岸田教団&THE明星ロケッツをハイレゾで聴く意味がここにある――最新作ハイレゾ先行配信&代表岸田インタヴュー
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同人音楽サークル「岸田教団」を発祥とするロック・バンド、岸田教団&THE明星ロケッツ。ニコニコ動画で発表した東方Projectの楽曲のアレンジ曲にはじまり、オリジナル曲も根強い人気を博すなか、2010年放映のTVアニメ『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』主題歌でメジャー・デビュー。2014年12月に待望のオリジナル・アルバム『hack/SLASH』もリリースされ、いっそうの注目が集まった。
その『hack/SLASH』が年明けて2015年1月にハイレゾ配信が決定するやいなや、e☆イヤホン秋葉原店にて先行ハイレゾ試聴が大型展開されるなど瞬く間に話題に。事実そのハイレゾ音源はハードなロック・サウンドのダイナミクスが活き、ひとつひとつの音が明朗なまま、美しいハーモニーを奏でた。
そしてこの夏、7月29日リリースの新作『GATE~それは暁のように~』が再びハイレゾ化! 累計240万部突破の小説を原作とするアニメ『GATE(ゲート) 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』のオープニング主題歌を含めた4曲入りシングルである。代表・岸田の音への強いこだわり、研究心に、「ハイレゾで聴く必要性」を訴える内容となったインタヴューと共にお届けする。
岸田教団&THE明星ロケッツ / GATE~それは暁のように~
【Track List】
01. GATE~それは暁のように~ (アニメ『ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』OP)
02. EGOISTIC HERO
03. GATE~それは暁のように~ (instrumental)
04. EGOISTIC HERO (instrumental)
【配信形態】
24bit/96kHz WAV / FLAC / ALAC
【価格】
単曲 500円(税込) / アルバム 1,500円(税込)
「GATE~それは暁のように~」MV「GATE~それは暁のように~」MV
INTERVIEW : 岸田(岸田教団&THE明星ロケッツ)
岸田教団&THE明星ロケッツ、代表・岸田は、ミュージシャン界隈随一のオーディオ・マニアであり、録音オタクである。と言う噂は聴いていたが、話し始めると、圧倒的であり、あっという間に置いていかれてしまった(笑)。岸田教団&THE明星ロケッツが、多くのファン層に指示される所以は、彼の音楽に対する追求力がぶっ飛んでいるからだ。ぜひ読者には、このインタヴューを読んで、代表・岸田に置いていかれてほしいと思う。
インタヴュー&文 : 飯田仁一郎
構成 : 中村純
写真 : 丸山光太
明るい曲だと合わないんじゃないかと思って2つ作って
――今回の『GATE~それは暁のように~』は、前のアルバムから更にサウンドが変わったように感じました。
そうですね。実はカップリングの「EGOISTIC HERO」を先につくっていたんですよ。「GATE~それは暁のように~」はアニメ(『GATE(ゲート) 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』)の主題歌ということで、「ミリタリー感よりは、人と人の交流感のある明るい感じを押し出していきたい」とオーダーされたんです。でも内心、戦車が出てくるのに、明るい曲だと合わないんじゃないかと思って。2つ作って、先につくったのが「EGOISTIC HERO」で、明るい曲が「GATE~それは暁のように~」なんです。そしたら、明るい方を主題歌にしようということで (笑)。
――そこは、そんなにこだわりはなかったんですか?
ないです。
――でも確かに、歌詞の感じとかがアニメに似た世界観だなと思いました。
アニメに合わせていますね。けど、「EGOISTIC HERO」は『パシフィック・リム』を観ながらつくったので、冷静に考えたら流石にやり過ぎたかなって(笑)。『パシフィック・リム』のロボット出撃シーンの映像に負けないようにつくったんです。
――『GATE(ゲート) 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』は、前からご存じだったんですか?
知らなかったです。でも、『GATE(ゲート) 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』は、元々「Arcadia」というサイトで連載されていたネット小説で、僕はその後にできた「小説家になろう」ってサイトの作品をよく読んでいるんですね。自分が読んでいるものに影響を与えている作品のひとつなので、曲は久しぶりに感じたクラシック感に合わせてつくりました。
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――曲のつくり方を教えていただけますか? 譜面に起こすのでしょうか?
デモをつくっちゃいます。ドラムとベースは打ち込んで、ギターは弾いて、出来上がったのを「みなさんコピーしてきてください」みたいな。
――そこで楽曲は、岸田さんの頭の中で鳴っていたものから変化するのでしょうか?
