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【中国ウオッチ】兵器産業でも大粛清─経営者や高官が次々と失脚

2025年01月21日12時00分

 中国の兵器産業を担う国有大企業の経営者や関連官庁高官が次々と失脚している。国防相らが解任・処分された軍内の反腐敗闘争に連動して、大規模な粛清が行われているとみられる。(時事通信解説委員 西村哲也)

【中国ウオッチ・過去記事】

ロケット事業の功労者解任

 中国ロケット事業の功労者として、米誌タイムに取り上げられたこともある張克倹氏が1月上旬、兼務していた工業情報化次官、国家国防科学技術工業局長、国家宇宙局長、国家原子力機構主任をすべて解任された。昨年秋から公の場に姿を見せておらず、失脚した可能性が大きい。

 張氏は人民解放軍の国防科学技術大学で物理学を学んだ。国防科学技術工業局の副局長・局長を長く務め、中国兵器業界の重要人物だった。

 香港メディアによると、張氏の上司だった金壮竜工業情報化相も1月に入ってから公式行事を欠席。ロケットやミサイルを製造する国有大企業、中国航天(宇宙)科技の研究機関トップや副社長、中国商用飛機(航空機)会長、中央軍民融合発展委員会の弁公室副主任(事務局次長)を経て、閣僚に昇進していた。

 同弁公室副主任の後任である雷凡培氏も昨年秋から重要会議に出ていない。雷氏は中国航天科技会長や、軍艦を建造する造船世界最大手の中国船舶会長を歴任した。

上海浦東トップを取り調べ

 中国軍では2023年10月、李尚福国防相が解任され、同12月にはロケット軍(ミサイル部隊)司令官経験者2人や空軍司令官経験者が全国人民代表大会(全人代)の代表(国会議員)を罷免されて、失脚が判明。同じ12月、中国航天科技会長、中国航天科工副社長、中国兵器工業会長が国政諮問機関である人民政治協商会議(政協)委員の資格を取り消された。航天科工は航天科技と同じく国防省研究機関の後身で、ミサイルなどを製造。兵器工業は戦車など各種の兵器を造っている。

 その後、兵器業界で反腐敗関係の大きな動きはなかった。中国航天科工の袁潔会長が昨年4月に退任したが、23年秋から姿を見せておらず、それまでに事実上失脚していたようだ。

 しかし、昨年秋以降、前述の張克倹、雷凡培の両氏が重要行事に参加しなくなったほか、共産党中央規律検査委員会が11月27日、重大な規律・法律違反の疑いで上海市浦東新区党委員会の朱芝松書記(次官級)を取り調べていると発表。朱氏も中国航天科技出身で、研究機関のトップを務めてから上海市の官僚に転じていた。

 また、全国人民代表大会(全人代=国会)常務委でも11月以後、許達哲常務委員が会議に出席していない。許氏は中国航天科工社長や中国航天科技会長を経て、張克倹氏と同じように工業情報化次官と国防科学技術工業局長などを兼任。さらに、湖南省の省長・党委書記(いずれも閣僚級)を務めた。

 安徽省の省都・合肥市の党委書記(次官級)である張紅文氏も12月上旬に会議を主宰した後、所在が分からなくなった。張氏は中国航天科工の元副社長。「75後(1970年代後半の生まれ)の巡航ミサイル専門家」として有名だ。

 12月30日には、中国船舶会長の交代が発表された。前会長の温剛氏は10月下旬以後、公式活動が伝えられず、転出先も不明。かつて中国兵器工業に長く勤務し、社長・会長を歴任した。

ミサイル以外にも調査拡大か

 以上の経緯から、兵器産業の反腐敗闘争は①ミサイル開発の関係者が多い②関連企業の現経営者だけでなく、OBも調査対象にしている③閣僚級より上の党・国家指導者レベルには及んでいない─ことが分かる。

 党中央指導部の政治局では、新疆ウイグル自治区党委の馬興瑞書記(元工業情報化次官)と重慶市党委の袁家軍書記が中国航天科技、張国清副首相が中国兵器工業の出身だが、今のところ、異変説は出ていない。

 近年の軍内の反腐敗では、現職を除くロケット軍(ミサイル部隊)司令官経験者3人が全員失脚。李尚福前国防相(既に党籍剥奪)をはじめ、武器を調達する装備発展部出身者の粛清も多いことから、党規律検査委による調査はミサイル開発・調達関係の汚職に重点を置いてきたと思われる。

 ただ、12月下旬から公の場に出なくなった上将(大将に相当)4人は、陸軍の司令官と前政治委員、海軍政治委員、人民武装警察(治安部隊)司令官。装甲車両や軍艦など、ミサイル以外の兵器絡みの汚職にも、調査が広がっている可能性がある。

 兵器産業の反腐敗が昨年秋から強化されたのは、習近平国家主席(中央軍事委主席)の名代として軍内で人事を握り、権勢を振るっていた政治工作部の苗華主任の停職(11月28日発表)と無関係ではなかろう。軍と兵器産業の汚職摘発は、福建省の部隊出身で海軍政治委員を務めた苗主任の人脈粛清を軸に拡大していくとみられる。

(2025年1月21日)

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