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「みなさんはなぜCDを買うんですか」(木戸)
森 : ライヴに関してはどう思いますか?
木戸 : 実際にお客さんに接する事のできるライヴはとても大事だと思います。頻繁ではないですが続けていきたいですね。ただ金銭面だけで言えば他の方法もある。例えば、去年12月にコンサートホールを借りてお客さんを入れずに70分程、うちのYuki Murataのピアノ・ソロ・コンサートをUstream配信したんです。23時からの放送で、視聴者は1400人くらいだったんですけど、放送後に楽曲の使用依頼の連絡が8件ありました。というのも、放送する前に色んな企業等に「今からやるのは全部自分たちが著作権を持っているから聴いてくれ。クラシックも弾くけれど勿論、著作権は切れている。そちらが望むような楽曲、作曲家、演奏家かどうか確認してほしい」とメールしまくったんです。残念ながら日本からは一通も返事がなかったんですが、イギリスやニュージーランドやインドネシアやシンガポール、そしてアメリカから、写真家のインスタレーションの音楽やファッションブランドのCMの曲、イベントなどに使いたい、あるいは新たに作ってくれという連絡が来たんです。
森 : ほとんどが海外からの視聴者だったんですね?
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木戸 : いや、日本でも200人くらいの方に見ていただきました。けどネットは世界に通じるという強みがありますよね。
森 : 他の国からオファーが来た一番の要因はどこにあると思いますか?
木戸 : これはかなり図々しい返答になりますが、質の高さです。音楽の良い悪いは十人十色であり、絶対的な良い悪いという言葉なんて崩壊してると思うんです。じゃあ何が目に止まったといえば、オリジナリティなんです。オリジナリティとはいえ、変なことや過激なことをしても駄目なんです。過激なパフォーマンスをするのではなく技術としての質が高いということです。
森 : その一回で掴めたということは、やはり放送される音も相当凝ったんですよね?
木戸 : そうですね。音響、照明、映像、全部凝っていますね。
森 : 見る側は、安っぽく言うと「プロ」としての感覚を強く感じ取ったのかもしれませんね。木戸さんのブランド力に魅力を感じたりだとか。
木戸 : 音楽であれ何であれ、アーティストやレーベルはブランド力というものが大事だと思います。ブランドに行き着くまではすごい年月がかかります。例えばファッションとかもそうですよね。「この鞄が10万もするの? でも買う!!」と。そのブランド力をつける、というのは信頼でしかないので、これはもう年月ですね。あといい仕事を続ける事。ちなみにこの放送で僕の名前は一切出て来ないので、少なくとも僕のブランド力ではないでしょう…(笑)。
森 : 答えによっては敵を増やすかもしれませんが、質が良いと思うものを提供さえすれば日本でも売れると思いますか? 海外に目を向けるきっかけも日本で評価されなかったからと仰っていましたが、今の時点ではその時よりも少しずつ変わりつつあると思いますか?
木戸 : オープンになってきてますね。
森 : 今、質の高いものさえ作れば日本でも売れる、という良い方面へ向かっていると思うわけですね。
木戸 : 僕は音楽業界はいい方向に向かってると思ってます。ただ質が良いっていうのはもはや価値のない言葉なんで。さきほども言ったように、いかに必要としている人の元に必要な音源を届けられるか、が大事だと思います。
森 : じゃあレーベルを特別大きくしてこうっていうのはあんまりないんですか?
木戸 : 結果、大きくなる可能性はあります。
森 : それはつまり根本的な、音楽を広めていきたいっていう過程での純粋なものですよね。
木戸 : そうですね。あと、うちは別にアーティストをお断りしている訳ではなくて、いい人がいれば。
森 : いい人がいないっていうことですか(笑)?
