「自分だけでは全く作れなかった」──崎山蒼志、新世代アーティストたちと作る2ndアルバム『並む踊り』
2018年5月に、AbemaTV『日村がゆく』の〈高校生フォークソングGP〉に出演以降、SNSを中心に大きな注目を集めている、シンガー・ソングライター、崎山蒼志。卓越したワード・センスで自身の持つ世界観を鮮やかに表現している楽曲の数々は、川谷絵音(ゲスの極み乙女。)や、岸田繁(くるり)をはじめとする、多くのミュージシャンや音楽通から高い評価を獲得してきた。今回リリースされた2ndアルバム『並む踊り』では、そんな崎山蒼志が「衝撃を受けた」という君島大空、諭吉佳作/men、長谷川白紙、この3人のアーティストとの共作曲が収録されている。各々が、強烈な個性を持つ新世代を代表するアーティストたち。彼らの間で行われていたのは、常人には到底追いつけない高次元のやりとりであった。
新世代アーティストと作り上げた2ndアルバム!
INTERVIEW : 崎山蒼志
「崎山蒼志というすごいシンガー・ソングライターが現れた!!!」なんてことは去年言い尽くされたけど、やっぱり彼はおもしろい! 曲の作りかたや感性、ぶっ飛んでます。もうインタヴューしてて、にやけちゃうくらいおもしろかったです。崎山蒼志、君島大空、諭吉佳作/men、長谷川白紙──もはや彼(女)らの独創性に嫉妬しかありません。
インタヴュー&文 : 飯田仁一郎
写真 : 作永裕範
それぞれに特別惹かれるところがあった
──今作は2ndアルバムになりますが、どういう背景で作りましたか?
今年3月にドラマ主題歌とCM曲に書き下ろした「泡みたく輝いて / 烈走」が配信されて。そのあとに、今年中にアルバムを作ろう、という話になりました。もともと君島大空さん、諭吉佳作/menさん、長谷川白紙さんとは交流があったんですけど、そのときはちょうど一緒にできたらいいなと思っていたところでした。「それぞれ皆さん忙しくなっていくだろうし、タイミングとして、いましかないのでは?」と思って。それでこの3人と一緒に制作をした曲が入ったアルバムを作ったんです。
──君島さん、諭吉さん、長谷川さんと崎山さんの4人は、2019年においてすごく象徴的な方々だと思うんです。何か共通したものを切り取りたいみたいな意図はあったんですか?
単純にこの3人とやりたいなと思って。それが意図的にも思えてしまうのが逆に怖いなとも思いました。
──彼らのどういうところにシンパシーを感じますか?
僕が衝撃を受けた人たちです。去年僕が『日村がゆく』という番組に出てから、僕のことをSNSで言ってくださっていて。僕はその前からみなさんのことを知っていたのでめちゃくちゃうれしかったです。
──崎山さんに反応したミュージシャンは無名から有名な方までたくさんいましたね。そのなかで、この3人だったのはなぜでしょう。
それぞれに特別惹かれるところがありました。
──惹かれたポイントをひとりずつ聞いてもいいでしょうか。まず君島さんからお願いします。
君島さんは、ツイッターでリーガルリリーのたかはしほのかさんがRTしていてはじめて聴きました。君島さんの音楽からは匂いがしてくる。僕と同じでギターを弾いている人というのもあって、生の音が鳴っているという意味でも、君島さんにはよりシンパシーを感じています。
──君島さんとはこれまでもライヴで一緒にやっていますね。“潜水 (with 君島大空) ”はいつ作ってどのようにレコーディングしていきましたか?
僕がもともと「KIDS A」というバンドをやっていたんですけど、そのSoundcloudの音源を君島さんが聴いてくれていたんです。
──なるほど。もともとバンドでやっていた曲を君島さんがアレンジしたと。
自分で君島さんとやるとなって新しい曲も作ったんですけど、「"潜水"はちゃんとした音源にした方がいいと思う」と言ってくださって。結局"潜水"をやることにしました。。
──曲作りはどうやって進んでいったんですか?
君島さんがほぼ作ってくれて、僕はたまに「もう少しこうしたい」って言ったくらいですね。
──君島さんが作ったトラックに、崎山くんが加えていったと。
送られてきた君島さんが歌っているデモがやばかったです。「わあこんなになっちゃった! 最高だなあ」と思いました。
──だいぶサウンドの世界が広がりましたよね。では諭吉さんは?
