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2022-01-26

トラックタイヤ脱落事故の原因なんだが

トラックの左後輪に限ってタイヤが脱落する事故の原因だが、これはこの10~15年くらいでタイヤに関する規格が色々変わったせいだ。

以前に整備と管理経験があるので説明したい。

ホイール脱落のメカニズム

そもそも重量車のホイールが脱落する時、直接の原因はホイールボルトの折れに因る。だがこれはボルト問題があるのではない。

ホイールナットホイールもの凄い力でハブ(車軸の端でホイールボルトが生えている部品)やブレーキドラム押し付けている。これによってホイールの裏側とハブ/ドラムの間には巨大な摩擦力が発生する。この摩擦力が車の重量を支えているのである

まりボルトには引っ張る力だけしかかかっていない。

 

これが緩むとどうなるか?

ナットが緩むと先の摩擦力が低減する。そして摩擦力車両重量を支えられなくなるとこの重さはボルトを切断する力になるのである。1.5cm程度の鉄の棒でトラックを持ち上げられる訳もない。

 

からナットが緩みきってナットが取れちゃうのではなく、緩んだせいでボルトが折れてしまう。これが脱落のメカニズム

 

左のホイールナットが逆ネジから正ネジに変更

日本トラックの左側タイヤホイールボルトというのはずっと逆ネジが使われてきた。これはJIS規格による。

逆ネジとは普通とは違い左に回すと締まり、右に回すと緩むネジの事だ。

なんでそんなのを使うかと言えば緩み止めの為だ。左ホイール走行中左回転する。ここに普通のネジを使うとナット自体慣性力によって緩んでしまうのだ。

例えば身近なところで言えば、扇風機の羽の中央のネジは逆ネジになっている。これはモーターが右回転し、その起動トルクによって中央ネジの慣性力(止まっていようとする力)が左向きにかかるので正ネジでは緩んでしまうからだ。

 

因みに乗用車では左側でも普通の正ネジが使われている。

これは逆ネジがめんどくせえというのもあるのだが、それよりもトラックナットはそれ自体が重くて慣性力が強くて緩みやすいって事もあると思われる。

 

実は増田最近トラック=左逆ネジじゃなくなったと知って驚いたのだが、長年日本ではトラック=左逆ネジは常識だった。

因みにトヨタとかの1tトラックは左逆ネジじゃないし、いすゞだとワンボックスバンとかも左逆ネジだった。流石トラックメーカーだ。

しかマツダいすゞからOEM供給受けるとマツダワンボックスにも左逆ネジが出てきて実にややこしかった。

 

2010年ホイール規格がJISからISOに移行したのだが、このISOでは全部正ネジがされている。

からこれ以後の新車JIS規格の時の様な緩み止め効果が期待できない。なのでテキトーな整備や放置(乗りっぱなし)をした場合安全マージンが減っているのだな。

 

まだまだある原因となる変更点

以上のJIS逆ネジからISO正ネジへの変更については指摘している人も結構多いようだ。

だがまだ原因となり得る変更点はあるのだな。そして「左後輪ばかりが落ちる」の「後輪」に関係する変更点は以降の点なのだ

アルミホイール流行

以前は大型トラックホイールは「分割式の鉄ホイール一択だった。これは普通鉄チンと呼ばれる。

分割式と言ってもリムの真ん中で分かれるんじゃなくて手前側のツバだけが外れて、通常は鉄のリングを叩き込んで固定するという方法だ。

これはタイヤチャンジャーを使わずに手でタイヤが組めるという利点があって増田も手でパンク修理して組んでいた。

一方で大きな欠点もあって、まずチューブレスタイヤが使えない。合わせ面から空気漏れちゃうからね。なので2000年頃まで大型トラックバス自転車みたいにチューブが入っていた。これに自転車と同じようなパッチを貼り付けてパンク修理していた。

でもチューブなのでパンクするとあっという間に空気が全量抜けてしま特に高速道路などで危ない。

 

もう一つの欠点はこのリング空気充填中に外れる事故が多いことだ。膨らんだタイヤによって押し付けられて固定される仕組みなので完全に充填されると安全だが、遷移状態の充填中が危ない。

トラックタイヤ乗用車の4倍近い空気圧を入れるのでこれがはじけてリングが飛んで人間に当たると大抵は死亡事故になる。

その事故態様凄惨で、頭にリングが当たる事が多いので、顔をショットガンで撃ったような、或いはキルビルルーシーリューの最期みたいに頭部が切断されて脳がまき散らされるという状況になる。

そんな死亡事故が毎年コンスタントに2件/年程度起きていた。

から充填時にはホイールの穴にタイヤレバーを突っ込んで(絡ませて速度を減衰させる)人は遠くに離れるというのが鉄則だった。

 

