あっという間の1時間だった。田我流という男と向い合った時間はあまりに強烈で、1週間以上経った今もすぐ側にいるような感じさえする。彼の目はギラギラと輝いており、見た目よりもずっと大きく見えた。山梨で育ち、NYや東京での生活を経て、再び山梨に戻り生活する彼が、じっくりと自分と向かい合った『B級映画のように2』という作品は、どんなにつらくても自分から目を背けなかったことの証明でもある。
昨年は映画『サウダーヂ』に出演。派遣で土方として働きながら、次第に国粋主義に走り出す、ヒップ・ホップ・グループ「アーミービレッジ」のラッパーの役を演じた。無理矢理つれていかれた外国人パブから家に帰るシャッター商店街で展開される即興ラップは、ヒップ・ホップの世界から遠く離れた僕のような人間にも強く働きかける強いメッセージを持ったものだった。映画を舞台にしてもなお、生き様が見えるラッパーということを証明した彼と直接向かい合い、今作を中心に1対1の人間として話を聞いた。
インタビュー&文 : 西澤裕郎
田我流 / B級映画のように2
全国各地の猛者達とシノギを削りながら敢行したライヴ、国際映画祭でグランプリを獲得し話題沸騰中の主演映画『サウダーヂ』での演技経験を経て一宮町の1MCから、日本を代表する表現者へと成長を遂げた田我流。待望の2ndアルバム。
【価格】
mp3 単曲150円 / アルバム1500円
WAV 単曲200円 / アルバム2415円
【参加アーティスト】
stillichimiya、ECD、今井留美子、QN、OMSB、MARIA
【特典】
アルバムを購入した方には、歌詞も含めたデジタル・ブックレットが付いて来ます!
今日死ぬんだったら、そんなことしたくない
——今日はどうしても僕に行かせてくれと編集部に言って来させていただきました。というのも、実は僕も同じ1982年生まれなんですよ。あと長野出身ということで地方の親近感もあって。何より『サウダーヂ』を観て衝撃を受けました。なので、お会いできて嬉しいです。
来ましたねー、刺客が(笑)。じゃあ今日は結構ガチで質問用意してきたっぽいですね。
——はははは。さっそく、アルバムについて聞かせてください。今作は前半後半で2部構成になっていると思いました。7曲目の「ロンリー」の終わりに、プシューって音が入っていて…
あー、バーン! ってやつですか?
——そうです、そうです。そこで一気にトーンが変わっていく。僕は震災のことを想像しちゃって。実際「ロンリー」以降、原発のことに触れるような社会的なテーマの曲が出てくるじゃないですか。
確かにあの辺から変わりますけど、それは深読みするとですね。一周全部聞くと、前半が気になる。前半を聴いていくと後半が気になってくる。謎の装置がいろんなところに仕掛けてあるアルバムなんです。
——震災前までの時期って、すごい閉塞感があったと思うんですよ。このアルバムの前半部分は、その閉塞感をうまく捉えている気がして。例えば、周りの人が結婚して子供産むっていう繰り返しが、震災前までは閉塞した毎日の繰り返しとしてしか、僕には考えられなかった。
今回のアルバムは、本当に人それぞれ受け方が違うように作ったんですよね。例えば(北野)武の映画があるじゃないですか。俺、すごく好きなんですけど、台詞が少なくて、そうすると自分の頭の中でどんどん考えるじゃないですか。
——確かに、そうですよね。
今回のアルバムに関しては、固有名詞を大幅に排除してるんです。あそこの店に行って、こうなったとかじゃない。シチュエーションなんですよ、全部。つまり、自分の想像力で勝手にストーリーを作っていけるように作ってあるんです。だから、面白いなーと思ったのは、俺は言ってもらったその部分を考えてなかったんすよ。だから、ディズニーランドなんすよ、今回のアルバムって。
——ディズニーランド?
