言葉にできない感情を鳴らす... 視覚では捉えられない情景を描く...
何もかもすべて受け止められるなら
誰を見ていられた?
涙に流れて使えなかった言葉を空に浮かべていた
いつも いつも
(GRAPEVINE「光について」)
一回りほど歳の離れたふたりが声を揃えてこの曲を歌う姿に、どことなく運命めいたものを感じたのは自分だけだろうか。plentyからのラヴ・コールによって実現したというこの日の2マン・ライヴ。おそらく多感な時期にGRAPEVINEの音楽を聴いていた彼らにとっては、まさに念願の夜だったことだろう。ただ、このライヴは互いに認め合う両バンドが共演を果たしたということだけでは終わらないもののように思えた。
例えば言葉にできない感情を鳴らすこと。あるいは視覚では捉えられない情景を描くこと。ロックがこういった抽象表現を孕んだ音楽であるなら、GRAPEVINEというバンドは至って正攻法なやり方で、まもなく15年にも及ぶキャリアを最前線でサヴァイヴしてきたと言っていいだろう。演奏力の向上に腐心し、作品を出す度に新たなチャレンジを試みながらも、バンドとしてのスタンスは変えずに高い評価と人気を保ち続ける彼らの姿勢に感化された若い世代は少なくないだろうし、今回共演を果たしたplentyもその中から漏れないはずだ。
この日の先攻はplenty。華奢なルックスと江沼郁弥の中性的な歌声で誤解しがちだが、実際にライヴを目の当たりにすると、とても硬派な印象を受けるバンドだ。ギターによる比較的シンプルなコード・ワークを軸に、新田紀彰の堅実なベース・ラインとサポートとして参加した元syrup16gの中畑大樹によるパワフルなドラムが支える形で、ステージに立っているマイクは江沼の使う1本だけ。最小限のエフェクトと楽曲構成だけでじっくりとオーディエンスを引き込んでいく様子を見ていると、自分たちが聴かせたいのはあくまでも江沼が紡いでいく歌なんだ、という真摯で迷いのない思いが伝わってくる。この日は新曲を披露しつつ、デビュー作のタイトル曲「拝啓。皆さま」で締めるという構成。新旧織り交ぜたセット・リストでもしっかりと統一感を演出できるのは、彼らが闇雲なアイデアに溺れず、自分達から素直に出てきたサウンドを丁寧に研磨し続けているからだと感じた。
続いてGRAPEVINEが登場。こちらは細やかなアレンジでステージを展開していく。とにかくサウンドの振り幅が広い。こうやって両バンドが並べて演奏すると、当然ながら音楽的背景の蓄積の差は歴然としている。それはまさに彼らのキャリアがあってこそ成せる業であり、一朝一夕で手に入るものではないだろう。中盤からはきたるべき新作からの楽曲を次々と披露。冒頭で演奏した「真昼の子供たち」と「NOS」でも顕著だったように、ここ数年は牧歌的なメロディや土臭いブルーズの色合いを強めてきた彼らだが、この日に演奏された新曲はおしなべてハードでドライヴィンなロックンロールが目立っていた。どうやら彼らはここに来てさらにサウンドを更新しにかかっているようだ。田中和将のMCはいつものようにゆるいが、バンドが次の展開に向けて歩を進めてきたことを痛感させられる、かなりスリリングなパフォーマンスだった。
当然のようにアンコールを求める拍手は止まず、再びGRAPEVINEの面々が登場。しかしそこにはplentyの二人も紛れている。この両バンドの混合編成で披露されたのが、plentyの「僕のために歌う吟」、そして前述した「光について」。田中と江沼が両バンドの楽曲を共に歌うという、まさにこの日限りのスペシャルな演出にオーディエンスは狂喜の声を上げる。特にGRAPEVINEの初期を代表する名曲「光について」が披露されたのは、GRAPEVINEのファンにとってはかなり嬉しいサプライズだったはずだ。
しかし個人的にはこの曲を江沼が歌った時のハマりっぷりに驚いた。リリースした当時に歌っていたものとは比べものにならないほどソウルフルで野太くなった田中の歌唱はさすがの一言だったが、それと同時に、今から10年以上も前に田中がこの曲に込めたヘヴィネスをこの場で体現していたのは、どちらかというと江沼のように感じられたのだ。自分のパーソナルな側面をひたすら搾り出さずとも独自の世界観を描ける術を手に入れた現在の田中にとっては、この曲に込められたシニシズムと自責の念は既に通過したものなのかもしれない。そして彼が当時抱えていた感情をジャストな形で表現できるのが、今の江沼であり、このライヴの実現に発展するまで両者を結びつけたものはそこにあるように感じた。
ナイーヴであるからこその蒼い輝きを放つ現在のplenty。彼らもこれからサウンドを磨き上げていく中で、その輝きの色を少しずつ変化させていくのだろう。そして作家としての更なる成熟を目指し、再びロックンロールの狂想に飛び込む予兆を見せたGRAPEVINE。彼らは来年でデビューから15年目を迎える。(text by 渡辺裕也)
GRAPEVINE、plenty セットリスト
2011年12月21日(水)@品川ステラボール
開場 18:00 / 開演 19:00
出演 : GRAPEVINE / plenty
【plenty】
1. 空が笑ってる / 2. 最近どうなの? / 3. 待ち合わせの途中 / 4. 東京 / 5. からっぽ / 6. 砂のよう / 7. 枠 / 8. あいという / 9. 拝啓。皆さま
【GRAPEVINE】
1. 真昼の子供たち / 2. NOS / 3. Darlin’ from hell / 4. MISOGI / 5. ONI / 6. CORE / 7. ANATA / 8. YOROI / 9. (All the young)Yellow / 10. 棘の毒 / 11. 超える
<ENCORE>1. ボクのために歌う吟(with plenty) / 2. 光について(with plenty)
GRAPEVINE ニュー・ミニ・アルバム『MISOGI EP』リリース決定!
『覚醒』『Everyman,everywhere』以来、3枚目のミニ・アルバム『MISOGI EP』のリリースが決定しました! 全6曲の新曲を収録。スタジオ・ライブ映像を収録したDVDがついた数量限定の完全盤(ペーパー・スリーブ)と、オーディオ・トラックのみの通常盤、2つのパッケージでのリリースです。
GRAPEVINE『MISOGI EP』
2012年2月15日(水)発売
【トラックリスト】
1. MISOGI / 2. ONI / 3. SATORI / 4. ANATA / 5. YOROI / 6. RAKUEN
■数量限定 完全盤 ペーパー・スリーブ仕様(CD+DVD) / PCCA-03542 / ¥2,800(税込)
■オーディオ盤(CDのみ) / PCCA-03543 / ¥1,800(税込)