アルミホイールタイヤチャンジャ必須になる代わりにこういう欠点が無くなるが、問題もある。

乗用車ホイールもそうだが、ホイールハブ/ドラムの当たり面というのは平らになっていない。リブがあって凹んでる所を作ってある。

一見摩擦力が減りそうだが、これは皿の裏側と同じで、真っ平らだと座りが安定しない。ちょっとでも歪みがあると、一番高いところ以外が接触出来なくなるからで、逆に摩擦力が大きく減ってしまう。

その為に、ハブ/ドラムの方に円状に溝が彫ってある。皿の裏側の円状の足が二重になったような出っ張りがホイール接触する様になっている。

からホイールナットで締め付けた時にはそのナットの向こうのホイールの裏側というのは宙に浮いてる。力はその周囲の円状出っ張りに分散して掛かってるわけだ。

 

ところでアルミというのは鉄よりも柔らかい金属だ。だから長年鉄のドラム押し付けられて巨大な車重がかかった状態グリグリされ続けているとアルミの方が凹んでしまう。

まり定期的に増し締めをしてやらないとこの凹みの分だけ締め付けが甘くなるのだ。

 

更にこのホイールが入れ替えされるとどうなるか。

もとのドラムの当たり面ピッタリで凹んでいるから、他のドラムには「癖が合わない」可能性がある。

その場合接触面が小さすぎて摩擦力が十分稼げないって事になる。

摩擦力が足りない=ボルトを切断する力になるって事だ。または接触面が小さすぎ=直ぐに凹んであっという間に緩むって事である

ナット座ぐりの変更

乗用車タイヤを外した事ある人は気が付いているだろうが、乗用車ホイールナットというのはホイールに当たる所がクサビ形になっている。当然ホイール側の穴も逆クサビ型に角度がついている。

クサビ形にすると以下の利点がある。

 

1.締め込むとセンターが出る

 クサビが真ん中に滑りこむ為にホイールのズレが自然に解消される

2.緩みにくい

 クサビを打ち込んだ形になるので緩むときには打ち込まれて巨大な摩擦力が掛かっているクサビ座面を横に滑らすという無体な力が必要になる。ホイールナットを緩める時には「ギュッ!」「ギッ!」というような軋み音が出るのはこの為だ。

因みに乗用車ホイールナットのクサビ形状には1.ホンダの球面形状と2.それ以外の単純クサビ型という二つがあるので注意だ。

ホンダにそれ以外のナット、その逆の組み合わせをやると緩んで事故になってしまうのだな。

 

JIS時代トラックホンダと同じ球面座ぐりを使っていた。

だがISOでは普通ナットと同じ平面で押し付け形式なのだ。つまりクサビ効果による緩み止めが期待できないのだ。

ダブルタイヤの固定方法の変更

トラックの後ろタイヤダブルになっているが、JIS時代には2本の特殊ボルトを組み合わせていた。

まず、ハブから短いボルトが生えている。これにインナーナットという特殊ナットねじ込む。この特殊ナットの根元には先の球面座金ナットの先端部だけが付いている部分がある。「インナーナット」で画像検索してもらった方が判り易い。

この座金が内側のホイールを固定する。そして外ホイールの座ぐりに隠れるのだ。だからホイールは2つの部分で固定される。

1つがこのインナーボルトの座金。もう一つが外ホイールの当たり面全体だ。

このインナーボルトに外ホイールをひっかけてからホイールナットで締め上げる。

 

この構造だともし外ホイールナットが緩んでも内ホイールインナーボルトの座金が押してるから安全だ。

更にナット緩み→摩擦力減衰→ボルトにせん断力→折れという機序を示したが、隣に同じ高さのタイヤがあったら最後のせん断力もかなり緩くなる。つまりナットが緩んでも折れるには至り難い訳。

 

一方欠点もあって、ハブから生えている親ボルトインナーボルトが被さる厚みの分だけ細くせざる得ないからそこが弱くなるっていうのはる。

 

ISO方式ではこれをハブから生えている長いボルト一本にしてしまった。だからナットの緩みは致命的で、内ホイールも外ホイールも一緒に緩んでしまう。

その後は摩擦力減衰→ボルトにせん断力→折れという機序だ。最後のせん断力を最小化させていた「隣の同じ高さのタイヤ」というフェイルセーフが無い構造なのだ

混ぜるな危険

ここまで読んで来たら「役者多すぎじゃね?」と気付いた方も多いかと思う。即ち、

 

1.JIS規格鉄チンのハブホイールボルトナット

2.JIS規格アルミハブホイールボルトナット

3.ISO規格鉄チンのハブホイールボルトナット

4.ISO規格アルミハブホイールボルトナット

 

