interview : Sundelay with 飯田仁一郎(Limited Express (has gone?))
邦楽のメイン・ストリームとも、東京のインディーズ・シーンとも一線を画す独自のスタンスでの活動を続けるバンド、sundelay。彼らがkilk recordsから2ndアルバム『Moksa』をリリースする。それを記念して、初となるメンバー全員インタヴューを行った。インタヴュー冒頭から、メンバーの弘瀬淳が、30を過ぎてから組んだこのバンドではじめてギターを持ったという、衝撃の事実が明らかになる。彼がもっているバンドをはじめたばかりのような純粋な音楽に対する思いは、sundelayにおいても確実に刺激となっている。
また今回は、先日オープンしたばかりのライヴ・ハウス、ヒソミネで行われるレコ発ライヴの対バン相手でもある、Limited Express (has gone?)のギター・ヴォーカル飯田仁一郎にもインタヴューに加わってもらった。sundelayが掲げる「"此処ではない何処か"を音楽によって創造する」というコンセプトを紐解いていくなかで、働きながら音楽を続けること、彼らが目指す音楽での到達点にまで話は膨らんでいった。すでにバンド以外の場所で社会的な地位を築いている彼らだからこそ語れる、リアルな本音がここにある。きっとその言葉は、社会の歯車のなかで生きるすべての人たちへの勇気となるだろう。
インタビュー & 文 : 前田将博
Sundelay / Moksa
【価格】
mp3 単曲 150円 / まとめ購入 1,500円
wav 単曲 200円 / まとめ購入 2,200円
日本のインディ・シーンのなかで、とりわけ異彩を放つインスト・バンド、sundelayの2ndアルバム。「いまの時代だからこそ」というこだわりから採用された全曲一発録音。それにより生み出された、生き物のように自由に動き回るオーガニックなグルーヴ。クラウト・ロック直系のドラッギーでダビーなアンサンブル。確かなテクニックに裏打ちされた絶妙なタイミングで鳴らされるリード・ギター。Spacemen3のような浮遊感、そして中毒性、This Heatのような呪術性や攻撃性、John Zornのような実験性。それらすべてをあわせ持つ5編から成るアルバム。
sundelayとLimited Express(has gone?)の2マン・ライヴ決定!!
sundelay "Moksa" release party
2013年5月31日(金)@大宮ヒソミネ
時間 : Open / Start : 19:00 / 19:30
料金 : Adv / Door : 2,200円 / 2,200円
出演 : sundelay / Limited Express(has gone?)
テレビでは観られない音楽の文化を子供に残したい(弘瀬)
ーーsundelayのみなさんの音楽歴はどのくらいなのでしょう?
長塚大地(Gt / 以下、長塚) : みんな結構長いですね。自分も10代からギターをはじめて、ずっとやっています。(弘瀬)淳だけは、このバンドを組んでからギターをはじめたんだよね。
弘瀬淳(Gt / 以下、弘瀬) : 僕は大地と出会ってからはじめました。
飯田仁一郎(以下、飯田) : え!? じゃあ30歳を超えてから?
弘瀬 : そのときに、自分を変えたい思いがあったのかな。音楽をやっている大地と出会って、気がついたらギターを買ってたんですよ。
ーーでは、バンド活動自体、sundelayがはじめてだったと。
弘瀬 : sundelayがはじめてです。バンドって、ドラムがいてベースがいてギターがいるじゃないですか。「なんでこの人はドラムをやってるんだろう」とか、「なんでベースやギターをやってるんだろう」と考えたら、この集まりがものすごく新鮮で、不思議に思えて感動したんですよ。「この広い日本のなかでこんな人たちと出会えるってことは、確率的に考えるとすごいことだな」って。そこから1つの曲や物語ができるわけじゃないですか。そういうことって学校や社会で学ぶことではなくて音楽でしかないと思うので、メンバーとの出会いに感謝しながらバンドを続けています。
ーー他のメンバーは、いままでバンド経験のない淳さんが入ることに違和感はなかったんですか?
長塚 : むしろ、こういう人でよかったですよ。
バロン(Dr) : 精神的にも馴染んでたし、和むよね。
浅田泰生(Ba / 以下、浅田) : 人柄もよかったしね。
弘瀬 : 僕が一番年上なんですけど、まったくそう感じないんです。そういうのが逆にいいのかなって思います(笑)。
ーームード・メイカー的な存在なんですね。
長塚 : まさにそうですね。
飯田 : 結婚はされているんですか?