大きく変わりますね。8割方、はやぴ〜(Gt.)のせいで変わります(笑)。
――でも、それはハッピーなことですよね?
そうですね。あとは、同じフレーズでもみっちゃん(Dr.)がよりによってあの(筋肉隆々な)体なので印象が変わることもよくありますね(笑)。
――なるほど(笑)。ということは、バンド感を大切にしているんですか?
特に大切にはしてないんですけど、みんなバンド上がりなので勝手にバンド感は出ますね。バンド上がりじゃないのは、はやぴ~だけです。
ドラムとベースをテープ・レコーダーで録ってますね。ドラムをテープ・レコーダーで録るかどうかで全然違います
――今、岸田さんが福岡を拠点にする理由は何かありますか?
ライフ・ワーク・バランスですね(笑)。東京は狭いので同じ金額でもレコーディング・スタジオの規模がちっちゃくなっちゃう。キャリアを積むことも大切ですが、需要的に良い音を聴くことも大事。まずはオーディオ生活が第一です(笑)。
――でも今回はprime sound studio form (以下form)で2曲とも録ったんですよね? なぜこのスタジオを選んだんですか?
エンジニアの渡辺敏広(以下トシさん)さんが機材を置いてるからですね。トシさんは元々DOG HOUSE STUDIOで機材の管理をしていたので、機材の管理に非常に気を使っている方で、メンテナンスをちゃんとしている。でも、主題歌のギターと歌は僕の家のスタジオで録ってますね。NEUMANNのU-67があるのであんまり音は変わらないんですよ(笑)。ベースとドラムは全編テープ・レコーダーを使ってformで録ってます。テープ・レコーダーは流石に家では使えないので。
――ご自宅はどういったシステムですか?
コンバーター(※1)はLynx Studio Technology AURORA 16ですね。コントローラーのSPLの2Controlを通してBeldenのケーブルで全部を繋げて、最終的にスピーカーはFostexのNF-1A。NF-1Aは名機ですね。なかなかそれを超える安いスピーカーがないです。
――そこではどんな作業をしているんですか?
ミックスですね。アルバムの曲はトシさんとお互い半々ずつでやってます。
――formの機材について教えてください。
これはオリジナルのPultec EQP-1Aです。シリアル連番オリジナルでトシさんの私物です。あと、このEAR 660は真空管コンプレッサー(※2)でとんでもないモンスター・マシンです。100万はくだらない。何が違うって回路と回路を繋ぐカップリングが通常はコンデンサー(※3)なんですけど、これは全部トランス(※4)でやっているんですよ。コンデンサーの場合はローが切れるんですけど、トランスの場合はハイが切れるんです。だから、何か独特なサウンドなんですよね。このメーカーじゃないとこの音はしないです。トシさんが好んで使っていて大好きです。EARのプリアンプもあります。
――トシさんはEARを良く使っているのですね。
EARやUniversal Audio、PultecにSolid State Logic。あとはNeveの33609とかも使いますね。あとDISTRESSORやFATSOとか。プリアンプはAPIが多いです。何と言っても、トシさんのドラム録りは、バイノーラル録音(※5)のダミー・ヘッドを使ってるのが1番の特徴じゃないですかね。すごくハイファイで良いですね。伸びがどうこうじゃなくて、単純に音の収まり方が違って球体のような感じで収まるんですよ。シンバルがうるさくなりづらいんで、音圧も上げやすいです。ダミー・ヘッド(※6)で録っているのは、トシさんの現場くらいしかないと思います。
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――今回の2曲はどのように録音していますか?
テープ・レコーダーを使っています。「GATE~それは暁のように~」は、ドラムとベースをテープ・レコーダーで録ってますね。何と言ってもドラムです。ドラムをテープ・レコーダーで録るかどうかで全然違いますね。ドラムが1番余韻も多いので。テープって「サァー」っていう音が入るじゃないですか。でも、あれは上がってきてもそんなに影響ないんですよ。シンバルの余韻とかに比べれば全然ちっちゃいので。ロックなんて1回シンバル叩いたらずっと鳴っていますから(笑)。
――テープ・レコーダーは何を使用しているんでしょうか?
Studerの最終型ですね。アナログのテープ・レコーダーがメインだった1970年代の最後のやつなんで、1番性能が良い。
――なぜテープ・レコーダーを使っているんでしょうか? やはり、ベースとドラムが肝なんですか?