木戸 : えっと… 難しいですね(笑)。音楽がいいってだけじゃなくて、ちゃんとサイトの管理をしているとか、海外にもアプローチしてるかとか、著作権に対してある程度知識はあるかとか。例えば日本で、AXでワンマンがやりたいんですとか言われてもそりゃあうちらがやりたいですよっていう(笑)。
森 : 僕が個人的に木戸さんの考えに近いなって思った部分は、うちは結構たくさんアーティストがいるんですけど…。
木戸 : そう! kilkって持ち弾が多いじゃないですか。すごくうらやましいですよね。
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森 : でも、将来的にはアーティストが自分でやっていくべきだと思ってるんですよね。あくまでインディーの音楽についてだけの話かもしれませんが。僕は今後、時代に合わせて流動的なやり方で活動していくつもりなんですが、どんな状況であれ、善意からいいと思う音楽を世に出していきたいということが根底にあるんです。その善意はリスナーだけでなく、アーティストに対しても思っていて、その考えに従うとやはりアーティストも大きくなったら独立すべきだって思うんですよ。そのころにはコンテンツ・メインで売るっていうのも厳しいだろうし、うちも別のことやってると思うんですよね。
木戸 : ただ、kilkのアーティストが大きくなって独立しても信頼関係があればアーティストもそのアルバムはkilkのままにしておくと思うんですね。そういう部分って大事ですよね。
森 : そうですよね。うちのブランド力をつけたいっていうのもやっぱりあるんですけど、アーティストが巣立っていくころにはうちもブランド力高まってるだろうし。そこは、アーティストとの互恵関係って感じですね。
木戸 : 僕もどうなっても、以前NATURE BLISSから出したアルバムはNATURE BLISSに残したいですもんね。
森 : あと前、木戸さんのFacebookを見ていて面白いなと思ったのが「なんでCDを買うか?」って質問で。いろいろな議論が起きてましたよね。
木戸 : そうなんです。Facebookで「みなさんはなぜCDを買うんですか」って一言書いたんですよね。そしたらものすごいたくさんの方が、長い長い文章で返してくれて。軽く本にできそうなくらいの分量はありましたね(笑)。
森 : みんな意見が違うんですよね。
木戸 : 全部総合してまとめると、日本はまだCDは売れます。所詮人口の何割だか分からない音楽好きの意見ですけど。
森 : 僕がその問いに対して投稿した内容は、CD自体は、アーティストを応援するものとしてとか、よっぽど感動したときに手元に置いておきたい気持ちから買うっていう。僕小学生の頃プロレス・ファンで、すっごくよかったときは、思い出としてパンフレットを買うんですよ。あと、いい映画だなと思うとフライヤーだったり、パンフレットだったり持ってかえる。今後見るかっていったらほとんど見ないじゃないですか。それでも持ってたい。僕も、CDが完全に消えることはここ50年くらいはないと思うんですよ。消えないで生き残るってなったら、そのへんの精神で残るのかなと。レコード・マニアも、言わば近い精神なんだと思います。その一方で、別の投稿にあった意見で面白いと思ったのは、CDより高音質のデータを持ってたいっていう人もいっぱいいて、CDのパッケージにデータCDで高音質を入れとけばいいんじゃないかって。
木戸 : おもしろいですよね。高音質であれ低音質であれCDじゃないとだめっていう人もいるし、僕みたいに高音質データを優先するっていう人もいて。僕はレコード・マニアなのでレコードも買うんですけど。
森 : 今の切り替えの時期が、かなり意見が乱立してて面白いですよね。YouTubeだけ見て満足な人の気持ちはどうなのかっていう所と、データを有料で買ってる人の気持ちはどうなのか、今でもCD・レコードを買う人はどうなのか、それぞれみんな違う視点があって。
木戸 : 日本だったらYouTubeに上げても消されたりするじゃないですか。そういう意味で僕は某著作権管理団体が苦手で、そんぐらいいいじゃねえかと。僕がさっき言った音楽の売り方っていうのはYouTubeに上げたりネットに上げて、そこで消されたら終わりなんですよ。宣伝がネットだけなので。