人の持つ生命力に触れる… 10人のトラックメイカーと生んだアブストラクト・ヒップホップ――himeshiデビュー作配信&インタヴュー
kilk recordsや、dublab.jp関連のデザインや写真家としても活動する埼玉発のラッパー、himeshi。コンピへの参加や自主配信作でにわかに話題を集め、2014年には恵比寿LIQUIDROOMで行われた〈Red Bull Music Academy Presents EMAF TOKYO〉に出演。2015年、満を持してデビュー作がリリースされた。
本作『humen』にはeccy、EL NINOらのリミックスや環ROYへトラック提供などで知られるHimuro Yoshiteruや故DJ Klockが惚れ込んだ才能DJ Kamikaz (Clockwise Recordings)、VLUTENT RECORDS代表VOLOの別名義、JZAらが参加。森 大地 (Aureole / kilk records)からのコメントも到着し、各所から見初められたその才能をお届けする。
himeshi / humen
【配信形態 / 価格】
ALAC / FLAC / WAV / AAC / mp3 : 単曲 216円(税込) まとめ価格 1,620円(税込)
【収録曲】
1. pay per moon (prod.u..)
2. break my heart (prod.dj kamikaz)
3. DNA(prod.Himuro Yoshiteru)
4. sakimitama (prod.LZ129)
5. diamond cuts diamond (prod.TPSOUND)
6. reservoir (prod.dj kamikaz)
7. giantstep (prod.u..)
8. i do not know (prod.dj kamikaz)
9. nanimo nine (prod.dj kamikaz)
10. think twice (prod.EMDEE1)
11. cyclocrossoxygen (prod.Kawakami Kohei)
12. tribe (prod.Himuro Yoshiteru)
13. yesday (prod.JZA)
14. lucy(ft.Smany) (prod.TPSOUND)
15. kaleidoscope (prod.dj kamikaz)
世界の陰の部分を容赦なくあぶり出しながらもそれらをリアルなものとして受け入れ、そこからどうにかして喜びや希望に転換させていこうというエネルギー。そんな人間の持つ生命力がひしひしと伝わってくるかのような作品です。
森 大地 (Aureole / kilk records)
INTERVIEW : himeshi
『サイタマノラッパー』という映画があるが、himeshiもまた埼玉のラッパーである。とはいえ、映画のような過疎地ではなく、さいたま市を中心に春日部、浦和、大宮のハコを横断したかと思えば都内での活動もしている。そしてラップといっても、トラックは実験的でアブストラクトなものだ。himeshiのルーツをひも解くと、そこにあるのは、ドラムンベースなどのベース・ミュージックであり、日本のアニメ・カルチャーであり、関東近郊のクラブのハコから生まれた人脈である。果たしてhimeshiの音楽はどのように生まれたのか? 記念すべきファースト・アルバム・リリースのタイミングで直接話を訊いた。
インタヴュー & 文 : 西澤裕郎
「レコードが高くて集めるのが辛いです」ってDJの人に言ったら「じゃあやめろよ、ラッパーになれ」って
ーーhimeshiさんは、これまで主にどんな音楽を聴いてこられたんですか?
himeshi : もともと音楽を聴きはじめたのが中学生くらいの時なんですけど、ドラムンベースとかUKガラージが流行ってたので、そのあたりの音楽をたくさん聴いていました。高校生になってからヒップホップを聴きはじめて、そのときはカニエ・ウエストとQティップなんかを聴いていたんですけど、17歳のころにルーペ・フィアスコのファースト・アルバムが出て、その影響もすごく受けています。ネットばっかりやってたので、ネットから情報が入ってきたものをどんどん聴いていました。
ーーhimeshiさんはインターネット・ネイティヴ世代ですか?
himeshi : そうですね。10歳くらいのときからホームページ作りやらなんやらしてました。
ーーじゃあ、プログラミングとかも得意?
himeshi : 打ち込むのは全然だめなんですよ。爽快感がなくて。
ーーあははは。どちらかというとデザインとか、そちらのほうが得意なんですか?
himeshi : そっちの方が好きですね。あと好きなアニメの2次創作的な小説を書いてました。
ーー(笑)。音楽は高校を卒業してからやりはじめたんですか?