諭吉さんは同じ静岡県出身で、掛川の道の駅のイベントに出させてもらったとき、諭吉佳作/menの名前で出ているのをはじめて見て。「やっぱりこの人ちょっとやばいな。同世代でこんなすごい人いるんだ」と衝撃を受けました。諭吉さん自体ものすごくおもしろい人で。
──この名前をつけられるのがすでにすごいですよね。「諭吉佳作/men」っておもわず言いたくなりますもん。
自分で買ってきた服に自分で装飾をして縫っちゃったり、身の回りのもの、文章もすべてが諭吉さんなんですよ。書いている文章もめちゃくちゃおもしろくて、音楽だけの人じゃないんだなと思って。
──何者なんでしょうね(笑)。
諭吉さんの書く曲はセンチメンタルかつ独特な言い回しや譜割りで、本人は意識せず勝手にそうなっている感じなんです。
──“むげん・ (with 諭吉佳作/men)”はどこがサビかもわからなかったです。でも自然に曲が進んでいくし、歌詞もすばらしいですよね。
曲と歌詞はふたりで作りました。曲と歌詞をそれぞれ作った部分もあれば、僕が作った曲に諭吉さんが歌詞を当てはめたところや、諭吉さんが作った曲に僕が歌詞を当てはめたところもあります。ごちゃごちゃの曲をひとつにした感じですね。
──崎山くんにはもともと“むげん・”って曲があったわけではなくて、曲のパーツをそれぞれ持ち寄って合わせていったと。
諭吉さんがデモをまとめてくれたんです。iPhoneでドラムやピアノを構築していってくれて。ベースは僕が打ち込んでいますね。
──打ち込みなんだ!
はい。作詞方法はスタジオに入ってLINEでやりとりをしていました。同じスタジオ内にいるんですけど、ふたりとも歌詞を見せ合うのは恥ずかしくて。2行ずつ書いて、ランダムで並べました。この曲を作るにあたって共通のテーマを設けていて、そのテーマに沿って作りました。
──そのテーマは「むげん」ではない?
そうですね。説明的になりすぎず、感情を込めずに。テーマは諭吉さんが提案してくださったんですけど、その決め方も変わっていました。どちらかが意味のないような散文詩を書いて、もうひとりが読んで解釈した言葉をテーマにしようと。結果、僕が散文詩を書いて諭吉さんが受け取った言葉に決まりました。
──カラオケでテーマを考えて、スタジオで作ったということで、結構時間がかかってるんだ。
1ヶ月くらいやりとりをずっとしていました。
もやしみたいな素朴なものを投げていたら、イタリアのピザみたいになって出てきた
──最後に、長谷川さんはどうでしょう。
この3人のなかで、長谷川さんをいちばん最初に知ったんです。中学校2年生のときに知って、彼の作る曲もセンチメンタルでいい曲だなあと思っていて。大ファンでした。たまたまSNSで僕の曲をあげてくださっていたのがうれしくて、交流がはじまって。それで一緒にやれたらいいなと声をかけました。
──“感丘 (with 長谷川白紙)”はどうやって作っていきましたか?
僕は、自分の曲を長谷川さんにアレンジしていただこうかなと思っていたんですけど、「一緒に作りたい」と言ってくださって、共作になりました。共作といっても、まず「写真や絵でも音楽でもいいから送ってください」と言われて。僕が断片的にいろんなメロディーや写真、リズムだけを送って、そこから長谷川さんなりにインスピレーションを受けて作ってくださって、曲ができました。
──なんと!
サックスの音のメロディーが入った曲がきて、そこに僕が歌詞を当てはめていったんです。
──すごい作り方ですね。
そのやり方は聞いたことがなかったし、そういうのでいいんだなと思いました。最初の打ち合わせのときから、「好きな国は? 」「好きな花は? 」って調査みたいでした。全部のことが音楽と繋がっている感じがすごくしました。長谷川さんは、とにか情報の多いカオスな状態が好きみたいで。だから、ヒラメの写真を送ったりしました。
──他には何を送ったんですか?
梱包材のプチプチとか、化粧水の写真です。流れていくものを作ってみたくて。あとはお互いインドに行きたいねという話をしていたので、インドの写真も送りました。
──好きなものを送ったら、好きに料理されて返ってきたと。
そうですね。僕はもやしみたいな素朴なものを投げていたら、イタリアのピザみたいになって出てきました。
──みなさんとの制作はだいぶ刺激的でしたか?