こんだけある。JIS時代特に2000年まではJIS規格鉄チンのハブホイールボルトナットだけだったのだ。

この中には組み合わせNGのものが多数ある。例えば鉄チン用ボルトアルミホイールを合わせた場合アルミは厚いのでボルトの長さが足りなくなる。ネジが掛かる部分が足りなくなる。

またISOホイールJISナットを組み合わせると球面座金+平面となって接触面積が減って緩んでしまう。

そして運送会社は同じ車両をまとめて購入するのでホイールナットを使いまわすのだ。

要するちゃんと規格ごとに分けて管理してないとヤバいという事だ。

 

東北以北+冬に事故が集中というのはここに問題を感じるのである寒い地域では冬にはスタドレスに換えて、減りやすいので春には戻すのだ。一台ずつやるとめんどくせえのでストックしたホイールに冬用タイヤを付けておき、ホイールタイヤ交換していくって方式なのだ

混ぜて使ってないか?と。そのホイールって昔のトラックで使ってたやつじゃないの?と。

 

因みにJISホイールISOホイールではボルト穴の並ぶ直径(PCDという)がちょっとだけ違って「付くが付かない(付けちゃダメ)」という状態であり、どこまでややこしいんだと言う外無い。

 

トルク管理シビアになった模様

ホイールナットはトルクレンチという測定器具を使って適正トルクで締めることになっているがJIS時代には誰も守っていなかった。スピナハンドルに鉄パイプ延長しておもいきり、とかインパクトレンチF1ピットインとかで使ってる空気式打撃レンチ)で締めてお仕舞だ。増田もトルクレンチで締めた事無かった。何しろ3/4のトルクレンチって10万以上するんでな。

でも以上のように安全マージンになってた部分が無くなっちゃったので昔の考えでやってると事故になるって事だろう。

国交省ちゃん仕事して

国交省はこの事故群に対して「左側は路面が傾きのせいで力が掛かり」とか間抜けな事を言っていてマスコミはそれを鵜呑みにして報道しているのだが、上で書いたような事を全然考慮していない。

現業スーツ組の間の障壁が大きいんじゃね?JIS時代の規格が決まっていった経緯とか忘れてる気配だ。

から事故が起きた営業者い対して

ホイールナットを混ぜて使っていないか調査した

インパクトを使って馬鹿力で締めればどうなのか調べた

JIS時代ISO方式車両の違いは逆ネジ以外に認識しているか調査した

っていうような事が全然出て来ないのでイライラする。

マスコミ整備士の若手不足を指摘するのだが、その高齢化した整備士が昔の感覚のままでいる可能性にも目を向けないといけない。

更にタイヤの交換なんて運送会社じゃ自分らでやってしまもので、そこで古い規格品の使いまわしされてないか、整備する無資格の人らの意識更新がされているかにも目を向けないといかんだろう。

  • まるでタイヤ博士だな

  • こんなんJIS規格ができた頃だったら日本方式に世界が合わせさせられてECがブチ切れてたのにな

  • 言いたいことやそれについてのメカニズムに関しては納得が行くがそもそも規格変更前と規格変更後で左後輪の脱落が増えたというデータがあるの?それがあるならそれも示して欲しい

    • ソースは貼った方が親切だが、ググれば簡単に出てくることを調べる気がないやつもイライラする https://www.asahi.com/articles/ASPCK5TW3PBHUTIL02K.html 大型トラックやバスのタイヤが走行中に外れ...

      • もしかして、有料部分から元増田と同じ見解が書いてあったりしますか? 要因のひとつではないかと業界で指摘が出始めているのが、ホイールの取り付け方の変更だ。

  • 恐ろしいほど詳しいな。 博士って書いてるやつもいるけど、たし🦀ってとこだな。 ほんとに恐ろしいと思ったのは、ISO規格が採用されるようになったのに、 JIS規格も混在してるってこ...

  • 内容は合ってるのだろうが図がないとわかりにくいな。特に逆ネジどうこうのところ。 ボルトってハブの周囲部に6箇所ぐらい付いてるイメージなんだけど、タイヤの回転軸とは一致しな...

  • 割とマニアックな研究分野でも 「その分野は私も経験あるのですが」 的な対抗増田が現れるパターンが多いんだが トラック業界はネットやってないのか

    • 増田書いてる暇があるなら一分一秒でも睡眠に費やしたいじゃん?

  • anond:20220126191146 ↑これに関して、「自転車のペダルですら左は逆ネジやで」というコメントがちらほら見える。 元増田で挙げられているホイールナットや扇風機の逆ネジも、自転車の左...

    • おもしろーい!! でも、最高の勝手に締まる…ところがわからなかった…(´・ω・`)

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