himeshi : はい、僕は埼玉に住んでいるんですけど、埼玉ってラップをやってる人が多くて。17歳のとき、春日部の方にクラブがあると聞いて行ってみたら12畳ないくらいのところで「あ、これがクラブなんだ」って思っていたことがあって、それが初体験です。
ーー春日部にヒップホップのシーンがあるんですか?
himeshi : ありましたね。それと同時進行で、浦和のベースっていうクラブにも通ってたんですけど、そこにはドルネコマンションってグループがいて、やり方によって、こんなに独特でハードなことができるんだって憧れていましたね。個人的に、最初はDJやりたいなと思ったんですけど、「レコードが高くて集めるのが辛いです」ってDJの人に言ったら「じゃあやめろよ、ラッパーになれ」ってきつく言われて。ラップをはじめたきっかけはそんなんです。その1ヶ月後くらいには、大宮のBAR.PELLEっていうクラブでソロ・ライヴをやらせてもらいました。
ーーそのときのトラックってどうしたんですか?
himeshi : 曲は自分の持ってるレコードからDJの人に流してもらってやってました。〈Stones Throw Records〉がすごく好きだったので、そこのインストを結構使っていましたね。
ーーそこから活動を広げていった?
himeshi : 活動拠点はけっこう変わったんですけど、浦和のベースでレギュラー・イベントに毎週出演したり、渋谷のイベントとかにも出るようになってきて、ライヴはやってましたね。それこそヒップホップのハコとかでやることが多かったです。
テーマが”ヒューメン”ってことで、人間が作ってくれればよかった
ーーヒップホップにもいろいろなシーンがあると思うんですけど、himeshiさんのいるシーンっていうのはどういった場所でしたか?
himeshi : 実験的な音楽をやる人が多かったですね。僕が22、23歳のころにはヒップホップのハコでやることがほとんどなくなって、ライヴも止め、そのノリで仕事も辞めました。そんな時期にクラブで会ったのがDJ Hi-Rayで、イベントをやるから出てよと西麻布ブレッツってハコに誘われて。ルーツはヒップホップだけど、やる音楽はビートミュージックだったりテクノだったり、多種多様な人が多くて、そういうところでライヴする機会が増えましたね。
ーーそのときのトラックは実験的なものを使っていたんですか。
himeshi : そのときは完全にオリジナルで作ってもらったのが多かったですね。1番多く組んでやっていたのが、今回のアルバムにも参加してくれていたdj kamikazで。彼は〈clockwise recordings〉のDJで、それこそ地元のリサイクルショップで働いてたときのお客さんだったんです。ヌマークのレコードプレーヤーをディスプレイから開けて見させてくれって言われたので、「なんかやってる人なんですか?」って訊いたら「DJです。曲も作ってます」って。そこで連絡先交換をしたんです。
ーーhimeshiさんもラップやってるってことを伝えて?
himeshi : そのときはラップというより、お互いドラムンベースがすごく好きで、好きなレーベルもホスピタルだったりしたから、レコードを紹介してくれるというので家に遊びに行ったんです。結局ドラムンの話はなにもしなかったんですけど。彼がドラムスクラッチをして、僕はフリースタイルでラップ乗せる遊びをしたりしていました。それがきっかけで一緒にライヴすることが多くなって。今回、kamikazさんがマスタリングもしてくれて、トラックも3分の1くらいはkamikazさんが作ってますね。
ーーさっき実験的なって言葉も出ましたけど、アブストラクトなトラックも多いじゃないですか? これはhimeshiさんの意向があってのことですか。
himeshi : そうですね。一般的なBPM90くらいのヒップホップも大好きなんですけど、それ以外にも、どんな広がりが好きか、その音を作れるのは誰なのかってところを考えて、近い人にお願いして作ってもらいました。
ーーちなみに、どんなことを注文したんですか?
