ゲーム内容を勝手に改ざんする「チート行為」の若年化が進んでいる。ネット動画などで方法を調べ、気軽に手を染める未成年が増えており、中には刑事事件や損害賠償に発展したケースも。業務妨害を繰り返して家裁送致され、巨額の解決金を支払うことになった元「特定少年」や、有名ゲームアプリの運営企業に取材し、「裏技」と「犯罪」の境目を探った。(時事ドットコム取材班キャップ 太田宇律)
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氾濫するチート動画
チート行為とは、ゲームのプログラムを不正に改ざんして、制作側が意図していないような動作をさせる行為を指す。SNSや動画サイトで検索すると、敵を一撃で倒せるようにしたり、アイテムを無限に増殖させたりと、人気ゲームで「通常ならありえないプレイ」をしている映像がいくつもヒットする。
近年問題となっているのが、こうしたチート行為の若年化だ。ゲーム機やスマートフォンの発展・普及により、オンラインゲームやネット動画に触れるタイミングが急速に低年齢化。小中学生でも簡単にチートに関する情報を得られるようになり、10代が業務妨害などの罪に問われるケースも相次いでいる。
「8歳でチート知った」家裁送致された男性
「他の人にチートを見せびらかして、特別なプレイヤーになれるのが面白かった」。東京都内に住む男性は、淡々とした様子でそう振り返る。18歳だった2021年、スマートフォン用ゲームアプリ「人狼ジャッジメント」でチート行為を繰り返したとして、電子計算機損壊等業務妨害の罪で家裁送致された人物だ。運営企業から損害賠償を請求され、今年5月に謝罪と解決金の支払いをすることで和解。金額は非公表だが、「100万円を大きく超える額」という。
初めてチートの存在を知ったのは8歳のとき。「親のスマホでYouTube動画を見ていて、『バイオハザード5』で変な挙動ができるのを知った。いいなあ、とうらやましく思った」。中学2年生になり、パソコンを与えられると、どんなゲームでチートができるか手当たり次第に試すようになった。次第に、ありえない挙動で他のプレイヤーを驚かせることが快感になっていったという。
突然の家宅捜索、親は仰天
「人狼ジャッジメント」では、チートで他のユーザーに嫌がらせをしたり、購入していないアイテムを使えるようにしたりと、3400件超の不正行為を繰り返した。アカウントを利用停止にされるたび、新しいアカウントに「転生」。画面にはその都度「法的措置を取る可能性がある」との警告文が表示されたが、「定型文かな」と軽く考えていたという。
ある朝、家族と同居する自宅のインターフォンが鳴った。「人狼ジャッジメントについて、思い当たる節はありますか」。訪ねてきたのは警察官だった。そのまま家宅捜索が始まり、チートに使っていたパソコンは押収された。「応対した親は驚いていた。チートをしていることは親にも話していたが、『やめとけよ』としか言われなかった」(男性)
「チートやってもいいことない」
逮捕はされなかったが、少年法上の「特定少年」として家裁送致され、最終的には家裁調査官による教育的措置をとった上で厳重注意処分となった。「チートが犯罪に当たるとは知っていたけど、自分がやっている程度なら許されるだろうとも思っていた」と振り返る男性。警察官や裁判官から「運営企業に大変な損害が出ている」と強い口調で言われ、「初めて自分の行為で迷惑が掛かっていたことに気付いた」という。
高校には行かなくなり、大学進学も資金が足りず諦めた。現在はフリーター。「反省はしているが、後悔はあまりしていない。チートをやってもいいことはないな、ということだけが残った」。終始、他人事のように語った。
「こんなことで事件に」憤る親も
オンラインゲームの運営企業は、こうした迷惑ユーザーの対応に神経を尖らせている。対戦相手のチートによって一方的に倒されたり、レアアイテムを課金せず不正入手したりといったことが常態化すると、ゲーム自体がつまらなくなり、深刻な「プレイヤー離れ」が起きてしまうためだ。
スマートフォン用のある人気ゲームアプリの運営企業では、毎日システム上でチート使用者がいないか監視し、発見次第アカウントを利用停止にしている。「チートの被害額は算出しにくいが、放置するとゲーム性が崩壊してしまう。他社では、レアアイテムを複製するチートが出回り、ロールバック(原状回復)できずにサービス終了してしまったゲームもあり、他人事ではない」。関係者はそう危機感を募らせる。
この関係者は「社外には公表していないが、チート行為が刑事事件に発展したケースもこれまで10件近くあった」と明かす。容疑者が未成年だった事件では、社員が警察署へ面会に赴いたところ、同席していた保護者から「こんなこと(チート)で事件にしなくてもいいのに」と責められたこともあったという。「『チート罪』のような名前の罪があるわけではないので、深刻さが伝わりにくいのかもしれない。子どもだけでなく、保護者にも啓発する必要がある」と嘆いた。
「裏技」との境目は
自分のキャラクターを無敵状態にしたり、敵を一発で倒したりできるテクニックは、かつては「裏技」と呼ばれ、必ずしも違法なものではなかったように思う。どこまでが「裏技」で、どこからが違法な「チート」なのか。ゲームと違法行為の関係に詳しい、東京フレックス法律事務所の中島博之弁護士に聞いた。
―個人で楽しむ「裏技」と、違法な「チート」との境目はどこにあるのでしょうか。
ゲーム企業のサーバーに接続して遊ぶオンラインゲームの場合、チート行為のためにうその情報をサーバーに送信すると「私電磁的記録不正作出・同供用」、それによって業務を妨害すると「電子計算機損壊等業務妨害」といった犯罪に当たる可能性があります。オフラインで遊ぶゲームの場合であっても、著作物であるゲームソフトを不正に書き換える行為が、著作者人格権(同一性保持権)の侵害に当たると判断されたケースがありました。他のプレイヤーがゲームを楽しめなくなったり、売り上げに悪影響を及ぼしたりするチート行為は、特に取り締まり対象になりやすいと考えられます。
―チート用のツールをウェブ上で公開したり、動画や記事でやり方を指南したりした場合はどうですか?
そうしたツールを作った時点で私電磁的記録不正作出の罪に当たる可能性がありますし、そうしたツールや動画によって別の人が罪に問われた場合、その共犯とみなされることもありえます。「人狼ジャッジメント」では、チートのやり方を動画やウェブ記事で拡散していた人物に対して、運営企業が訴訟を起こし、1000万円の損害賠償命令が下されています。
―チート行為が身近になり、若年者が事件を起こすケースも増えています。
「チート」というとゲームプレイの一環のようなイメージがありますが、実際は犯罪とみなされたり、多額の賠償責任を負ったりするリスクの高い行為です。1日に何億円も売り上げるような人気ゲームでチートを行った場合、対応のためのサーバーメンテナンスで売り上げに甚大な損害が生じ、億単位の賠償金を請求されるかもしれません。基本プレイ無料のオンラインゲームに触れる年齢が下がっていることもあり、未成年が軽い気持ちでチートに手を出さないよう、学校や保護者からも啓発することが重要だと思います。
この記事は、時事通信社とYahoo!ニュースの共同連携企画です。