弘瀬 : 結婚して娘もいますね。僕は、sundelayやリミテッド(Limited Express(has gone?))のような、テレビでは観られない音楽の文化を子供に残したいんです。僕がいいと思うものを残していきたい。娘が成長して(そういう音楽の文化を)いいと思うかはわからないですけどね。
浅田 : 娘はなんて言ってるの?
弘瀬 : 娘はまだ5つなんですけど、「かっこいい」って言ってる。年をとって思春期になればテレビで流れるような音楽も聴くかもしれないですけど、そうでないものに対しても感じるものがあるんじゃないですかね。そうやって友だちとかにも、また新しい音楽が広がっていけばいいなと思いますね。
ーーいい音楽を根付かせたいという思いがあるんですね。sundelayのインフォメーションなどを見ると「邦楽のメイン・ストリームの真逆をいく孤高の存在」と書かれていますが、sundelayもリミテッドも、独自のスタンスを貫いた活動をされていますよね。
長塚 : はじめからそこを目指していたわけではないし、メジャーというものにアンチなわけでもないんです。ただ、意識的にそっちに寄るような作り方はしていないというか、できないというのはありますね。だから、自然とこうなっていったのかな。
飯田 : 僕らは最近、ミュージシャン・オブ・ミュージシャンでいいんじゃないかって思います。「そうなるのも難しいんだぜ」って思うし。アンダーグラウンドにはアンダーグラウンドの厳しさがあるし、仮にメジャー路線に行ったとしても、簡単にアンダーグラウンドには戻れないですから。
長塚 : それ、めっちゃわかりますね。ミュージシャンの方に認めてもらうとうれしいですしね。
sundelayは変態バンドだという結論に至りました(笑)(飯田)
ーーもともとずっと働きながら音楽をやっていたんですか?
長塚 : そうですね。「音楽だけで食っていこう」とか、「頑張ってメジャーいくぞ」っていう強い意識はなかったです。そこの兼ね合いって本当に難しいと思うんですよ。それで食っていきたいっていう方も全然いいと思います。ただ、そのためにやらなきゃいけないこととか、捨てなきゃいけないものも、それに比例して大きくなっていきますからね。後ろ向きなわけではなく、音楽をやっていければいいかなって思います。世の中生きづらいところがあるじゃないですか。そういうものから解放される唯一のものが音楽だったっていう人たちなので、音楽は自由にやりたいですね。
飯田 : ちなみに、どのくらいリハをされているんですか?
長塚 : 月に1~2回ですかね。
ーーその割に、曲はすごく洗練されていますよね。
長塚 : じつはそんなに難しいことはやっていないんです。もともとあまり複雑なことはやりたくなかったので。みんなそれなりの年齢だし、阿吽の呼吸みたいのもあると思います。だから、スタジオに入りすぎると逆に悪くなったりします(笑)。煮詰まっちゃったりして。僕なんかは個人でもほとんどやらないですね。弾きたいっていう欲求を溜めないと、爆発できないんです(笑)。
ーー飯田さんはいかがですか?
飯田 : 僕はメンバーがさぼりたがろうが、1週間に1回はやりますね。月に2回とかだと、逆に気持ちが離れちゃう気がする。あと、リミテッドのメンバーは3人いて、ドラムが電気屋で僕がOTOTOYをやっているんですけど、もし「メジャー・デビューしませんか?」って言われたら断ります。それはなぜかっていうと、仕事の重みを知ってるから。仕事を志途中で辞める気はないし、それが音楽をやる糧になってるから。
ーーもしsundelayにメジャー・デビューしないかって話があったときは、どうしますか?
長塚 : それを言ってくれた人によるんじゃないですかね。それをどういう意図で言っているのかとか。
弘瀬 : 結局は人だよね。出会いだと思う。
長塚 : その人がどれだけ僕らのことを考えているのかとか、音楽に対してどう思っているのかとか、そのあたりで考えると思います。それがもし僕らと合っているなら、別に行ってもいいと思いますし。
ーーkilk recordsに入ったのも、きっとそういう理由ですよね。
長塚 : そうですね。最初に誘われたときは、大丈夫かなって思いました(笑)。世の中、やましいこともいっぱいありますから。でも、森さん(kilk records主宰)と話したときに、本当にいいものを出したいというのが伝わってきたし、そこに賛同したっていうか、じゃあやってみようかなって思いました。
浅田 : まさに森さんだったからっていうか、あの人の人柄や熱意、僕らに対してどう思っているかっていうのが伝わってきてうれしかったですね。当時はいま以上に、誰も僕らのことを知らなかったですから。なんで声をかけてくれたんだろうって、いまでも少し思いますけど(笑)。
バロン : うれしかったよね。
ーー森さんと一緒にやるようになって、バンドとしての意識やスタンスに変化はありましたか?
