんですよ。それがよくて。これを聴くと、撮影明けの朝を思い出すんです。
池田 : 撮影の朝はすごかったですよね。覚えているのは、夜中のうちに撮ろうとしたけど終わらなくて、朝、吉田さんがタバコ吸いながら無になっていて。この人このまま死ぬんだなって顔をして、ふらふらーって1人で外に出ていって、道の真ん中を歩いて変なところまで行っちゃった。この映画、最後まで撮れるかなって気持ちになりました(笑)。
──(笑)。撮影中、池田さんも精神状態がすごいことになっていたそうですけど。
池田 : 1年ぶりにここに来たんですけど、当時のことを思い出すと、よくあんなふうになってたなと思います(笑)。すっごい変なアドレナリンが出ていたんでしょうね。ごつい後藤(剛範)くんに殴りかかったりするシーンがあるんですけど、思い返すと、ちょっとあれを自分でやったのは信じられないですね。
吉田 : ああいうことをやらせたかったんだよね(笑)。
池田 : だって、僕、人を殴ったことがないですから。どっちかっていうと頭だけで考えて生きてきたタイプなので、地味に毎日腕立てをしていました(笑)。
──象徴的なのは、そこまで自分をさらけだして録った音を電波ジャックして流しにいくのに、反応がないばかりかノイズにすらならない。
吉田 : それは映画も一緒なんですよ。自主映画を撮ったものの公開していることすら知られず終わっちゃう作品もあるし、僕自身そういう経験もあります。学生時代、バイトをして貯めたお金で映画館を借りて自主映画を上映したんですけど、お客さんは自分1人でしたからね。どれだけ人に届けることが難しいかっていうことを感じてきたし、そういう思いがあのシーンに関しては込められていますね。
Yawn : 本当は夢のある世界ではあるんだけどね。あれをやり続けていくことなんだろうなとは思いますね。ですよね、監督?
吉田 : 映画で描いているのは、あれが届かないことがダメってことではないんです。最後散っていくことに対して否定はできなくて。散っていった人たちなりの思いもあるだろうし、見えないところで彼らや彼女たちの幸せがあるはずなんですよね。そこを強くは否定できないし、そういう気持ちがああいう表現になっています。
Yawn : ベタな言い方になるけど、世の中に合わせた生き方をするのか、自分たちの生き方をするのかって話だと思うんですよね。だからこそ何を選択するかっていうのはいつも考えていたいし、それは見る人もそうであってほしい。これは、見る側も勇気がいる作品だよ絶対に。
僕もぶつけるものがほしい、そう思っていたところだった
──続けていくという意味で、インタヴューが始まる前に池田さんと話しててびっくりしたのは、『恋人たち』がヒットしてからしばらく、池田さんには仕事のオファーがなかなか来なかったそうで。
池田 : 『恋人たち』がヒットしたから、自分も次のステップにいけたらいいなという思いがあったんですけど、公開から半年間、仕事がなかったんですよ。もう地獄のような日々でした。この作品に出てダメだったらどうすればいいんだろうって。
吉田 : いやらしい話、その状況を見ていて、絶対に悔しい思いをしてるはずだと思ったんですよ。今、池田良を使えば、その悔しさだったり、パワーみたいなものは絶対に映画に注ぎ込まれるはず。そういう計算も正直ありました。
池田 : 喫茶店で打ち合わせした時、吉田さん自身が撮る予定だった作品がダメになった悔しさを語ってくれて、今度の作品でそういうものをぶつけたいって言ってくれた。それに共感したというか、同じ気持ちだったんです。今、僕もぶつけるものがほしい。そう思っていたところでした。
吉田 : すべてが奇跡のタイミングだったんですよ。ここに顔を出すようになって何年も経っていく中、作っている映画が途中で中止になる経験もしました。その直後に、山本政志さんっていう監督がプロデューサーとして「次うちでやってみないか」って声をかけてくれて、そこで全てがはまったんです。今こそ、ここで撮れると思っていたことができるんじゃないかと。そこから脚本に落とし込んで、一歩進めたような奇跡が起きたんです。
──2017年には「Ice Cream Studio」を運営しているTHIRTY THREE RECORDも会社化しました。このスタジオをより機能させていくことになるんですよね。
Yawn : ここは遊びから始めたことだけど、それが社会的な立ち位置を得ることは喜ばしいことで。これからもプロ・アマ問わず、老若男女やらせてもらえたらなと思いますし、そういう経験もさせてもらっていて感謝しています。
吉田 : 出会える人の縁を大切にしたいですよね。その方が心開けるというか。
Yawn : 今までもそうだけど、ここに辿り着いてくれたら嬉しいっていう思いはあるかな。今回、わりと時間もなかったりハンデ戦みたいなところはあったじゃん? そうなるとタフなマインドが必要になってくるよね。今回やってみて、光希に引きずるこまれたところはあるし、あいかわらず重たい領域でやっているなと思った。
吉田 : そうだね。自分がリアリティを感じれないとなかなか映画にできないというか。そういうのがあるんでしょうね。
池田 : 例えば、少女漫画原作の作品を撮ってくださいって言われたらどうするんですか(笑)?
