Anrietta from Novel Sounds INTERVIEW
荘厳なアンサンブルの中にフレッシュな感性を持ち込む新世代がまたひとつ登場した。彼らの名はアンリエッタ。エレクトロニクスも取り入れたアンサンブルによる、シガー・ロスの『Takk…』あたりを思わせる重厚な音作りと、女性ヴォーカルがじっくりと歌い上げていく様は、ヨーロッパ及び日本のポスト・ロックからの素直な反響を感じさせるものだが、それをたとえばアニメなどの視覚的なメディアを意識して鳴らそうとする感覚は、まさに今の世代ならではのものだろうし、実際に彼らのデビュー作『Memoraphonica』は明確な情景描写を備えた作品に仕上がっている。今回はこの気鋭のバンドからリーダーの板谷元気とヴォーカルのkokkoをお招きし、話を聞いてみた。
インタビュー&文 : 渡辺裕也
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デビュー・アルバムの発売に先駆けて1曲先行フリー・ダウンロード!
Anrietta / Memoraphonica
透き通った歌声と幾重にも重なる音ので、美しい光景を浮かび上がらせる楽曲が特徴のAnrietta。造語によって紡がれた物語は聞く者を魅了し、平均年齢23歳と若いながらも、その確立された世界観が様々な方面から評価されています。5月2日のファースト・アルバムから1曲先行フリー配信開始。
【Track List】
01. Aqua / 02. lost seasons / 03. On the way across the rainbow / 04. Latency / 05. amaranthine / 06. Heart sound travels / 07. Grassky / 08.thaw / 09. Story of circle
作る才能とは別で、聴く才能っていうのもあるんでしょうね(kokko)
——ジャケットのイラストがサウンドのイメージとすごくマッチしているように感じましたが、このイラストを描かれたのは?
kokko : これは伏臣武さんという方に描いていただいたものなんです。わたしがCD屋さんで見かけたジャケットにすごく気に入ったものがあって、それが伏臣さんの手がけたものだったんです。それ以外にも私が写真や絵で気に入った作品を10枚くらい集めてメンバーに見せたんですけど、みんな伏臣さんのものがいいと言って。それで連絡してお願いしてみようということになったんです。
板谷元気(以下、板谷) : 画面の情報量が多くて、色彩豊かなところがすごくいいと思ったんですよね。それに僕らの音楽も情景描写的な部分があるので、そことも合うんじゃないかなと思って。
kokko : でも、このジャケットができたのはもうすごく前なんですよ。去年の6月だっけ?
板谷 : レコーディングを始める前にもう頼んじゃったんだよね(笑)。音はデモ状態のものを聴いてもらって。だからずいぶんお待たせしてしまったんです。
——その最初のデモ楽曲はどのようなものだったのでしょう。その当時から現在の音楽性と繋がるものを作っていたんですか。
板谷 : 僕がDTMを使ってレコーディングなり打ち込みなりをやっていたのもあって、バンドとしての方向性はその時からぼんやりとありました。ただ、僕が歌モノの音楽に取り組みだしたのはこのバンドが初めてなんです。その前はちょっと即興音楽っぽくて、いまよりずっとアンビエントな感じのバンドをやっていたので、しっかりとデモから曲を作るようになったのはこのバンドからですね。現在は最初に想定していたものよりうたが前面に出たものになってきています。ちょこちょことメンバー・チェンジもあったんです。最初からいたのは僕とドラムの根本で、その当時は別の女性ヴォーカルがいて。その3人でまずデモ音源を1曲作って、そこからメンバーを募集し始めたんです。
kokko : 私は元々お客さんとしてアンリエッタのライヴによく行ってたんです。JPくんが高校の先輩だったので、そういうつながりで。前に歌っていた方はもう少しふわっとした声をしていたんですけど、私は輪郭がはっきりした歌い方をするので、徐々に歌がはっきりと聴こえる感じになっていったと思う。
——作品を聴かせて頂いて、目指したい音楽性が明確にあるバンドだなと感じたのですが、実際のところはどうでしょうか。
板谷 : 好きな音楽からの影響は沢山あると思います。あと、ライヴの後にお客さんや対バン相手から「あれ好きでしょ? 」みたいなことをよく言われるんですよね。たとえばシガー・ロス、モグワイ、マトリョーシカ、ワールズエンド・ガールフレンド、スパングル・コール・リリラインなんかがそうですね。あとは菅野よう子とか。
——菅野よう子とも言われるんだ?
