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「WEリーグって何?」からのチャレンジ 女子初のプロサッカー3シーズン目、高田春奈チェアに聞く①

2023年11月24日14時00分

 日本女子初のプロサッカーリーグとして誕生したWEリーグは、3シーズン目を迎えた。昨秋、チェア(理事長)に就任した高田春奈氏に、リーグの盛り上げに向けた意気込みや、女子サッカーやスポーツを取り巻く環境など多岐にわたって話を聞いた。(聞き手・時事通信運動部 中原さくら) ◆第2回を読む ◆第3回を読む

当たり前のことできていなかった

 ―就任から1年を振り返って。
 「振り返るとそれなりにいろいろやってきたな、という感じ。どうしても結果として、例えばお客さんの数が増えたとか、スポンサーの数が増えたというところがないと、ちょっとWEリーグはまだまだなんじゃないかと思われると思うが、この1年間はずっと組織の土台をつくってきた。チームを戦えるチームにしていくとか、お客さまに対して最低限絶対やらなきゃいけないことをやっていくとか、そういったところを整えることをやってきた1年間だった。大変ではあったが、このまま継続して頑張っていきたいと思える1年だった」

 ―就任前はリーグにどんな印象を。
 「WEリーグは全く外からも見ていなかったので。存在は知っていたけど、どんなクラブがあるのかも知らなかったし、シーズンがいつなのかも知らなかった。Jリーグのクラブと、Jリーグの中でちょっと働かせていただいたことによって、リーグの構造とかクラブ運営がどういうものかというのは分かった上で来ているので、まだまだこんなことができてないんだなとか、当たり前のところができてないんだなっていうところに気付けた」

長崎でクラブ経営

 ―Jリーグの長崎で社長を経験した。クラブ経営とリーグ経営の違いは。
 「クラブは、クラブが勝つためとか、株式会社がもうけるためにとか、分かりやすくミッションに向かっていくが、リーグには公益というのもある。公平性とか安定性が重要視されるので、どうやったらクラブの人たちが成長していけるような環境をつくっていくのかというところを考えていく意味では、やっぱり全然違う。気持ち的なところでも、勝ったら喜ぶし、負けたら怒られてしゅんとしたりするし、そういうことがクラブでは大事なことだけど、リーグはどちらかというと安定性とか安全とかが重視される」

 ―経営学を学んだ。現在生かしていることは。
 「経営学は会社経営をする上でツールというか、例えば財務諸表を読めないと社長はできない、というのでやっていた。社長業をずっとやってきたので、リーグでもトップでいろんなことを決めていくことに関しては違和感がない。ただ、やっぱりリーグなので、理事会のみんなで決める。もっといろんな人の意見を聞かないといけないとか、そういう違いはある。使った分よりも稼ぐ分を多くしないと赤字になってつぶれちゃうよ、というのは全く同じ話なので、それは会社経営の経験が生かされている」

 ―長崎時代は選手との関わりが難しいという話だった。現在は。
 「女子サッカーの方が選手と関わりやすくなったが、クラブの人ではないので、そんなに頻繁に会うわけではないというところは、ちょっと遠い感じはする。ただ、会った時に、女子サッカーに関わる人たち、なでしこジャパンの2011年ワールドカップ優勝メンバーの方たちは、本当に日本の女子サッカーを何とかしたいという選手の立場で思ってくれているから、そういう同じ気持ちで話せるところがすごくありがたい。女子サッカーの選手は、女子サッカーがどうやったら盛り上がるか、発展していくかを本当にみんな考えてくれている。そういう目線が近くて話しやすい」

 ―選手から現場の声を聞く機会は。
 「WEリーグは『WEミーティング』という、各クラブの選手と、私、他の理事がZoom(ズーム)で1時間ちょっとディスカッションするのを、岡島さん(喜久子前チェア)の時代からずっとやっている。私も着任したこの1年間で、全クラブの選手とミーティングを持たせてもらって、そこでは全員と話している」

 ―印象に残っている選手の声は。
 「ほぼほぼみんな、どうやったらWEリーグって認知度が上がるんだろうとか、人気が出るんだろうと言っている。やっぱりプロ化したらJリーグみたいになるんじゃないかとか期待しているけど、WEリーグと言っても『WEリーグって何?』って周りの人から言われたりとか、なでしこリーグ時代からやっていても、WEリーグに変わったことを周りの人が知らなかったり、そういう認知度の危機感はすごく皆さん共通して持っているので、そこは何とかしてあげたい」

社会から変える

 ―海外リーグとの勉強会を実施した。WEリーグにどう生かすか。
 「女子スポーツに対して日本はまだ、投資という概念をなかなか持ってもらえてないところがある。話をしてみると、スペインもイングランドも米国も、戦って今の位置付けに来ているというのはあるので、全然苦労がなかったとか、文化の違いという言葉で考えるつもりは全くない。日本と同じように、女性スポーツはちょっとゆっくりだから面白くないよねとか、なかなかお客さんが来てくれなくて、チケット代を安くして集客を頑張ろう、とか苦労されている」
 「例えば、男子チームや企業が、女子スポーツを盛り上げることが社会を変えていくから女子スポーツを応援する、というふうにやられて来て、今ここまで来ることができていると考えると、日本の今のジェンダーギャップ指数などが表しているものが、今の女子スポーツに対する関わり方とも連動していると思う。日本だから大変だが、その分、それ(日本社会のジェンダーギャップ)こそが課題だと思っている。どうやって、女子スポーツの価値を理解して、賛同して、仲間になってくださる方たちを増やしていくかということにチャレンジしていくことが大事なのかなと、今思っている」

 ―他の競技からもヒントを得ていたりするか。
 「一番多く言われるのは、女子のプロスポーツで成功してるのがゴルフ。ゴルフの事例はすごく言われて、もっとこういうところ見習ったらいいんじゃないの、と言われることはある。それは端的に言うと、ホスピタリティー。実際女子サッカー選手たちも、強みはファンの方との距離が近いことと言われるので、まねできることはあると思うが、アスリートだから、何か女は愛嬌(あいきょう)ではないけど、そういうことだけを求めて、何か発展に生かしていけよって言われるのも違うんじゃないかなという気がしていて。今はやっぱり競技力を高めること、特になでしこジャパンの強化にWEリーグの成長はつながっているよということを証明することが、今は一番大事かなって思っています」(第2回に続く) ◆第2回を読む ◆第3回を読む

 高田 春奈氏(たかた・はるな) 国際基督教大から2001年、ソニー入社。05年にジャパネットソーシャルキャピタルを設立し、社長に就任。20~22年までJリーグ長崎の社長を務める。22年9月にWEリーグ2代目チェア(理事長)に就任し、日本サッカー協会副会長、Jリーグ特任理事も兼任。長崎県出身。46歳。

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