1番大きいのはそれですね。あとは96kHzで録ることがデカいです。24bit/48kHzで録るときにテープを使ったらちょっとガビっとし過ぎちゃう。だから、24bit/48kHzで録るときは使わないんです。S/N比のNのノイズって何かと考えたら、普通はハム・ノイズ(※7)の話をしますけど、リヴァーブのうっすらした音とかもある意味ノイズじゃないですか。24bit/96kHzの方がリヴァーブとかがはっきり録れて空間の音がしっかりみえるってことは、逆にノイズが多いんですよ。だから、何かしら間引いていかないと24bit/48kHzみたいなすっきりした感じになりにくい。でもやっぱり24bit/96kHzの方が立体感は出るので、両方の良いところを出したいと思うと、テープを間に入れた方が良いかなと。
――岸田教団のほとんどは、24bit/96kHzで作業しているってことですか?
テープ・レコーダーに合う曲であれば、24bit/96kHzで録ることが多いですね。でも、最初に24bit/96kHzで録音したときは全然上手く出来なくて。24bit/48kHzに戻ったり24bit/96kHzでまたやったり何度も遍歴があるんですよ。
――なぜ上手くいかなかったんですか?
シンバルの余韻とかが長いじゃないですか。今ってマスタリングでリミッター(※8)が入ると全体的に後ろの余韻が持ち上がってくるんですけど、24bit/96kHzの方がゲインを上げられる限界が低いんですよ。だけど、音圧を上げたときの方が特性は良いじゃないですか。だから、タイトに24bit/48kHzとかでビシッと音をデカく出しちゃった方がかっこいいなと思って24bit/48kHzに戻ったんですけど、やっぱ諦めきれずにいて。最近になってやっと32bit/96kHzの録り方が分かりました。
ハイレゾでの録音がおもしろいなと思いだしたのは24bit/96kHzから。印象が全然違いました
――ということは今回の作品も32bit/96kHzで録ってるんですか?
そうですね。1回テープ・レコーダーに入れてからPro Toolsに落とすときに32bit/96kHzなので、アナログ・レコーディングに近いんですよ。これは良いですよ。いきなりデジタルで録るのではなく、アナログのレコードの音をなるべくリアルにパソコンに取り込みたいっていうときに、このハイレゾのレコーディングってすごく効果的ですね。
――そこを詳しく訊かせてください。
テープ入れもギターとかヴォーカルのハイが32bit/96kHzだとはっきり録れ過ぎちゃうんですよね。だから、最初の音作りの段階で適度に歪んでいる24bit/48kHz に近い感じにして録らないと完全にオーヴァーになってしまうということでした。32bit/96kHzの良いところってローなんですよ。でも、ハイは伸びてほしくないんです。ハイは少しでも24bit/48kHzに近いくらいの歪み感で良いから、ローをなるべくクリアにしたい。一方で、ダイナミクス・レンジ(※9)はローを切ってハイを残したいんですよ。それがテープだと元々ダイナミクス・レンジを減らしますから非常に都合が良い。ローのダイナミクス・レンジを残す気はないですね。ロックンロールにおいては全然ダメ。
――ロックンロールにおいてはダメ(笑)。
ダメです(笑)。録音についてはアメリカン信者なんです。1番好きなエンジニアは、クリス・ロード・アルジ。あと、グリーン・デイのプロデューサー兼ミキサーだったジェリー・フィン。それから、ボブ・クリアマウンテン。あのへんのアメリカン・ハリウッド的なサウンドの信者なんで(笑)。ドラムはデカくて明るい音でバァーン! みたいなサウンドが好きなんです(笑)。クリス・ロード・アルジのローが素晴らしいんですよね。ハイもすごく良いんですけど、あのハイは、あのローがなかったらたぶん破たんしますよ。
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――岸田さんのポイントは、ローなんですね。
1番デカいのはそこ。クリス・ロード・アルジはローの詰め方が全然違います。
――グループを結成したときから自分たちで録っていたんですか?
そうですね。博多にもレコーディング・スタジオがあってそこを中心に録っています。でも、ギターとかヴォーカルは大体僕が録ってますね。
――その当時からハイレゾで録ってたんですか?
当時は24bit/48kHz。このバンドを始めた7年前は、パソコンのスペック的になかなか難しかったですね。なぜ24bit/48kHzだったかというとレコーディング・スタジオのデフォルト・スタンダードだったから自然と。特にこだわりがあったわけではなくて。
――ハイレゾでの録音がおもしろいなと思いだしたのはいつごろですか?