長塚 : CDを出したことで意識の変化はあるかもしれないですけど、それによって色を変えるみたいなことはないですね。
ーーずっと変わらずに、やりたいように音楽をやり続けたいというスタンスであると。
長塚 : そこは変わらないですね。逆に、なんで辞めていくんだろうって思いますね。年齢とともに辞める人もいるじゃないですか。家族を養わなきゃいけないとか、いろいろあるとは思うんですけど、別に働きながらでもやれると思うし。
飯田 : たぶん、辞めるのはメジャーに行った人たちですね。人気がなくなって、辞めるしかなくなるんですよ。それまで人になんでもやってもらっていたのが、そうじゃなくなったときのギャップに耐えられずに。メジャーに限らず、インディーズの大きいレーベルもそうです。
ーーそこで気持ちが折れてしまうんですかね。
飯田 : それもあるし、生活をしなくちゃいけないというのもあります。
長塚 : あとは、音楽をなんでやっているかっていう基本的な部分もあると思うんですよね。もちろん、みんなに聴いてもらいたいとか、多くのお客さんの前で演奏して喝采を浴びたいとかもあると思うんです。でもそれよりも、やっていて気持ちのいい瞬間を味わいたいだけだったら、別に客がゼロだろうが続けていけるんじゃないかって。青臭いかもしれないですけど。どれだけマスターベーションをし続けられるかだと思いますね。もしかしたら、そこに反応してくれる人もいるかもしれないですし。
弘瀬 : 普段の生活では絶対に味わえない一瞬があるんですよ。その一瞬があるから続けられる。理由とかではないですね。うまく表現できないですけど。でも、みんな同じ場所でその一瞬を感じてるんじゃないかな。
浅田 : わかるわかる。そんな瞬間があるんだよね。
弘瀬 : 普段営んでいる生活では、まったく味わえないもの。
長塚 : 変態なんですよね。そういうところでしかエクスタシーを感じられない(笑)。
一同 : (笑)。
飯田 : sundelayは変態バンドだという結論に至りました(笑)。
ーー(笑)。歳をとると、そういう瞬間は減ってきますよね。
長塚 : だから本当に幸せですよね。
弘瀬 : いつも不思議なのは、なかなか予定が合わなくて久しぶりにスタジオに入っても、まとまっているんですよ。あれはすごいと思って、いつも感動します。レコーディングのときにうまくいかないこともあるんですけど、最後にはばっと決まるんですよ。あれはバンドでしか味わえないことですよね。
ーー淳さんの話を聞いていると、まるでバンドをはじめた頃のような思いを感じます。
バロン : 言われてみればそうなのかもね。
浅田 : このメンバーだからそんな瞬間が得られるのかもしれないですよね。
ーー今回リリースされるアルバム『Moska』の曲を聴いてると、前作以上に見える風景が広くなっている気がします。1曲1曲の長さも、かなり長くなっていますよね。
長塚 : どうしても物語を作ろうとするとだんだん長くなって、長編になっちゃうんですよね。
ーーあれを一発録りでやるのは、相当な集中力がいるんじゃないですか?
長塚 : その空気感を閉じ込めたいっていうか、バラでやるとどうしても音が融合しないし、自分たちの音楽にはこれが一番いいんじゃないかと思ってやっていますね。
社会の歯車は最高ですよ(長塚)
ーーsundelayは、「"此処ではない何処か"を音楽によって創造する」をコンセプトとして掲げていますが、"此処ではない何処か"とは、いったいなにを示しているのでしょうか?