板谷 : はい(笑)。僕がもう大好きなんですよ。特にメロディ作りにおいてはすごく影響を受けていると思います。世界観にも通じるものがあると思う。
——菅野よう子さんの作品にはアニメと密接に絡んだものも多いですよね。その辺はどうですか。
板谷 : 確かにアニメは僕の得意分野ですね(笑)。ただ、アニメからインスピレーションを受けて音楽を作ることはそんなにないかな。具体的なものから影響を受けるということ自体がそんなにないですね。そこから得た感動が創作のモチベーションに繋がることはあるかもしれないけど。ただ、僕らがやっている音楽は、アニメや映像の中で使われても違和感のないものだと思うし、実際にそういうものにしたいと思っています。あと僕にとって最初に大きかったのが、中3の時に聴いたバンプ・オブ・チキンだったんです。そこからの流れにスーパーカーがあって、そこからシガー・ロスを経て、エレクトロニカなんかを聴くようになって。だから、聴いてきた音楽の変遷はけっこう自然な感じだと思う。あえて聴くものを絞り込んでいたところはあって。
kokko : 逆に私は、シガー・ロスと同時にメロコアとかを聴いてたんですけど(笑)。あまり沢山の音楽を聴かず、ひとつのアルバムを買ったらそれをずっと聴いているようなタイプです。だから音楽のことはあまり詳しくない(笑)。
——気に入った音楽にとことんのめり込むタイプなんだ。
kokko : そうですね。自分のなかに取り込んじゃうまで聞き込む感じです。たとえば椎名林檎の『加爾基 精液 栗ノ花』がそういうアルバムで。あのごちゃっとした感じをちゃんと消化させるのって、実際すごく時間かかると思うんです。YUKIの『PRISMIC』とかもそうかな。そう考えるとエレクトロニックな音楽が好きみたいですね。今やってる音楽に通じているものもあるのかもしれない。
——一方の板谷さんは、クリエイターになりたいという気持ちがもともと強かったから、そのために聴いていた部分もあるということなのかな?
板谷 : そうですね。影響を受けたい音楽を絞って聴いてきたというか。めちゃくちゃいいんだろうなと思うものでも、聴いたら自分がぶれるなと思ったものは避けてきたところがあって。
バンドをやる上での共通点は持っている(板谷)
——けっこう潔癖な方?
板谷 : そうですね(笑)。最近はむしろ取り入れたい要素が増えてきた感じはあるんですけど、その前の軸を固めるための時期にいっぱい聴いても、きっと消化できないだろうなと思ってたので。それで自分の進みたい方向のライン上にあるものをチョイスしてきたところはあります。
——では、その板谷さんの軸にある音楽がどういうものなのか、教えていただきたいです。
板谷 : ちょっと質問の意図とは違うのかもしれないですけど、僕はなによりもメロディのセンスを養っていきたかったんです。というのも、いい曲の根本ってそこにあるんじゃないかなと思ってて。少なくとも僕が曲を作る上ではそこが一番重要で。
kokko : 私たちも彼のそこを信頼してやっていますね。そういえば私がバンドに入ったばかりの時、元気さんがとにかく沢山の音源を渡してくれたんですけど、実は2年経った今でもまだ聴ききれていなくて(笑)。だから、私たちの音楽を聴いて「~ぽいね」と言われても、私はそれを知らないことが多いんですよね(笑)。きっと音楽って、作る才能とは別で、聴く才能っていうのもあるんでしょうね。
板谷 : (笑)。そういうそれぞれの聴き方なんかも含めて、やっぱり僕はバンドでやりたいという気持ちがすごく大きかったんですよね。最初はインストのポスト・ロックを聴いて、ここに歌が入ってきたらもっと楽しいなっていう発想から始まったんですけど、例えばそこに「新しいジャンルを自分たちで作っていこう」みたいな考えはなくて、それよりも普遍的でありたいという気持ちの方が強いんです。いい意味での大衆性がほしいというか。いわゆる名曲と呼ばれるものって、やっぱりメロディがすごくいいし、わざとらしいこともやってない。きっとそういうものだったら、たとえばJポップしか普段は聴かない人にでも引っかかるものを感じてもらえるんじゃないかなと思って。
——メロディもそうですが、みなさんの楽曲はすごく厚みのあるアレンジが加えられているので、そっちへのこだわりもきっと強いのだろうと思っていたんですが。
板谷 : 自分にとってのサウンドとメロディのバランス感覚があって。メロディがポップすぎると質感的にJポップ寄りになるし、かといってサウンドが濃すぎるとコアな音楽ファン向けになってしまう。できれば僕は自分が作ったものを、自分が通過してきた音楽と同じように聴いてもらいたいんです。
——では、板谷さんから見て普遍性を持っていると感じる作品をなにかひとつ教えてもらえますか。
板谷 : そうだな。たとえばシガー・ロスなんかは、サウンドがすごく壮大でアンビエントだけど、一発聴いただけでいいなと思えるものがある。そういうものを目指したいなと思って。
——じゃあ、そのシガー・ロスの中でも最も好きなアルバムは?