himeshi : トラックに関しては、なにも深いリクエストはしてないんですよ。アルバムのテーマが”ヒューメン”ってことで、人間が作ってくれればよかった。あとは、自分のリリックがセリフだとしたら、そのセリフの雰囲気を出してくれるのがバックグラウンド・ミュージックなんじゃないかと思って。アバウトなリクエストだけしてリリックができたものもあれば、アカペラだけで録ったものを送って曲を乗せてもらったものもあって。「sakimitama」は、最初アカペラだけレコーディングして、その後Aureoleの岡崎さんのソロ・プロジェクトLZ129にお願いして、1週間くらいで戻ってきたものです。
ーーレコーディングはどのような場所で行ったんですか?
himeshi : 蕨にある個人スタジオがかなり居心地のいいところで、1曲目から13曲目はそこで録っています。14曲目、15曲目は、北浦和の方に住んでた昔からのDJの先輩のところで録っていますね。
埼玉にしかないものも、いろいろ掘り出せるものはあります
ーー参加されている方について教えていただけますか?
himeshi : 1曲目、7曲目のu.. さんは、先ほど話した西麻布ブレッツでやっている〈メトロポリス〉というイベントで会って、20曲くらいあるインストを渡されて適当に選んで作ってよと言われ、その中の2曲を今回入れました。3曲目、12曲目のHimuro Yoshiteruさんは高校時代からすごいファンで、ライヴを観にいってたりしていて、今回話して曲を一緒にやりましょうと言って、気付いたら2曲できましたね。5曲目、14曲目のTPSOUNDはヒソミネの店長ですね。
ーーそうなんですね。
himeshi : 今回のアルバムは年齢が離れた人が多いんですけど、哲平さん(TPSOUND)は唯一年齢が近い飲み友達みたいな感じで。10曲目のEMDEE1さんがもともとヒソミネに誘ってくれた人なんですよ。色々紹介してくれたり情報交換している仲間です。Kawakami Koheiさんも西麻布の方で知り合ったビート・メイカーの人ですね。僕のオタク友達みたいな感じです。あとは、JZAさん。その人は変名なんですけど、VLUTENT RECORDSっていうところのVOLOさんというラッパーの方で、今回唯一ヒップホップ関係の人なんです。いろいろおもしろい音をつくる人で、ドラムが薄く広がっていく音をつくれる人は誰だろうって思ったとき、VOLOさんだなと思ってお願いしました。
ーー14曲目でフィーチャリングしているSmanyさんは?
himeshi : Smanyさんは分解系レコードのシンガー・ソングライターで、西麻布のブレッツで出会ったんです。去年、西麻布ブレッツでアニバーサリーのコンピレーションがつくられて、その中で僕とSmanyさんが同じ月に入っていたり、イベントで一緒になる機会があって、その流れで楽曲を作ろうということになりました。今後もSmanyさんと楽曲をつくる予定もあります。
ーーhimeshiさんが音楽を介してレペゼンするものを挙げるとしたら、何をレペゼンしていると思いますか?
himeshi : なんでしょう… 埼玉は何もないですからね。
ーーたまたま埼玉の人が多いだけで、埼玉をレペゼンしたいわけではない?
himeshi : そうですね。でも、埼玉にしかないものも、いろいろ掘り出せるものはありますし、そこをルーツにせざるを得ない。ダブステップが全然流行っていない頃でも、大宮のクラブでMAMMOTH DUBというイベントがあって、そこで遊びに行って調べたりもしたし、あとは、ヒソミネであればエレクトロニカ、ポストロックなどバンドの人たちに文化をいろいろ教えてもらったりしました。言ってみればヒップホップも埼玉の浦和ベースで受けたドルネコの衝撃もあるし、自分が望んでいたわけではないけどルーツになってしまったっていうのはあって、やっぱレペゼンせざるを得ないという。
何か人間ぽいアルバムだなと思って作っていったんですよね
ーーリリックに関してはどのようなテーマ性を持たして書いているのですか?
himeshi : 僕は先に曲名を付けるんですよ。それをテーマにするっていう。なんか、1行以上のテーマを付けないんですよね。これはこの単語みたいな感じで。
ーーパッと思いついてそれを使うという感じなんですか?