長塚 : 自分たちのやってる音楽がインストで歌がないので、そこでどういうふうに物語を表現するかなんですよね。歌詞があれば世界観が伝わりやすいと思うんですけど、それがない分、抽象的なんです。もともと「世界をまるごと作っちゃいたいな」という思いがあったんですよね。音楽を聴いているときや体感しているときっていうのは、朝起きて会社行ってっていう日常から解放される。自分たちがそうなりたい、逃げたいっていうのがあったのかもしれないですね。
ーーそれこそ、淳さんがおっしゃっていたようなバンドでしか味わえない瞬間がそれに近いのかもしれないですね。
長塚 : そうですね。それを感じてもらいたいです。自分たちが音楽を聴いたり、本を読んだり、映画を観たりして、その世界にどっぷりはまってしまうような感覚を作りたいなって思ったんですよね。聴いたり観たりしてくれた人がそれぞれ持っている子供の頃の風景とかにどこかでリンクして、いまいる場所から少しでもずれてもらえたらいいのかなって思います。本当にすごい本だと、読む前と読んだあととで、世界がすごく変わるようなことってあるじゃないですか? 本当はそこまで行きたいですけどね。聴く前と聴いたあととでは自分が変わってしまったみたいな。
ーー逆に自分自身もそこにたどり着けるような曲を求めているのかもしれないですね。
長塚 : そういうことですね。世界を変えたいんですよね。現実的な体制や国を変えるよりも、自分たちを変えるというか。それが、世界を変えるっていうことだと思うんですよね。
ーー飯田さんは、どこへ向かうっていうのはあります?
飯田 : 僕らは正反対ですね。日常を変えたいとは思っていない。昔は狙って変な音楽を作っていたけど、よく考えたらそれは狙っていたんじゃなくて素質だったんですよ。だって、10年以上音楽が変わっていないですから。素質だってわかったときに生活とリンクしたんです。根がサブカルで、日常がすでにちょっとおかしくて、それが音楽に表れていたんですよ。
長塚 : 生き様や生活が音楽にリンクしているっていうのは、まさにそうだと思いますね。その人そのものが如実に音楽に出ていますよね。どういう生活しているかとか、今までどういう生活をしてきたかとか。
ーーそういう意味では、目指す先は正反対であっても、どちらも人生そのものが反映された音楽という意味では共通していますよね。
長塚 : そう思いますね。だからおもしろいんですよね。
飯田 : だから、音の違いは当たり前なのかもしれないですよね。
ーーそんな2組が対バンするわけですけど、どんなライヴになりそうですか?
飯田 : 森さんが作ったヒソミネに自分のレーベルのバンドを呼んで、さらに仲のいいリミテッドを呼ぶってことは、なにか奇跡が起こると思いますよ。社会の歯車になる強さを観にきてほしいですね。俺たちは馬車馬のように働いてるから、申し訳ないけどゆっくり寝たり飲んだりしてる人には、人間力で負けない。それが音楽に表れたときに、僕らには勝てないですよって思ってる。
長塚 : 社会の歯車は最高ですよ。ちなみに、ヒソミネの内装は淳がやったんですよ。
弘瀬 : そうなんですよ。これもちょっとうれしかったですね。
ーー社会の歯車のなかで音楽を奏でるもの同士が、あるべき場所で対バンするわけですね。楽しみにしています。
長塚 : 僕も楽しみです!
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PROFILE
sundelay
長塚大地(Guitar)、浅田泰生(Bass)、バロン(Drums)、弘瀬淳(Guitar)の4名からなるインストゥルメンタル・ロック・バンド。2005年晩秋、「”此処ではない何か”を音楽によって創造する」をコンセプトにsundelayをスタート。都内を中心に精力的にライヴ活動を行い、高い評価を受ける。ダイナミックかつ繊細なサウンドは、体験した者の世界をずらす。
Limited Express (has gone?)
2003年、US、ジョン・ゾーンのTZADIKから1st albumをリリースし、世界15カ国以上を飛び回る。その後、高橋健太郎主催のmemory labより、2nd album、best albumをリリース。WHY?、NUMBERS、そしてダムドの日本公演のサポートを行うなど、名実共に日本オルタナ・パンク・シーンを率先するバンドになるも、2006年突然の解散宣言。半年後、突然の復活宣言。なんとニュー・ドラマーには、日本が誇るPUNK BAND、JOYのドラマーTDKが正式加入!!! メンバーのJJは、ボロフェスタを主催。YUKARIは、ニーハオ!のリーダー等、各人の活動は多岐にわたる。最新作は、Less Than TVからリリースしたDODDODOとのsprit albumと3rd album。中国やオーストラリア等、引き続き海外活動も盛ん。