ディズニーランドに行っても、人によって受け取り方はその人次第じゃないですか。面白いアトラクションも、怖いものもあるけど、感じ方は全然違う。
——なるほど。「サウダーヂ」に出演されたことの延長線として、田我流=山梨県っていう部分を背負って押し出しくこともできたのに、今回はそこをあえて押し出してないですよね。
今回は、自分の得意としてるところを全部封じたんです。今まではメローな曲とかも書いていたりしていたんですけど、全部封印しました。全否定しましたね。
——なんで全否定だったんですか。
そんな腑抜けたことをやっていたら、これ以上キャリアを重ねても仕方ないかなと思って。今日死ぬんだったら、そんなことしたくねーなみたいな。
——そういう風に思えたきっかけっていうのは?
やっぱ震災じゃないすか。
——まあ、そうですよね。震災の時は、山梨にいたんですか。
そうっすね。ちょうど倉庫で働いていて、倉庫がぐわんぐわん言って「これやべぇ、潰される! 」みたいな感じで。死ぬかもしれないって速攻外に出たら、地面がぐわんぐわんなってて、嘘でしょ、何これみたいな。
——そこから、しばらく音楽を聞けなくなったという人も多いですけど、デンさん(田我流)はどうでしたか。
いや、聞けなかったっすよ。あんな、人が死んでるときに歌なんか歌えないって思いましたね。
——その後、音楽に着手できたのはいつぐらいのことなんですか?
結構かかっちゃいましたね。曲は作ったんですけど、結局ダメでした。
——それで、やり方というか曲の作り方も変えたりしたんですか?
必然的に、全部変わりましたね。まあ、映画の影響もありましたし。もう全部変わった。
——今作の中で、ECDをフィーチャーした「Straight outta 138 feat. ECD」は、原発問題に関してかなり具体的なリリックが乗っていますよね。本当に覚悟がある曲だと思いました。ここまで具体的な曲は、震災後初めて聞いたかもしれない。
確かにそうですよね。今んところ、ここまでストレートに言っちゃった曲はないんじゃないですか? でも、でも、誰かが言わなきゃいけないし、だったら俺がもう言ってやるみたいな。
——震災のことはもちろん大きいんですけど、デンさんは今年で30歳じゃないですか。年齢を重ねることによって考え方も変わってきたんじゃないかなって。
それはありますよ。昔はただ好きでやってきたことが、意義ある物にしたいって思うようになりましたね。そういうのが3.11で表面化して、みんなこれでいいのかってみんな思っただろうし。結婚率が異常に増えたって言いますよね(笑)。
——それは聞きますね(笑)。
そういうのに向き合ったとき、人として正しいことをしなくちゃいけないってことは、強く感じましたね。元々そういう気持ちはあったんですけど、ラップ・スキルがなかったから、表現できなかったんですよ。やっと今追いついてきたのかなとも思うんですよね。
——じゃあ以前は、表現したいものがあったんだけど、なかなかそれにスキルが追いつかなかったんですか。
だから、直接的な表現が多かったんだと思います。
——それで今作は具体的な知名とかが少ないんですね。外部ではなく自分の内面に向かい合っていったと。
向き合うのが一番面白いんですよね。そう考えると、(気分が)落ちていることも最終的に楽しいんですよ。失意のどん底にいるときって、後で振り返ると、そんな幸せなことってねーなって思うんですよ。社会と断絶されても自分だけの中に入っていくって、限られた人間しか出来ないじゃないですか? 俺はそのチャンスがあるし、超幸せな人間だって最近思いますけどね。みんなが暗いなって思ってるところにこそ、最高の蜜があるみたいな。
——なるほど。
(アルバム)始めの曲でも言ってるんですけど、物事ってだいたい逆さまで、天使がいたら、実はそれは天使じゃなくて悪魔だったみたいな(笑)。全て見方の違いにすぎない。
——それは最後の曲とかにも共通していますよね。
要するに、相対性を秘めているってことなんです。俺は、人間の汚いところも全部受け入れたい。ちっちゃい罪もたくさん犯して、人も欺き続けてるけど、だからこそ人間は美しい、みたいな。そういう人間を見るたびに、わくわくしてしまうんですよね。
——同世代の人にいろいろ取材してますけど、ここまで内面を見つめて、向かい合ってる方ってほとんどいないから、感化されますね。不思議だったのが、曲の中で3年間スランプっておっしゃっていたじゃないですか。その、3年間のスランプって、どういうことなんだろなと思って。