全員、刺激的でした。曲の作り方もそうですし、改めて3人ともお化けのような人でした。音楽との向き合い方がすごいと思って勉強になりました。
──この4人は共通点があるように感じます。「この共作をした3曲が軸になっているアルバムです」と言ってもいいのでしょうか。
かつ、“踊り”という曲がキーになっています。この曲があって『並む踊り』というアルバム・タイトルになりました。
──なぜこの曲がキーになったのでしょう?
個人的にこの曲がすごく好きで気に入っていたんです。去年出した『いつかみた国』というアルバムのリリース・イベントでも、なぜかこの曲を歌っていたくらい好きな曲で。僕は舞踏が好きで、自然に人が溶け込んでいくもの、前衛的なものが好きなんです。いま自分が好きなものとリンクした曲が書けたし、次のアルバムには絶対入れたいと思っていました。
──いちばん最初に軸になった曲が前のアルバムの時点で既にできていた、この「踊り」なんですね。
この曲の背景は、舞踏や、そのとき好きだった詩人の小笠原鳥類に影響を受けていて。「これは何のことだろう」「これはどう表せばいいんだろう」みたいに、僕が日常的に見ているもの、感覚的なことを言葉でうまく手繰ることができましたね。
──その逆で、うまくいかないこともあると思います。抽象的なものをどう音楽に持っていくかということは誰しもが挑戦していることですよね。
君島さんも、「午後3時くらいに一瞬入ってきた光みたいなものの中からインスピレーションを手繰っていく作り方をしている」と言っていました。
──それが惹かれる理由だし、4人の特長的な部分な気がしますね。
諭吉さんがいちばんそのなかでも変わっているような気がします。諭吉さんは本当に意味が込められている曲と、本当に何も考えずにメロディーに言葉をつけている曲もあるとおっしゃっていて、特出的だなと思います。今作で3人に関わって感じたのは、共通点があるのかなとも思ったりしましたけどめちゃくちゃ違う人ですね。
自分だけでは全く作れなかったアルバムになった
──逆にうまくいかない、歌詞やメロディーに落とし込めないものもたくさん生まれてしまいますか?
それももちろんありますね。
──とても多作とお聞きしましたが、いままで何曲くらい作ったんですか?
400曲くらいですかね。でも昔のほうがたくさん曲は作っていました。忘れた曲も、もう歌いたくない曲もありますね。BGMを作りはじめたり、やりたいことが他にもあったりするので、それをいまは作っていますね。
──曲をたくさん作るというフェイズではなくて、音楽に関わるいろいろなことをしていると。いまはそれがおもしろいんだ。
そうですね。“踊り”が節目というか。ここら辺の曲が、いままでやってきた抽象的なものがうまくまとまって形成された弾き語りの曲だなと思います。このアルバムには入っていない集大成的な曲がいくつかあって、“踊り”もそのうちのひとつですね。これから弾き語りの曲は、もっと洗練されたものを書いていきたくて。だからそういう曲も作っています。
──崎山くんのなかでフェイズ2に入っている感じがあるんだ。
はい。愚直にもそこにあるものから、自分の感覚を追ったり、内心を弾き語りに入れて作っていたんですけど、それが終わって新しいものになったと思います。
──そのきっかけになったのがこのミュージシャンたちとの出会いですか?
あと自分の聴いている音楽が変化しましたね。
──お母様の影響でthe GazettEやBUCK-TICKとか、SEKAI NO OWARIが好きだったみたいで。いま話を聞くとそこからさらに漁りまくっている感じがしますね。
中学校のときに好きなバンドを辿っていったときにゆらゆら帝国やナンバーガール、ZAZEN BOYSを知りました。クリープハイプやきのこ帝国、Mrs, GREEN APPLE、KANA-BOONも好きでしたね。そこから洋楽も聴きはじめて。レディオヘッドとか。僕がやっていた「KIDS A」の名前の由来ではないんですけど、聴きはじめたきっかけではありました。小学生のときに同世代の子と「子どもAグループ」というふざけた名前をつけて活動していたんですけど。
──小学校のときにバンドを組んだの? すごいですね。
近所にある、おもしろいクラシック・ギターの教室に通っていて。先生が大好きで楽しくて。基礎的なことは身に付いていないんですけどね。ギターはうまくなかったけれど、ただ通うのがたのしくてギターをやっていました。「KIDS A」は、そこに通っていた同世代の子たちと組みました。中1のときに〈未確認フェスティバル〉で3次審査くらいまでいけたとき、審査員の人から「『KID A』からとったんでしょう? 」と言われて。それで「何それ?」と思って、そこからレディオヘッドを聴きはじめました。「やばい! すごい! 最高だ!」ってなって、そこから洋楽も聴きはじめたんです。YouTubeでタイニー・デスク・コンサートとかから音楽を知って。いまはサブスクもあるからめちゃくちゃ掘っていますね。ビリー・アイリッシュは同世代ですし。
──逆にこのアルバムのなかで、そういった音楽から影響を受けたものはありますか?