吉田 : 実際そういう話はあるんですけど、たぶん重くなると思います(笑)。
Yawn : 世の中、お気楽なもの増えていると思うんだよね。そういう意味では、光希のスタイルはおもしろいと思うけどな。
吉田 : どんな作品をやらせてもらったとしても、自分らしい重さは絶対に乗っかると思うから、ジャンルでより好みせず、内容面で自分がおもしろがれるポイントがあるならチャレンジはしたいなと思っています。
Yawn : 前回ここでインタヴューをしたとき、映画を撮りたいねって話になって、それが現実になったしね。これからの話をいまできるのはいいことかもしれないね。
──作品を作ることに正面から向かい合った「三つの光」、公開してどのような反応があるか楽しみですね。
Yawn : 俺は絶対に検索しないけど、検索とかしたらいっぱい出てくるんでしょ(笑)?
池田 : 作品的には賛否両論ある作品だと思いますよ。80%の人がよかったっていう作品ではないと思う。だけどそれでいいと思って作っている作品だと思いますし。
吉田 : 僕のフィルモグラフィーの中では1番観やすい作品だと思っています。これまでは、自分の好きな表現にもう少し寄せて作っていたんですよ。今回、山本さんというプロデューサーがついてくれたおかげで、自分だけだったらこういう見せ方はしないなっていうところがあったり、より広いお客さんに届けられるものができたなと思っています。どんな感想を持ってくれるか楽しみですね。
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イベント
2017年9月27日(水)@新宿K’s cinema 19:00回上映後 トークショー
登壇者 : 渡辺真起子(女優)、山本政志(映画監督/『三つの光』プロデューサー)
2017年9月30日(土)@渋谷ユーロスペース 21:00回上映後 初日舞台挨拶
登壇者 : 吉田光希監督、池田良、鈴木士、小宮一葉、真木恵未 他
2017年10月1日(日)@新宿K’s cinema 19:00回上映後 トークショー
瀬々敬久(映画監督)、吉田光希監督
※登壇者は変更になる場合がございます。
詳しくはこちら
PROFILE
吉田光希
1980年生まれ。東京造形大学造形学部デザイン学科映画専攻領域卒業。在学中より諏訪敦彦監督に師事。また塚本晋也監督作品を中心に映画制作現場に参加。特殊効果、照明助手、美術助手、助監督などの経験を積む。卒業後は製作プロダクションにてCMやPVの制作に携わる傍ら、自主製作映画『症例X』(’07)で、第30回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)の審査員特別賞を受賞。同作は第61回ロカルノ国際映画祭の新鋭監督コンペティション部門に入選。第20回PFFスカラシップの権利を獲得して制作された『家族X』で、劇場映画デビューを果たす。同作はベルリン国際映画祭、全州国際映画祭など、多くの海外映画祭より招待を受け上映されている。2012年『ふかくこの性を愛すべし』がオムニバス映画『ヴァージン』の一篇として劇場公開。2013年、演劇ユニット「オーストラ・マコンドー」の舞台を原作とした映画『トーキョービッチ,アイラブユー』を制作。第14回東京フィルメックス・コンペティション部門に選出され、スペシャル・メンションが授与された。
池田良
1978年1月27日生まれ。愛知県名古屋市出身。慶應義塾大学法学部卒業後、外資系コンサルティング会社に就職、米国勤務を経て27歳の時に俳優を志し、退職。舞台・ドラマ等に出演しつつ、米のステラ・アドラー・スタジオ・オブ・アクティングに2度留学。2015年、橋口亮輔監督『恋人たち』で主演の1人、ゲイのエリート弁護士役を演じ、第30回高崎映画祭で優秀新進俳優賞を受賞した。その他主な映画出演作に、『わが母の記』(’12 / 原田眞人監督)、『海辺の町で』(’13 / 廣木隆一監督)、『種まく旅人 くにうみの郷』(’15 / 篠原哲雄監督)、『ろくでなし』(’17 / 奥田庸介監督)、『ハローグッバイ』(’17 / 菊地健雄監督)、『菊とギロチン』(’18 / 瀬々敬久監督)などがある。
Yawn of sleepy
hydrant house purport rife on sleepyのメンバーとして活動。所有のIce Cream Studioにて制作されたタイトルを多数配信している。今作に不可欠な音楽全般を担当。キャスト自身が演奏した楽器による収録素材、歌声などを楽曲として仕上げ、精巧かつ情緒的な光彩を作品にもたらした。