地方から音楽を届けること――dinner、新作を2週間先行ハイレゾ配信!!
地方から刺激的な音楽が届けられることが多くなった。今回、OTOTOYが注目したのは、山形県を拠点に活動するインストゥルメンタル・ロック・バンド、dinnerだ。そのサウンドの基礎は、toeやLITEを思わせる硬派なポストロック。ミニマルかつアグレッシヴなギター・リフ、変幻自在のビート・チェンジ、そしてその裏側に、繊細な抒情性が見え隠れする。
そんな彼らの新作『time to share it』を、OTOTOYでは24bit/48kHzのハイレゾ、しかも2週間先行で配信中。今作から取り入れたという鍵盤により、より洗練され、研ぎ澄まされた印象を与えるdinnerのサウンド。配信開始を記念したフリー・ダウンロード曲「building」、そしてメールでの取材を通したレヴューとともに、お楽しみください。
>>「building」のフリー・ダウンロードはこちら<<
dinner / time to share it
【配信フォーマット / 価格】
WAV(ハイレゾ、24bit/48kHz) : 2,500円 (単曲は各250円)
mp3 : 1,500円 (単曲は各150円)
【Track List】
01. voice
02. building
03. out line
04. glass chair
05. nothing river
06. okay
07. fore the light
08. elf and maze
09. plastic noise
10. will to sense
11. a place
12. save
日常生活と寄り添ったかたちで音楽活動を続けていくこと
現在のロック・バンドに適した活動環境って、たとえばどんなところなんだろう。「バンドやるなら東京にいけよ」みたいな小言がふつうにまかり通ったのもいまや昔の話で、単純に住宅環境などを考慮すれば、あえて上京する理由を探す方が今は難しいような気もする。そして、わざわざYouTubeやSoundcloudなどを例に挙げるまでもなく、インターネット上で個人が楽曲を発信するシステムはすっかり定着し、その地域環境差はいよいよ失われつつあるようだ。
「別にそんなの今に始まったことじゃないよ」と思われた方もきっといるだろう。たしかに西日本エリアの一部に関してはそうかもしれない。ただ、北関東や東北のシーンで起きている動きが広く知られ始めたのは、やはりここ数年のことなんじゃないかと思う。
さて、そこで今回はあるひとつのバンドを紹介したい。山形県を拠点とする5人組のインストゥルメンタル・ロック・バンド、dinner。ギターの大場茂幸を中心として2002年から活動を開始した彼らは、幾度かのメンバー・チェンジを重ねながらも地元に腰を据えたスタンスで活動を続けていき、着実にその名を全国区へとのし上げてきている。
山形といえば、〈do it〉や〈僕らの文楽〉といった地元発信のDIYフェスティヴァルが活発に行われていることでも近年は注目されてきたが、もちろんそうした大きなイヴェントが行われる背景には成熟したシーンの存在があるようで、このdinnerもまた、そこに身をおいて活動するバンドのひとつのようだ。
「ツアーで県外に行くと、必ず山形のシーンの話になりますね。山形に独自のシーンが根付いていたのは確かで、新たなシーンを作ろうと前向きなバンドも増えてきています」(大場 / Gt, Vo)
「“山形の音楽シーン”と大きく括られることも多いのですが、実際は海側の庄内地区、内陸の山形、米沢地区で微妙に違った特色を持っています。あと、たくさんのライヴハウスが存在する仙台へのアクセスが比較的容易なので、活動の拠点をそちらに移すバンドも多いですね」(原田 / Gt)
「バンド、イヴェントなどは減少傾向にあるんですが、その中でも山形を盛り上げたいという気持ちは強くて。少しでも山形のシーンを盛り上げていきたいです」(尾形 / Ba)
90年代のポストロックを通過したような音楽性を志向するバンドが少なくないという山形県内で、現在はインストゥルメンタル・バンドとして突出した存在感を放っているdinnerだが、そんな彼らも活動開始当初の段階では歌モノに取り組んでいたのだという。それが活動を重ねていくなかでヴォーカルを削いだスタイルへと移っていき、それと並行して徐々に県内での認知も広がっていく。そして2007年、彼らはファースト・アルバム『and...hearing things』をリリースする。クリーン・トーンを基調とした2本のギターが絡まりあいながら繊細な音像を形成していくこの作品の評判は山形県外でも広がり、彼らはその勢いのまま、2008年には2作目『Rock Disco』を完成させる。
「『Rock Disco』は1冊の本をイメージしていて、ページをめくることに展開が変わっていくという感じに楽曲も作られているんです」(大場)
「少しだけガレージ・ロック的なアプローチが増えてきた頃のアルバムですね」(原田)
ポストロックを起点としたサウンドを鳴らしつつ、ギターの音を増やすことでより音楽的な自由度を広げ、コンセプチュアルな作風にも臨んだ本作で彼らの認知はさらに広がり、2009年には〈ARABAKI ROCK FEST〉にも出演。山形を中心に活動を展開させながらも、dinnerの鳴らすサウンドは徐々に全国規模で知られはじめる。
2011年にはバンドがトリプル・ギター編成となり、3作目『B5の中』をリリース。dinnerはメンバーの入れ替わりが激しい一方で、活動のペースはとても安定しているし、音楽的にも個々のメンバーの趣向性が表れた柔軟さと同時に、時流に左右されない硬派さも感じさせるバンドだ。