“Video of Travel”というDTMの曲は、ザ・ブックスみたいな、いろいろなサウンドや環境音が入っているコラージュのような曲が作りたいなと思って挑戦しました。
──あの曲はサウンドスケープのような、何かが喋っている感じがあるなと思いました。あれは何ですか?
逆再生ですね。僕の声や駅の音を自分で録って作りました。どんどん電子的になっていきました。遊びながら出来た曲ですね。
──今作『並む踊り』は崎山さんにとってどういう作品になりましたか?
自分だけでは全く作れなかったアルバムになったと思います。
──2ndアルバムを作って、この次にこんなことをしてみたい、というイメージは出てきていますか?
やりたいことはすごくたくさんあります。いろんな人と共作もしたいけど、もっと自分自身が作り込んだ、折坂悠太さんのような全部ソロでいろいろな音が入ったアルバムを作りたいですね。
──逆にすごいパーソナルなものということですね。
弾き語りでもできるし、生っぽい音で付け足して構築していくこともできるし、とっ散らかっている曲もできていて。それをどうやってまとめていけばいいんだろう、と悩みポイントでもありますね。でもそれらがうまく調合されたものを作りたいです。
──ツアーもはじまりますが、ライヴではどう昇華していこうと思っていますか?
ライヴではいまのところひとりで立つ機会が多いので、弾き語りの曲はガツガツやって、DTMの曲も流しながらおもしろいことをしていきたいですね。
──ひとりでパーソナルなショーケースとして完成させようとしている?
ライヴ感のある愚直なものにしていきたいですね。その中にたまに変わりダネも混じって。ちょっと心配ですけどね(笑)。
編集 : 武政りお、鈴木雄希
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新→古
今作参加アーティストの楽曲も配信中!
君島大空
諭吉佳作/men(参加楽曲)
長谷川白紙
LIVE SCHEDULE
崎山蒼志 TOUR 2019 「並む踊りたち」
2019年11月16日(土)@福岡 福岡ROOMS
時間 : OPEN 15:30 / START 16:00
2019年11月17日(日)@広島 広島SECOND CRUTCH
時間 : OPEN 15:30 / START 16:00
2019年11月30日(土)@愛知 名古屋JAMMIN'
時間 : OPEN 15:30 / START 16:00
2019年12月15日(日)@静岡 浜松 窓枠
時間 : OPEN 15:30 / START 16:00
ゲスト : 君島大空
2019年12月21日(土)@宮城 仙台HooK
時間 : OPEN 15:30 / START 16:00
2019年12月22日(日)@北海道 札幌KRAPS HALL
時間 : OPEN 14:30 / START 15:00
【詳しいライヴ情報はこちら】
https://sakiyamasoushi.com/live/
PROFILE
崎山蒼志(さきやま そうし)
2002年生まれ静岡県浜松市在住。 母親が聞いていたバンドの影響もあり、4歳でギターを弾き、小6で作曲を始める。 2018年5月9日にAbemaTV「日村がゆく」の高校生フォークソングGPに出演。 独自の世界観が広がる歌詞と楽曲、また当時15歳とは思えないギタープレイでまたたく間にSNSで話題になる。
2018年7月18日に「夏至」と「五月雨」を急きょ配信リリース。 その2ヶ月後に新曲「神経」の追加配信、また前述3曲を収録したCDシングルをライヴ会場、オンラインストアにて販売。 12月5日にはファースト・アルバム『いつかみた国』をリリース、合わせて地元浜松からスタートする全国5公演の単独ツアーも発表し、即日全公演完売となった。 2019年3月15日にはフジテレビ連続ドラマ『平成物語』の主題歌「泡みたく輝いて」と明治「R-1」CM楽曲「烈走」を配信リリース。 5月6日に自身初となるホール公演「とおとうみの国」を浜松市浜北文化センター大ホールで大成功させた。10月30日にセカンドアルバム『並む踊り』をリリース。 ある朝、起きたらtwitterのフォロワー数が5,000人以上増えていて、スマホの故障を疑った普通の高校2年生。
【公式HP】
https://sakiyamasoushi.com/
【公式ツイッター】
https://twitter.com/soushiclub