日本選手が10人を優に超える一大勢力となって迎える米女子ゴルフツアーの2025年シーズン。さらなる飛躍が期待されるのが、米国2年目の西郷真央(23)だ。ルーキーイヤーの24年、日本勢では1990年の小林浩美(現日本女子プロゴルフ協会会長)以来、34年ぶりに新人賞の「ルーキー・オブ・ザ・イヤー」に輝いた。これをステップに今季、まずは米ツアー初勝利をつかみ取りにいく。(時事通信ニューヨーク特派員 岩尾哲大、時事通信社 小松泰樹)
硬さがあった最終戦
24年は全米女子オープン選手権で笹生優花が2度目の優勝を遂げ、アムンディ・エビアン選手権を古江彩佳が初制覇。メジャー5大会中、日本選手が2大会を制した。そんな中、西郷の躍進も光った。
シーズン最終戦は年間ポイントランキング上位60人が争う11月下旬のCMEツアー選手権(米フロリダ州ネープルズ)。西郷はランク9位で臨んだ。新人賞争いのトップを快走し、最終戦は仮に41位以下でも、2位のイム・ジンヒ(韓国)が4位以下なら西郷に軍配が上がる有利な状況だった。
ただ、大会前の表情には硬さがあった。その前のツアー大会、アニカ・ゲインブリッジでは予選落ち。ショットの安定感を欠き、「自分のしたいスイングじゃなかったりとか、思った球が出なかったりすることが多かった。修正しなければ」。納得いく形でシーズンを終えることに意識を置こうとしていた。
最後に会心のラウンド
初日は前半だけでダブルボギーを2度もたたいてしまうなど不安定だったが、後半に巻き返して1オーバー。2日目、3日目もこらえながら回ると、会心のラウンドが最終日にやってきた。ボギーなしの1イーグル、4バーディーで66。38位から25位に順位を上げてフィニッシュした。もちろん、新人賞の座もしっかりと確保した。
西郷が心底喜んだのは、一つのイーグルよりも自身のシーズン最終ホールとなった9番(パー4)のバーディーだ。残り154ヤードからの第2打は「今週一番いいアイアンショット」とピンそばへ。会心のバーディーで1年目を締めくくった。「先週ショットがひどくて、今週に入ってちょっと気持ち的にナーバスになっていた」と吐露。苦しんだ分、単に新人賞を勝ち取るだけでなく、満足のいく終わり方ができたことがうれしかった。
「すごく価値がある賞」
新人賞争いについては、やはりライバルの成績も気にしながらシーズン後半を戦っていたという。「来年取ろうと思っても取れない賞。今年しか(挑戦)できないという意味では、すごく価値があるもの」と受け止めた。
24年シーズンは米ツアー全体でもトップクラスの29大会に出場。年間ポイントランキングなどを上積みできたのは「みんな試合数をセーブしながらやっていて、自分は出ている分、稼げているってだけ」と謙遜するが、単に出るだけではなく、時に不調もありながら好成績が伴っていた。
見知らぬコースなども多かった中、2位が2度。メジャーの全米女子プロ選手権、AIG全英女子オープンでは共に7位に入った。平均ストロークは70.31。米ツアー3年目の古江が日本選手で初めて、規定のラウンド数をクリアした中で年間最少平均ストローク(69.988)となる「ベアトロフィー」を獲得し、西郷も堂々の上位に名を連ねた。
ジャンボが認める「ゴルフ脳」
ルーキーながら縦横無尽の戦いぶりだった。早くから海外志向が強かった上に、師匠の尾崎将司が「ゴルフ脳の高さはトップクラス」と評価した抜群のセンスが、その礎になっているのだろう。ジュニア時代の潜在能力が、「ジャンボ尾崎ゴルフアカデミー」の1期生となってから磨かれていった。
千葉県船橋市出身で、麗沢高では吉田優利の1学年後輩。3年生だった19年6月、前年の吉田に続き日本女子アマチュア選手権を制覇した。同年11月の最終プロテストは当落線上で踏ん張り、ぎりぎりの18位タイで合格。その年から高校3年生が受験できるようになり、共に同学年の笹生も18位、山下美夢有は6位。合格者には、いずれも一つ年上で「プラチナ世代」の吉田、西村優菜、安田祐香がいた。その世代と同じ古江は、10月の富士通レディースでアマ優勝を果たして最終テストが免除となった。
スランプを乗り越えて
コロナ下による統合シーズンの20~21年は2位が7度と優勝に一歩届かなかったが、22年は開幕戦のツアー初勝利から10戦5勝と開花。しかし、寝違えによる首痛からリズムが乱れ、やがてティーショットが思うように打てなくなるスランプに陥った。最終戦は通算35オーバーという信じられないスコア。出口が見えないような4日間を懸命に「完走」した。
アマ時代からストイックに取り組んできた西郷も、そのオフはさすがにゴルフから少し距離を置いたそうだが、程なくして再びクラブを振り始める。グリップの部分がすり減るほど、振って振って振りまくった。23年シーズンの秋になって、ようやくショットが改善。ジャンボに「それを打てたらもう大丈夫だ」と励まされ、11月の伊藤園レディースで約1年半ぶりのツアー通算6勝目。ウイニングパットを沈めて感極まり、天を仰いだ。「いろんな思いがあって…こみ上げてきた」
取り戻した自信
続く大王製紙エリエール・レディースオープンでも最終日にスコアを伸ばして1打差の2位。強さがよみがえり、自信を取り戻した。翌12月、22年シーズンからプランに描いていた米ツアー挑戦に向け、出場権を懸けた最終予選会で堂々の2位通過。晴れて憧れのステージに立ち、勢いそのままに1年目から地力を見せつけた。
西郷の「ゴルフ脳」を示すような一端に、自身が22年の春に語った練習方法がある。「以前はドライバーなどショットを打ち込んだ後に、アプローチやグリーン周りをやっていた。でもそれだと、体のどこかに思い切り振った疲労感が残っていて、どうしても小技の精度が鈍くなりがち。だから、やる順番を逆にした」。明快で理にかなっている。そうした思考力を、米ツアーでも柔軟に応用しているのではないか。
初V、ビッグタイトルに挑む
25年シーズンの大きなターゲットとなる米ツアー初勝利はもちろん、ビッグタイトル獲得への期待も膨らむ。「(試合数を)ちょっとセーブして、メジャー大会にいい状態で挑めるようなスケジュール感にはしたい」
今季から同期の山下や、いずれも年下の岩井明愛、千怜の双子姉妹、竹田麗央、馬場咲希が新たに米ツアーのメンバーとなった。日本ツアーで競い合ってきた面々の参戦を刺激材料にしながら、高みを目指して突き進む。