良い曲が書けなくて、それが出来なかったらキャリアがなくなる訳じゃないですか。その恐れっていうのは半端じゃなかったですね。
——そういう不安を抱えてたんですね。
あと、俺本当に仕事ができないんですよ。すぐさぼるし(笑)。
——あははは。
誰かの下で働くって、できないんすよ。俺の人生だし、そんなことしたくねーっていうのもあって。でも、音楽で結果出せなかったらと思うと怖いじゃないですか。一生バイトだろうが何だろうがやりながら続けていきゃあいいんでしょうけど、正直やっぱ、怖いのもある。
——逃げ場がないですからね。
保険だって入ってねーし、みたいな(笑)。社会の最下層で地べた這いずり回って、それが良い意味で働いたというか…。恐れがなかったら何にも始まんないですからね。
——そうかもしれないですね。
だから、曲の中でも言ってますけど、恐れやプレッシャーっていうのは、最悪の悪友っすね(笑)。別に俺のシチュエーションだけじゃなくて、超金持ちだろうが何だろうが。もう、それを受け入れるしかないんですよ。そいつが俺のことを邪魔してくるのは、俺に良い仕事させるためだって俺は思い込んでいますけどね。
この作品は、時代に埋もれてもらいたくはない
——なるほど。曲の中でもおっしゃってましたけど、名前が売れてきたら、手のひらを返してくるような人も出てくると思うんですね。さっきの話みたいに、デンさんが大きくなればなるほど、裏と表の距離も大きくなっていくというか。
それはまあ、覚悟を決めなきゃいけないなと思ってます。でも悪いことじゃないんじゃないすか? 人のことを憎むことだって必要なんですよ。憎むから誰かのことを愛することも出来る。それを隠すこともないし、誰か憎んでも良いと思う。そんな、仏陀様になる訳じゃないし(笑)。
——やっぱみんなそこに向かい合うのが怖いから、みんな向かい合えないんだと思いますよ。
本当に恐いのは、自分で自分のことを憎しんでいるっていうことを知ることなんじゃないですかね。
——そこまで自分に向い合うことで、自己嫌悪になったりしませんか?
これを書いてたときはめちゃくちゃ自己嫌悪でしたね。でも受け入れるしかないじゃないですか。全てのプロセス上、アルバム作るには闇を受け入れるしかなかった。
——それを全部受け入れていった結果、今作は開けたんですね。
そうですね。もうだめだって言うところまで行って、ある日パーンって開けました。これ以上無理だし、こんなことやってたら死ぬと思って。もー、もう俺のキャリアとかどうでもいいやって。出来るところまで戦ったわって、自分の負けを認めたんですよ。そしたら、超楽になっちゃって。
——そうだったんですね。
自分が駄目だって認めちゃえばいいでんすよ。泣けばいいんですよ。そしたら次の日、どんだけ元気に起き上がれるかに気がついて。そっからは、ものすごい勢いでしたね。「これだ!! 」みたいな感じで。「復活した! 」みたいな。今までの自分をぶち殺したな、って感じた瞬間でしたね。
——「まるでサイヤ人 二倍で復活」っていうのはそういうことだったんですね。
だから、どん底の部分で書いてる曲もあります。これはもう、俺のセラピーなのかもしれないですけどね、アルバム通して(笑)。
——はははは。でも、これからも音楽でやっていく以上、更にまた新しい答えを探していくってことですよね。
次が怖いっすよね(笑)。
——はははは。
でも次に作る物は、今回みたいに辛いって感覚じゃないと思うんですよね。
——ここまで自分と向き合って、作品として他人に伝えるのは、本当に素晴らしいというか、僕も本当に感化されました。
これは本当に問題作だと思いますよ! 自分で言うのもアレですけど、本当にそう思います。ここまでやりやがったな、みたいな。
——ははははは(笑)。
この作品は、時代に埋もれてもらいたくはないっすね。俺がどうこうじゃなくて、作品に残ってもらいたい。1人でも多くの人に届いてほしい。本当に暗いアルバムだけど、こんなに勇気もらえるアルバム他にないと思いますよ。
——本当にそういうアルバムだと思います。だから、更に何回も更に聞き込みんで、またインタビューさせてもらえると嬉しいです。
もー、ぜひぜひ! 刺客としてまた来て頂ければ(笑)。
——はい(笑)。2倍になって帰ってきます。
あと、俺はロックンロールと勝負がしたいんで、俺と勝負したいって言う人は、どしどしMary Joy Recordingsまで、ブッキングをかけてきて頂いたら嬉しいですね(笑)。
——ロックンロールですか(笑)?