「大場さんの存在が“dinner”だと私は思います。頼れるリーダーでもあり、癒し系でもある不思議な方で」(多田 / Dr)
そして2014年。男性3人、女性2人になった新体制dinnerは、福島に拠点をおくレーベル「Nomadic Records」から、このたび配信開始された『time to share it』をリリースする。トリプル・ギターから再びツイン・ギターとなり、そこに鍵盤が加わったことでアンサンブルのかたちは大きく変わった。それだけでなく、今回は仙台のロック・バンド、雨ニモ負ケズの洋奈がゲスト・ヴォーカルとして参加。こうした音楽的なところでの新機軸はもちろん、この作品をとおして、東北で活動する音楽家たちのつながりが見えてくるのも興味深いところだ。
「楽曲を作っている時期は、ちょうど仕事で絵本の作成もしていたんです。少ない言葉、絵で伝えるということが今回の楽曲や詩にもリンクしていると思います」(大場)
dinnerの作品を待つ人は着実に山形県外でも増えてきている。ネット上からの発信やライヴ活動の積み重ねなどで活動の規模を少しずつ広げていったdinnerの動きは、後続するバンドに少なからず刺激を与えるだろう。その一方で、彼らがここから活動のペースをドラスティックに変えたりすることもなさそうだ。
「美大で音に関連した作品を創っているので、音楽活動中心というわけでなくても、どうしても音楽から離れられないような感じです。弾く場所があるからフランクな姿勢でいることができるけれど、弾かないでいると、どうしても弾きたくなります」(小林 / Pf)
「全員仕事や家庭を持っていますので、音楽第一とはいかないのが本音ですね」(大場)
「普通に働いていますので、“何を差し置いても音楽が一番!”というわけにはいかないんです。ただ、仕事以外の時間は、ほぼ何かしら音楽に関係する作業をしていますね」(原田)
どんな地域であれ、日常生活と寄り添ったかたちで音楽活動を続けていくことはそれなりに困難なことだが、それを山形という地域で実現させているのが現在のdinnerだ。自分たちがのびのびと活動できる環境を地元で築き、それを全国、あるいは全世界へと放っていく。そうした活動がスタンダードとなりつつある時代を、彼らにはここから先も駆け抜けていってほしい。
(text by 渡辺裕也)
RECOMMEND
(左) dinner / and...hearing things
(右) dinner / ROCK DISCO
dinnerの記念すべき1stアルバムおよび2ndアルバム。3本のギターが縦横無尽に絡み合うサウンドは、知的に構築されたものでありながら、激しく情熱的な一面も兼ね備えている。USポスト・ハードコアからの影響も感じさせる、彼らの原点がここに。
toe / For Long Tomorrow (24bit/48kHz wav)
日本のポストロックを切り拓いてきたtoeの傑作アルバムを、24bit/48kHzのハイレゾで配信中。原田郁子(クラムボン)をフィーチャーした「After Image」、土岐麻子ヴァージョンの「グッドバイ」、そして朋友千川弦をゲスト・ヴォーカルとして迎えた「Say It Ain't So」など、渾身の13曲を収録。サックス、マリンバ、ピアノ、打ち込みドラムなど、多彩な音色を取り込んだ革新的なサウンドに圧倒されること間違いなし。
mouse on the keys / machinic phylum (24bit/48kHz wav)
ピアノ2人とドラム。最小限のメンバーが鳴らす、高度に洗練された楽曲たち。mouse on the keys、約3年ぶりの2ndミニ・アルバムは、缶コーヒー「Roots」のCM楽曲も収録した、新たな扉を開く1枚。OTOTOYでは、24bit/48kHzの高音質で配信中。知的な計算によって組み立てられた音楽でありながら、内部に激しい熱を孕んでいる。矛盾する要素がせめぎ合って生まれた作品。
LIVE INFORMATION
〈DUBAI9 × tieemo〉
2014年3月2日(日) 川崎 CLUB CITTA'
開場 / 開演 : 11:00 / 11:30
出演 : aoki laska / ハイスイノナサ / 宇宙コンビニ / nego / nhhmbase / folk squat / FROITO / winnie / tony wealth / Choir touched teras chord / the north end / fifi / dinner / a picture of her / 是巨人(korekyojinn) / alt / I LOVE YOU…OK? / and more
詳細 : http://dubai-tieemo.tumblr.com/ (特設サイト)
PROFILE
dinner
2002年、山形にて結成。ポストロックを経由したインスト・バンドとして、県外にまで活動の範囲を広げる。自主イヴェントやツアーも数多くこなしながら、海外のバンドとも共演を果たす。2009年には〈ARABAKI ROCK FEST〉に出演、オーディエンスや関係者の絶賛を受け、"山形にdinnerあり"の評価を決定づける。また、インターネットによって国外へもその名を知らしめ、注目度はうなぎ登りに。ポストロック、エモ、オルタナ、シューゲイザーなどを昇華したサウンド、「これでもか!」と連射されるミニマルなギターのリフ、多彩なビート・チェンジによるスペクタクルにより、聴く者を圧倒する。さらに、今作からは大胆にピアノを導入。計算されつくしたインテリジェンスに基づく、究極のカタルシスを生み出す。