24bit/96kHzからですね。印象が全然違いました。最初は完全に魔物でしたね。使った瞬間、まったく上手くまとまらなくなったくらいに。24bit/96kHzは本来ロック・バンドを録るのに適していないですね。ただ、低音の方は24bit/96kHzの方が絶対に良いんですよ。だからいかにして24bit/96kHzを使うかみたいな研究を1年くらいやりましたね。
――それはいつごろですか?
去年くらいからで、最初は大失敗しましたね(笑)。シンバルの音がデカ過ぎて、音圧を全然稼げないんですよ。シンバルが上がってきちゃうからヴォーカルに被ってきちゃうっていう。
――ちなみに、DSDについてはどうお考えですか?
よりミックスが難しくなっていくと思いますね。だから、音圧を上げなくて良いクラシックとかだと絶対有利だと思うんですけど、ロック・バンドにとって必ずしも有利だとは言い難い。かなり録音側のノウハウの蓄積が待たれるって感じですね。
【注釈】
※1 コンバーター : A/Dコンバーターはアナログの信号をデジタルに変換する装置。D/Aコンバーターはデジタルをアナログに変換する装置。ミックスをするときデジタルでPCに取り込むために使用。
※2 コンプレッサー : 音の強弱差を縮小する機材。大きい音を小さく、小さい音を大きくする機材。
※3 コンデンサー : 蓄電池。電気を一時的に蓄え電圧を調整する装置。また、位相を変化させる。
※4 トランス : 変圧器。電磁誘導で交流の電圧を変える装置。また、電流も変化させる。
※5 バイノーラル録音 : ステレオ録音の1つ。あたかもその場に居合わせたかのような臨場感を再現できる方式。
※6 ダミー・ヘッド : 立体音響型マイク。左右だけではなく上下前後あらゆる角度から鳴っているように聴こえる録音方式。
※7 ハム・ノイズ : 交流電源に準じた周波数が信号の中に混入することで発生するノイズ。
※8 リミッター : あらかじめ設定された値を超えるピークのばらつきを一定に抑える機材。大きい音をカットするが小さい音には作用しない。
※9 ダイナミクス・レンジ : 信号の最大値と最小値の比率。
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LIVE INFORMATION
ごちデス(ФωФ)! JAPAN TOUR
【東京公演】
ichigo presentsごちデス(ФωФ)!
2015年9月12日(土)@赤坂BLITZ
出演 : 岸田教団&THE明星ロケッツ / 分島花音 / 春奈るな / RAB(リアルアキバボーイズ)
【大阪公演】
ichigo presentsごちヤデ(ФωФ)!
2015年10月16日(金)@BIG CAT
出演 : 岸田教団&THE明星ロケッツ / 分島花音 / GARNiDELiA / カヨコ
【福岡公演】
ichigo presentsごちバイ(ФωФ)!
2015年10月18日(日)@DRUM LOGOS
出演 : 岸田教団&THE明星ロケッツ / 分島花音 / GARNiDELiA / 三澤紗千香
PROFILE
岸田教団&THE明星ロケッツ
ichigo(Vo) : 女王様で福岡人。バンド『JUDGEMENT』でも活動中。
はやぴ~(Gt) : プロニート岡山人。絵師。怪獣みたいなギターの音が聞こえたらこの人。
岸田(Ba&Gt) : プロニート福岡人。ロリコン。
みっちゃん(Dr) : 福岡人。ボカロPとは無関係のバンド『YATSUHASHI』でも活動中。
岸田教団とは同人音楽サークルで、岸田教団&The明星ロケッツとは、同サークルがロック・バンドになったもの。ニコニコ動画においては、東方Projectの楽曲のアレンジ曲で有名だが、オリジナル曲も手がけている。
サークル『岸田教団』のメンバーは代表の岸田氏のみ。教団なだけあり『岸田総帥』と呼ばれている。 Flowering NightやCDなどでバンドとして活動。2010年7月に放映されたTVアニメ『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』の主題歌でメジャーデビュー。メジャーデビュー後も同人活動は続けている。2013年10月にTVアニメ「ストライク・ザ・ブラッド」のOPテーマ「ストライク・ザ・ブラッド」を発売した。2014年12月には同「ストライク・ザ・ブラッド」を含むオリジナル・アルバムをリリースし、2015年3月にはZepp Tokyoでワンマンライヴを大成功に導いた。