板谷 : 『アゲイティス・ビリュン』かな。
——あ、そうなんですね。僕はきっと『Takk…』なんだろうと思ってました。
板谷 : 確かに今回のアルバムはかなり『Takk…』寄りなサウンドですよね(笑)。僕が最初に聴いたシガー・ロスのアルバムは『Takk…』です。個人的にあのアルバムはものすごくポップだと思っていて。
kokko : 私は『Takk…』が一番だけど、それと並行して私もメロコアと聴いてたからなぁ(笑)。
——今の音楽活動のなかで、そのメロコア的なものから引き継いでいる部分はなにかありますか。
kokko : ないですねぇ(笑)。とは言っても、やっぱりその中でもハワイアン6みたいな、ちょっとダウナーな雰囲気のものが好きだったから、ちょっとそこはつながってるのかもしれないです。
板谷 : だから、メンバーはみんな音楽の好みもバラバラなんですけど、このバンドをやる上での共通点は持っているんですよね。
——今日のお話を聞いて、現在のアンリエッタは板谷さんの指向性がかなり強く出ているように感じました。今後それが他のメンバーによって大きく変わっていく可能性はありますか。
板谷 : どうだろうなぁ。今後挑戦していきたいと思っていることは沢山あるんですけど、やっぱり楽曲にとって一番大切なメロディやコード感のセンスがきちんとあることは前提だと思ってて。そこさえしっかりしていれば、どんな音楽をやっても自分たちのものにできると思うんです。まだそういう域に達しているとは思っていないので。
——まずはもっと根本のソングライティング・スキルを高めていきたいということですね。
板谷 : そうですね。かといってあんまりごちゃごちゃしたものにはならないと思いますけど(笑)。
kokko : 私ももっといろんな歌い方に挑戦していきたいし、そういう曲を元気さんに沢山作ってもらいたいです(笑)。
板谷 : 今回のアルバムは一貫した質感をもたせたかったし、実際にそうできたと思うんです。だからここからはもっと歌を前に出して、バラエティのあるものを目指したいですね。それに、今回の1枚目を経て次に取り組むものは、最初からアルバムを作るという目標を持って臨むことになりますよね。僕らが目指したいのはやっぱりそこにあるので。
LIVE INFORMATION
『The Sound Of Fury Tour 2012』
Novel Sounds インストア・イベント
2012年4月27日(金)@HMV大宮ロフト
Live : Bertoia(小編成) / Anrietta / us
OPEN / START : 18:30
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ロングセラー・デビュー・アルバム『MODERN SYNTHESIS』より人気曲「Snow Slide」と、1年ぶり待望の新曲「Under Water」をカップリングした配信限定ダブルA面シングル。
PROFILE
Anrietta
2009年結成。kokko(Vo.)、genki itaya(Gt./other)、maiku kawasaki(Gt.)、JP(Ba.)、yuuki nemoto(Dr.)の5人によるドリーム・ポップ・バンド。透き通った歌声と幾重にも重なる音の層で、美しい光景を浮かび上がらせる楽曲が特徴。造語によって紡がれた物語は聞く者を魅了し、平均年齢23歳と若いながらも、その確立された世界観が様々な方面から評価されている。