そう。ロックンロールと勝負したいんですよね。俺もロックンロールだと思ってるんで。まあ、結局ジャンルの壁なんていらない訳じゃないですか。だからもう、ガチ当たりで勝負してみたいですね。FUJI ROCKにも出たいです。
LIVE INFORMATION
曽我部恵一 presents "shimokitazawa concert" 第十六夜
2012年4月19日(木)@東京 下北沢440(four forty)
出演 : 豊田道倫 / 田我流 / 曽我部恵一
KAIKOO POPWAVE FESTIVAL'12
2012年4月21日(土)@東京 お台場の船の科学館 野外特設ステージ
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通算14枚目となる待望の新作アルバム『Don't worry bedaddy』が遂に完成!! 前作から一年半を経てサウンド、歌詞ともに路線を引き継ぎ続編と言ってもいい内容。波乱の日本の現状の中で、自分自身のド現実を描写しながら何故かドリーミーな不思議なアルバムに仕上がった、ECDの最高傑作。
次世代だらけのシーンにおいてブッ飛んで期待されるPONY from stillichimiyaが遂にアルバムを完成。フリー・スタイルだけでは量りきれないこの男に大注目。人生で得た教訓、経験をありのままに歌い、周りをどんどん巻き込み、可能性を無限大にする為にマイクを握る。成せば成るということを本当に伝えたい人に背中で見せるため、今日もまたどこかの街でその心の様を歌う。PONYとはそういう男。
DyyPRIDE from SIMI LAB / In The Dyyp Shadow
未だ全貌が見えないヒップ・ホップ・グループSIMI LABからまた新たな刺客が登場。独特の歌詞の世界観でリスナーの意識に問いかけるリリシスト、DyyPRIDE。ほとんどのトラック・プロデュースをつとめるのは、先日発売した『Mud Day』も好評なEarth No MAd a.k.a QN。その他には、福岡GO GO BrothersのYUU、RINAが参加。
PROFILE
田我流
田我流(でんがりゅう/stillichimiya)は山梨県一宮町をベースに活動するMCである。高校時代にヒップ・ホップの洗礼を受けMICを握り始めると、高校卒業後の2001年に武者修行の為アメリカ・ニューヨーク州へ留学。そこでヒップ・ホップ以外にも沢山の魅力的な音楽がある事を知り、サイケ・バンドでギターを担当するなど様々な音楽の可能性を探求する。そして一人の黒人青年との出会いによって再びヒップ・ホップ、そして生の黒人文化を体験し再びリリックを書き始める。アメリカ留学中に様々な経験を積み2004年に帰国。地元一宮町の幼なじみとラップ・グループ、stillichimiyaを結成。クルーとして2枚のアルバムと1枚のミックスCD、一枚のEPを制作した。またクルーの活動と平行してソロMCとしてのライヴ活動や、楽曲制作を積極的に行う。2008年にファースト・ソロ・アルバム『作品集~JUST』を自主製作し、発表すると、ヒップ・ホップだけではなく様々な方面から賞賛を受ける。その後、ラップだけでなく表現者としての活動の幅を広げ、2011年公開になる富田克也監督作品「サウダーヂ」では、映画初出演ながら主演を務めるなど、表現力を磨き続けている。田舎独自の観点、またありのままの日本人としてのRAP STYLE、問題提起にこだわり、実験的かつストレートな音と表現に乗せて吐き出される田我流の音楽は音楽の核、SOULという一言に回帰する。