himeshi : あ、この曲名かっこいいみたいな。たとえば2曲目の「break my heart」は、壊れるっていうのはポジティヴなのかなネガティヴなのかなと考えていって、どっちでもないなと思って。実際、弾けて広がっているようなトラックだから、やっぱこれは「break my heart」かなと思って作っていますね。あと、Smanyさんとやった「lucy feat.Smany」という曲に関しては、最後から2番目の曲だからエンディングっぽい曲をつくりたくて、どうしようかなと悩んでいるときに、アルバム・タイトルの「humen」ってなんだろう? 人間? 原始人? みたいな感じで連想していって、日本最古の女性原始人の名前はlucyだって考えたんです。
ーーlucyは、原始人だったんですね(笑)。タイトルを先に決めてそこから連想していくわけですね。
himeshi : そうですね。Kawakami さんとやった「cyclocrossoxygen」っていう曲は、クロスバイクのことなんですけど、oxygenが酸素で、僕は自転車に乗っているときに呼吸している感じみたいなイメージです。展開の多いインストだから、自転車で砂利道漕いで、次はコンクリート、次は泥みたいな感じの展開になっていく、いいリリックを書けたと思います。
ーー今回、活動を始めて約7、8年目にして作品を作ろうと思った理由はありますか?
himeshi : ラップ始めた時ぐらいから、ずっと作りたいとは考えていたんですけど、後付けではあるんですけど、「humen」っていうタイトルができて、何か人間ぽいアルバムだなと思って作っていったんですよね。
ーーこのリリースをきっかけにライヴも増えていきそうですか?
himeshi : そうですね。ライヴはしょっちゅうやってはいるんですけど、結局は同じところばっかが多いので、日本全国だったり、世界中へ行きたいですね。いろんな場所で友達に呼んでもらったりして、それを繋げていけたらと思います。
ーーお話を訊いていて、すごく音響的な拘りや実験性を持っていて、ヒップホップにこだわらないところもおもしろいなと思いました。
himeshi : やっぱり、いろんなジャンルを聴いていて、耳にやさしい音楽というか、精神的に響くものが好きなんです。そういう意味で、ヒップホップは自分のバイタリティーに触れてくれる音楽だなと思っています。もちろんまったく別のジャンルを聴いたりしますし。あとはミニマル・テクノもすごい好きでずっと聴いているから、特に縛られないでやっていきたいですね。
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倉庫を改造したスタジオ「Ice Cream Studio」でセッション&レコーディングした音源を33週間ノンストップでリリースする、33RECORDによる企画『Biff Sound』。同企画から、第7弾となるセレクション作品が登場。第1弾から変わらず、今回も勿論フリー・ダウンロード作品となる。毎週の配信を「週刊少年ジャンプ」に例えるならば、単行本の様な本作品であるが、いよいよクライマックス、最終回となる。33週間にわたり偶然と必然により産まれてきた33RECORDの記録と記憶。フリー・ダウンロードという形で届けられるこの「招待状」をこの機会にそっと共有していただきたい。
LIVE INFORMATION
taught~himeshi「humen」Boys Age「Calm Time」W Release party~
2015年4月17日(金)@大宮hisomine
Mega Hyper Show vol.12
2015年4月18日(土)@狛江MHS
SUKIMA TOKYO
2015年5月23日(土)@青山蜂
PROFILE
himeshi
1989年生まれ。埼玉県さいたま市出身のラッパー、グラフィック・デザイナー、 写真家。スケート・グラフィティクルー「RDN」所属。2011年にアブストラク ト・ヒップホップ・コンピレーション『ANARCHIST』に参加。2012年にネッ ト・コンピレーション・アルバム『FOGPAK #2』に盟友dj kamikazと共に参加。 EP「KURAYAMI NIRAI KANAI ep」を配信リリース。2013年にミックス・テープ 「mode pacemake」を配信リリース。2014年には恵比寿LIQUIDROOMで行われた 〈Red Bull Music Academy Presents EMAF TOKYO〉に出演。埼玉大宮のライヴ・ ハウスhisomine(ヒソミネ)や東京西麻布のBULLET'Sを軸に活動中。テクノ、エ レクトロニカなど、変化に富んだ楽曲に乗せたラップを特徴としている。また音 楽レーベルkilk recordsのデザイン、インターネット・ラジオ、dublab.jp のフ ライヤー・デザイン、写真家としても活動中。2015年、初のソロ・アルバム 『humen』をリリース。